王国最強の暗殺者《アサシン》は時を駆け抜ける

ユー@焼き

文字の大きさ
4 / 12
第1章 王国最強の暗殺者

第4話 ナヤルーシ・シレズ

しおりを挟む
「ありがとうございました」

 僕は防衛軍の軍服を身に纏い、綺麗な立ち姿で僕のことを見つめる女性に頭を下げた。

 二ヶ月に一度定期的に開催される校内の実技試験。それが僕がたった今終えた行事だ。

 僕の場合、一応瞬間転移テレポートの異能力者だと認識されているので、俗に言う補助系異能と呼ばれることが多いのだが、それに詳しい試験官がつく。この場合、試験官自身も補助系であることが多い。

 取り敢えず違和感なく、瞬間転移テレポートを演じきることができたと思うのだが、正直内心ヒヤヒヤだ。

 実際、特に僕の異能について言及されることもなかったので、今回も騙すことに成功した……わけだが。その試験官が何故か僕の方を凝視しているように感じるのは果たして気のせいなのだろうか。

 とにかく、一刻も早く教室に戻ろう。

 そう決めた僕は試験会場だった体育館を後にしようと、大扉に手をかける。

「おい!置いていくなよ!俺の試験見てからにしろよ!」

 背後から何やら聞こえるが無視だ。無視。ジークの試験なんて見慣れている。猪突猛進なところは、どうせ変わらない。
 それでも、試験官は手加減をしてくれる。だから、それなりにいい勝負をしているように見える。それがいつもの展開だ。

 僕は踵を返さずに、ひらひらと手を振った。それに呼応してまたギャンギャン喚いているような声が聞こえたが、今度こそ僕は体育館の外に出た。

 外に出ると、春の爽やかな風が頬を撫でる。心も安らぐような錯覚を覚える。

 そう思った束の間。

「ねぇ、君」

 どこから一体現れたのか、僕の横に黒縁眼鏡をかけたポニーテールの女子生徒がいた。首元には紫の首飾り。

 上履きの色は、赤。一年が緑、三年が青だから、この人物ほ僕の先輩というわけだ。けれど、この時間帯は一年の実技試験で体育館は貸し切り。二年、三年は普通の座学授業だった筈……。

 それに、女子生徒が持っている鞄は、緑色と赤色の二つだ。それも、そのうちの一つは僕のものだ。
 チアが僕のために作ってくれたアクセサリーが取り付けてあるから間違いない。

「な、なんでしょうか……」
「ハーディン・クリアくん、だよね?」

 なんで僕の名前を知っているのだろう。僕は首を傾げた。少なくとも僕の知り合いに先輩はいない。

「そ、そうですけど」
「あはは、そんな緊張しないでよ!私がなんかカツアゲでもしてるみたいじゃない!」

 そう言って、先輩は笑う。結局要件はなんなのか。できることなら早いとこ済ませたい。

「あー、いかにも早くどっか行けってオーラを醸し出してるねー!でもちょっと今日はそういうわけにはいかないかなとなー。私も重要な任務を与えられてきたわけだし」

 任務……?
 その二文字を聞いて昨夜の出来事が、脳内再生される。

 いや、駄目だ。思い出すな。
 僕はぶんぶん首を振って、雑念を取り払った。そんな僕の動揺を隠せていない様子を見ていた彼女は「うーん」と一回唸ってから、僕の耳元で囁くように言った。

「まぁ、一緒に来てくれるよね——?」

 瞬間、僕の全身がフル稼働し、制服の下に忍ばせて置いた短剣に触れる。

 こいつは——危ない。

 そう、僕の五感が告げていた。時間ノ支配者タイムイズマインを使えばどうにか殺せるか?いや、どうにかして殺さないと。でも、その後の処理は?時間ノ支配者タイムイズマインで気を失わせ、運び込むことは可能だ。

 時間ノ支配者タイムイズマイン使用中に物体に触れると、その物体の時間も動き始める。その部分がこんな形で不利になるとは。

 思考を巡らせ、最善策を模索していた僕に対し、眼前で笑顔を見せていた彼女は口を開いた。

「あははっ!そんな殺気バリバリの視線を向けないでよー!私まだこんなところで死にたくないしー!あ、それと、今もし私がここで死んだら、私の仲間が君を抹殺しにくるからね?それにここには監視カメラも一杯あるし、君が取り出そうとしてる武器はやめた方がいいんじゃないかなー」
「……」
「ほら、これ君の鞄」

 ぽいっ、と鞄を僕の元に投げて彼女はカラカラと笑う。僕の集中力を削いで奇襲をかける、という可能性もあるから、あくまで警戒は怠らない。

「ふーん。やっぱり経験を積んでるからか警戒心強いんだねー。ま、私からすればどっちでもいいんだけど」

 敵はくるりと回って、それから片脚の踵を地面につけ、足先をピンと伸ばした。
 そして、その体勢のまま上目遣いで僕に言った。

「それじゃ、行こっか——ハーディン・クリアくん」


 ●●●


「よっと」

 僕に脅迫をかけてきた彼女——名前はナヤルーシ・シレズと紹介してくれた。

 そしてそれから、僕とシレズ先輩は、イスフィールから遠く離れたガンジスタという規模の小さな街にやってきていた。

 普通に考えて、ガンジスタに到着するには車で数日飛ばす必要があるくらいには距離があるのだが、なんとシレズ先輩は瞬間転移テレポートの異能力者だった。

「あー、疲れたー!もう!ほんと人使い荒いのなんの!瞬間転移テレポート使うとすっごい疲れるからあんまり乱用したくないのにー……」

 ぶつぶつと不満を漏らすシレズ先輩。どうやら、僕はシレズ先輩の意思でここに連れてこられたというわけではないようだ。つまり、シレズ先輩に命令を下した所謂上司のような存在がいる。

「あの、なんで僕はこんなところに連れてこられたんですか?」
「あー、それはね、」

 シレズ先輩は躊躇いもせず次の言葉を口にした。

「君に私たちの仲間になってもらうため、だよ」
「……仲間?」
「そ。君みたいに高い異能力を持った人材が欲しいみたい。とにかく、私は命令されたことを実行してるだけだし、今から本部へ連れて行くからそこで色々聞いてみなよ」

 そう言って、シレズ先輩は、僕の腕を引っ張ってすぐ近くに佇む一つの家へと入る。シレズ先輩の自宅かだろうか。鍵はかけていないのか、すぐに軋むような音を上げて扉は開いた。不用心だ。

 靴を置くための玄関はなく、扉の向こうには広めの部屋が広がっていた。

「ほら。ここに来て。この円盤に乗って」

 シレズ先輩は部屋の真ん中を指差す。そこには、不自然な金属で製作されているであろう円盤が床に埋め込まれていた。
 円盤の大きさはぎりぎり僕とシレズ先輩が立てるくらいのものだ。

「ほら、何してんの。こっちもっと寄って」

 シレズ先輩は僕と身体を密着させるさせる。

「な、なにして……」
「なにってこうでもしないと、怪我するよ?今から円盤が下に降りるからさ」

 シレズ先輩の言動に僕は疑問符を浮かべ、首を傾げた。しかし、一秒後足元にあった円盤が、ズズズと異様な音を発生させ、急降下を始めた。

 家具が最小限に設置されていた光景は、僕の視界から消え去り、無機質な金属の板と、向かい合うシレズ先輩の黒髪だけが僕の目に映される全てになる。 

 異性と密着した経験など皆無だ。そのため、緊張で心臓が平常より速く鼓動を打っているのがわかる。

「あー、女の子と一緒に密着してるから、緊張してるのー?それとも興奮してる?」

 急降下しながらも、シレズ先輩はそんな軽口で僕をからかってくる。シレズ先輩とは会ってまだ十五分程度しか経過していないが、なんとなく彼女の性格がわかってきた気がした。取り敢えず、性格は間違いなく悪い。他人の不幸を鼻で笑うどころか、爆笑するタイプだ。

「そんなわけな——」
「あ、着いた。私が先行するからついてきてね」
「…………はい」

 この人は、苦手だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...