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第1章 最凶の女王が生まれた日
第7話 不思議な共同生活
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「ふぅん、案外悪くないね」
不健康そうな白い肌の男性が、木皿に盛り付けられたスープを口にしている。
「嫌なら食べなくても結構ですわよ?」
「嫌とは言ってないだろう? ありがたく頂くとも」
古の邪神に捨てられた公爵令嬢と言う、不思議な組み合わせでの共同生活が始まって数週間が経過していた。
イリアはアルベールの目的が分からず常に疑っているし、アルベールは特に何も事情を話すことはない。
現状イリアに分かる事は、アルベールの失われた力が回復するまで、一緒に居ると言う事だけ。
そんな状態で仲が良くなるはずもなく、共同生活をしていても関係性に変化はない。ただイリアにとって意外だったのは、アルベールが意外にも紳士的だと言う事。
着替えや水浴びの際は気を遣って居なくなり、家事に関しても協力的だった。ゴミを処分してくれる邪神の絵面に、これでも本当に邪神なのかと、イリアはこめかみを押さえる羽目にはなったが。
そうなるとイリアとしても、あまり邪険にする事が出来なかった。自分だけ料理を食べて、アルベールの分は用意しない。
なんて子供じみた真似をするのは、イリアのプライドが許さなかった。だからこうして、毎日アルベールの分の食事をイリアが用意している。
回復したイリアがあの日襲ってきたドラゴンにリベンジし、大量の肉を入手したので余裕があるというのもある。
大陸の北に位置するアニス王国の、更に北にある魔の森は気温がそう高くない。適当な洞窟に運び込んで、氷の魔法で凍らせれば暫くの間は傷まない。
何より成体のドラゴンは体が大きく、採れる肉はかなり多い。1人の少女と成人男性1人分相当の消費で、全て無くなるまでどれだけの時間が掛かる事か。
サバイバル生活とは言え、そんな事情もあってアルベールを居候させても問題は無かった。
「いつまで居るつもりなのです?」
「さぁ? 特に決めてないからね」
ひょうひょうとした態度を崩さないアルベールを見て、イリアは眉をひそめる。良く分からない男だと、イリアは内心で思っていた。
「……はぁ。私の邪魔だけはしないで下さいね」
見た目だけなら若い男性ではあっても、正確には男神であり人間ではない。その意識があるからか、イリアとしてもあまり異性という認識はしていない。
これが20歳の男性であったなら、イリアとて流石にお断りだ。身の危険も当然感じる。しかし犬や猫のオスが一緒に居ても、特別気にはならない。
傍目から見れば見目麗しい少女と、20歳ぐらいの若い美男子の生活に見える。しかし実際にはそんな甘い関係性はなく、本当にただの同居人でしかなかった。
一見華があるようで全くない、不思議な生活が続いていた。
「大体なぜ私の側なんですの? 意味が分かりませんわ」
悪意のようなものを好むというなら、別に自分だけでなくても良いはず。なのにどうしてだと、イリアは疑問に思っている。
「ん~~君の悪感情が実に心地よいと言うか、馴染むんだよね。どうしてだろう?」
「私に分かる筈ないでしょう」
イリアの側に居たがるアルベールの意図は、これと言って特に無いらしい。ちょっと気になった景色を見ているだけ、そんな程度の細やかな意味しかない。
家事の一部を分担してもらえるだけまだ良いか、と言うのがイリアの素直な感想だ。正直1人で全部やるのは少々面倒であった為に、助かっている面も些かあった。
増えた手間は食事が2人分になったぐらいで、減った手間に比べれば些細な事だ。それに9年間も孤独だったイリアにとって、話し相手が出来たのも大きい。
好ましい相手とは言えなくとも、誰も周りに居ない生活とは全然違うのだから。その点については、イリアも密かに感謝していた。
正直誰かに話したかったのだ、自分の置かれた現状について。文句の1つぐらいは愚痴を言いたかった。
「普通子供を森に捨てますか!?」
「わりとやるみたいだね。酷い話だよ」
だからたまにこうして、ずっと抱えていた不満をアルベールの前で溢す事も出来る。最近イリアがちょくちょく行っている定番の愚痴。
「邪神でも酷いなんて思うのですね?」
「そりゃあそうさ。邪悪だからこそ、酷い事には詳しいんだよ?」
互いに依存する訳でもなく、かと言って冷え切った関係でもない。何とも不思議な2人の生活は続いていく。
イリアが狩りに行く際はアルベールもついて行くし、鍛錬となれば稽古の相手をアルベールが務める。
最初こそ殺される事を警戒していたイリアだったが、アルベールが全くその素ぶりを見せないので慣れが生まれていた。
彼の放つ強大な圧力も、人とは思えぬ美しい見た目にも。これまでの人生で、イリアを気味悪がったりしない初めての相手でもある。
それぐらいの事で、情を持つ程にイリアも甘くはないが、ある意味では特別な存在だった。
人ではないからこそ、余計な気遣いが必要ない事も、イリアにとってはプラスに働いた。決して油断してはならないが、どこか気安く接する事が出来る。
そんな不思議な立ち位置にアルベールは落ち着いていく。邪神アルベールは、イリアに出来た初めての友人と言えた。
「ねぇイリア、この魔の森に関する論文だけど」
「ああ、成長に関する話ですわよね? 私も影響を受けたので真実ですわよ」
たまにこうして、アルベールと魔術や魔の森に関する意見交換も行う。良い意味で、イリアの知的好奇心を刺激する。
「いやそうじゃなくてね。この魔素と思われているのは、封印から漏れ出た私の力だよ」
「はぁっ!? な、なんですって!?」
賢者と呼ばれた女性の研究では、魔素が濃い事で魔物が強くなるとされていた。しかし実際には、封印から溢れ出た邪神アルベールの力が根源だったらしい。
簡単に言ってしまえば、魔の森に生息する魔物はアルベールの下僕の様なものだと言う事らしい。
そしてそれはイリアも同じ状態にあると言う事で、知らず知らずの内にイリアも邪神の力をその身に宿していた事になる。
「なんて事してくれますの!?」
「それは君の先祖に言ってくれないかな? 好きでここに封印されたんじゃないよ」
「あぁもう、私の人生ってどうなっていますのよ……」
せっかく強くなれたと思えば予想外の展開に頭を抱えるイリア。最初こそは嘆いていたが、もういっその事邪神の眷属でも何でも良いかと諦めの境地に至っていった。
目的である復讐さえ達成出来れば、今更人生がどうだと気にするだけ無意味だとイリアは結論を出した。
不健康そうな白い肌の男性が、木皿に盛り付けられたスープを口にしている。
「嫌なら食べなくても結構ですわよ?」
「嫌とは言ってないだろう? ありがたく頂くとも」
古の邪神に捨てられた公爵令嬢と言う、不思議な組み合わせでの共同生活が始まって数週間が経過していた。
イリアはアルベールの目的が分からず常に疑っているし、アルベールは特に何も事情を話すことはない。
現状イリアに分かる事は、アルベールの失われた力が回復するまで、一緒に居ると言う事だけ。
そんな状態で仲が良くなるはずもなく、共同生活をしていても関係性に変化はない。ただイリアにとって意外だったのは、アルベールが意外にも紳士的だと言う事。
着替えや水浴びの際は気を遣って居なくなり、家事に関しても協力的だった。ゴミを処分してくれる邪神の絵面に、これでも本当に邪神なのかと、イリアはこめかみを押さえる羽目にはなったが。
そうなるとイリアとしても、あまり邪険にする事が出来なかった。自分だけ料理を食べて、アルベールの分は用意しない。
なんて子供じみた真似をするのは、イリアのプライドが許さなかった。だからこうして、毎日アルベールの分の食事をイリアが用意している。
回復したイリアがあの日襲ってきたドラゴンにリベンジし、大量の肉を入手したので余裕があるというのもある。
大陸の北に位置するアニス王国の、更に北にある魔の森は気温がそう高くない。適当な洞窟に運び込んで、氷の魔法で凍らせれば暫くの間は傷まない。
何より成体のドラゴンは体が大きく、採れる肉はかなり多い。1人の少女と成人男性1人分相当の消費で、全て無くなるまでどれだけの時間が掛かる事か。
サバイバル生活とは言え、そんな事情もあってアルベールを居候させても問題は無かった。
「いつまで居るつもりなのです?」
「さぁ? 特に決めてないからね」
ひょうひょうとした態度を崩さないアルベールを見て、イリアは眉をひそめる。良く分からない男だと、イリアは内心で思っていた。
「……はぁ。私の邪魔だけはしないで下さいね」
見た目だけなら若い男性ではあっても、正確には男神であり人間ではない。その意識があるからか、イリアとしてもあまり異性という認識はしていない。
これが20歳の男性であったなら、イリアとて流石にお断りだ。身の危険も当然感じる。しかし犬や猫のオスが一緒に居ても、特別気にはならない。
傍目から見れば見目麗しい少女と、20歳ぐらいの若い美男子の生活に見える。しかし実際にはそんな甘い関係性はなく、本当にただの同居人でしかなかった。
一見華があるようで全くない、不思議な生活が続いていた。
「大体なぜ私の側なんですの? 意味が分かりませんわ」
悪意のようなものを好むというなら、別に自分だけでなくても良いはず。なのにどうしてだと、イリアは疑問に思っている。
「ん~~君の悪感情が実に心地よいと言うか、馴染むんだよね。どうしてだろう?」
「私に分かる筈ないでしょう」
イリアの側に居たがるアルベールの意図は、これと言って特に無いらしい。ちょっと気になった景色を見ているだけ、そんな程度の細やかな意味しかない。
家事の一部を分担してもらえるだけまだ良いか、と言うのがイリアの素直な感想だ。正直1人で全部やるのは少々面倒であった為に、助かっている面も些かあった。
増えた手間は食事が2人分になったぐらいで、減った手間に比べれば些細な事だ。それに9年間も孤独だったイリアにとって、話し相手が出来たのも大きい。
好ましい相手とは言えなくとも、誰も周りに居ない生活とは全然違うのだから。その点については、イリアも密かに感謝していた。
正直誰かに話したかったのだ、自分の置かれた現状について。文句の1つぐらいは愚痴を言いたかった。
「普通子供を森に捨てますか!?」
「わりとやるみたいだね。酷い話だよ」
だからたまにこうして、ずっと抱えていた不満をアルベールの前で溢す事も出来る。最近イリアがちょくちょく行っている定番の愚痴。
「邪神でも酷いなんて思うのですね?」
「そりゃあそうさ。邪悪だからこそ、酷い事には詳しいんだよ?」
互いに依存する訳でもなく、かと言って冷え切った関係でもない。何とも不思議な2人の生活は続いていく。
イリアが狩りに行く際はアルベールもついて行くし、鍛錬となれば稽古の相手をアルベールが務める。
最初こそ殺される事を警戒していたイリアだったが、アルベールが全くその素ぶりを見せないので慣れが生まれていた。
彼の放つ強大な圧力も、人とは思えぬ美しい見た目にも。これまでの人生で、イリアを気味悪がったりしない初めての相手でもある。
それぐらいの事で、情を持つ程にイリアも甘くはないが、ある意味では特別な存在だった。
人ではないからこそ、余計な気遣いが必要ない事も、イリアにとってはプラスに働いた。決して油断してはならないが、どこか気安く接する事が出来る。
そんな不思議な立ち位置にアルベールは落ち着いていく。邪神アルベールは、イリアに出来た初めての友人と言えた。
「ねぇイリア、この魔の森に関する論文だけど」
「ああ、成長に関する話ですわよね? 私も影響を受けたので真実ですわよ」
たまにこうして、アルベールと魔術や魔の森に関する意見交換も行う。良い意味で、イリアの知的好奇心を刺激する。
「いやそうじゃなくてね。この魔素と思われているのは、封印から漏れ出た私の力だよ」
「はぁっ!? な、なんですって!?」
賢者と呼ばれた女性の研究では、魔素が濃い事で魔物が強くなるとされていた。しかし実際には、封印から溢れ出た邪神アルベールの力が根源だったらしい。
簡単に言ってしまえば、魔の森に生息する魔物はアルベールの下僕の様なものだと言う事らしい。
そしてそれはイリアも同じ状態にあると言う事で、知らず知らずの内にイリアも邪神の力をその身に宿していた事になる。
「なんて事してくれますの!?」
「それは君の先祖に言ってくれないかな? 好きでここに封印されたんじゃないよ」
「あぁもう、私の人生ってどうなっていますのよ……」
せっかく強くなれたと思えば予想外の展開に頭を抱えるイリア。最初こそは嘆いていたが、もういっその事邪神の眷属でも何でも良いかと諦めの境地に至っていった。
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