スクラップ・サバイブ

止まり木

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第二章

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 サスケが駆逐艦の修理を開始してから一週間程たった。
 その日は、プロフェッサーの研究所へ商人が来る日。
 朝からプロフェッサーは、商人に引き渡す商品のチェックに余念が無い。
 プロフェッサーは、ここでの研究の傍ら、このデブリ帯にある壊れた艦船からパーツを抜き取り、それを修理してここに来る行商人に物々交換で色々な物を買って生活していた。
 今日運ばれてくる最後の部品さえ届けば、駆逐艦改造タイムマシンの完成は時間の問題。気合も入るのも当然というものだ。
 サスケが、この研究所のメンテナンスボットをアップデートと言う名の改造を施した事により、その能力が全体的に三割ほどアップしている。そのお陰で、商品となるパーツは潤沢にある。支払いにパーツが足りないという事は無い。
 下手に不具合のある物を渡して商人に部品の引渡しを渋られても面倒くさいので、プロフェッサーは、修理されたパーツを念入りにチェックしていく。 
 プロフェッサーの修理した怪しい中古パーツを買うモノは限られている。それは、正規のルートでパーツを買うことの出来ない海賊達だ。その海賊達にとってプロフェッサーから提供されるパーツは、下手な正規品よりも重宝されていた。中には正規品より性能のいいものすらある。当然それらは違法な改造が施されているのだが、そんな事を気にする連中ではない。
 何せ、そのプロフェッサーが修理改造したパーツを積んだ旧型の海賊艦が、現役のパトロール艦と遣り合ってもほぼ無傷で帰ってきたという逸話があり、毎回商人がプロフェッサーから商品を仕入れると、それらは即座に完売するほどの人気商品だった。
 プロフェッサーが卸す違法パーツは、ミドロス連邦軍やミドロス連邦の警察組織にも知られており、デットオアアライブの指名手配リストに載っているのは、余談だろう。

 プロフェッサーが約束していた時間になると一隻の輸送船が研究所の前に現れた。
 商人の輸送船は、プロフェッサーのご自慢の防衛機構の攻撃対象から当然外されている。
 手馴れた様子で一隻の薄汚れたフィッシュボーンが研究所の前で停船し、通信要請を出した。
 商品のチェックを終え、管制室でのんびりと待っていたプロフェッサーは、すぐに要請に応じた。
「まいど~!博士はん。儲かりまっか~。ご注文の品!持って来ましたで~!」
 通信画面に、いかにも胡散臭そうな中年男が、もみ手をしている様子が映った。宇宙服を着ているが、ヘルメットはしておらず、つるつるの頭が特徴的だ。喋る言葉も、ミドロス連邦の辺境特有の独特な方言で、時々連邦の中央から流れてきたプロフェッサーには分からない言い回しでしゃべる事がある男だ。
 その商人に、プロフェッサーは自分の事を博士と呼ばせていた。
「おー来たか!ちょっと待っておれドックを開ける」
 予想外に上機嫌な様子に商人は、違和感を感じた。最近のプロフェッサーは、いつもイライラしており、会話は必要最低限。下手にぺらぺらと喋れば怒鳴り散らされるといった有様だったからだ。
 それが打って変わって上機嫌。商人はこれは何かあるなと思った。
 隠されたドックが開かれ、その中にフィッシュボーンが入る。手馴れた様子で何時もの場所へと駐機すると、ハッチが開き、もみ手をしながら、さっき通信画面に映っていた男が出てきた。
「博士はん。えろうご機嫌ですな!なんや、ええ事でもあったんですかいな?」
「おうそうじゃ。長年の研究の成果が実を結びそうなんじゃ!じゃから早く部品をくれ!」
「おおそりゃおめでたいですな!ほな、これが今日の運んできた注文の品のリストです~」
 商人は小脇に抱えていたタブレット型の情報端末をプロフェッサーに差し出した。端末の画面には、フィッシュボーンに積まれているであろう物資のリストが表示されている。
「これが、今こっちで用意したもんじゃ」
 変わりにプロフェッサーは、今研究所にある修理済みのパーツリストが表示された情報端末を渡す。
「うひょ!フィロム級駆逐艦のレーダーアレイ!
「ああ、ええ感じに壊れた艦首を見つけてのう。倉庫に数が足りなくて使えなかったモジュールも使って直しておいたんじゃ。お陰で普通のヤツより性能が三割り増しじゃぞ」
 獲物の存在を知る事と同時に、敵の存在を知る為にレーダーは重要な装備だ。レーダーが壊れて、敵に先に発見されて撃沈された海賊の話など枚挙に暇が無い。それゆえに海賊の中でもレーダーと通信装置を優先的に改造する海賊は多い。
 だからこそ、性能の良いレーダーのパーツは高く売れる。当然非合法である海賊たちに正規品の新品パーツなどは大枚をはたいたとしても買えるかどうか分からない。普通の海賊は、型落ちの中古パーツを何とか修理して使っているのが実情だ。カツカツな海賊だと、レーダーの探査範囲に穴のある物を後生大事に使っていたりする。
「ごっつええではないですか!高く売れまっせ!」
 商人も興奮しながらリストにチェックを入れていく。
 同じように、プロフェッサーも商人のリストに手早くチェックを入れていく。
 それからは、交渉だ。両方がリストにある欲しい物にチェックを入れ、相手方に返し、自分が欲しい物と相手方の欲しい物を鑑み、両者が対等な取引だと思えば成立し、それぞれの物を交換する。それがここでの取引だ。
 プロフェッサーが最後までリスト見ていると、その中には食品が入っていなかった。それもそのはず、前に商人が来た時に、同じものしか買わないから、リストから消しておけと、自分で言っていたのだ。
「のう。今日は調味料とか持ってきておらんか?」
「そりゃありますけど…。食えりゃあ良いっておっしゃってたではおまへんか?そういえば、肌の色艶もよくなっとりますね。誰かええ人でも出来たんですか?んな訳ありませんな!こんなゴミ溜め見たいな場所に来る女子なんて居やしませんて!ははっ!」
「そっそうじゃ。最近料理に目覚めてのう。うちにある調味料じゃ味気ないんじゃ」
 笑っている商人だったが、その目には怪しい光が灯っていた。それにプロフェッサーは気付かない。
「…よっしゃ。いつもご贔屓にしてる御礼や、調味料おまけしましょ!」
「そうか、すまんのう」
「ええですって。博士はんは、リストのチェックは終わりましたん?こっちは終わりましたで!」
「こちらも終わったぞい」
 それから取引の細かい交渉を終えると両者は、それぞれの品物を交換する為に搬出作業を開始した。



 それぞれの検品が終わり、商人は取引した荷物をフィッシュボーンに積み込むと闇市へと帰っていった。
 ボット達は、運ばれてきた荷物をそれぞれの置き場所へと運んでいる最中だ。
「やっと終わったか…」
 プロフェッサーとて商人を信用しているわけではない。商人と言うモノは儲け話があれば、そこに飛びつき。弱った相手が居れば、ハイエナの如く貪り尽くす。特にこのリンデット宙域の商人達は、騙すか騙されるか、喰えるか喰われるかの生存競争を日々繰り広げている。それは客であろうと同じだ。儲けの少ない常連客を売って儲けの大きな常連客を得るなど日常茶飯事。この場所では、自分以外信じられるものは無い。
 和やかに会話している様に見えてもそれは、狐と狸の化かしあいでしかない。
 今は、プロフェッサーが良い改造パーツを売っているから良いものの、もし改造パーツを商人に降ろさなくなったら、あの商人は、プロフェッサーの情報をいろんな海賊団に売り、尚且つ、プロフェッサーの研究所へ攻撃されないまま入れる自身の輸送船をオークション形式で高く売りつけるだろう。
「まったく、あやつとは、一回一回の取引で疲れるわい」
 しかも、今は研究が大詰めにまで来ている。もし、研究が完成しかけている事を知ったら、それを奪いに来るのは必定。
 とは言え、プロフェッサーが研究していたのはタイムマシン。世間的には不可能と結論付けされたタイムマシンが完成したと言ったとしても冗談と受け取るだけかもしれないが、念には念を入れている。
 研究所のレーダー範囲から商人のフィッシュボーンが消えたのを確認すると、倉庫から小さなコンテナを抱えて食堂へ向かった。
 食堂に入るとそこには、クレハとサスケが待っていた。
「あやつは帰ったぞ。もう出てきても問題ない」
 クレハは、食堂に入ってきたプロフェッサーの持っている抱えている物を見ると飛び上がった。
「それはっ!」
「ああ、ご注文の調味料じゃ」
 プロフェッサーは、コンテナを軽く上げながら答えた。
「よっしゃあ!」
 どう聞いてもお嬢様らしくない声をあげ、プロフェッサーの抱えているコンテナを奪うと、そのまま食堂のキッチンへと移動する。
 そもそも、クレハはそれ程多くの料理のレシピを知っているわけではない。クレハに料理を教えた料理長も仕事があり、たくさんのレシピをクレハに教える時間が取れなかったからだ。
 一応、サスケの持っていたコンテンツデータに料理番組もあったのだが、料理に使われる食材や調味料がないので作れない。
 同じ料理を二日と連続して食べた事の無いクレハには、同じような味付けの料理を毎食作って食べるのは苦痛でしかなかった。

 キッチンに向かうクレハを見送ったプロフェッサーは、ウォーターサーバーから水を汲むと一休みする為にテーブルに座った。するとサスケがプロフェッサーの前へと飛んだ。
「一つ聞きたい事がある」
「何じゃ?」
「タイムマシンが完成したら何をする?」
「何をって、もちろんタイムトラベルじゃ」
「人を乗せてか?」
「まさか。動物実験もせんで、人を乗せるわけなかろう。もちろん無人じゃよ。それに実験を成功させたとしても、それ以上研究するつもりは無い」
「…何故だ?過去に行きたいからタイムマシンを作ったのではないのか?」
「それもある事は否定せんよ。わしの論文をしたり顔で否定しおった!あの論文発表会場に乗り込んで、ワシは正しかったぞ!と言ってやりたいとすら思った。だがなぁそれじゃとタイムパラドックスが起きるじゃろ」
 タイムパラドックスとは、タイムマシンで過去に干渉した結果、生じる矛盾や変化の事だ。
 この場合、現在から過去へと飛んだプロフェッサーが、過去のプロフェッサーに会い、タイムマシンは作れるぞ!と言ったとしよう。そうすると、過去のプロフェッサーは、自身の理論の証明がされれば、不屈の闘志を燃やしながら危険なリンデット宙域に居を構えて一人タイムマシンの開発などしないだろう。
 過去の改変だ。
 そうすると現在から過去へと飛んだプロフェッサーが存在しなくなる。という事は、今度は過去へと飛び、タイムマシンは作れると叫ぶ者が居なくなるという矛盾…タイムパラドックスが発生する。
 タイムパラドックスが発生したらどうなるかなど、実際試して見なければ分からない。世界が崩壊しても不思議では無いし、逆に何も起きなくても不思議は無い。
「そうなると。わしが死ぬというか存在できなくなったりする可能性があるじゃろ。さすがにそれはイヤじゃ。なんであの駆逐艦を無人で過去に飛ばして、その後、こっちに戻そうと思うんじゃ」
「では、どうやって過去に行って帰ってきたと証明するんだ?」
「それは考えておるぞ。地球の崩壊する様子を撮影するんじゃ。それも現在の最新の機器でなっ!」
 楽しそうにプロフェッサーは言った。
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