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酔っぱらう二人
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「あ、あのー、私はいつまでこれをまぜていれば……?」
「ありゃりゃごめんー、忘れてたよー」
「カオリ……」
「てへぺろーん」
白い目でカオリを見るナーサリアだが、のれんに腕押しだ。
言っとくけどカオリに嫌味は通用しないぞ。
「それではナーサリアがまぜまぜしてくれた酢飯にさっき酢〆したお魚を入れまして……はいっ! ちらし寿司の完成です! パチパチパチー!」
「誤魔化しましたね……まぁいいです。では私はこれで」
「何言ってんの!食べてからにしなさい。ほら!」
「しかし急いで……むぐっ!?」
カオリはナーサリアを捕まえると、その口にちらし寿司を突っ込んだ。
問答無用だ。ナーサリアはさっきからされるがままである。
ずっとカオリのターン!
「こ、これは……もぐもぐ……ごくん、うん! 少し変わった味ですが、すごく美味しいですわ!」
「でしょう?」
「えぇ、サッパリした白米に色とりどりの具材。これならいくらでも食べられそうです!」
「うんうん、気に入ってくれて嬉しいよー。よかったら皆さんもどうですー?」
少し離れたところで俺たちを見ていた町の人たちに、カオリは声をかける。
「お、おぉ……いいんですかな?」
「いいですよぉーその為にこれだけ作ったんですからー。どうぞどうぞ、皆さん一列に並んでくださいな。ナーサリアもよそってあげてー」
「ですから急いで……はぁ、もういいです。わかりましきたよ。やればいいのでしょう、やれば」
諦め顔でため息を吐くナーサリア。
人間諦めが肝心である。
「ほう、これは確かに美味い!」
「こちらのニギリズシとやらも素晴らしい!」
「生の魚など食えるものかと思ったが、調理次第でこれ程美味くなるんじゃなぁ」
町の人たちは寿司をすごい勢いで食べ始めた。
今まで干物ばかり食べてたらしいので、無理もあるまい。
カオリが解体と職人芸で刺身や寿司を作るも間に合わず、すごい勢いで食材がなくなっていく。
「ゆ、ユキトくーん、ゴハンはまだ炊けないかーい?」
「まだもうちょいってとこか……それより魚がないな。ディアンサの待ってた分も使い切っちまったぞ」
「うひー! みんな食べるの早すぎやでー!」
海の男たちの食欲恐るべし。
それとも余程、寿司が舌に合ったのだろうか。
どちらにしろそろそろヤバイぞ。主に俺たちの食べる分が。
もはやこれまで、そう思われた時である。
「いよぉ、もう始めたったんかい!」
「今、けえったぞぉ!」
漁に出て行った男たちが、帰って来たのだ。
男たちが引いて来た荷車の中には魚が大漁とばかりに積まれていた。
「おー! すごーい! さっそく捌いてもいいかい?」
「おうともよ! 片っ端からやってくれぃ!」
「わーい! そいじゃ荷車ごとこっちに持っていてちょー!」
「カオリ、米も炊けたぜ」
「じゃ、ナーサリアよろしくぅ!」
「ま、またですか……もう手が痛いのですが……」
「大丈夫大丈夫、そのうち気持ち良くなってくるから!」
何が大丈夫なのか全くわからないのだが。
とにかく反論は無駄だと悟ったのか、ナーサリアは渋々酢飯を混ぜ始めるのだった。
夜は更けていく。
宴は終わり、ほぼ全員酔いつぶれて眠ってしまっていた。
俺は少し風に当たるべく、海へと足を向ける。
潮風が火照った身体に心地よい。
「ユーキトくん」
後ろからの声に振り返ると、カオリがいた。
いつの間にいたのだろうか。
「ふふふ、こっちに来るのが見えたからついてきちゃった。あまりにも隙だらけな背中だったものでね」
「何故暗殺者っぽい言い回しなんだ?」
「あははー気づかなかったでしょう?」
けらけらと笑うカオリの顔は、真っ赤になっていた。
どうやら酔っているようだ。
「ったく、あんまり飲みすぎるなよ。飲めないとか言ってなかったっけ?」
「飲めないことはないよーお金を出してまでは飲みたくないってだけで、嫌いではないのさ」
「ふーん……てか、酔うとそんな感じになるんだな」
「およー? ユキトくんは私が酔うの見るの、初めてだっけ?」
「まぁな。俺もあんまり飲まないし。奢ってまでは飲みたくないからな」
「そういえばユキトくんちの冷蔵庫、お酒とか入ってないもんねー」
「で、酒飲む場にもあまりいかないじゃん。だからカオリが酔うのを見るのは初めてだ」
「なるほそー……そんで、どう? 酔った私は?」
カオリは微笑みながら、真っ赤になった顔を近づけてくる。
そしてほんの1センチほどの距離で、目を瞑った。
――――俺もそれに応じる。
「ん……ふぅ、あはは……酔ってても照れるなー」
「……酔ったカオリも中々可愛いな」
「せやろー?」
「せやな」
普段通りの会話。
それは現代日本にいた時と、全く変わらない。
「カオリとここに来れてよかったよ。俺一人だと、多分途方に暮れてた」
「えー! 気が合うね! それは私もだよ!」
「えぇ……カオリは一人でも適当に生きていけるだろ……」
「そんな事ないもん! こう見えて結構気が弱いのよ!?」
「お、おう……」
「あん、もー! どいひー! ユキトくんのおばかー!」
「ちょ、こらやめろって!」
月明りの下、俺とカオリはイチャつくのだった。
「ありゃりゃごめんー、忘れてたよー」
「カオリ……」
「てへぺろーん」
白い目でカオリを見るナーサリアだが、のれんに腕押しだ。
言っとくけどカオリに嫌味は通用しないぞ。
「それではナーサリアがまぜまぜしてくれた酢飯にさっき酢〆したお魚を入れまして……はいっ! ちらし寿司の完成です! パチパチパチー!」
「誤魔化しましたね……まぁいいです。では私はこれで」
「何言ってんの!食べてからにしなさい。ほら!」
「しかし急いで……むぐっ!?」
カオリはナーサリアを捕まえると、その口にちらし寿司を突っ込んだ。
問答無用だ。ナーサリアはさっきからされるがままである。
ずっとカオリのターン!
「こ、これは……もぐもぐ……ごくん、うん! 少し変わった味ですが、すごく美味しいですわ!」
「でしょう?」
「えぇ、サッパリした白米に色とりどりの具材。これならいくらでも食べられそうです!」
「うんうん、気に入ってくれて嬉しいよー。よかったら皆さんもどうですー?」
少し離れたところで俺たちを見ていた町の人たちに、カオリは声をかける。
「お、おぉ……いいんですかな?」
「いいですよぉーその為にこれだけ作ったんですからー。どうぞどうぞ、皆さん一列に並んでくださいな。ナーサリアもよそってあげてー」
「ですから急いで……はぁ、もういいです。わかりましきたよ。やればいいのでしょう、やれば」
諦め顔でため息を吐くナーサリア。
人間諦めが肝心である。
「ほう、これは確かに美味い!」
「こちらのニギリズシとやらも素晴らしい!」
「生の魚など食えるものかと思ったが、調理次第でこれ程美味くなるんじゃなぁ」
町の人たちは寿司をすごい勢いで食べ始めた。
今まで干物ばかり食べてたらしいので、無理もあるまい。
カオリが解体と職人芸で刺身や寿司を作るも間に合わず、すごい勢いで食材がなくなっていく。
「ゆ、ユキトくーん、ゴハンはまだ炊けないかーい?」
「まだもうちょいってとこか……それより魚がないな。ディアンサの待ってた分も使い切っちまったぞ」
「うひー! みんな食べるの早すぎやでー!」
海の男たちの食欲恐るべし。
それとも余程、寿司が舌に合ったのだろうか。
どちらにしろそろそろヤバイぞ。主に俺たちの食べる分が。
もはやこれまで、そう思われた時である。
「いよぉ、もう始めたったんかい!」
「今、けえったぞぉ!」
漁に出て行った男たちが、帰って来たのだ。
男たちが引いて来た荷車の中には魚が大漁とばかりに積まれていた。
「おー! すごーい! さっそく捌いてもいいかい?」
「おうともよ! 片っ端からやってくれぃ!」
「わーい! そいじゃ荷車ごとこっちに持っていてちょー!」
「カオリ、米も炊けたぜ」
「じゃ、ナーサリアよろしくぅ!」
「ま、またですか……もう手が痛いのですが……」
「大丈夫大丈夫、そのうち気持ち良くなってくるから!」
何が大丈夫なのか全くわからないのだが。
とにかく反論は無駄だと悟ったのか、ナーサリアは渋々酢飯を混ぜ始めるのだった。
夜は更けていく。
宴は終わり、ほぼ全員酔いつぶれて眠ってしまっていた。
俺は少し風に当たるべく、海へと足を向ける。
潮風が火照った身体に心地よい。
「ユーキトくん」
後ろからの声に振り返ると、カオリがいた。
いつの間にいたのだろうか。
「ふふふ、こっちに来るのが見えたからついてきちゃった。あまりにも隙だらけな背中だったものでね」
「何故暗殺者っぽい言い回しなんだ?」
「あははー気づかなかったでしょう?」
けらけらと笑うカオリの顔は、真っ赤になっていた。
どうやら酔っているようだ。
「ったく、あんまり飲みすぎるなよ。飲めないとか言ってなかったっけ?」
「飲めないことはないよーお金を出してまでは飲みたくないってだけで、嫌いではないのさ」
「ふーん……てか、酔うとそんな感じになるんだな」
「およー? ユキトくんは私が酔うの見るの、初めてだっけ?」
「まぁな。俺もあんまり飲まないし。奢ってまでは飲みたくないからな」
「そういえばユキトくんちの冷蔵庫、お酒とか入ってないもんねー」
「で、酒飲む場にもあまりいかないじゃん。だからカオリが酔うのを見るのは初めてだ」
「なるほそー……そんで、どう? 酔った私は?」
カオリは微笑みながら、真っ赤になった顔を近づけてくる。
そしてほんの1センチほどの距離で、目を瞑った。
――――俺もそれに応じる。
「ん……ふぅ、あはは……酔ってても照れるなー」
「……酔ったカオリも中々可愛いな」
「せやろー?」
「せやな」
普段通りの会話。
それは現代日本にいた時と、全く変わらない。
「カオリとここに来れてよかったよ。俺一人だと、多分途方に暮れてた」
「えー! 気が合うね! それは私もだよ!」
「えぇ……カオリは一人でも適当に生きていけるだろ……」
「そんな事ないもん! こう見えて結構気が弱いのよ!?」
「お、おう……」
「あん、もー! どいひー! ユキトくんのおばかー!」
「ちょ、こらやめろって!」
月明りの下、俺とカオリはイチャつくのだった。
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