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第1章 最凶の女王が生まれた日
第2話 聖女と魔女
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アニス王国が存在する大陸は、ハルワート大陸と呼ばれている。複数の国々が存在し、そこでは人間やドワーフにエルフといった種族が、主に人族と呼ばれている。
そしてそんな人族と永年にわたり、小競り合いを続けているのが魔族と呼ばれる種族だ。かなりの広さを誇るハルワート大陸を、おおよそ半分に割る形で人族と魔族の生息圏が存在している。
その境にあるアニス王国は、魔族領と国境が隣接している国々のうち、最も過酷な地域である。
大陸の北側に位置する為、冬季は厳しい環境に置かれ、国の西側にある魔族領との境には、大陸屈指の危険な地域がある。
そのため昔から武勇と名声を求める多くの傭兵達が、集まる土地として繁栄してきた。その関係で気性の荒い者も少なくはなく、国家の運営は多忙の一言に尽きる。
この日もイリアは政務を行っていた。朝から会議に、昼から城下町の査察。午後の謁見では、来訪者を迎え入れる。
そんな中で、イリアとこの大陸全土にとって、特別な相手が謁見の間へ姿を現した。光の女神サフィラに認められた聖女、ミア・オルソン。
短く切りそろえた金色の髪に、健康的な美しさと可愛らしさを持つ女性だ。平民の生まれながらも、その清き心を評価された彼女は、幼い頃に女神の神託を受け聖女となった。
それから彼女は聖女としての活動を始め、今では全ての人族が住まう国々で、聖女として知られている。そして敵対する魔族にとっては、最大級に厄介な人間の一人でもある。
回復魔法と支援魔法に長けた彼女が、1人戦場に出るだけで人族側の戦力が急激に上昇するからだ。
彼女は魔族に休戦協定を結ばせた人間の一人として知られており、人族側はもちろん魔族側からも一目置かれている。
では他に誰が休戦協定を結ばせる原因になったかと言えば、聖女とは真逆で邪神の加護を得た女王、魔女と恐れられるイリアであった。
「あら、ミア。今日は何の用かしら?」
裁判の際は苛烈さを見せていたイリアだが、ミアに対しては同一人物か疑う程に、柔らかな表情を見せている。
「イリア様、もう少し民に優しくしては頂けませんか?」
「それは価値観の違いでしかないのではなくて?」
心優しいミアにしてみれば、イリアの行いは苛烈の一言に尽きる。強き者も弱き者も等しく挫くその姿勢、気に入らないという理由で簡単に処罰する在り方が、ミアには酷く厳しいように見える。
他人にも自分にも厳しいイリアと、誰にでも優しい聖女ミアは、何もかもが真逆だ。そんなイリアとて、何も全てを気分で決めているわけではない。
全ては愛する邪神と共に在り続ける為。だからこそ、悪としての矜持にこだわりを持っている。
邪神と恐れられる存在と共に居るのが、ただのつまらない小悪党では全く釣り合わない。
故にイリアは弱者をいたぶるような行為や、無意味に残虐非道な殺戮を行う事を良しとしていない。
「弱者の地位に甘んじさせる事が、本当に優しいと言えるのかしら?」
「それは……」
ミアも強さや力が必要な事を理解している。理想だけで世界が成立するような、甘いものではないと知っている。
「私は自分の生きて来た経験から、全てを決めているだけですわ」
「……人は皆、貴女ほど強くは在れませんよ」
どちらの言い分にも正しさはある。結局この世界では、弱者のままでいれば未来はないという イリアの意見。
それは分かっていても、全員が強者にはなれないというミアの意見。どちらも正解であり、間違いでもある。
正論が必ずしも全員を救うとは限らなくても、正論が正しくある事に変わりはない。答えの出ない平行線、交わる事のない在り方。
それでもイリアは、ミアを心から友人として想っている。お互いに神から選ばれた者として、その領域に至らねば分からない価値観を、唯一共有出来る相手。
一見すればイリアが否定的な意見をぶつけているだけでも、実際には楽しんでいる。ミアとの意見交換の時間を。
「貴女の言い分も分からなくはありません。しかしその考え方では、我が国はやっていけないのです」
「どうしても、方針は変えられませんか?」
ミアとイリアは知り合ってそれなりの年数が経っている。お互いの考え方、性格をよく熟知しているのだ。
「えぇ。幾ら貴女の頼みでも、それは出来ませんわね」
「はぁ……ならせめて、容赦なく追放するのではなく、私の所へ送って下さい」
ミアにとっても、イリアは特別な存在であった。ミアには決して出来ない決断を、あっさりとやってのける存在。どこまでも現実主義な在り方。
理想だけではやっていけないと分かっていても、どうしても追い求めてしまう自分が居る。
そんな自分を全否定するのではなく、あくまでもスタンスの違いでしかないと考えるイリア。それがミアにはありがたかった。
自分は本当に正しい事をしているのだろうか? そう考えるきっかけをくれるのは、いつもイリアだった。
聖女と言うだけで妄信する事もなく、かと言って全否定もしない。決して同じ道を歩めはしなくとも、どこかでシンパシーを感じている。
「ミア、今度またお茶会をしましょうね」
「構いませんが、高級品は要りませんよ?」
わざわざ言うまでもない事だが、一応念押しをしておくミア。たまにイリアは他国から送られてきた、高級品を無意識に出すときがあるから。
「えぇ、もちろんですわ。私も無駄遣いに興味はありませんから」
光の女神に認められた聖女ミアと、邪神に愛されし暴君イリアの面会はこれにて終了。しかし2人の間で、確実に友情は育まれていた。
お互いにとって最も仲がよい友人は誰かと問われたら、イリアはミアと答えるしその逆も同じだった。
魔女と恐れられるイリアと、聖女と呼ばれるミアの関係は、2人にしか分からない特別な感情で育まれていた。
そしてそんな人族と永年にわたり、小競り合いを続けているのが魔族と呼ばれる種族だ。かなりの広さを誇るハルワート大陸を、おおよそ半分に割る形で人族と魔族の生息圏が存在している。
その境にあるアニス王国は、魔族領と国境が隣接している国々のうち、最も過酷な地域である。
大陸の北側に位置する為、冬季は厳しい環境に置かれ、国の西側にある魔族領との境には、大陸屈指の危険な地域がある。
そのため昔から武勇と名声を求める多くの傭兵達が、集まる土地として繁栄してきた。その関係で気性の荒い者も少なくはなく、国家の運営は多忙の一言に尽きる。
この日もイリアは政務を行っていた。朝から会議に、昼から城下町の査察。午後の謁見では、来訪者を迎え入れる。
そんな中で、イリアとこの大陸全土にとって、特別な相手が謁見の間へ姿を現した。光の女神サフィラに認められた聖女、ミア・オルソン。
短く切りそろえた金色の髪に、健康的な美しさと可愛らしさを持つ女性だ。平民の生まれながらも、その清き心を評価された彼女は、幼い頃に女神の神託を受け聖女となった。
それから彼女は聖女としての活動を始め、今では全ての人族が住まう国々で、聖女として知られている。そして敵対する魔族にとっては、最大級に厄介な人間の一人でもある。
回復魔法と支援魔法に長けた彼女が、1人戦場に出るだけで人族側の戦力が急激に上昇するからだ。
彼女は魔族に休戦協定を結ばせた人間の一人として知られており、人族側はもちろん魔族側からも一目置かれている。
では他に誰が休戦協定を結ばせる原因になったかと言えば、聖女とは真逆で邪神の加護を得た女王、魔女と恐れられるイリアであった。
「あら、ミア。今日は何の用かしら?」
裁判の際は苛烈さを見せていたイリアだが、ミアに対しては同一人物か疑う程に、柔らかな表情を見せている。
「イリア様、もう少し民に優しくしては頂けませんか?」
「それは価値観の違いでしかないのではなくて?」
心優しいミアにしてみれば、イリアの行いは苛烈の一言に尽きる。強き者も弱き者も等しく挫くその姿勢、気に入らないという理由で簡単に処罰する在り方が、ミアには酷く厳しいように見える。
他人にも自分にも厳しいイリアと、誰にでも優しい聖女ミアは、何もかもが真逆だ。そんなイリアとて、何も全てを気分で決めているわけではない。
全ては愛する邪神と共に在り続ける為。だからこそ、悪としての矜持にこだわりを持っている。
邪神と恐れられる存在と共に居るのが、ただのつまらない小悪党では全く釣り合わない。
故にイリアは弱者をいたぶるような行為や、無意味に残虐非道な殺戮を行う事を良しとしていない。
「弱者の地位に甘んじさせる事が、本当に優しいと言えるのかしら?」
「それは……」
ミアも強さや力が必要な事を理解している。理想だけで世界が成立するような、甘いものではないと知っている。
「私は自分の生きて来た経験から、全てを決めているだけですわ」
「……人は皆、貴女ほど強くは在れませんよ」
どちらの言い分にも正しさはある。結局この世界では、弱者のままでいれば未来はないという イリアの意見。
それは分かっていても、全員が強者にはなれないというミアの意見。どちらも正解であり、間違いでもある。
正論が必ずしも全員を救うとは限らなくても、正論が正しくある事に変わりはない。答えの出ない平行線、交わる事のない在り方。
それでもイリアは、ミアを心から友人として想っている。お互いに神から選ばれた者として、その領域に至らねば分からない価値観を、唯一共有出来る相手。
一見すればイリアが否定的な意見をぶつけているだけでも、実際には楽しんでいる。ミアとの意見交換の時間を。
「貴女の言い分も分からなくはありません。しかしその考え方では、我が国はやっていけないのです」
「どうしても、方針は変えられませんか?」
ミアとイリアは知り合ってそれなりの年数が経っている。お互いの考え方、性格をよく熟知しているのだ。
「えぇ。幾ら貴女の頼みでも、それは出来ませんわね」
「はぁ……ならせめて、容赦なく追放するのではなく、私の所へ送って下さい」
ミアにとっても、イリアは特別な存在であった。ミアには決して出来ない決断を、あっさりとやってのける存在。どこまでも現実主義な在り方。
理想だけではやっていけないと分かっていても、どうしても追い求めてしまう自分が居る。
そんな自分を全否定するのではなく、あくまでもスタンスの違いでしかないと考えるイリア。それがミアにはありがたかった。
自分は本当に正しい事をしているのだろうか? そう考えるきっかけをくれるのは、いつもイリアだった。
聖女と言うだけで妄信する事もなく、かと言って全否定もしない。決して同じ道を歩めはしなくとも、どこかでシンパシーを感じている。
「ミア、今度またお茶会をしましょうね」
「構いませんが、高級品は要りませんよ?」
わざわざ言うまでもない事だが、一応念押しをしておくミア。たまにイリアは他国から送られてきた、高級品を無意識に出すときがあるから。
「えぇ、もちろんですわ。私も無駄遣いに興味はありませんから」
光の女神に認められた聖女ミアと、邪神に愛されし暴君イリアの面会はこれにて終了。しかし2人の間で、確実に友情は育まれていた。
お互いにとって最も仲がよい友人は誰かと問われたら、イリアはミアと答えるしその逆も同じだった。
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