死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

文字の大きさ
2 / 184
第1章

第2話 死神の神子

しおりを挟む
 第二次世界大戦が終結した時、神々がその存在を明らかにした。核兵器の開発と使用、それは神々には見過ごせぬ事態だった。
 それと共に、魔法の実在が公表された。資源を求めて争う必要はない、魔法と科学があればもう争いは要らないだろう。
 そんな神々と、当時の人々の予想は簡単に裏切られた。欲深き人間は、そう簡単に満たされる事はない。
 次を求め、さらなる進化を求めて悪事に手を染める。次第に凶悪化する魔導犯罪を危険視した神に選ばれし神子達を中心に、人々は魔導協会を作った。
 
 魔術を学んだ者は必ず登録する必要があり、協会の規定によって決められたクラスを割り振られ管理される。
 仕事の紹介、斡旋も行う傍らで主目的である魔導犯罪の抑止と摘発。そして、あまりにも酷い場合は特定の役職に就く者による処断も行われる。
 そんな魔術の管理機関が出来て40年、今も世界は混沌の闇に包まれていた。


 京都市内の華やかな街、観光客で賑わう木屋町の裏通りを1人の男性が走っていた。いや、走っていると言うよりは逃げていた。
 自分を追い掛ける追っ手から。逃げ回る間に何度も転倒したのだろう、高級そうなスーツは汚れ見る影も無い。
 片方のカフスは千切れ飛び、スラックスが裂けて膝が見えていた。あまりにも不様過ぎる格好だが、本人はそれどころではない。

「どけぇ!!」

「きゃっ!?」

 出勤途中なのか帰宅途中なのか分からない、キャバ嬢らしき女性を突き飛ばし男は走り続ける。見た目的には50代ぐらいだろうか?
 だらし無く太った贅肉を抱えたまま、息を切らしながら必死に走る姿はあまりにも哀れだ。普段はきっと華やかな生活をしているのだろうが、今はただ哀れな中年男性でしかなかった。

「ハァハァ……っ。クソックソックソッ!」

 情けない姿で走り回る男は、何が気に食わないのか毒づき始めた。こんな状況になった事への恨みか、それとも別の何かがあるのだろうか。
 あるいは、その両方か。見るからにプライドも地位も高そうな彼なら、逃げなければならない屈辱も感じているに違いない。

「クソッ! 魔導協会の犬が! あんなガキに好き勝手されてたまるか!」

 どうやら彼を追い掛けているのは、まだ子供らしい。なるほど裕福そうな彼なら、未成年から逃げるなんて状況は相当腹が立つだろう。
 しかし裕福で地位もあるなら、護衛ぐらい居たのではないだろうか。周りにはそれらしき人影は見当たらない。足止めをしているのか、それとも既に排除された後か。

権田庄蔵ごんだしょうぞう、覚悟は出来たか?」

「なっ!? 貴様いつの間に!? あいつ等は何をやっておるか!!」

「あの軟弱な護衛か? あんなもの障害にもならない」

 権田と呼ばれた中年男性を追い掛ける者、追跡者は1人の少年だった。黒髪黒目と言う日本人特有の色。
 線が細くシャープな顔立ちの男の子だ。短めに切り揃えられた髪と、高い背丈から体育会系を思わせる風貌だ。
 顔もかなり整っており、吊り目の鋭い視線が権田に突き刺さっていた。

「き、貴様! 私が誰か分かっているのか!?」

「ああ分かっているさ、国会議員でありながら凶悪な魔導犯罪に手を染めたクソ野郎だろ?」

「きっ貴様ぁ! 若造が舐めた口を!!」

 怒り狂った権田が掴み掛かるが、あっさりと躱されてしまう。どう見ても体を鍛えている高校生ぐらいの男子と、肥え太った中年男性では勝負にもならない。
 そんな当たり前の事も、今まで逃げていた事も忘れて怒り狂う。少し煽られたぐらいでこの対応、果たして国会議員として相応しいのか甚だ疑問ではある。

「早くケリをつけて貰える? 私は早く寝たいのよ?」

「……じゃあ先に帰れば良いだろうが」

 突然真っ黒な和服に身を包んだ、美しい大人の女性が現れた。和服のせいで判りにくいが、相当スタイルが良さそうなのは僅かに見えている部分からも想像が付く。
 まさに大和撫子と呼ぶのが相応しい美女が少年に語りかける。

「人の子が狩られる所を見逃したくはないの」

「ハイハイ、流石は日に1000人殺すと断言した女神は良い趣味してるよ」

「そうでしょ? ほら、早く刈ってしまいなさい」

「分かったって、もう」

 そう言うと少年の手には、いつの間にか身の丈を超える巨大な大鎌が握られていた。2人の雰囲気と醸し出す空気はまさに死神。
 命を刈り取る役目を帯びた恐怖の執行人。そう表現するのが一番相応しいだろう。罪深き人間を狩り、あの世へと送る渡し人。

「ま、ままま待て! 許されると思っているのかそんな事が!?」

「こっちの台詞だそれは。貴様は死刑3回分に相当する罪を犯した」

「あ、あんな使えない者共、幾ら死んだとて問題無かろうが!」

「既に執行者しっこうしゃへの現場対応の許可は出ている。諦めるんだな」

 執行者、それは魔導協会に所属する特殊な役職。A級以上の凶悪犯を現場で処断する事を許された者。日々エスカレートする魔導犯罪の、その死刑執行人。この少年は、この若さにしてその役職に選ばれた特別な存在だった。

「お前の様な奴は本当に頭が悪い。地獄は実在すると散々教わっただろうに」

「ま、待て! 待ってくれ!」

「あの世できっちり罪を償え。文字通り、地獄の責め苦ってヤツでな」

 近くの料亭から、酔っ払い客の笑い声が響く京都の裏路地で刑は執行された。数十人もの一般人を実験の道具にし、永遠の命を追い求めた強欲な中年男性の命はここに潰えた。
 少年の言う通り、地獄行きとなった権田の魂はこれから本当の意味で裁かれる。地獄の住人達から、その沙汰をこれから下されるだろう。

「あ、あの! お兄ちゃん!」

「おい、来るなって言っただろ!」

「だ、だって。私はいらいしゃだから」

 小学生ぐらいの女の子が、通りの角から現れた。こんな遅い時間に出歩くのも危険だが、それよりも幼い子供が見て良い現場ではない。恐らく少年もそう考えて、着いて来ないように伝えていたのだろう。

「依頼費用は要らないって言っただろ、ほら早く行くぞ」

「で、でも。Sらんくってたくさんお金が必要だって先生が」

「良いんだよ、お前はまだ子供なんだから」

 どうやらこの小さな少女が、この一件の依頼者だったらしい。小さいなりにも、魔導協会から魔術師を派遣するシステムについて知っていた様だ。
 ランク毎に派遣に必要な金額は変わる。CやDなら個人でも呼べるが、AやSともなると個人ではとても払える額ではない。普通なら大企業でも無い限り、早々呼べる存在ではない。
 それにも関わらず、この少年は無償で動いたと言う事なのだろう。この幼い少女の為に。

「ねぇ、私もお兄ちゃんみたいになれるかな?」

「辞めとけ、こんな奴を目標にするのは」

「どうしてー?」

「普通の魔術師を目指すんだ。それが一番幸せだよ」

 彼がこんな仕事をする様になった理由、それはきっとこんな幼い少女に話す事ではないのだろう。
 この少年だって本来はこんな仕事をしなくても良い筈だ。普通に友人達と楽しく毎日を過ごせば良い。
 しかしそうはならなかった。そこにはきっと、簡単には説明出来ない何かがあるのだろう。

「腹減ったな。ラーメンでも食って帰るか」

「やったー!」

「よし、早く行くわよ!」

「お前さぁ、帰って寝るんじゃないのかよ……」

 長身の美男美女と、小さな少女が木屋町の繁華街から離れて行く。後に残されたのは、欲に溺れた虚しき亡骸だけだった
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。 まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。 しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。 一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活

シン
ファンタジー
 世界中に色々な歪みを引き起こした第二次世界大戦。  大日本帝国は敗戦国となり、国際的な制約を受けながらも復興に勤しんだ。  GHQの占領統治が終了した直後、高度経済成長に呼応するかのように全国にダンジョンが誕生した。  ダンジョンにはモンスターと呼ばれる魔物が生息しており危険な場所だが、貴重な鉱物やモンスター由来の素材や食材が入手出来る、夢の様な場所でもあった。  そのダンジョンからモンスターと戦い、資源を持ち帰る者を探索者と呼ばれ、当時は一攫千金を目論む卑しい職業と呼ばれていたが、現代では国と国民のお腹とサイフを支える立派な職業に昇華した。  探索者は極稀にダンジョン内で発見されるスキルオーブから特殊な能力を得る者が居たが、基本的には身一つの状態でダンジョン探索をするのが普通だ。  そんなダンジョンの探索や、たまにご飯、たまに揉め事などの、華の無いダンジョン探索者のお話しです。  たまに有り得ない方向に話が飛びます。    一話短めです。

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...