華麗なる暴君~最凶女王の軌跡~【改稿版】

ナカジマ

文字の大きさ
2 / 47
第1章 最凶の女王が生まれた日

第2話 聖女と魔女

しおりを挟む
 アニス王国が存在する大陸は、ハルワート大陸と呼ばれている。複数の国々が存在し、そこでは人間やドワーフにエルフといった種族が、主に人族と呼ばれている。
 そしてそんな人族と永年にわたり、小競り合いを続けているのが魔族と呼ばれる種族だ。かなりの広さを誇るハルワート大陸を、おおよそ半分に割る形で人族と魔族の生息圏が存在している。
 その境にあるアニス王国は、魔族領と国境が隣接している国々のうち、最も過酷な地域である。
 大陸の北側に位置する為、冬季は厳しい環境に置かれ、国の西側にある魔族領との境には、大陸屈指の危険な地域がある。

 そのため昔から武勇と名声を求める多くの傭兵達が、集まる土地として繁栄してきた。その関係で気性の荒い者も少なくはなく、国家の運営は多忙の一言に尽きる。
 この日もイリアは政務を行っていた。朝から会議に、昼から城下町の査察。午後の謁見では、来訪者を迎え入れる。
 そんな中で、イリアとこの大陸全土にとって、特別な相手が謁見の間へ姿を現した。光の女神サフィラに認められた聖女、ミア・オルソン。
 短く切りそろえた金色の髪に、健康的な美しさと可愛らしさを持つ女性だ。平民の生まれながらも、その清き心を評価された彼女は、幼い頃に女神の神託を受け聖女となった。

 それから彼女は聖女としての活動を始め、今では全ての人族が住まう国々で、聖女として知られている。そして敵対する魔族にとっては、最大級に厄介な人間の一人でもある。
 回復魔法と支援魔法に長けた彼女が、1人戦場に出るだけで人族側の戦力が急激に上昇するからだ。
 彼女は魔族に休戦協定を結ばせた人間の一人として知られており、人族側はもちろん魔族側からも一目置かれている。
 では他に誰が休戦協定を結ばせる原因になったかと言えば、聖女とは真逆で邪神の加護を得た女王、魔女と恐れられるイリアであった。

「あら、ミア。今日は何の用かしら?」

 裁判の際は苛烈さを見せていたイリアだが、ミアに対しては同一人物か疑う程に、柔らかな表情を見せている。

「イリア様、もう少し民に優しくしては頂けませんか?」

「それは価値観の違いでしかないのではなくて?」

 心優しいミアにしてみれば、イリアの行いは苛烈の一言に尽きる。強き者も弱き者も等しく挫くその姿勢、気に入らないという理由で簡単に処罰する在り方が、ミアには酷く厳しいように見える。
 他人にも自分にも厳しいイリアと、誰にでも優しい聖女ミアは、何もかもが真逆だ。そんなイリアとて、何も全てを気分で決めているわけではない。
 全ては愛する邪神と共に在り続ける為。だからこそ、悪としての矜持にこだわりを持っている。
 邪神と恐れられる存在と共に居るのが、ただのつまらない小悪党では全く釣り合わない。
 故にイリアは弱者をいたぶるような行為や、無意味に残虐非道な殺戮を行う事を良しとしていない。

「弱者の地位に甘んじさせる事が、本当に優しいと言えるのかしら?」

「それは……」

 ミアも強さや力が必要な事を理解している。理想だけで世界が成立するような、甘いものではないと知っている。

わたくしは自分の生きて来た経験から、全てを決めているだけですわ」

「……人は皆、貴女ほど強くは在れませんよ」

 どちらの言い分にも正しさはある。結局この世界では、弱者のままでいれば未来はないという イリアの意見。
 それは分かっていても、全員が強者にはなれないというミアの意見。どちらも正解であり、間違いでもある。
 正論が必ずしも全員を救うとは限らなくても、正論が正しくある事に変わりはない。答えの出ない平行線、交わる事のない在り方。
 それでもイリアは、ミアを心から友人として想っている。お互いに神から選ばれた者として、その領域に至らねば分からない価値観を、唯一共有出来る相手。
 一見すればイリアが否定的な意見をぶつけているだけでも、実際には楽しんでいる。ミアとの意見交換の時間を。

「貴女の言い分も分からなくはありません。しかしその考え方では、我が国はやっていけないのです」

「どうしても、方針は変えられませんか?」

 ミアとイリアは知り合ってそれなりの年数が経っている。お互いの考え方、性格をよく熟知しているのだ。

「えぇ。幾ら貴女の頼みでも、それは出来ませんわね」

「はぁ……ならせめて、容赦なく追放するのではなく、私の所へ送って下さい」

 ミアにとっても、イリアは特別な存在であった。ミアには決して出来ない決断を、あっさりとやってのける存在。どこまでも現実主義な在り方。
 理想だけではやっていけないと分かっていても、どうしても追い求めてしまう自分が居る。
 そんな自分を全否定するのではなく、あくまでもスタンスの違いでしかないと考えるイリア。それがミアにはありがたかった。
 自分は本当に正しい事をしているのだろうか? そう考えるきっかけをくれるのは、いつもイリアだった。
 聖女と言うだけで妄信する事もなく、かと言って全否定もしない。決して同じ道を歩めはしなくとも、どこかでシンパシーを感じている。

「ミア、今度またお茶会をしましょうね」

「構いませんが、高級品は要りませんよ?」

 わざわざ言うまでもない事だが、一応念押しをしておくミア。たまにイリアは他国から送られてきた、高級品を無意識に出すときがあるから。

「えぇ、もちろんですわ。私も無駄遣いに興味はありませんから」

 光の女神に認められた聖女ミアと、邪神に愛されし暴君イリアの面会はこれにて終了。しかし2人の間で、確実に友情は育まれていた。
 お互いにとって最も仲がよい友人は誰かと問われたら、イリアはミアと答えるしその逆も同じだった。
 魔女と恐れられるイリアと、聖女と呼ばれるミアの関係は、2人にしか分からない特別な感情で育まれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

女性が少ない世界でVTuberやります!

dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉ なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。 ※忘れてなければ毎週火曜・金曜日の夜に投稿予定。作者ブル

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...