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召喚師、決闘を申し込まれる②

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 そんな訳で俺はルーシアと組み、ガイナス、ラグナスと勝負をする事になってしまった。
 連れて行かれた先は鉱石が取り尽くされ廃棄された採掘場、ホウホウと夜の鳥が鳴いているのが遠くで聞こえていた。

「あの、すみませんっ! 巻き込んでしまって……」

 二人と離れて準備中、ルーシアが俺に頭を下げてきた。

「気にしないでくれ。俺も余計な事を言って火に油を注いでしまったからな。迷惑をかけちまった」

 リーマン時代、俺の嫌いな上司があぁいうタイプだったのだ。
 命令だけして作業中にパソコンを除き見ては馬鹿にして、難癖つけてやる気を奪うようなムカつく奴だった。
 くそ、思い出しても腹が立つ。
 何となく顔も似ている気がしてきた。

「……ありがとうございます。迷惑だなんてそんな……私はその、言って下さって嬉しかったですから……」

 顔を赤くしてぼそぼそと何か言うルーシア。

「ん? 何か言ったか?」
「い、いいえなんでもっ!」

 お礼を言われるような事は何もしてないのだが。
 疑問に首を傾げる俺にルーシアは誤魔化すようにパタパタと手を振ってきた。

「まぁとにかく、あれだけ大見得切ったんだから勝たなきゃな。あいつら、強いのか?」
「……強いです」

 俺の質問にルーシアは頷いて答える。

「ガイナスさんは金属性のイシコロロ、ラグナスさんは火属性のラザードを使ってきます。二人とも攻撃スキルに偏重しており、力押しによる戦い方を好んできます。シンプル故に攻略は難しいかもしれません」
「イシコロロにラザードか。確かに攻撃スキルの多いタイプだが、裏を返せば力押ししか出来ないという事だ。付け入る隙はいくらでもあるさ」

 それにイシコロロとは都合がいい。
 覚えるスキルもアイアントの劣化版。
 むしろこいつはジードと戦闘する前の、いい予行演習になるかもしれないな。
 幸いルーシアの契約獣、イルルカのスキルは頭に入っている。
 ラザードのスキル構成もこのレベル帯なら想像がつく。
 あれをこうしてあぁすれば……うん、いける。

「ルーシア、ちょっと耳を貸せ」
「は、はい」
「……、……」

 ルーシアに耳打ちをしていると、苛立った様子でガイナスが声を荒げた。

「おい! 何をしているんだ! 待たせすぎだぞ!」
「へいへい、わかったよ……頼んだぜルーシア」
「が、がんばります!」

 俺はルーシアの帽子をポンと叩いた。
 それを見たガイナスのこめかみがピクピクと痙攣している。
 一触即発の空気が流れる。
 夜鳥が飛び立つ音と同時に、その場の全員が杖を構えた。

「……ふん、いいだろう。吠え面をかかせてやる! 行くぞラグナス! 出ろ、イシコロロ!」
「応ともガイナス! 倒してこい、ラザード!」

 二人はイシコロロとラザードを繰り出してきた。
 こちらも杖を振るい、コチックを呼び出す。

「行ってこい、コチック」
「おねがい、イルルカ!」

 それに続いてルーシアもイルルカを呼び出し、四体の契約獣が出揃った。

「コチック、羽休めだ」

 先手は一番素早さの高いコチックだ。
 何人いようが基本的には素早さが早い順から動いていく事になる。
 羽休めで全身に風の衣を纏わせ、防御力と回避率を上げておく。

「ハッ、そんな魔獣で何をするかと思えば……無駄だ無駄だ! とっととくたばるがいい! ラザード、ヒートパウダー!」

 次に動いたのはラザードだ。
 火の粉が辺りに散らばり、コチックとイルルカにダメージが入る。
 二対二などの連帯戦闘では、一部のスキルは敵全体に与えるものがある。
 水属性のイルルカには殆どダメージが入っていないが、コチックのHPバーは3割近く削れていた。
 更に、次順であるイシコロロが回転を始めていた。

「潰せイシコロロ、高速タックル!」

 ガイナスの命令で、イシコロロが突進を仕掛けてくる。
 躱そうとするも間に合わず、コチックは跳ね飛ばされ岩に激突してしまった。
 反動により、イシコロロも2割ほどダメージを受ける。

「ぴ、ぃぃ……!」

 だがその威力は絶大だった。
 弱々しく鳴き声を上げるコチックのHPバーは、残りわずかとなっている。
 危ない危ない、羽休めをしていなければやられていた。

「くははははっ! なんだなんだそのザマは! あれだけ偉そうな事を言っておきながら、貴様の契約獣、死にかけているではないか!?」
「然り然り! その有様では次の攻撃を耐えられぬなぁ!? あとはルーシア、貴様をゆっくり嬲って……」

 二人の下卑た視線がルーシアを舐めつける。
 一瞬、怯むルーシアだがすぐに気を取り直しイルルカに命令を下した。

「イルルカ、生命の雨!」
「キュィィィィィ!!」

 イルルカは高い声で鳴くと、空に向かって水を吐き出した。
 降り注ぐ雨が、コチックとイルルカのHPを回復させていく。

「な……っ!?」

 イルルカはともかく瀕死だったコチックのHPまでマックス近くまで回復したことに、二人は驚愕の表情を浮かべる。

 イルルカ LV19
 レベル19、水属性
 HP235
 攻撃42
 素早さ35
 防御56
 魔力42
 所持スキル
 アクアショット
 生命の雨
 堪える
 超音波

 回復系のスキルは使用した契約獣のHPと魔力に依存する。
 イルルカのHPは魔獣の中では相当高い部類だ。
 対してコチックのHPは100もない
 生命の雨一回で十分全回復することが可能。

「コチック、羽休めだ」

 俺は再度、コチックに羽休めを命じる。

「し、しまった! そういうことか!」

 ガイナスはようやく俺の企みに気づいたようだ。

「ラザード、ヒートパウダー!」
「やめろラグナス、こいつの狙いは……」

 ガイナスが止めようとするが間に合わない。
 ラザードはヒートパウダーを使い、火の粉が辺りに舞う。
 今度はコチックは、それを躱した。

「ちっ、運のいい奴め……ん、どうしたガイナス?」
「馬鹿者、なぜ気づかない!? 奴はあぁやって防御力と回避力を上げ続けるつもりなのだ! このままでは我らの攻撃は……」

 そう、当たらなくなるのだ。
 効果の薄い羽休めだが、重ねて使用する事で効果はその都度増していく。

「く……イシコロロ、高速タックル!」

 こうなればクリティカルを狙うしかない。
 だがそんなヤケクソな攻撃でクリティカルヒットなどするはずもなく、かろうじて当たりはしたもののコチックのHPバーは半分近く残っている。

「生命の雨!」

 それも、すぐに全回復してしまった。
 ガイナスとラグナスの顔が絶望に歪む。

「ラグナス、こうなればイルルカを狙うんだ!」

 ガイナスはそう指示するが、当然想定の範囲内。
 更に念押しの為、あれを試してみるか。

「コチック、撹乱だ!」
「ぴぴぃ!」

 俺の命により、コチックはイシコロロの周りをぐるぐると走り回る。
 挑発するような動きにイシコロロは真っ赤になって怒り始めた。
 よし、攻撃成功。

「ラザード、奴を焼き尽くせ! 炎のブレス!」
「シャーーーッ!」

 ラザードは大きく息を吸い込むと、口から強烈な炎を吐いてきた。
 炎のブレスは強力な単体攻撃スキル。
 コチックを狙い撃ちする作戦に切り替えたようだ。
 だがコチックはそれをひょいと躱す。
 回避力上昇の効果が早くも効いてきたな。

「くそっ! これ以上は体力的に厳しい……イシコロロ、ストーンショットだ!」
「ゴロロ……」

 しかしイシコロロはガイナスの命令に背き、高速タックルを仕掛けてきた。

「な、なに!? ど、どうしたイシコロロ!?」

 イシコロロはそのままコチックに突進してくるが、撹乱は相手の命中率を下げる効果を持つ。
 元々回避力が上がっている事もあり、コチックは難なく躱した。
 イシコロロは岩石に激突し、HPバーは4割まで削れていた。

「ええい何をしているのだ!」
「ゴロォ……」

 ガイナスはイシコロロを踏みつけ罵倒するが、それでもイシコロロの目はコチックに目を向けたままだ。
 撹乱は相手の命中率を下げる効果と共に、前回使用したスキルを連続使用させる効果を持つ。
 つまり反動ダメージを食らってしまう高速タックルを、何度も使ってしまうのだ。
 これが対ジード用に考えた戦法。
 よし、いい感じに機能しているな。
 これならジードとの対戦時、いいダメージソースになるだろう。

「イルルカ、アクアショット!」

 ルーシアの命令で放たれたアクアショットが、ラザードのHPを削る。
 ダメージは7割、火属性のラザードに水属性の攻撃は効果抜群だ。

「コチック、エアショット」

 更に追撃のエアショットで、ラザードのHPバーはゼロになった。

「く……この役立たずめ!」

 倒れるラザードを、ラグナスは魔石に引っ込めた。
 残るは高速タックルしか使えなくなったイシコロロだけだ。

「ゴロロロォォォ!」
「やめろ!や めるんだイシコロロ!」

 ガイナスが必死に止めるが構う事なく、イシコロロはコチックに突進してくる。
 当然当たるはずもなく、また岩壁に激突しHPバーを減らした。
 残りHPはもう2割程度だ。

「イルルカ、アクアショット!」
「キュィィィィィ!」

 イルルカの吐き出した水鉄砲がイシコロロを捉え、HPバーはゼロになった。
 イシコロロは大きくよろめいた後、土煙を上げて倒れた。
 俺たちの勝ちだ。
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