フィジカル系令嬢が幸せを掴むまで~助けた年下王子からの溺愛~

ナカジマ

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第29話 兄と弟

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 オリバーとギリアム宰相が捕縛して来た第2王子ギルバートは、嫉妬心に濁った眼でオズワルドを睨んでいる。
 そんな眼で見られる理由が彼には分からず、ただ困惑するばかりだ。オズワルドの方にはギルバートに恨まれる心当たりなど無い。

 王座を狙う争いからも退いたと言うのに、何がこの兄は気に入らないのだろうと頭を悩ませる。
 とりあえずは騒動が一旦は落ち着いたので、今はオズワルドが使っていた王族用の控室に関係者だけが集められていた。

「ギルバート、貴方は何て事をしたのです」

「僕は自由を願っただけだ!!」

「そうです! 息子が自由を望んで何が悪いと言うの!?」

 ギルバートを糾弾しているのは、鮮やかな金髪もつ美しい女性。彼女はこの国の王妃であるエメラダ・レアル・ファルガスだ。
 第1王子アランの母親であり、40歳になったばかりの彼女はここ最近国王の代わりを務めている。

 その重責と今回騒動により、疲労感を滲ませている。そんな彼女に反発しているのは第2王子のギルバートと、その母親である側室のミレーナ・レアル・ファルガスだ。
 彼女はギルバートと同じ茶髪に緑色の眼を持つ女性である。この母親だからギルバートもそうなのか、両者共に神経質そうな表情をしている。

 そんな2人は王座を狙って様々な裏工作をして来た。その内の1つが王族への暗殺計画であり、今回の様な形で明るみに出たのは大問題だ。

「死者は出なかったとは言え、これ程の騒動になった以上はそんな簡単な話では済みません」

「また貴女はそうやって! 王妃だからと偉そうに!」

 王妃と側室の確執は、今に始まった事では無かった。公爵家の姫であったエメラダに対し、子爵家の生まれであるミレーナが嫉妬心と対抗心を燃やし続けて来た。
 それは婚約者であった頃からずっと続いている根が深い問題だ。エメラダの方に悪意はないのだが、なまじ姫として育って来た為にミレーナの辛さや嫉妬心が理解出来ない。

 それがまたミレーナを刺激してしまい、こうしてずっと拗れたままである。
 同じ女性としてエストリアの母ソフィアが仲を取り持とうとした事もあったが、結局上手くはいかなかった。
 そんな様々な事情を知っているギリアム宰相が、2人の間に割って入る。

「今回の件は王族の殺人未遂です。法律上は国家反逆罪に問われても文句は言えません」

「この子が悪いと言うの!?」

 少しでも権威を得る為に、息子の婚約者を決めた癖にとギルバートは内心で思っている。
 結局この親子は、自分の欲の為に家族を利用して来ただけに過ぎない。
 そこに親子としての情は無く、ミレーナが拘っているのは第2王子の母と言う地位だけだ。

 ここでギルバートが罪に問われてしまえば、息子は最低でも離宮行きが確定であり到底受け入れられない。
 何とかしてここで、息子の地位を守らねばとミレーナは必死だ。その姿はあまりにも痛々しい。
 だがギルバートはギルバートで、エストリアを得る為に母親を利用して来た。結局はお互い様でしかない。
 そんな2人を見て、思わずオズワルドは兄に問いかけた。

「兄上、何故そこまで俺を狙うのです? 王座に興味はないとあれだけ言って来たでしょう?」

「何故、だと?」

「争う理由が俺達の間には無いではありませんか」

「…………お前がぁ!! 僕からエストリアを奪ったからだろうがっ!!」

 イライラと感情的になったギルバートが、オズワルドを狙った理由を話し始める。昔会った時からずっと彼女が好きだったのだと。
 けれども婚約者を自由に選ぶ事が許されなかった。それでもずっと想い続けていた事。その自由を得る為に、今日まで王位を狙い続けて来た事。

 それは1人の王子が抱え続けて来た悩みであり、正当性がある様にも聞こえなくもない。根底にあるのは恋心であり、純粋な愛にも見えなくはない。
 しかしそんな主張は、オズワルドにしてみれば身勝手の極みでしかない。エストリアの事を何も考えていない独り相撲だ。

「だったら兄上は、何故オーレルム領に行かなかったのです? エストリアがどんな未来を望むか、知ろうともしなかったのですか?」

「僕が王になれば王妃だぞ? この国で一番偉い女性になれるじゃないか」

「そんな地位など、彼女は望まない。兄上は何も分かっていない」

 オズワルドがこれまで見て来たエストリアという女性は、高い地位を望む様な人物ではない。王妃になれるならと、喜んで結婚したりはしない。
 彼女が望むのは、領民達との温かい日常だ。王都で暮らしている令嬢達と比べたら、華やかさなんて全くない。
 手を土で汚しながらも、民達と共に生きる日々を望んでいる。

 豪華絢爛なパーティーなど一切無いが、その代わりに美しい大自然に囲まれて生きている。
 そんなエストリアが望む未来を、共に生きたいと思ったからオズワルドは彼女と婚約を決めたのだ。

「ふ、ははは! まだ頭の中は子供なのかお前は? 女性は華やかな生活が好きなのだ。お前の子供の夢みたいな生活なんて、喜ぶとでも思っているのか?」

 ギルバートはオズワルドの夢を子供っぽい理想だと嘲る。その姿を見たエストリアは、ツカツカとギルバートに歩み寄ると、その掌でギルバートの頬を張った。
 そこそこに怒っていたエストリアは、あまり手加減をしなかった。王都にいる令嬢達と平手打ちと違い、エストリアの一撃は重く鋭い。

 結構な大きい音を発した平手打ちの衝撃で、ギルバートは後ろに倒れ込んだ。
 幾ら問題を起こした王子であるとは言え、容赦のない一撃にその場に居た全員が固まる。
 そんな周囲の状況など気にせず、エストリアは続ける。

「貴方の弟でしょう? 命を狙ったばかりか、その夢を笑うなど子供はどちらですか?」

「な、え? エストリア……何故……」

「好意を抱いて頂いた事には感謝します。ですが私は、貴女の様な方とは結婚致しません」

 それ以降すっかり大人しくなったギルバートは、粛々と罰を受ける事を受け入れた。
 ミレーナはまだ騒いでいたが、決定は覆る事はなくギルバート離宮行きが決定した。
 そんな兄の背中を、オズワルドは複雑な気分で見つめていた。

 同じ女性を好きになったのは、血の繋がりを感じさせるには十分だったから。
 もっと違う未来もあったのではないか、そんな感傷に浸りながらもオズワルドは踵を返しエストリアの下へと戻った。
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