引きこもり錬金術師がポーションマスターと呼ばれるまで

謙虚なサークル

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引きこもり、ポーションマスターと呼ばれる

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「なぁ、エェやろヴァット!アンタのポーション、欲しがっとる奴らがおるんや!」
「それは攻略組の連中か?」

 ヴァットの問いに花子は頷く。

「せや。攻略組に知り合いがおるねんけど、優秀な回復アイテムを欲しがっとるんよ!どうやらボスエネミーに手こずっとるようで、倒すには軽くてよく回復するポーションが必要らしいんや!な、頼む!」

 両手を合わせ頭を下げる花子を見て、ヴァットは考える。

(ようやくこの話が来たか……しかもこの状況、悪くない)

 攻略組にポーションが必要となるのはわかっていた。
 だがヴァット自分は攻略組に参加するつもりはない。
 何せヴァットは完全なる製薬型。
 VITもAGIも振っていない自分が高レベルパーティに参加するなど、命が幾つあっても足りないからだ。
 となれば第三者を通して売るのが理想的、しかも攻略組と繋がりのある商人の花子は最適と言えた。
 ヴァットは考えをまとめると大きく頷いた。

「わかった。いいだろう」
「ホンマかっ!?」
「あぁ、しかし条件がある。この話は先刻言っていたパーティ以外には他言しないで欲しい」
「それはかまへんけど……なんでや?」
「現状では攻略組の満足いくポーションを作れるのは俺くらいだろう。だが作れる数はそう多くない。一つか二つのパーティに卸すのが限界なんだよ。高性能ポーションの情報が出回れば欲しがるパーティは幾つも出てくるだろうし、そうなれば混乱は必至だ」

 花子は腕組みをして、うーんと考え込む。

「あー……それはありそうやなぁ。ネット民は自分勝手な人間が多いしなぁ。なんで自分らにも売らへんのやーっ!とか言って発狂するのが目に見えるわ」
「さすが商人、分かってるな」
「ふふん、お客様は神様やからな。神様なんちゅーのは、こちらがへり下れば幾らでも付け上がってくるもんや。そしてなるほど。つまりは有象無象には広めずに、一部の信用出来る連中だけに流して欲しいと言うこっちゃな」
「理解が早くて助かるよ」
「そういう事ならオッケーや。ポーション欲しがっとるんはウチの信用がおける連中やからな。あいつらならバラしたりせーへんよ」

 花子はウインクをすると、親指をグッと立てる。
 ヴァットはそれを見て、軽く肩をすくめるのだった。



 街に帰ったヴァットは、早速ポーションを生成し花子に渡す。

「ホワイトポーション。とりあえずこれが今の俺の作れる中で比較的作りやすく、高性能なポーションだ」
「ほほう。ふむふむ、えらい軽いな……ほならちょっと使ってみるかいな」

 そう言うと花子は、ライディングのスキルを使用する。
 ラクダが花子の元に走ってくるが、そのHPバーは真っ赤になっていた。
 ライディングは街中でしか使えず、しかも一度倒された騎乗用の動物はHPが1で召喚されてしまうのだ。

「タロー、ほーらポーションやでー。しっかりお飲みやー」

 花子がホワイトポーションを花子に飲ませると、HPが一気に3割近く回復した。

「おわっ!?な、なんやこの回復量!?」

 店売りポーションの回復量は一番いいものでも1割が限界だ。
 それを3割、加えて重量も1/3である。
 更にぽちぽちとホワイトポーションを叩くと、ラクダのHPは全回復した。

「グァー!」

 元気よく鳴くラクダを撫でながら、花子はヴァットの方を向く。

「とんでもないポーションやな!これなら攻略組も満足する思うで!」
「そりゃよかった。とりあえずどれくらい買う?」
「あるったけ!や!」
「オーケー。交渉成立だ」

 その日、街角では1日中ポーションを生成する音が聞こえていた。

「ひのふのみ……うん、ホワイトポーション300個、間違いなく!」

 翌日、ヴァットは出来上がったポーションを花子に渡す。
 受け取った花子は、ごそごそと鞄をまさぐるとそこからガマ口財布を取り出した。

「ほんなら一個1200ルピアとして、更にちょっぴりおまけして、合計370Kや」
「ありがたい」

 ヴァットは花子に礼を言うと、370000ルピアを受け取った。
 Kというのは1000を表すもので、桁の大きくなりがちなMMOではよく使われる単位だ。
 ちなみにその更に上1000000を表すのはMである。

「えぇってえぇって。そんかわり今後とも末長くご贔屓にさせてーな」
「おう」

 ニカッと笑うと、花子は右目を差し出した。
 ヴァットはその手を取ると、固く握り締めるのだった。



 早速アレフを呼びつけた花子は、ヴァットから買い上げたポーションを渡す。
 それを飲み干したアレフの目が驚きに見開かれた。

「な、なんだこのポーションは!?あり得ないくらい回復したぞ!?しかも軽い!」
「フフン、気に入ったよーやな」
「あぁ!こいつはすごい!ホワイトポーションはNPC売りもしているが、効果は全くの別物だ!」

 興奮気味に話すアレフを見て、花子は得意げに笑った。

「せやろー。しかも一本たったの1200ルピアや。手数料込みで450Kでエェよ」
「しかも随分安いな……いい錬金術師を見つけたのか?」
「んむ。せやけど匿名希望でな。名前はよー言われへんのや。それと他言無用で頼むで。堪忍な」
「……そうか。そうだな。確かにこれだけのポーションだ。攻略組は喉から手が出るほど欲しいだろう。錬金術師君にも迷惑をかけてしまう」
「そういう事や」
「残念ではあるが、そうだな。これからも仕入れは花子にお願いするよ。また買ってきて欲しい」
「任せや。……ほなウチはこれで」

 そう言って立ち去ろうとする花子に、アレフは呼びかける。

「あぁ花子。その錬金術師君……彼の事をなんと呼べばいいだろうか?」
「ふむ、そうやな……」

 花子は考え込むと、振り返り答えた。

「ポーションマスター、てのはどうや?」
「ポーションマスターか。なるほど。いい呼び名だ。では花子、ポーションマスターによろしく」
「おう!」

 花子はアレフに別れを告げ、雑踏に紛れ消えていくのだった。
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