契約獣頼りの異世界生活

謙虚なサークル

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召喚師、決闘を申し込まれる

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「おおーい! みんな、今日は終わりにしよう! おつかれさーん!」

 夕方になって現場監督が声を張り上げて回る。
 本日の作業が終了したのだ。
 鉱夫たちに混じり、召喚師たちも現場監督の元へ集まっていく。
 現場監督は鉱夫には金の入った袋を、俺たち召喚師には判子を押した書類を渡していく。
 列はどんどん進み、俺の番になった。

「はいよ、おつかれさま。初日にしてはいい働きぶりだったぜ。ウィルくん!」
「ありがとうございます」
「これを持ってギルドに行きな。そうすりゃ金が貰えるよ」

 俺は判子の押された書類を受け取ると、それを手にギルドに戻る。

「お疲れ様でした。ウィルさん。……うん、しっかり仕事をしてきたみたいですね。では給金5000セラお支払い致します。ここに受け取りのサインをお願いします」
「はい」

 俺がさらさらと書類に記入するのを、受付嬢さんはじっと見ている。

「……ウィルさんは字も上手いし言葉使いも丁寧ですね。もしかして貴族の生まれですか?」
「いえ、普通の家だと思いますが……」
「あら、失礼しました。でもいいと思いますよ。ふふっ」

 受付嬢さんはにっこり笑って5000セラを渡してきた。
 目上の人に敬語を使うのは当然だと思うのだが……そういえば他の召喚師たちはちょっと荒っぽい喋り方だったかもしれない。
 ジードの戦いを見ていた時の召喚師二人組とか。
 本来はあぁいうのが普通なのだろうか……まぁよくわからんが好ましいと思われているならいいか。

「あとは宿泊をお願いします。食事付きで」
「はい、では3000セラになります」

 俺は受付嬢さんに金を渡し、食事チケットと部屋のカギを渡された。
 手続きが終わる頃には外はもうすっかり暗くなっていた。
 日替わり定食を食べ、大浴場で汚れを落とし、簡易ベッドに入ると俺はすぐに眠りに落ちた。

 ■■■

 それからしばらく、俺はギルドで働いた。
 金稼ぎついでに契約獣のレベル上げも出来て、まさに一石二鳥。
 コツを掴めばツルハシを降り下ろすのも中々楽しい。

「お疲れ様でした。今日の給金です」
「ありがとうございます」

 おかげで俺の所持金は5万セラになっていた。
 大金と言うほどではないが、それなりに余裕を感じられる数字だ。

「おう、ウィル君。頑張ってるね!」

 声をかけてきたのはジードだ。
 後ろには数日前にジードにコテンパンにのされた少女、ルーシアがいた。
 その目はリベンジに燃えている。
 どうやらまた闘技場に行くらしい。

「今から試合?」
「あぁ、君はやらないのかい?」
「お金も溜まってきたし、そろそろ挑戦するよ」

 俺の言葉にジードはにっこり笑う。

「結構! ホネのある子は好きだよ。いつでも挑戦してきたまえ!」

 そう言うとジードは闘技場に入っていった。
 ――俺もただ、金を稼いでいたわけじゃない。
 合間を縫ってジードの試合を見学し、戦い方を分析していたのだ。
 10日ほどいたが、試合は大体1日1回行われる。
 ちなみにそのうち3回はあのルーシアだ。
 採掘現場でも何度か見たが、俺よりも仕事をしている気がするくらいである。
 ジードに挑む際は毎度Cコース。
 しかしあそこまでこだわる理由は不明だな。勝ちたいなら金を稼いでBかAにすればいいのに。
 そんな事を考えながら、俺もまた観客席へと向かう。

 ジードとルーシアの試合が始まり、すぐに終わった。
 俺の予想通りというか、前回と似たような展開で試合は終わった。
 というか最初からずっと似たような戦い方をしてボコられてる気がするぞ。
 がむしゃらというかヤケクソというか……ま、俺には関係ないけど。
 ボロボロになった契約獣を魔石に戻すと、ルーシアはがっくりと肩を落とし帰っていった。

 戦いを見届けた俺は食堂に行き、いつもの日替わり定食を注文する。
 味気ない味だが、これにも慣れてきたところだ。
 食べていると、ちょうど向かいにルーシアが座った。
 うわー、すげー落ち込んでるな。
 ていうか他にも席は空いているのに、なんでここに座ったんだ?
 俺は気まずさに視線を逸らす。

「あの……ウィルさん、少しいいですかっ!?」

 だがルーシアは俺をまっすぐに見据え、話しかけてきた。
 名前を呼ばれては無視するわけにもいかない。

「ええっと……俺に何か?」

 戸惑いつつも返事をすると、ルーシアは何やら周りを気にするようなそぶりを見せながら、深呼吸をした。

「あの……私とジードさんの戦闘見ていましたよね。よかったらその、アドバイスを頂きたくて……」
「アドバイス? 何で俺が?」

 ルーシアの言葉に俺は首を傾げる。
 俺と彼女は初対面、そんな俺にわざわざアドバイスを求める理由もわからない。
 俺の疑問にルーシアはおずおずと答える。

「それは……えぇ、やはり傍目から見ていて気づく事もあるでしょうし、採掘場で見ていましたが、ウィルさんは契約獣の扱いにも長けているようでしたから。それに……」
「おいおいルーシア、水臭いぞ?」

 言いづらそうにしていると、後ろから二人組の男たちが声をかけてきた。
 ルーシアとの戦いを見ていた時、彼女を揶揄していた二人組である。

「ツレないではないか。指導なら我々がいくらでもしてやるのだが?」
「そうそう、手取り足取り教えてやらんでもないぞ? 何なら腰も取ってやろうか、ん?」
「が、ガイナスさん、ラグナスさん……」

 ルーシアが振り返り、二人を見上げた。
 嫌そうな顔をするルーシアと反対にガイナスとラグナスはニヤニヤと笑っている。

「大体、イルルカなどを使っているようではいかん。水棲魔獣は地上では戦えないのだから」
「然り。それに属性も全然合っていない。相手は金属性、その契約獣を逃がして、火属性の魔獣と契約したらどうなのだ?」
「……」

 二人の言葉にルーシアの表情は徐々に曇っていく。
 それはそうだ。二人の言葉は至極まっとうなものだ。
 金属性の魔獣が相手なら、火属性の契約獣を使うのがセオリー。
 だがルーシアにとってはイルルカは大事な相棒である。
 そもそも魔石を一つしか持っていないルーシアが新たな契約獣を手に入れようとしたら、一度契約を解除して魔石を空にするか、もしくは新たな魔石を手に入れる必要がある。
 魔石を空にすれば魔獣を捕まえれないし、魔石は召喚師長を倒さねば手に入らない。
 どちらも今のルーシアには難しい話だ。
 この二人はそれをわかっていて、言っているのだ。
 ニヤニヤしながら、二人はルーシアに顔を近づける。

「……私の火属性魔獣と交換してやってもよいぞ? 代わりに少し、ほんの少し、我々に付き合ってもらうがな……?」

 そう言って男はルーシアの耳元にふっと息を吹きかける。

「ひっ!?」

 小さく悲鳴を上げ、ルーシアは机の反対、俺の方へと逃げてきた。
 俺の肩を掴むルーシアの手が、小刻みに震えている。
 自分より年下の女の子を相手に上から目線で説教をして、挙句の果てにお触りか……やれやれ、どこの世界にもこんな奴らはいるものだな。
 俺はやれやれとため息を吐くと、二人を睨みつける。

「――あぁ思い出した。あんたらジードの試合中、いつもどこかで挑戦者の悪口を言ってた奴らか」

 俺の言葉に二人はぴくりと眉を動かした。
 そう、この二人は俺が試合に足を運ぶたび、毎度観客席で挑戦者の悪口を言っていたのである。

「『判断ミスだ』とか『信じられないくらいの下手くそだ』だとか、好き放題言っていたくせに、お前ら一度もジードに挑んでないよなぁ。人の失敗を笑い、足を引っ張るしか能がないのか?」
「なにぃ!? き、貴様ぁ!」

 よほど図星だったのか二人は顔を真っ赤にしている。
 反対にルーシアは顔を真っ青にして、俺に駆け寄ってきた。

「う、ウィルさん駄目です! この二人は辺境伯の息子で……」
「あぁなるほど、働いている姿も見ないわけだ」

 納得、といった顔で手を叩く俺を見て、二人は怒りに顔を歪ませていく。

「大体そんな恰好をしているがお前ら本当に召喚師か怪しいもんだ。外野でくだ巻いて騒いでる奴らより、何度も諦めずに向かっていくルーシアの方がよっぽど強いと思うがな」

「おのれ! 言わせておけば下民風情がつけあがりおって!」
「やめろ、ラグナス!」

 剣を抜こうとするラグナスを、ガイナスが制する。

「なるほど、君の言いたい事もわからんでもない。確かに我々は彼女に指導をした事があり、それで誤解を受けているのやもしれん。だがそう馬鹿にされては誇り高き貴族である私も黙ってはおれぬ」
「ほう、ではどうするね」
「決闘だ。我々二人と君たち二人、互いの名誉を賭けた戦いをしようではないか。……もちろんこいつでね」

 ガイナスは手にした杖を向けてくる。
 その先端に埋め込まれた魔石が鈍く光った。

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