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第1章 最凶の女王が生まれた日
第19話 優しい時間 (イリア視点)
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邪神と共同生活をするという謎の関係も、1年近くも続けているとそう悪くない気もして来ました。
古の知識や遥か昔の歴史について、色々と教えてもらえるのは非常に大きな収穫と言えます。私にとって、良い勉強になります。
今となっては自宅のように使っているロッジには、沢山の書物がありますが数に限りがあります。
魔導具の映像についても、他の国についてはあまり数がありませんでした。特に大きいのは、既に失われた大昔の魔法について。
過去の秘術どころでは済まない、素晴らしい技術も沢山あります。まだ魔道具が世に無かった頃の魔法も、参考になる部分が多々あります。
「アル、上手く行きませんわよ? やり方が悪いのかしら?」
結局私は、彼をアルと呼ぶようになりました。彼がまだ人間だった頃、親しい方からはそう呼ばれていたからだと言われて。
「もう一度やってみせて…………魔力を込め過ぎだね。もっと少なくて良い」
「これぐらい、ですか?」
今は5千年前に使われていた魔法を教わっております。現在の詠唱する魔法とは違い、肉体の動作で魔法を発動するというもの。
習得すれば手の動きだけで風の刃を飛ばしたり、足の動きだけで素早く移動したりする事が出来るようになります。
この技術は既に失われた物であり、存在すら知られていないとの事。以前ここに住んでいた方も、魔法の知識量は膨大でしたが、この技術は知らない様子でした。
魔法を使った瞬間を悟られないのは、大きなメリットになるでしょう。この魔法の使い方は、今では魔物しか使っておりません。
言葉を話せない魔物が、魔法を使えるのが不思議でしたが、この方法を知ってしまえば腑に落ちました。
「これで、こう! よし! 出来ましたわ!」
「やはり君は才能があるね」
彼はやけに褒めてくれるので、少しむずがゆい気がしてしまいます。正当な評価なのですか? 私には判断がつきません。
「そうなのですか? よく分かりませんわ」
「ここまで出来る人なんて、私は1人しか知らないよ」
またですわね。たまに見せる彼の特別な表情。まるで誰かを懐かしむような、妙な空気を出す時があります。
別にその人がどんな人であるのか、それほど興味はありませんけれど。それほど興味はありませんが、少々、いえ若干程度には気になりますわね。
一度世界を滅ぼそうとした邪神が、誰かを慈しむような表情を見せる理由が、ちょっと知りたくはあります。それが男性なのか女性なのか、どちらかは分かりません。
ただ何となく、女性だとするなら少しだけ嫌な気分になります。なぜ嫌な気分になるのかは、理解出来ませんが。
「いい加減、その人が誰なのか教えてくれません?」
「………………君の過去だけ聞いておいて、私の過去を教えないのも不公平か」
彼は自分の事をあまり語ろうとはしません。はぐらかされる事も多く、いまだに分からない事は多いのです。
「そうですわよ、不公平ですわ」
人が邪神となる話自体に興味がありますし、大昔の人々がどんな生活をしていたのかも気になります。
大昔に行われていた拷問の話や、刑罰の与え方なんて面白そうですし。復讐に使えそうな知識は、いくらあっても困りません。
それにアルがどんな人間をやっていたのかも、聞いてみたいと思います。思えば、人生で初めてかもしれませんね。誰かの事を知りたいと思ったのは。
両親やこの国の貴族達の過去なら、全く興味はありません。しかし彼の過去なら、聞いてみたいと思います。
1万年以上生きていると言うのは、どんな気分なのでしょうね。人ではないからこその感覚なども、やはりあるのでしょうか。
「別に大した話じゃないけどね。あれは私がある国の王をしていた頃の話さ」
「……貴方、元々王族でしたの!?」
てっきり反乱軍の総大将とか、そのような存在だと思っておりました。まさか国王だったなんて。
「現代のそれとは違うよ。貴族と言う概念すら無かったからね」
家名など存在せず、個人の名前と所属する国の名で全てを決めていたそうな。今の私に当てはめるならば、アニスのイリアと言う具合に。
そんなやり方で良く大昔は判別がついたものですわ。似た名前の方や同名の方が居たら、どうしていたのでしょう。
こんな森の中で暮らして来たからか、私はどうも知識を得る事に貪欲なようです。こうして色々とアルに話して貰う時間が、最近は結構楽しいと感じております。
殺伐とした日々の中で、唯一出来た趣味とも言えるでしょう。元々空き時間はずっと読書でしたから、こうなるのも必然かもしれませんね。
「彼女はこの世界の英雄だった」
「…………女性ですのね」
ふーん、そうなんですのね。何となくそんな気はしていましたけれどね。別にどうでも良いですけれど。
「そうだよ。君に少し似ているね」
それは喜んで良い事なのか、微妙な話ですわね。それにその方が私に似ているのか、私がその方に似ているのかでも違いますわ。
どっちなのでしょうか。それにしても、何故私はそんな事が引っ掛かるのでしょうね? 本来なら別にどうでも良い事のはずですのに。
どうにも最近は、そんなよく分からない事を気にしてしまう。年齢の経過による変化なのか、環境の変化なのか。原因は不明ですが、少しだけモヤモヤします。
「奥方でしたの?」
「私の? まさか、そんなわけないさ」
何でしょうか、この感情は? 今の答えを聞いて浮かんだ気持ちが理解出来ません。
「じゃあ何ですのよ?」
「憧れだったのさ。その生き方に憧れていた」
よく分からない感情ですわね。私は恋だとか愛だとか、そんな感情とは無縁でしたから。本で読んだ以上の事は何も分かりません。
憧れと恋は違うらしいのですが、違いがどこにあるのでしょうか? その人の事ばかり考える状態らしいですけれども。
どちらも同じではないのですか? そんな毎日特定の誰かを、想い続ける事があるのですか?
理解出来ないと言うのは、どうにもスッキリしませんね。だから少々苛々してしまうのでしょう。
「おや? 気にしているのかい?」
「そんなわけないでしょう!」
「大丈夫さ。今の私にとって、一番大切なのはイリアだよ」
何だか良いように言いくるめられただけのような気がします。そんな気がするのに、こんな一言を嬉しいと思ってしまうのです。
誰かに必要とされる経験が無かった私を、初めて必要としてもらえたから。結局アルと今も一緒に居るのは、それが一番大きいのかも知れません。
古の知識や遥か昔の歴史について、色々と教えてもらえるのは非常に大きな収穫と言えます。私にとって、良い勉強になります。
今となっては自宅のように使っているロッジには、沢山の書物がありますが数に限りがあります。
魔導具の映像についても、他の国についてはあまり数がありませんでした。特に大きいのは、既に失われた大昔の魔法について。
過去の秘術どころでは済まない、素晴らしい技術も沢山あります。まだ魔道具が世に無かった頃の魔法も、参考になる部分が多々あります。
「アル、上手く行きませんわよ? やり方が悪いのかしら?」
結局私は、彼をアルと呼ぶようになりました。彼がまだ人間だった頃、親しい方からはそう呼ばれていたからだと言われて。
「もう一度やってみせて…………魔力を込め過ぎだね。もっと少なくて良い」
「これぐらい、ですか?」
今は5千年前に使われていた魔法を教わっております。現在の詠唱する魔法とは違い、肉体の動作で魔法を発動するというもの。
習得すれば手の動きだけで風の刃を飛ばしたり、足の動きだけで素早く移動したりする事が出来るようになります。
この技術は既に失われた物であり、存在すら知られていないとの事。以前ここに住んでいた方も、魔法の知識量は膨大でしたが、この技術は知らない様子でした。
魔法を使った瞬間を悟られないのは、大きなメリットになるでしょう。この魔法の使い方は、今では魔物しか使っておりません。
言葉を話せない魔物が、魔法を使えるのが不思議でしたが、この方法を知ってしまえば腑に落ちました。
「これで、こう! よし! 出来ましたわ!」
「やはり君は才能があるね」
彼はやけに褒めてくれるので、少しむずがゆい気がしてしまいます。正当な評価なのですか? 私には判断がつきません。
「そうなのですか? よく分かりませんわ」
「ここまで出来る人なんて、私は1人しか知らないよ」
またですわね。たまに見せる彼の特別な表情。まるで誰かを懐かしむような、妙な空気を出す時があります。
別にその人がどんな人であるのか、それほど興味はありませんけれど。それほど興味はありませんが、少々、いえ若干程度には気になりますわね。
一度世界を滅ぼそうとした邪神が、誰かを慈しむような表情を見せる理由が、ちょっと知りたくはあります。それが男性なのか女性なのか、どちらかは分かりません。
ただ何となく、女性だとするなら少しだけ嫌な気分になります。なぜ嫌な気分になるのかは、理解出来ませんが。
「いい加減、その人が誰なのか教えてくれません?」
「………………君の過去だけ聞いておいて、私の過去を教えないのも不公平か」
彼は自分の事をあまり語ろうとはしません。はぐらかされる事も多く、いまだに分からない事は多いのです。
「そうですわよ、不公平ですわ」
人が邪神となる話自体に興味がありますし、大昔の人々がどんな生活をしていたのかも気になります。
大昔に行われていた拷問の話や、刑罰の与え方なんて面白そうですし。復讐に使えそうな知識は、いくらあっても困りません。
それにアルがどんな人間をやっていたのかも、聞いてみたいと思います。思えば、人生で初めてかもしれませんね。誰かの事を知りたいと思ったのは。
両親やこの国の貴族達の過去なら、全く興味はありません。しかし彼の過去なら、聞いてみたいと思います。
1万年以上生きていると言うのは、どんな気分なのでしょうね。人ではないからこその感覚なども、やはりあるのでしょうか。
「別に大した話じゃないけどね。あれは私がある国の王をしていた頃の話さ」
「……貴方、元々王族でしたの!?」
てっきり反乱軍の総大将とか、そのような存在だと思っておりました。まさか国王だったなんて。
「現代のそれとは違うよ。貴族と言う概念すら無かったからね」
家名など存在せず、個人の名前と所属する国の名で全てを決めていたそうな。今の私に当てはめるならば、アニスのイリアと言う具合に。
そんなやり方で良く大昔は判別がついたものですわ。似た名前の方や同名の方が居たら、どうしていたのでしょう。
こんな森の中で暮らして来たからか、私はどうも知識を得る事に貪欲なようです。こうして色々とアルに話して貰う時間が、最近は結構楽しいと感じております。
殺伐とした日々の中で、唯一出来た趣味とも言えるでしょう。元々空き時間はずっと読書でしたから、こうなるのも必然かもしれませんね。
「彼女はこの世界の英雄だった」
「…………女性ですのね」
ふーん、そうなんですのね。何となくそんな気はしていましたけれどね。別にどうでも良いですけれど。
「そうだよ。君に少し似ているね」
それは喜んで良い事なのか、微妙な話ですわね。それにその方が私に似ているのか、私がその方に似ているのかでも違いますわ。
どっちなのでしょうか。それにしても、何故私はそんな事が引っ掛かるのでしょうね? 本来なら別にどうでも良い事のはずですのに。
どうにも最近は、そんなよく分からない事を気にしてしまう。年齢の経過による変化なのか、環境の変化なのか。原因は不明ですが、少しだけモヤモヤします。
「奥方でしたの?」
「私の? まさか、そんなわけないさ」
何でしょうか、この感情は? 今の答えを聞いて浮かんだ気持ちが理解出来ません。
「じゃあ何ですのよ?」
「憧れだったのさ。その生き方に憧れていた」
よく分からない感情ですわね。私は恋だとか愛だとか、そんな感情とは無縁でしたから。本で読んだ以上の事は何も分かりません。
憧れと恋は違うらしいのですが、違いがどこにあるのでしょうか? その人の事ばかり考える状態らしいですけれども。
どちらも同じではないのですか? そんな毎日特定の誰かを、想い続ける事があるのですか?
理解出来ないと言うのは、どうにもスッキリしませんね。だから少々苛々してしまうのでしょう。
「おや? 気にしているのかい?」
「そんなわけないでしょう!」
「大丈夫さ。今の私にとって、一番大切なのはイリアだよ」
何だか良いように言いくるめられただけのような気がします。そんな気がするのに、こんな一言を嬉しいと思ってしまうのです。
誰かに必要とされる経験が無かった私を、初めて必要としてもらえたから。結局アルと今も一緒に居るのは、それが一番大きいのかも知れません。
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