死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第3章

第136話 自らに課す制約

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 魔導犯罪で親を亡くした子供達は世界中に沢山居る。それも決して少ないとは表現出来ない規模で。
 アイナもまたその中の1人として、保護施設に預けられた。ニューヨークの一角にある教会と併設されたその孤児院は、似た境遇の子供達が20人も暮らしている。
 最初は塞ぎ込んでいたアイナだったが、歳の近い子供達と触れ合う事で少しずつ立ち直りつつあった。ただその根源はあまり良くないエネルギーの塊だ。
 『憎悪』という感情は時に物凄いエネルギーを生み出す。それが例え7歳の少女が抱いた感情であったとしても、吹き上がった憎しみは激しい勢いを持っていた。
 両親を殺された怒りと、同じ様に苦しめられた孤児院の仲間達を想う心。それらの感情が融合して、自らも父親と同様に悪と戦う道を選ばせる。

 魔術の指導をヘンリーに求め、教えを請う。もちろん最初はヘンリーも断った。どうしてアイナがそう考えたのか、何故そんな真似をするのか理解していたから。
 だが指導断っても、アイナは諦めずに自己流で身に着けようとしてしまう。見かねたヘンリーが渋々ながら魔術の指導を行う事にした。
 元々科学と魔術を扱う錬金術師だったヘンリーは、アイナに錬金術師を中心に魔術を教え始めた。
 元々母親が錬金術師だったのもあり、錬金術との相性は良い。子供は両親の魔術的な適正を受け継ぐ為、アイナもそれなりに優秀な魔術師となる可能性は高い。
 上手く行けばAランクも目指せる可能性があった。しかしそれは未来の話で、今すぐ強くなる道はない。だが半年間の指導を受けたアイナは、即効性を求めた。

「アイナ! 無茶な訓練はしない約束じゃろう!」

「まだよ、まだこんなのじゃ駄目」

「子供の肉体ではこれ以上の訓練は危険じゃ!」

 魔力を高める為の訓練を、明らかなオーバーワーク化させてまでアイナは自らを鍛えようとする。
 魔導犯罪を憎む強い想いが、アイナの心を支配していた。もう命がけと言っても良い行き過ぎた訓練に、ヘンリーは頭を悩ませる。
 既に人としての肉体を失った彼では、暴走するアイナを物理的に止めるのは難しい。ヘンリーは悩みに悩んだ末に、一つの提案をする事を決意する。
 それは彼が生きていた時代に、辛うじて許されていた方法。今の時代ではリスクが高過ぎると禁止されたやり方。
 自らに呪いを施す事で、魔術師としての能力を高める禁呪。魂に制約を刻む事で、その見返りに力を得るという大昔の呪い。

「どうじゃ、こっちなら命の危険まではない」

「それで強くなれるなら、私はそれで構わない」

「……ただ何の苦痛もない訳でもないのじゃ」

 魂に制約という名の呪いを刻む行為が、何の負担もない筈がない。かけた呪いが強力であればその分精神への負担が高くなる。
 メリットだけではなく、デメリットの説明もヘンリーはしっかり行う。制約として捧げるのは、自身が持っている未来と可能性だ。
 将来使える様になる筈だった魔術の才能と適正を捨てる事で、残された部分をより強力なモノへと変えるという呪いだ。
 生贄の文化がまだあった時代に生まれた、自らの未来を生贄にする呪術。捨てた未来が多い程、より強大な力を得られる。
 この呪術が使われていた頃は、一族の存続こそが正義だった。自らの先祖が継いできた、代々続く魔術を途絶えさせない目的で使われて来た。

 人間という生き物は、常に完璧な子孫を残せるとは限らない。黒魔術を使う魔女の子供が、貧弱な魔力しかない様では困る。
 最悪黒魔術さえ満足に使える様になれば、一族の権威は守られる。表の世界から魔術師が隠れていた頃なら、他の魔術適正を捨ててしまってもデメリットは薄い。
 だが魔術師が多様な魔術を使いこなす現代の魔術師には、あまりにもデメリットが大きい方法だ。

 より多くの魔術を使いこなすのが優秀な魔術師とされている今、大昔に生まれた家柄を守る為だけに使われた禁呪を使う。
 それがどれだけマズイ事か、ヘンリーは教えた。禁止されている方法である事も伝えた。
 自らに課す制約は、最低限にしておく様に指示も出した。そしてアイナが取った選択は、ヘンリーの想像を遥かに上回った。

「……待てアイナ、何をしておる!? もうよい!」

「まだまだ、足りない。私にはもっと強くなる」

「何を考えておるか! もう儀式をやめるんじゃ!」

 禁呪を施す魔法陣の上に寝転んだアイナは、次々と自らの未来を捧げていく。父親の様に、複数の魔術を使いこなす警官になる未来が消えていく。
 母親の跡を継ぎ、アクセサリーデザイナーとなる未来が捧げられてしまう。アイナが望む道は、ただ悪を殲滅する戦闘機械となる事。
 かつて見た映画の、サイボーグ捜査官の様な存在をただ目指す。自分が得意な錬金術で、様々な武器と兵器だけを作る。道具さえあれば、後は自分を鍛えるだけで良い。
 体が大きくなるまでは、ロボットでも作って戦わせよう。そう考えたアイナは、それ以外の未来と可能性を全て捧げた。
 その結果アイナの使う錬金術以外、一切を弾く呪いの魔力を手に入れた。魔力量も一気に増えて、神子に近い魔力量を得た。
 ここからアイナは更に無茶を重ねて、神を持たぬSランク魔術師へと至った。
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