チート夫婦のお気楽異世界生活

謙虚なサークル

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従魔を得る二人

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 町へ戻った俺たちは、盛大な歓迎を受けていた。
 俺たちに場所を教えてくれたおっさんが、どうやら俺たちの後をこっそりつけていたらしく、戻った時には既に大歓迎状態だった。
 話が早いので助かるが。

「いやぁほんまにお二人の力は本当に素晴らしかった! 昔、魔導師さんの戦いを見たことはあるけんど、その比じゃなかったわい!」
「あの邪悪な魔族を、たった半日ほどで倒しちまうとはのぉ。それに大迫力のバトル! 凄すぎて入れ歯が何回抜けたことか」
「ねぇちゃんもとんでもない体術じゃったのう!王都の武術大会でも優勝できるんじゃねぇの?」

 みんなでワイワイと俺たちのバトルについて語り合っている。
 もしかして思ったより大人数で観戦してたのか?
 気になるのは分かるが……命知らずにも程があるだろ。

「ところで私たち、お魚が食べたいんですよね~ちらっ」

 カオリはカオリで、町の人たちにそうアピールしている。
 毎度思うがカオリの一切遠慮しない性格はある意味すごい。

「さぁてお前らァ! ユキトさん方の為に魚を獲りにいくどぉ!」
「「おおおおおおおおおおおおッッ!!」」

 地響きがする程の雄叫びを上げ、男たちは海へと走っていく。
 びっくりした。鼓膜が破れるかと思ったぜ。

「ねーみなさんやる気になってるでしょー」
「近海の魚を獲り尽くさんばかりの勢いだな」
「いろんなお魚さんが食べられそうだなー楽しみー」

 とはいえすぐにすぐ、取っては来れないだろう。
 数日は待たねばならないか。
 残念である。

(魚が欲しいのか?)
「そうだなー腹減ったし、早く食べたい」
(ならば用意出来るが)
「そりゃ是非とも……って、ディアンサ!?」

 声をかけて来たのはディアンサだ。
 だが姿は見えず。キョロキョロと辺りを見渡していると、また声が聞こえてきた。

(落ち着け、二人の脳内に直接語りかけている。流石に町中には行けないのでな)
(ほほー、念話ってやつですなー? 続けてどうぞ)
(り、理解が早いな……大抵のニンゲンは戸惑うのだが……返信の仕方すら言うまでもなかったか)

 ディアンサは俺たちの適応力の高さに驚いているようだ。
 伊達に数十年オタクやってない。
 いくつもの作品で念話的なものを見てきたからな。むしろこの世界に来た時に想定していた。

(どこ行けばいいんー?)
(私の住処に来てくれ。ユキト殿が水攻めしたとこだ)
(お、おう……)

 その節は誠に申し訳ありませんでした。
 ともあれディアンサの言う通り、町外れの岬に向かう。
 粉々に砕け散った元住処の前に、ディアンサは立っていた。

「なんかその、すまんかったな」
「気にするな。こんな場所で生活していたなど、出来る事なら今すぐ忘れたいくらいだ」
「そう言って貰えると助かる」
「んでんでー、お魚さんはどこかしらー?」
「あぁ、それなら……」

 ディアンサの向けた視線の先、そこには俺が捕獲冷凍していた魚が幾つか、あった。

「戦いの最中に回収しておいたんだ。主を失い、これから放浪の身だからな。だがどちらにしろ食い切れん。元々は貴殿らのものだし、返そうと思う」

 どさりと、ディアンサは氷漬けの魚を数匹渡して来た。
 ふーむ、なるほど、いやしかし……俺はふと思いつき、ちらりとカオリの方を見た。
 カオリもカオリで俺と視線を合わせると、やれやれと言った顔でため息を吐く。
 川で捕まえたでっかいカメを飼いたいと言った時の、あの顔。

「ユキトくんはあれだねー物好きだねー。しょうがないにゃあ……いいよ」
「ほんとか!?」
「うんうん。私もディアンサのこと、少し気に入ったしね」
「? な、なんだ? 一体」

 訳もわからず狼狽えるディアンサに、俺はこう告げる。

「ディアンサ、お前行くところがないなら俺を主にしてみるか?」
「な……い、いやそれは……」

 ディアンサは満更でもなさそうだ。
 気は進まないが、嫌という訳でもないってか。

「別に嫌ならいいぞ」
「嫌ではない! ただその、少しばかり……その……」
「ちなみに業務内容は俺のアイテムボックスの中の食材整理、日給三食風呂寝床付き」
「くっ……わ、わかった。是非ともやらせて欲しい……!」

 よほど魅力的な提案だったようで、ディアンサは悔しそうに頷いた。
 やはりというか、食事の誘惑には勝てなかったようだ。

「それで契約? てのはどうやればいいんだ?」
「簡単だ。私とユキト殿の血を交換すればいい。……右手を出して貰えるか?」
「ん、ああ」
「では失礼して」

 ディアンサは俺の右手を取ると、鋭い歯で噛み付いてきた。
 カオリが身構えるが、それを制する。
 そんなに強い力じゃあない。
 俺の血を吸ってるのか。魔力が混じり合う不思議な感覚だ。

「……ふぅ、これで契約は完了した。私はユキト殿の従魔となった」
「なーんか、やらしー。ユキトくん、浮気はいかんよー?」
「し、しねーよバカ」
「カオリ殿、心配召されるな。私の今の姿は魔族と契約した時のもの。ニンゲンを主とした場合……くっ、その姿は大きく……ッ!」

 どくん、どくんと、鼓動と共にディアンサの姿が見え徐々に小さくなっていく。

「くっ、やはりこうなるか……屈辱的だ……」

 みるみるうちに小さく、そしてディフォルメ化され、ディアンサの姿はニチアサの女児向けアニメ的ぬいぐるみに姿になっていた。

「……というわけさ。見るがいいこの無様な姿を。これではユキト殿が私に劣情を催すはずがあるまい。安心したか? カオリ殿」

 そう言って苦笑するディアンサであるが、カオリの反応はーーーー

「おわー! なになにその姿、ディアンサってば超可愛くなーい!?」

 カオリはディアンサに抱きついている。
 あ、くそ。うらやましい。
 俺もやりたいそれ。

「私のような下級魔族は、主の影響をモロに受けてしまう。ニンゲンの魔力では、あの姿を保てないのだ」
「おいカオリ、俺にも貸してくれよ」
「ダメですー! だってユキトくん、エッチなことするつもりでしょ」
「ぬいぐるみだぞこの姿! しねーって! だから!」
「ゆーて? ユキトくんは特殊性癖だからねー。ロリ系やぷに系の薄い本を大量に持っていたやん?」
「あ、あれは二次だから! 今は普通に可愛いものを愛でたい精神だっての!」
「あやしーからダメダメー」
「……まぁ、どうでもいいがな」

 ディアンサが呆れ顔でそんな感じのことを呟いていた気がするが、カオリと取っ組み合ってた俺にはあまり聞こえなかった。
 そんなこんなで、ディアンサは俺の従魔となったのである。
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