死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第3章

第150話 覚悟と経験の差

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 シャマとジーマの姉弟を逃がす為に、土の精霊を自らに降ろしたイルヴェを止める為に清志せいじが対峙する。

「アイナ、彼らを頼む」

 アイナの方を一瞬だけ見た清志は、イルヴェが飛ばして来た土の槍を大鎌で破壊する。破断された土の槍がただの土に戻り、パラパラと舞い落ちる。

「分かった。清志も気をつけてね」

「ああ、そっちもね」

 アイナが逃げた2人を追う為に走り出す。追跡を阻止する為にイルヴェが攻撃を繰り返すが、その全てを清志が叩き落とす。
 土の弾丸、土の槍、地面から迫り上がって来る柱。あらゆる土の精霊魔術を使用するも、イルヴェの攻撃は通らない。

「ぐぬっ!?」

「幾ら一時的に強くなろうとも、そんなのは付け焼き刃でしかない」

 Sランク魔術師として、何年も己を鍛えて来た清志から見ればイルヴェは力を使い切れていない。
 人間の感覚と精霊の感覚は大きな乖離がある。存在としての根本が違うのだから、そう簡単にその膨大な魔力を使いこなすのは難しい。
 精霊とは人間と違って、魔力の塊であり血が流れている物理的な存在ではない。呼吸も必要とせず、飲食も不要な存在であり、人間が精霊と息を合わせるのは困難である。
 まだ人型を取っている神の方が感覚的には近く、そもそも神子は神を自らに降ろすわけではない。
 神の子として契約を結ぶだけであり、肉体を共有するわけではない。だからこそ精霊を降ろすのは危険であり、法律で禁止されている。

「何故こんな事をするんだ! 正規の手段を取れば、犯罪に手を染める必要なんてないだろ!」

 食うに困って犯罪に、そんな悲劇は良くある話で清志は何度も見て来た。もちろんそうではない人々も大勢居たが。
 あくまで己の利益の為に他者を害する者達だ。しかし清志から見たイルヴェ達は、そんなどうしようもない連中とは違って見える。

「貴様らの様に! 自然を蔑ろにし、蹂躙し破壊する様な者達に何が分かる! 精霊と共に行き、大地を敬い森と生きる我らの苦しみが分かるのか!」

 それは少数民族達が抱える苦難を、良く知っているからこその叫び。科学と魔術が発展していく過程で、世界中で起きてしまった問題。
 人口の増加と必要な資源の為に、切り開かれた森林。なるべく必要最低限に抑えようとはしていたが、全ての業者が従いはしなかった。
 他者より利益を得る為に、バレなければと行動した。もちろんその地を治める土地神に隠し切れる筈もないのだが。

 神罰を受けた者達も居る中で、それでも強引に事を進める者達が居た。それが精霊達の住むジャングル等だ。土地神の居ない地域では、悪質な方法による伐採が行われていた。
 精霊達に対抗する為に魔術師を雇い、大地や森を守ろうとする精霊達を追いやった。同時に精霊と共に生きる少数民族達も被害を受けた。
 住処を追われ精霊が弱り、取れて居た調和が失われた。20年ほど前に各地でそれらの違法行為が発覚し、以降は失われた自然を取り戻す活動が行われている。

「だからアンタ達が好き勝手をして良いと? そんな無茶苦茶は通らない!」

「黙れ小僧! ろくに世界を知らぬ分際で!」

 清志は様々な悲劇を見て来た少年だ。イルヴェ達の様に、道を踏み外してしまった人々を何人も見て来た。
 確かに理由は正当でも、取った手段が間違いだった。そんな事件は山のようにある。魔導犯罪に巻き込まれた人が、復讐心を募らせて重大な犯罪を犯す。
 そんなパターンはもはや定番と言える。そもそも清志だって正当防衛であり、黄泉津大神よもつおおかみが行ったからこそ罪には問われなかっただけ。
 一歩間違えれば清志とて、罪に問われていた可能性はあった。だからこそ分かるのだ、そうなってしまう人の気持ちが。
 そうであるからこそ、悲しい結末を止めたがる。幼い正義感を振りかざしているのではない。

「ならアンタはどれだけの世界を知っている! どれだけの人々を見て来た! 失われる命を何人分見て来たんだ!」

「な、何を……」

 激しい攻防を繰り返しながら、確かな覚悟を持つ清志の言葉がイルヴェを追い詰めて行く。確かにイルヴェも見て来たのだろう。
 失われて行く自然と、弱り果てて行く精霊達。均衡が崩れ森の様相が変化し、狩猟や採取が上手く行かない。食うに困る部族の仲間達と、栄養不足で倒れる子供達。
 十分に悲劇と言える光景だっただろう。だがしかし、それだけでは届かない。沢山の死を見て来た死神の日々には及ばない。

「生きたまま生贄にされた遺体を見た事は? 四肢をもがれて吊るされた遺体を見た事があるか? 目の前で我が子を実験台にされた母親に、どうしてもっと早く来てくれなかったかと怒りをぶつけられた経験は!?」

「お、お前……」

 不幸を理由に権利が得られると思うなら、幾らでもそれを上回る不幸を教えてやろう。自分だけが悲劇のヒロインだと思って、違法な行為に手を染めるなら容赦はしない。
 そんな強い意思を感じたイルヴェは、次第に勢いを失っていく。自分の覚悟よりも、遥かに重いものを背負った少年を知り自らの小ささを知る。

「大体アンタの言う自然を蔑ろにする事と、他人を蔑ろにする事にどれ程の違いがある! やっている事が自然に対してか、他人に対してかが違うだけだろ!」

「ガハッ!?」

 苦し紛れに射出した複数の土槍を全て斬り裂いた清志は、一気にイルヴェへと近づき全力の拳を腹に打ち込んだ。
 意識を失いつつあるイルヴェに向けて、最後の一言を清志は告げる。

「アンタはここで死なせない。罪は罪だ。やった事の贖いをちゃんとするんだな」

 決死の覚悟で挑んだイルヴェだったが、戦士としての死という華々しい最後は迎えられなかった。悔しさを感じながら、イルヴェの意識は完全に途絶えた。
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