華麗なる暴君~最凶女王の軌跡~【改稿版】

ナカジマ

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第1章 最凶の女王が生まれた日

第24話 魔王軍との戦い

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 魔の森近くの草原で、魔王軍に所属する魔族達と遭遇してしまったミアと護衛達。少しでも時間を稼ぐ為に、彼らはここで戦う事に決めた。
 最初からミアと一緒に居た10人と、近くの村で待機していた聖女の護衛達も合流したが、それでもせいぜい30人。
 対して魔王軍は3000人と、100倍の人数差があった。人数差も尋常ではないが、それ以上に厄介なのは人族と魔族の能力差だ。
 基本的に魔族は、人族の1.2倍程度の魔力と頑強さを持っている。つまり実質的には3600対30の戦いとも言える。
 これだけ違えば100倍だろうと、120倍だろうと大して変わらない。しかしこんな絶望的な戦いであっても、聖女の力が合わされば、ギリギリ辛うじて戦う事が出来る。

「何だコイツらは!?」

「何をやっている! 相手は人間だぞ!」

「囲んでしまえば良いだろうが!」

 3000もの魔王軍を相手に、護衛達は勇猛果敢に立ち向かう。必ず1人では戦わず、2人組や4人組となってお互いの死角をカバーし合う。
 人数差があり過ぎる事と、魔族の個人主義が合わさり魔族側は混乱している。確実に1人ずつ倒していく護衛騎士達に対して、魔族側はチームワークがなっていない。
 挑発されて飛び出した魔族が斬り伏せられ、背後を狙って襲い掛かった魔族が魔法で吹き飛ぶ。
 吹き飛んだ魔族が複数の魔族を巻き込んで、前線の負傷者が増える。焦れた男が周囲を押し退けて進み、隊列が乱れていく。

「光の加護よ!」

 聖女ミアによる支援魔法で、護衛騎士達の戦闘力は跳ね上がる。光の加護で守られた騎士達に、魔族の魔法は効果が無い。
 斬り掛かっても見えない壁に剣が阻まれる。人間にはあり得ない膂力と体力、そして魔力が一時的に付与される。

「まだだ! 俺達はまだ戦える!」

「無理はするな! 援軍が来るまで、持ちこたえれば良い!」

 ミアの護衛は隊長のバートと副官が残り、他の騎士達に指示を出して行く。2人は魔法も得意としている為、後方から魔族の集団に魔法を次々と撃ち込む。
 これだけの人数差を、チームワークと積み重ねた経験でカバーしていく。まだまだ戦場での経験が浅いミアだけでは、こうはならなかった。
 同時にミアの力が無ければ、同じく負けていた。聖女と護衛騎士の両方が揃ったからこそ、この日起こせた奇跡だった。

「チッ! 前線は一体何をしてやがるんだ!」

 魔王軍の後方にて、魔族を束ねる王がいらいらと叫ぶ。男の名はガルド、今代の魔王であり若き実力者だ。若干20歳にして先代魔王を倒して王座に着いた。

「ガルド様、どうやら例の聖女とやらが居る模様です」

「あぁ? そんなもん、眉唾じゃなかったのかよ」

 ガルドは頭部に山羊の様な角を2本生やし、灰色に近い肌を持つ身長2mの筋骨隆々な大男だ。よく言えばワイルド系、悪く言えば脳筋の野生味溢れる男であった。
 王自らここに居るのは、王家の腐敗により弱体化しているアニス王国を奪おうとしたからだ。
 ミア達が懸念したような別働隊などはなく、この兵力が本隊そのものであった。弱い人間の相手など、精鋭が3000も居れば十分と、ガルドが判断した為だ。
 実際ミア達がこの場に居らず、アニス王国がそのまま攻められていれば危なかったのは事実だ。
 今のアニス王国騎士団では、若き魔王率いる魔王軍3000には勝てない。王国消滅の危機を、偶然にも回避出来たのはミアのおかげだった。

「しゃーねえな。俺が出る」

「ガルド様! お待ち下さい!」

 副官をやっている魔族の青年が、ガルドを止めるが聞く耳を持たない。
 
「てめぇはそこで待っていろ!」

 フワリと空中を浮遊し、魔王ガルドが最前線に出る。その気配に危険な物を感じたバートが、一時退却の指示を全隊に出す。
 しかし間に合わなかった一部が、ガルドの攻撃により吹き飛ばされた。ちょうどミアの近くに転がってきたので、ミアによる回復魔法で治療が行われる。
 流石の魔王と言うべきか、光の加護を纏った騎士達でも軽症を負っていた。まだミアの成長が十分ではなかったにしても、聖女が使う加護を突破するのは並大抵の事ではない。
 そんな事が出来る人類は、この世界に数人しか居ない。それこそこの魔王ガルドと、邪神の眷属たるイリアぐらいだ。

「へぇ……てめぇが聖女とやらか」

「貴方は何者です!」

 野性味あふれる野蛮そうな大男を目の前にしても、ミアは気丈に振る舞い続ける。自分が敗北すれば、被害に遭うのは罪なき民達だからだ。
 そんなミアの姿を見て、ガルドは楽しそうに笑っている。彼は従順な女性に興味がなく、強い女性が好みだった。

「俺かぁ? 俺はガルド、魔王を今は名乗らせて貰っている」

「魔王だと!? 聖女様! お下がりください!」

 バートを筆頭に、若き精鋭達がミアを守る為に陣形を即座に整える。対して自分達のボスであるガルドの参戦に、魔族達は歓声を上げる。
 やっちまえ、人間なんて殺せと言った物騒な叫びが、あちこちから上がる。散々良いようにやられていた魔族達は、鬱憤を晴らそうと勢いを増して行く。
 明らかに強者の風格を纏うガルドを前に、聖王国サリアにて僅か25歳で隊長となった、エリート騎士のバートでさえ緊張せざるを得ない。
 それは女神サフィラに聖女を任されたミアとて同じだ。せめてミアだけでも逃がす事が出来ないか、そんな事をバートが考えていた時だった。

わたくしの家の近くで、大騒ぎをするのは止めて下さる?」

 突然巨大な爆炎が上がり、3000人近く居た魔族の9割が消し炭になった。殺気に気付いたガルドは何とか直撃を避けたが、額からは真っ赤な血が流れていた。
 ギリギリ生き延びた魔族達も、殆どが重症でまともに起き上がる事も出来ない。片腕を失った者、両足が焼け焦げた者。先ほどまでの威勢は、完全に失われていた。
 今やあちこちで助けを呼ぶ阿鼻叫喚の地獄絵図だ。そんな地獄に魔族達を叩き落とした張本人が姿を現す。
 いつも鍛錬の時に着用する動きやすい格好をしたイリアと、いつも通り真っ黒なローブを着たアルベールが空中に浮かんで居た。
 イリアとアルベールはミアの近くにふわりと音もなく着地すると、イリアはミアに話し掛ける。

「貴女、それだけの力を持ちながら、殺すのを躊躇いましたわね?」

 イリアはミアへ鋭い視線を向ける。命のやり取りをする場で、躊躇った事を責めている。

「…………はい」

「聖女としては正解でしょう。でもそれではいつか、貴女が死にますわよ?」

 似た立場の者として、そして何だか最近まとわりつく変な奴への忠告として、イリアは警告した。
 守り癒すのが聖女の主な役割だ。しかしだからと言って、攻撃手段が全く無いわけではない。
 光の魔法には様々な攻撃魔法があるし、ミアはもちろん使う事が出来る。しかしまだミアは、15歳の少女に過ぎない。
 守る為に命を奪う覚悟までは、まだ出来ていない。むしろ16歳にして、こんなにあっさりと3000人近い魔族を平気な顔で、攻撃を出来るイリアが異常なのだ。
 幼い頃から殺すか殺されるか、生きるか死ぬかという世界に生きて来たからこその即断即決だった。

「魔族も赤い血が流れていると言う話は、本当でしたのね?」

「てめぇ…………何者だよ?」

 一瞬で精鋭達の殆どを消滅させたイリアを初めて見たガルドは、憎々しげな表情で彼女を睨んでいる。
 こんな人間が居て良いのかという戦慄と、純粋な興味も湧いている。コイツは一体なんなのだろうかと。

「私はイリア、一応ハーミットと言う家名もありますわね」

「あぁ!? ハーミット家はてんで話にならねぇ雑魚だったんじゃねぇのかよ!」

 ガルドが把握していたのは、現当主の父親の方である。そしてその情報は、決して間違いではない。
 事実として今のハーミット家は、武の名門を名乗れるような家ではない。捨てられた娘、イリアを除いて。
 魔の森でドラゴンすら平気で単独撃破するような、魔族すらも上回る最凶のご令嬢は居ない事になっている。
 だからガルドは知らなかったのだ、こんなとんでもない娘が居ると言う事を。実力主義で腕っぷし自慢なガルドですらも、脅威と感じざるを得ない美しき少女がそこには居た。

「そろそろお帰りになられては? その方が静かになって私も助かります」

「はっ! 見逃すってのか? お優しい事で」

 これだけの事をしておいて、今更命を奪わないというのか。人間の敵である魔王を追い詰めておきながら。
 ガルドは今まで、こんな対応をされた事が一度も無かった。圧倒的な強者から、初めて見降ろされた。遥か高みから。

「別に殺しても構いませんが、弱者を痛めつけても得るものはありません」

 貴方がどうなろうと興味はないと、ハッキリと意思を示すイリア。

「フッ……ハハハハハハ! |を弱者と呼ぶか、ハーミットの女ぁ……てめぇの顔は覚えたぜ」

 イリアを一度睨んだガルドは、生き残った僅かな魔族達を回収しながら急いで撤退を始めた。
 これで静かになるだろうと興味を失ったイリアは、ミアに声だけを掛けて魔の森へ帰って行った。
 その暫く後から来たハーミット家の騎士達に、どう説明したものかとミア達は頭を抱えた。

 遥か昔に捨てた筈のイリアが生きている事を、ハーミット家の人間に知らせて良いものなのか?
 それにドラゴンのブレスのごとき魔法を、16歳の少女が放ったなどと話したところで誰が信じる?
 結局魔王軍の魔法が暴発し、損害が出たので撤退して行ったと説明するしかミア達には出来なかった。
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