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第二章
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地球の映像は、今でも多くこの世界に残っている。しかし、地球が崩壊する様子を映した映像は存在しない。
地球に存在していた監視衛星や、地球近傍にある月や火星などの星には、地球連邦軍の基地が存在したが、それらは、プラネットインティリゥムによる地球破壊の余波を受けて壊滅したからだ。
地球の撮影は、1000年以上立った現在でも理論上出来ない事は無い。地球が反射した光を千光年以上離れた場所から、微弱な光を捉える事が出来る超が幾つ付いても不思議では無い程の超高精度な望遠鏡で観測すれば良いだけだ。だが、それでもまともに地球の姿を撮影出来るとは言いがたい。宇宙空間には、塵があり、デブリがあり、光すら曲げる強い重力を発するブラックホールなどの天体が存在する。それらにより、光が遮られ、捻じられ、曲げられる。
実際、トルーデ王国でも地球崩壊の様子を撮影するという番組があったが、それでも、地球と思われる光点が瞬いてゆっくりと消えていく様子を撮影できただけだった。はっきりって"これは地球です"とキャプションをつけなければ誰も地球崩壊の映像とは分からない映像だった。
「なるほど。現在存在しないものを、撮影して戻ってくる事によりタイムスリップの証明とするのか」
トルーデ軍の地球破壊は、戦後の世界でいろいろな場所で検証された。そのためプラネットインテリゥムが発射された時、プラネットインテリゥム搭載艦が当時何処に居たのかもネットで調べれば簡単に分かる。それに1000年以上未来の技術で作られたカメラならば、双方の軍の探知範囲外からでもくっきりと撮影できる。
「それだけじゃないぞい。ここから千光年ほど離れた場所から、ここに向けて大出力のレーザー通信を送るんじゃ!過去から未来に向けての通信じゃぞ!ロマンあるじゃろ!」
「だが、その通信が途中何かで遮られる可能性があるが?」
「大丈夫じゃそれもちゃんとレーザーの進む進路には1000年間何も無い場所を選んでおるし、アンテナはリンデット宙域の外延にそれとなく設置してあるから問題無しじゃ!」
「では…」
その時、キッチンからクレハが会話に割り込んだ。
「まったく、タイムトラベルなんて出来るわけ無いじゃない」
クレハの言葉を聞くと、プロフェッサーがむくれる。
「ふん、近頃の若者はこれだから…。ネットにある世論を鵜呑みにして、知ったかぶりおって…。いいか?あのタイムトラベル不可能証明論文は、エネルギーの観点から過去へと行く事は不可能と証明しておる」
「確か、この世界にある全ての物質を調べた結果、過去に行くエネルギーは、存在しないと結論付けたのよね」
「そうじゃ。じゃが、あの論文には、ある物質の調査結果が抜けておる」
「ある物質って?」
「デルトニウムじゃ」
デルトニウムとは、この世界でもっとも危険で謎な物質と呼ばれている物だ。デルトリウムの来歴は不明。誰が何処で何時、どういう経緯で発見し調査したかが一切公表されていない謎の物質。何故ならデルトリウムを発見したのは、既にこの世界の存在しない国家地球連邦。
そのデルトニウムはプラネットインテリゥムの破壊力の源でもあった。
この正体不明な物質は、プラネットインテリゥムの破壊力の源という事は発表されていたが、それが一体どのような物質で、何処で採取又は作られているのかすら分からない。
だが、地球連邦が各植民国家の首脳陣を集めて公開した軍事演習時に、彼らの目の前で、プラネットインテリゥムを使用して惑星を一つ破壊して見せたのだ。
戦後各国は、投降した地球連邦軍から数機のプラネットインテリゥムを接収し、分解、デルトニウムが入っているとされていた容器を複数回収した。回収されたデルトニウムは容器ごと、それぞれの母国に持ち帰って各国が研究しようと持ち帰った。
結果作り出されたのは無数の屍の山だった。
何が起こったかは現在でも詳細は誰も知らない。分からない。だが、れっきとした事実だ。
ある国がデルトニウムを研究する為に宇宙空間に最新鋭の研究施設を作った。
研究施設が完成すると、さっそく接収されたデルトニウムが研究施設に搬入され、調査が開始された。
その数時間後、研究所とは一切の連絡は途絶えた。
研究所から連絡が一切取れなくなった事を不審に思った政府から軍に要請して調査部隊を編成、研究所へと送られた。その調査部隊が見た物は、惨憺たる有様になった研究所だった。
研究所にたどり着いた調査部隊が見たのは、完成して間もないはずの研究所が一切の光を発することなく、宇宙空間に浮かんでいる姿だった。通常宇宙に作られた建造物には、そこに建造物がある事を示す障害灯と呼ばれる常に明滅する電灯の設置が義務付けられている。
それが灯火されていないのだ。
障害灯は、解体廃棄処分される時を除き、常に灯火する事を義務付けられており。施設内の電力が全て使えなくなったとしても、専用の非常用電源で百年は灯り続ける事が可能とされている。
それが全て消えている。常識から考えてありえない事態だった。
ただ事では無いと強化外骨格を纏わせた兵士達を研究所へと送り込んだ。
研究所の機能は停止し、いたるところ亀裂が発生し、頑丈に作られていたはずの気密すら保たれていなかった。
そして、研究所の中へと入った兵士達は見た。
無残にひしゃげた死体。
一切の外傷も無くあっけにとられた様な表情の死体。
体が切り刻まれたような後のある死体
ミイラ化した遺体。
全身に穴が開き、自らの血の水球に囲まれた死体。
四肢が千切れた死体。
多種多様な死体が研究所内部を埋め尽くしていた。まるで人の死に方、殺し方の見本市のように…。厳しい訓練と実戦をを潜り抜けてきた隊員達が、思わず吐くほどの悲惨な光景。
調査から戻った隊員達も、その後の検査では何の以上も見られなかったのに、その後不可解な死を遂げた。
同様の事が、デルトニウムを研究しようとした各国で起きた。
酷い所では、地上に研究所を作ったが為に、その近くあった街丸ごとを巻き込んで全滅した事例すらあった。
あまりに危険な為に研究する事自体、地球を起源とする人類国家同士で結ばれる最初の条約によって禁止されている。不法に所持しているだけで重罪とされ、国によっては裁判も無しに即刻死刑になる国すらある。
「デルトニウム…確かそれは非常に危険な物質で、現在では所持はもちろん研究すら違法ではなかったか?」
そんな物が、この研究所にあるとは、非常に信じがたい。現在地球連邦から接収したデルトニウムには、それぞれ容器ごとナンバーが振られて厳重に管理されており、本来なら見ることすら難しいものだ。
「ふん。リスクを恐れて何が発展じゃ。ワシを学会から追放した連中から慰謝料代わりに貰ってきたんじゃ」
平然と、全世界で指名手配されても不思議ではない事をしたと言う。
「では、現在ミドロス連邦の所持しているデルトニウムは…」
「ワシの作った偽物を後生大事に金庫にしまっておろうよ!ひっひっひっ!」
その時の事を思い出したのか、あくどく笑う。
「その手足や顔もそれでやったのか?」
「これか?まぁな。この研究の代償と思えば安いもんじゃ」
顔にいつもつけているゴーグルを外すと、眼窩に穴の多く空いたコネクターが嵌まってた。嵌まっているコネクターは黄色で、クレハが見たら人間の眼窩に蜂の巣が出来ていると錯覚したかもしれない。外したゴーグルの内側を見れば、そのコネクター部に挿すオス端子が見える。ゴーグルをかぶれは針山のようなオス端子が、目にあるコネクターに突き刺さる仕組みだ。
「デルトニウムは、簡単に言えば空間の時間を暴走させる物質じゃ」
プロフェッサーは外したゴーグルを付け直しながら言う。
「暴走?」
「ああ、デルトニウムで有名な話に、色々な死に方があるって話は聞いておるじゃろ」
「知ってる」
「あれは、空間の時間の暴走に巻き込まれた結果じゃ。一番わかりやすいのはミイラ化じゃの、あれは、デルトニウムにより時間が暴走加速した空間に入ってしまって、時間が一気に進んだんじゃな」
「無傷の死体とか、切り裂かれた死体とかは?」
「無傷の方は、多分脳とか心臓とかの一部だけが小さな時間が暴走した空間に、取り込まれて、内外の時間に差が生じて切られたんじゃろう。切り裂かれたのは、厚みの無い板状になった空間にぶつかってヤツじゃろうな」
「詳しいな」
「おう、一通り経験したのからのう。いろんなと所がやられすぎて、ほとんどサイボーグじゃわい」
そういいながら、持ち上げた右手首から先を360度くるくるとまわしている。
「これはこれで便利なのじゃ。わしの研究は、タイムマシンと言っておったが、正確に言えばデルトニウムによる空間の時間の暴走の制御じゃな。タイムマシンは、その制御が成功したという証明の為の道具と言う訳じゃ」
「それなら、別の方法でも証明出来そうなものだが…」
「おぬしはロマンが無いのう。作れるなら作るじゃろ」
「作るべきか、作らないべきかは、考えなかったのか?」
「はっ。そんなのは、作れない奴等の戯言じゃな」
プロフェッサーの倫理観と言うものに期待してはいけないなとサスケは学習した。
「最後に、それは安全なのか?」
「安全に決まっておろう。何年わしが研究したと思っておるんじゃ。なんならデータを見せてもええぞ。おぬしはワシにとってもはや共同研究者の様なものじゃしな。それでも不安なら実験前に船を引き渡して。あの駆逐艦が直れさえすれば、実験は可能じゃからの」
「データを…」
「ほい」
端末を操ると、その途端にサスケの中に膨大な量のデータが、流れてくる。その中には、プロフェッサーが体を失っていく様子が極めて客観的に書かれていた。そして肝心のデルトニウムについての情報が制御方法も含めて余すところ無く書かれており、タイムマシンの設計図すらあった。
サスケがそれらの資料を黙って精査する。それをプロフェッサーは横でのんびりと待っている。キッチンでは、ミキサーが稼動して何かを砕いている音がする。
一時間ほどたってようやくサスケが、声を上げた。
「…わかった。これなら、大丈夫そうだな。実験は最後まで見届けさせてもらおう」
「ほぉ!ワシの論文を理解したか!本当にお前は何者だ?」
プロフェッサーの論文は、読んでもほとんどの科学者は理解できない。書いている事は正しいのだが、言い回しが難解だったり、ある程度察する能力が無いと理解できないのだ。天才科学者でよくある、自分がこれで理解できるのだから他の人が呼んでも理解できるだろうと思って書いているのだから仕方が無い。エリートと呼ばれる科学者達なら何とか読み取れる程度だ。
そんな論文が旧型のメンテナンスボットが理解できるという。驚きを通り越して笑うしかない。
「しがないメンテナンスボットだ」
「ふん。どうだかな」
クレハが料理の載ったトレーを持ってキッチンから現れた。
「は~い。食事の用意が出来ましたよ~」
トレーの上には、おいしそうな合成肉のカツレツに、ドレッシングの掛かったトマトとレタスのサラダ、それにこんがりと焼かれたパンにインスタントではないコーンポタージュ、それにカツレツに掛ける為のソースが乗っていた。
自身の前に料理が並ぶと、たまらん!と言った様子でナイフとフォークと持って、カツレツと対峙する。
揚げたてのカツレツの衣がさくさくと音をたてて切っていく。
クレハは、サスケ居る隣の席に座って、いただきますと呟くと、今日商人からおまけしてもらったソースを開ける。
「ねぇ。プロフェッサーは、実験が終わったらどうするの?プロフェッサーの目的は自分の理論が間違っていない事を証明なんでしょ?」
サスケ達の話を聞いていたのだろう。クレハがカツレツに、今日届いたソースを掛けながら聞いた。
「ん?そうじゃのう。成功しても失敗しても終わりじゃな。ワシも、もう年じゃし。ここを閉める。使い終わったデルトニウムを持って自首して学会の奴等顔が真っ青になるのを拝むのも良いじゃろうな…ククク」
プロフェッサーはソース無しのカツレツを一口味わうと、今度はソースにてを伸ばした。
蓋を開けて、ソースをカツレツにかけようとした時、上機嫌そうだったプロフェッサーの表情が変わる。
「チィ!アヤツやりおったな!!」
ソースを振り上げるとそのままテーブルの縁へと叩き付ける。その時には、ボトルの蓋をしていないせいで、ソースが食堂に派手に飛び散る。
「なに!?ちょっとどうしたのよ!」
いきなりの凶行に、クレハが立ち上がる。
「盗聴器じゃ!あやつ、このソースのボトルに超小型の盗聴器を仕掛けおった!」
「今の会話を聞かれたのか?」
「多分な。しかもたちが悪い事にお嬢ちゃんがここに居ることと、ワシが引退しようという事を知られてしまった」
「それじゃ…!」
「あやつなら最後の一儲けに情報を売るはずじゃ!攻めて来るぞ!海賊共が!」
地球に存在していた監視衛星や、地球近傍にある月や火星などの星には、地球連邦軍の基地が存在したが、それらは、プラネットインティリゥムによる地球破壊の余波を受けて壊滅したからだ。
地球の撮影は、1000年以上立った現在でも理論上出来ない事は無い。地球が反射した光を千光年以上離れた場所から、微弱な光を捉える事が出来る超が幾つ付いても不思議では無い程の超高精度な望遠鏡で観測すれば良いだけだ。だが、それでもまともに地球の姿を撮影出来るとは言いがたい。宇宙空間には、塵があり、デブリがあり、光すら曲げる強い重力を発するブラックホールなどの天体が存在する。それらにより、光が遮られ、捻じられ、曲げられる。
実際、トルーデ王国でも地球崩壊の様子を撮影するという番組があったが、それでも、地球と思われる光点が瞬いてゆっくりと消えていく様子を撮影できただけだった。はっきりって"これは地球です"とキャプションをつけなければ誰も地球崩壊の映像とは分からない映像だった。
「なるほど。現在存在しないものを、撮影して戻ってくる事によりタイムスリップの証明とするのか」
トルーデ軍の地球破壊は、戦後の世界でいろいろな場所で検証された。そのためプラネットインテリゥムが発射された時、プラネットインテリゥム搭載艦が当時何処に居たのかもネットで調べれば簡単に分かる。それに1000年以上未来の技術で作られたカメラならば、双方の軍の探知範囲外からでもくっきりと撮影できる。
「それだけじゃないぞい。ここから千光年ほど離れた場所から、ここに向けて大出力のレーザー通信を送るんじゃ!過去から未来に向けての通信じゃぞ!ロマンあるじゃろ!」
「だが、その通信が途中何かで遮られる可能性があるが?」
「大丈夫じゃそれもちゃんとレーザーの進む進路には1000年間何も無い場所を選んでおるし、アンテナはリンデット宙域の外延にそれとなく設置してあるから問題無しじゃ!」
「では…」
その時、キッチンからクレハが会話に割り込んだ。
「まったく、タイムトラベルなんて出来るわけ無いじゃない」
クレハの言葉を聞くと、プロフェッサーがむくれる。
「ふん、近頃の若者はこれだから…。ネットにある世論を鵜呑みにして、知ったかぶりおって…。いいか?あのタイムトラベル不可能証明論文は、エネルギーの観点から過去へと行く事は不可能と証明しておる」
「確か、この世界にある全ての物質を調べた結果、過去に行くエネルギーは、存在しないと結論付けたのよね」
「そうじゃ。じゃが、あの論文には、ある物質の調査結果が抜けておる」
「ある物質って?」
「デルトニウムじゃ」
デルトニウムとは、この世界でもっとも危険で謎な物質と呼ばれている物だ。デルトリウムの来歴は不明。誰が何処で何時、どういう経緯で発見し調査したかが一切公表されていない謎の物質。何故ならデルトリウムを発見したのは、既にこの世界の存在しない国家地球連邦。
そのデルトニウムはプラネットインテリゥムの破壊力の源でもあった。
この正体不明な物質は、プラネットインテリゥムの破壊力の源という事は発表されていたが、それが一体どのような物質で、何処で採取又は作られているのかすら分からない。
だが、地球連邦が各植民国家の首脳陣を集めて公開した軍事演習時に、彼らの目の前で、プラネットインテリゥムを使用して惑星を一つ破壊して見せたのだ。
戦後各国は、投降した地球連邦軍から数機のプラネットインテリゥムを接収し、分解、デルトニウムが入っているとされていた容器を複数回収した。回収されたデルトニウムは容器ごと、それぞれの母国に持ち帰って各国が研究しようと持ち帰った。
結果作り出されたのは無数の屍の山だった。
何が起こったかは現在でも詳細は誰も知らない。分からない。だが、れっきとした事実だ。
ある国がデルトニウムを研究する為に宇宙空間に最新鋭の研究施設を作った。
研究施設が完成すると、さっそく接収されたデルトニウムが研究施設に搬入され、調査が開始された。
その数時間後、研究所とは一切の連絡は途絶えた。
研究所から連絡が一切取れなくなった事を不審に思った政府から軍に要請して調査部隊を編成、研究所へと送られた。その調査部隊が見た物は、惨憺たる有様になった研究所だった。
研究所にたどり着いた調査部隊が見たのは、完成して間もないはずの研究所が一切の光を発することなく、宇宙空間に浮かんでいる姿だった。通常宇宙に作られた建造物には、そこに建造物がある事を示す障害灯と呼ばれる常に明滅する電灯の設置が義務付けられている。
それが灯火されていないのだ。
障害灯は、解体廃棄処分される時を除き、常に灯火する事を義務付けられており。施設内の電力が全て使えなくなったとしても、専用の非常用電源で百年は灯り続ける事が可能とされている。
それが全て消えている。常識から考えてありえない事態だった。
ただ事では無いと強化外骨格を纏わせた兵士達を研究所へと送り込んだ。
研究所の機能は停止し、いたるところ亀裂が発生し、頑丈に作られていたはずの気密すら保たれていなかった。
そして、研究所の中へと入った兵士達は見た。
無残にひしゃげた死体。
一切の外傷も無くあっけにとられた様な表情の死体。
体が切り刻まれたような後のある死体
ミイラ化した遺体。
全身に穴が開き、自らの血の水球に囲まれた死体。
四肢が千切れた死体。
多種多様な死体が研究所内部を埋め尽くしていた。まるで人の死に方、殺し方の見本市のように…。厳しい訓練と実戦をを潜り抜けてきた隊員達が、思わず吐くほどの悲惨な光景。
調査から戻った隊員達も、その後の検査では何の以上も見られなかったのに、その後不可解な死を遂げた。
同様の事が、デルトニウムを研究しようとした各国で起きた。
酷い所では、地上に研究所を作ったが為に、その近くあった街丸ごとを巻き込んで全滅した事例すらあった。
あまりに危険な為に研究する事自体、地球を起源とする人類国家同士で結ばれる最初の条約によって禁止されている。不法に所持しているだけで重罪とされ、国によっては裁判も無しに即刻死刑になる国すらある。
「デルトニウム…確かそれは非常に危険な物質で、現在では所持はもちろん研究すら違法ではなかったか?」
そんな物が、この研究所にあるとは、非常に信じがたい。現在地球連邦から接収したデルトニウムには、それぞれ容器ごとナンバーが振られて厳重に管理されており、本来なら見ることすら難しいものだ。
「ふん。リスクを恐れて何が発展じゃ。ワシを学会から追放した連中から慰謝料代わりに貰ってきたんじゃ」
平然と、全世界で指名手配されても不思議ではない事をしたと言う。
「では、現在ミドロス連邦の所持しているデルトニウムは…」
「ワシの作った偽物を後生大事に金庫にしまっておろうよ!ひっひっひっ!」
その時の事を思い出したのか、あくどく笑う。
「その手足や顔もそれでやったのか?」
「これか?まぁな。この研究の代償と思えば安いもんじゃ」
顔にいつもつけているゴーグルを外すと、眼窩に穴の多く空いたコネクターが嵌まってた。嵌まっているコネクターは黄色で、クレハが見たら人間の眼窩に蜂の巣が出来ていると錯覚したかもしれない。外したゴーグルの内側を見れば、そのコネクター部に挿すオス端子が見える。ゴーグルをかぶれは針山のようなオス端子が、目にあるコネクターに突き刺さる仕組みだ。
「デルトニウムは、簡単に言えば空間の時間を暴走させる物質じゃ」
プロフェッサーは外したゴーグルを付け直しながら言う。
「暴走?」
「ああ、デルトニウムで有名な話に、色々な死に方があるって話は聞いておるじゃろ」
「知ってる」
「あれは、空間の時間の暴走に巻き込まれた結果じゃ。一番わかりやすいのはミイラ化じゃの、あれは、デルトニウムにより時間が暴走加速した空間に入ってしまって、時間が一気に進んだんじゃな」
「無傷の死体とか、切り裂かれた死体とかは?」
「無傷の方は、多分脳とか心臓とかの一部だけが小さな時間が暴走した空間に、取り込まれて、内外の時間に差が生じて切られたんじゃろう。切り裂かれたのは、厚みの無い板状になった空間にぶつかってヤツじゃろうな」
「詳しいな」
「おう、一通り経験したのからのう。いろんなと所がやられすぎて、ほとんどサイボーグじゃわい」
そういいながら、持ち上げた右手首から先を360度くるくるとまわしている。
「これはこれで便利なのじゃ。わしの研究は、タイムマシンと言っておったが、正確に言えばデルトニウムによる空間の時間の暴走の制御じゃな。タイムマシンは、その制御が成功したという証明の為の道具と言う訳じゃ」
「それなら、別の方法でも証明出来そうなものだが…」
「おぬしはロマンが無いのう。作れるなら作るじゃろ」
「作るべきか、作らないべきかは、考えなかったのか?」
「はっ。そんなのは、作れない奴等の戯言じゃな」
プロフェッサーの倫理観と言うものに期待してはいけないなとサスケは学習した。
「最後に、それは安全なのか?」
「安全に決まっておろう。何年わしが研究したと思っておるんじゃ。なんならデータを見せてもええぞ。おぬしはワシにとってもはや共同研究者の様なものじゃしな。それでも不安なら実験前に船を引き渡して。あの駆逐艦が直れさえすれば、実験は可能じゃからの」
「データを…」
「ほい」
端末を操ると、その途端にサスケの中に膨大な量のデータが、流れてくる。その中には、プロフェッサーが体を失っていく様子が極めて客観的に書かれていた。そして肝心のデルトニウムについての情報が制御方法も含めて余すところ無く書かれており、タイムマシンの設計図すらあった。
サスケがそれらの資料を黙って精査する。それをプロフェッサーは横でのんびりと待っている。キッチンでは、ミキサーが稼動して何かを砕いている音がする。
一時間ほどたってようやくサスケが、声を上げた。
「…わかった。これなら、大丈夫そうだな。実験は最後まで見届けさせてもらおう」
「ほぉ!ワシの論文を理解したか!本当にお前は何者だ?」
プロフェッサーの論文は、読んでもほとんどの科学者は理解できない。書いている事は正しいのだが、言い回しが難解だったり、ある程度察する能力が無いと理解できないのだ。天才科学者でよくある、自分がこれで理解できるのだから他の人が呼んでも理解できるだろうと思って書いているのだから仕方が無い。エリートと呼ばれる科学者達なら何とか読み取れる程度だ。
そんな論文が旧型のメンテナンスボットが理解できるという。驚きを通り越して笑うしかない。
「しがないメンテナンスボットだ」
「ふん。どうだかな」
クレハが料理の載ったトレーを持ってキッチンから現れた。
「は~い。食事の用意が出来ましたよ~」
トレーの上には、おいしそうな合成肉のカツレツに、ドレッシングの掛かったトマトとレタスのサラダ、それにこんがりと焼かれたパンにインスタントではないコーンポタージュ、それにカツレツに掛ける為のソースが乗っていた。
自身の前に料理が並ぶと、たまらん!と言った様子でナイフとフォークと持って、カツレツと対峙する。
揚げたてのカツレツの衣がさくさくと音をたてて切っていく。
クレハは、サスケ居る隣の席に座って、いただきますと呟くと、今日商人からおまけしてもらったソースを開ける。
「ねぇ。プロフェッサーは、実験が終わったらどうするの?プロフェッサーの目的は自分の理論が間違っていない事を証明なんでしょ?」
サスケ達の話を聞いていたのだろう。クレハがカツレツに、今日届いたソースを掛けながら聞いた。
「ん?そうじゃのう。成功しても失敗しても終わりじゃな。ワシも、もう年じゃし。ここを閉める。使い終わったデルトニウムを持って自首して学会の奴等顔が真っ青になるのを拝むのも良いじゃろうな…ククク」
プロフェッサーはソース無しのカツレツを一口味わうと、今度はソースにてを伸ばした。
蓋を開けて、ソースをカツレツにかけようとした時、上機嫌そうだったプロフェッサーの表情が変わる。
「チィ!アヤツやりおったな!!」
ソースを振り上げるとそのままテーブルの縁へと叩き付ける。その時には、ボトルの蓋をしていないせいで、ソースが食堂に派手に飛び散る。
「なに!?ちょっとどうしたのよ!」
いきなりの凶行に、クレハが立ち上がる。
「盗聴器じゃ!あやつ、このソースのボトルに超小型の盗聴器を仕掛けおった!」
「今の会話を聞かれたのか?」
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