7 / 29
引きこもり、タイポイにいく①
しおりを挟む
「エイス、タイポイへ行かないか」
いつものように街角でのほほんとしていたヴァットとエイス。
ふと、ポーションを作っていたヴァットが言った。
エイスはキョトンとした顔をヴァットに向ける。
「タイポイって……中華っぽいマップだっけ? ローカルマップの?」
「あぁ。前に言ってたパンダ帽子の材料、笹の葉だっけか。あそこのモンスターがドロップするらしいぞ」
「おおっ! いくいくー!」
ヴァットの誘いに、エイスはすぐにテンションを上げて答える。
「いやー、ヒキコーモリのヴァットが自分から外へ行こうなんてねぇ。髪型と服装を変えたからかねぇ。おかーさんは嬉しいよ」
「誰がお母さんだ……ったく。ポーションの材料を落とすからそのついでだっつーの」
「うんうん、照れない照れない。そういう事にしておいてあげよう! そんじゃま、早速行くかいねー」
「おう。歩いてでいいか」
「そうだねー」
そんなわけで二人はプロレシアの街を発つのだった。
「タイポイってどっちだっけ?」
「プロレシアから左、左、左、下、左、下、左」
「なるほも、大体わかった」
エイスは頷くと、ヴァットの後ろについた。
記憶と思考を放棄した顔をしていた。
それをヴァットは冷たい目で見た。
「……覚える気はなし、と」
「あははー。その代わり戦闘は任せろー」
「はいはい、頼りにしてますよ」
ため息を吐きながら二人はマップを移動する。
「ところでヴァット、なんか今日は歩くの早くない?」
「あぁ、倉庫NPCにアイテムの大半を預けてきたからな」
「あーそれでかぁー」
「重量があると移動速度も落ちる。移動マップが多いし、モンスターに襲われても逃げやすい。この辺なら大したモンスターはいないから、狩りの時でも荷物を持ってるけどな」
プロレシア周辺には危険なモンスターはいない。
リンク型モンスターが殆どで、たまに襲ってくるアクティブモンスターも弱いし数が少ないのだ。
草むらがぽつぽつあるくらいで見晴らしも良く、時折居残り組のプレイヤーが狩りをしているのを見かけた。
「しかし案外街から出てるプレイヤーもいるんだな」
「そりゃ、死ぬのは嫌だけどずっと街にいても暇だしね。日銭を稼ぐくらいはみんなやってるよー。美味しいものを食べたり着飾ったり、気が変わって攻略組に入ろうとする人もたまにいるしね」
「ふーん、まぁそうか」
そんな会話をしながら、二人は隣のマップに移動する。
先刻よりも草が茂り、川のせせらぎも聞こえてきた。
鳥の鳴く声が遠くに聞こえる、自然豊かなマップだった。
「さて、この辺りからアクティブモンスターが多くなってくる。気をつけろよ」
「おー、私この辺はたまに来るよ! 確か蛇が出て来るんだよね」
「アナコンダだな」
まだら模様の蛇型モンスター、アナコンダは攻撃速度が速いが、半面躱しやすくHPも低めに設定されている。
ビードルと同じく、AGI職によく狩られる獲物である。
「じゃあパーティ組んで……っと、ほい」
エイスがコンソールをぽちぽちと叩くと、ヴァットの前にパーティ招待のウインドウが出現する。
そこには†猫天使の翼団†と書かれており、ヴァットはうんざりした顔をした。
「ダセェー」
「なんでよっ! 可愛いじゃない! この十字架みたいな記号に加えて猫! そして天使! とどめの翼! 可愛さしかないわ!」
「いや、ダサさしかないわ」
「むぎぃーっ!」
歯嚙みをするエイスを見て、ヴァットはため息を吐くのであった。
「それよりほれ、アナコンダ出たぞ」
「むっ、仕方ないわね……」
川の中から赤くて太い縄のようなものがニョロリと出てくる。
チロチロと舌を動かしながら、巨大な蛇が鎌首をもたげた。
「シュー……!」
蒸気が吹くような鳴き声を上げながら、アナコンダが二人を睨みつける。
エイスは剣を抜くと、アナコンダの前に立ちはだかる。
「下がってて、ヴァット! てやぁぁぁぁぁ!!」
エイスはかけ声を上げながら、斬りかかる。
連続して繰り出される斬撃。アナコンダの反撃も、エイスは余裕を持って躱していた。
後ろに下がっていたヴァットはそれを見てふむと頷く。
「ソロ狩りをしていただけあって、攻撃は当たってるな。DEXポーションは必要ないか」
「たまーにミスるけどねー。避けれるからAGIポーションもいらないよ。くれるなら欲しいけどっ!」
「……じゃあこいつを試してみるか」
ヴァットは鞄から赤色のポーションを取り出し、エイスに投げつけた。
ぱりん! と破裂音が鳴り、瓶の割れるエフェクトと共にエイスの身体が光り始める。
と、同時にエイスの動きが僅かに素早さを増した。
「お、お! お? おおーーーっ!?」
エイスは感動の声を上げながら、アナコンダに斬撃を繰り出し続ける。
「すごいっ! 何そのポーション! 今の私は過去最高の攻撃速度だよっ!」
「スピードポーション、攻撃速度のみを上げる効果がある。AGIを上げたわけじゃないので、回避率や移動速度は上がらないが、その分効果は高めだ」
「これだよ! 私が求めていたものは! これなんだ! いやっふーーー!」
連続して斬りまくるエイスを見ながら、ヴァットは難しい顔をする。
「……俺が使うよりエイスが使った方が効果は高く見えるな。AGIと乗算なのかもしれない。要検証だ」
「たーーーのしーーー!」
ブツブツ呟くヴァットと裏腹に、エイスは楽しそうにアナコンダを斬り続ける。
「でりゃあ!」
最後の一撃が加えられ、アナコンダは真っ二つになり消滅していった。
その後に落ちたのは、毒の牙である。
ヴァットはそれを拾い上げた。
「なぁこれ貰っていいか?」
「いいよー私は使い道ないしね」
「悪いな」
毒の牙を鞄に仕舞い込むヴァットを見て、エイスは訝しむ。
「……そんな怪しいもの、何に使うつもりなの?」
「ポーションの材料にしようと思ってな」
怪しく笑うヴァットにエイスはゾッとした顔をした。
「ま、まさかそれで作ったポーションを、私に飲ます気じゃないでしょうね……?」
「さて、どうだろう」
「ひぃーっ! もしかしてもう飲んでるとかっ!? てかまさかさっきのポーションとかっ!?」
「さて、どうだろう」
「成分表示っ! ポーションの成分表示を要求するっ!」
「そいつは企業秘密だな。お、またアナコンダだぞ」
「話を逸らさないでよーっ!」
文句を言いながらも、エイスはヴァットの言う通りアナコンダと戦闘を開始するのだった。
いつものように街角でのほほんとしていたヴァットとエイス。
ふと、ポーションを作っていたヴァットが言った。
エイスはキョトンとした顔をヴァットに向ける。
「タイポイって……中華っぽいマップだっけ? ローカルマップの?」
「あぁ。前に言ってたパンダ帽子の材料、笹の葉だっけか。あそこのモンスターがドロップするらしいぞ」
「おおっ! いくいくー!」
ヴァットの誘いに、エイスはすぐにテンションを上げて答える。
「いやー、ヒキコーモリのヴァットが自分から外へ行こうなんてねぇ。髪型と服装を変えたからかねぇ。おかーさんは嬉しいよ」
「誰がお母さんだ……ったく。ポーションの材料を落とすからそのついでだっつーの」
「うんうん、照れない照れない。そういう事にしておいてあげよう! そんじゃま、早速行くかいねー」
「おう。歩いてでいいか」
「そうだねー」
そんなわけで二人はプロレシアの街を発つのだった。
「タイポイってどっちだっけ?」
「プロレシアから左、左、左、下、左、下、左」
「なるほも、大体わかった」
エイスは頷くと、ヴァットの後ろについた。
記憶と思考を放棄した顔をしていた。
それをヴァットは冷たい目で見た。
「……覚える気はなし、と」
「あははー。その代わり戦闘は任せろー」
「はいはい、頼りにしてますよ」
ため息を吐きながら二人はマップを移動する。
「ところでヴァット、なんか今日は歩くの早くない?」
「あぁ、倉庫NPCにアイテムの大半を預けてきたからな」
「あーそれでかぁー」
「重量があると移動速度も落ちる。移動マップが多いし、モンスターに襲われても逃げやすい。この辺なら大したモンスターはいないから、狩りの時でも荷物を持ってるけどな」
プロレシア周辺には危険なモンスターはいない。
リンク型モンスターが殆どで、たまに襲ってくるアクティブモンスターも弱いし数が少ないのだ。
草むらがぽつぽつあるくらいで見晴らしも良く、時折居残り組のプレイヤーが狩りをしているのを見かけた。
「しかし案外街から出てるプレイヤーもいるんだな」
「そりゃ、死ぬのは嫌だけどずっと街にいても暇だしね。日銭を稼ぐくらいはみんなやってるよー。美味しいものを食べたり着飾ったり、気が変わって攻略組に入ろうとする人もたまにいるしね」
「ふーん、まぁそうか」
そんな会話をしながら、二人は隣のマップに移動する。
先刻よりも草が茂り、川のせせらぎも聞こえてきた。
鳥の鳴く声が遠くに聞こえる、自然豊かなマップだった。
「さて、この辺りからアクティブモンスターが多くなってくる。気をつけろよ」
「おー、私この辺はたまに来るよ! 確か蛇が出て来るんだよね」
「アナコンダだな」
まだら模様の蛇型モンスター、アナコンダは攻撃速度が速いが、半面躱しやすくHPも低めに設定されている。
ビードルと同じく、AGI職によく狩られる獲物である。
「じゃあパーティ組んで……っと、ほい」
エイスがコンソールをぽちぽちと叩くと、ヴァットの前にパーティ招待のウインドウが出現する。
そこには†猫天使の翼団†と書かれており、ヴァットはうんざりした顔をした。
「ダセェー」
「なんでよっ! 可愛いじゃない! この十字架みたいな記号に加えて猫! そして天使! とどめの翼! 可愛さしかないわ!」
「いや、ダサさしかないわ」
「むぎぃーっ!」
歯嚙みをするエイスを見て、ヴァットはため息を吐くのであった。
「それよりほれ、アナコンダ出たぞ」
「むっ、仕方ないわね……」
川の中から赤くて太い縄のようなものがニョロリと出てくる。
チロチロと舌を動かしながら、巨大な蛇が鎌首をもたげた。
「シュー……!」
蒸気が吹くような鳴き声を上げながら、アナコンダが二人を睨みつける。
エイスは剣を抜くと、アナコンダの前に立ちはだかる。
「下がってて、ヴァット! てやぁぁぁぁぁ!!」
エイスはかけ声を上げながら、斬りかかる。
連続して繰り出される斬撃。アナコンダの反撃も、エイスは余裕を持って躱していた。
後ろに下がっていたヴァットはそれを見てふむと頷く。
「ソロ狩りをしていただけあって、攻撃は当たってるな。DEXポーションは必要ないか」
「たまーにミスるけどねー。避けれるからAGIポーションもいらないよ。くれるなら欲しいけどっ!」
「……じゃあこいつを試してみるか」
ヴァットは鞄から赤色のポーションを取り出し、エイスに投げつけた。
ぱりん! と破裂音が鳴り、瓶の割れるエフェクトと共にエイスの身体が光り始める。
と、同時にエイスの動きが僅かに素早さを増した。
「お、お! お? おおーーーっ!?」
エイスは感動の声を上げながら、アナコンダに斬撃を繰り出し続ける。
「すごいっ! 何そのポーション! 今の私は過去最高の攻撃速度だよっ!」
「スピードポーション、攻撃速度のみを上げる効果がある。AGIを上げたわけじゃないので、回避率や移動速度は上がらないが、その分効果は高めだ」
「これだよ! 私が求めていたものは! これなんだ! いやっふーーー!」
連続して斬りまくるエイスを見ながら、ヴァットは難しい顔をする。
「……俺が使うよりエイスが使った方が効果は高く見えるな。AGIと乗算なのかもしれない。要検証だ」
「たーーーのしーーー!」
ブツブツ呟くヴァットと裏腹に、エイスは楽しそうにアナコンダを斬り続ける。
「でりゃあ!」
最後の一撃が加えられ、アナコンダは真っ二つになり消滅していった。
その後に落ちたのは、毒の牙である。
ヴァットはそれを拾い上げた。
「なぁこれ貰っていいか?」
「いいよー私は使い道ないしね」
「悪いな」
毒の牙を鞄に仕舞い込むヴァットを見て、エイスは訝しむ。
「……そんな怪しいもの、何に使うつもりなの?」
「ポーションの材料にしようと思ってな」
怪しく笑うヴァットにエイスはゾッとした顔をした。
「ま、まさかそれで作ったポーションを、私に飲ます気じゃないでしょうね……?」
「さて、どうだろう」
「ひぃーっ! もしかしてもう飲んでるとかっ!? てかまさかさっきのポーションとかっ!?」
「さて、どうだろう」
「成分表示っ! ポーションの成分表示を要求するっ!」
「そいつは企業秘密だな。お、またアナコンダだぞ」
「話を逸らさないでよーっ!」
文句を言いながらも、エイスはヴァットの言う通りアナコンダと戦闘を開始するのだった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる