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第1章 守護神石の導き
第4話 迫り来るトロルたち(2)
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かろうじてトロルから逃げ切った二人は、大きな岩が重なりあった場所で野営することにした。平地からかなり離れた高さにあるその場所からは、岩場を越えきった先の暖色の明かりの集まりを確認することができた。
「カルディーマももう近いね。これなら明日の午前中にでも着けそうだ」
ティムが焚き火に手をかざしながら言った。
「やれやれ、ようやくだな」
ライアンは水筒の水をラッパ飲みした。
焚き火にかけてある鍋の蓋を開けて、様子を見る。
その日の夕食はヤギ肉の燻製、温野菜にチーズをたっぷり入れた雑炊である。これはライアンの好物らしく、米を持っていたのもライアンだった
「いやあ、明日は楽しみだな」
焚き火の横でごろりと横になると、ティムは歌うように言った。
「カルディーマに着いたら、思いっきり遊びまくって、旅の鬱憤を晴らすよ」
「おいおい、ティム。当初の目的を忘れてるんじゃないか?」
ライアンが呆れているのか楽しんでいるのか分からないような顔で、すかさずたしなめた。
「当初の目的?俺たちカルディーマで遊び呆けるために旅をしてたんじゃなかったっけ?」
ティムが、おどけた口ぶりで言った。
それにライアンはくすりともせずに答える。
「勿論、それもこの旅の重要な目的だ」
「あ、本当にそうなんだ」
「やっぱそれは否定できないぜ」
ライアンはその時だけ目元をとろんとさせたが、すぐに真剣な眼差しになった。
「でも当初の最重要の目的は違うけどな」
「わーってるって。忘れるわけないだろ。大きな町だししっかり情報収集するさ。それに知りたいのは守護神石の在り処だけじゃない。守護神石にどんな力があるのか、俺たちはあまりに知らな過ぎる。それだってカルディーマに行けば分かるのかもしれない」
「そういえば守護神石の詳しい話については、ハグルさんに聞いてこなかったのか?」
「もちろん質問したよ。でもハグルも詳しくは知らないみたいなんだ」
「ほお」
ティムは、懐からサファイアを取り出してしみじみと見つめた。サファイアは、ティムの手の中で青い不思議な輝きを放っていた。
「神様が宿ってる石なんだ。きっと何か特別な力があるはずだよ。守護神石の持ち主として、それは絶対に調べ出さないと」
「そうだな」と相槌を打つと、ライアンはふと眼尻を下げてにやついた。
「まあ、俺はヘーゼルガルドに着きさえすればいいわけだから、思う存分遊ばせてもらうけどな」
「何だよそれ。ずるいぞ、ライアン!」
むきになって怒るティムを見て、ライアンは喉を鳴らしてけらけらと笑った。
丁度その時、鍋のお湯が吹きこぼれた。ライアンは鍋を火から外し、中をかき混ぜる。途端にいい匂いが立ち込めた。
「いい匂いだなあ」
ティムが感情を思わず言葉にする。
「うまいぜ、これは。お袋が俺がちっちゃい頃からよく作ってくれたんだ。やっぱいいもんだよな、お袋の味ってのは・・・」
言ってすぐに、ライアンは自分の配慮のない発言を後悔した。ティムの表情をうかがったが、ティムはいつも通りの笑顔で「へぇー」と相槌を打っただけだった。
「それにしても、さっきは危なかったな」
咄嗟に話題を変える。
「もう少し走るのが遅かったら、トロルの奴等に捕まってたところだぜ」
「ああ、あれは本当に危機一髪だった」
ティムはその時のことを思い出して、思わず溜息を吐いた。
「あいつら巨体のくせに異常に足が速いんだもん」
「全くだぜ」
ライアンがこくりと頷く。
「俺たちももっと速く走る練習をしないと、次は捕まっちゃうかもしれないね」
「いや、そうじゃないだろ。もっと強くなって奴らを倒すんだよ!」
ライアンが、興奮気味に話す。
「あのデブ野郎ども、本当にムカつくぜ。返り討ちにしてやれなかった俺にも腹が立つ」
「別にいいじゃん。あいつら掃いて捨てる程いるんだよ。倒してたらキリが無い。それより俺たちの身の安全を優先しないと」
「いや、だめだ。敵前逃亡だなんて、ヘーゼルガルドの兵士として恥ずべき行為だ」
ライアンは苦々しげに吐き捨てた。
「うーん、恥ずべき行為ねえ」
ティムはいかにも不可解という表情をして、唸った。
「何でお前は悔しくないんだ?お前、親父が英雄だったんだろう。親父だったらトロルから逃げ出したと思うか?」
その言葉に、ティムはむっとして下唇を噛んだ。
ティムは父親と自分を比べられるのが好きではない。自分は自分、父親は父親という考えは昔からあったし、それは父親の遺志を継いで旅に出た今も変わらなかった。
そんなティムの気持ちを見透かしたかのようにライアンが口を開く。
「父親と比べられるのはお前の宿命だぜ、ティム。お前の人生の上で、父親は切り離せない存在だと俺は思う。それを良いようにとるか悪いようにとるか、それはお前の自由だ。ただ、こうしてお前が今ここにいるってことは、どうやら幕はとっくに上がっちまってるってこと。そうだよな?」
ライアンの静かな、しかし胸を突き上げるような力を持った話りを、ティムは黙って聞いていた。
しばしの沈黙の後、ライアンがふっと笑って、長い髪の毛を掻きあげた。
「まあ俺もそんな偉そうなこと言える立場じゃないけどな。親父の後を追って兵士になりたいとは言うものの、ヘーゼルガルドのことも実はまだ全然知らねえし、兵士になれるかどうかもまだ分からねえしな」
ティムも笑みを浮かべた。
「なあ、ライアン」
「何だ?」
「久しぶりに、二人で剣の稽古しないか?」
「ああ」
ライアンはにっこりと笑った。
「いいぜ。その代り手加減しねえぞ」
「当然だよ。手加減なんかしてもらっちゃ、弱すぎて稽古にならないね」
「お、言ったな」
ライアンは目を見開いて笑った。
「俺も手加減しないけどな」
ティムも笑う。
「よし、じゃあ一つ手合わせ願おうか。でもその前に夕飯だ、夕飯!もうそろそろ煮えたんじゃないか」
ライアンの好物である雑炊を食べ終わってから少し休憩した後、二人は近くに落ちていた木の枝を剣に見立てて、稽古を開始した。
お互い公言した通り、手加減全くなしで打ち合った。一発の攻撃が重いライアンに対し、ティムは速い剣裁きで対応した。
小一時間程打ち合った後、二人は疲れて倒れ込んだ。お互い息を切らしている。
「ふー、何となく分かってたけど、ライアン強いなあ」
「お前も十分強いぜ。あーでも久々だぜ、こんなに真剣に稽古したの」
そう言ってライアンは大きく伸びをした。
ティムはそれを横目でちらりと見ると、夜空を見上げながら言った。
「もっともっと強くなろう、ライアン。誰にも負けないくらい強くなってやろう。で、次に奴等が襲ってきたら、今度こそ返り討ちにしてやろうよ」
ライアンは思わず横に寝そべっているティムを見た。ティムは口元に笑みを浮かべながら、宙を見据えていた。
ライアンは視線を戻すと、「当ったり前だぜ」と少し声を張り上げて言った。
そして数秒間の沈黙の後、ティムがおずおずとライアンに話しかけた。
「でも歯が立たなかったときのことも考えて、やっぱり速く走る練習も・・・」
「いやだからそういうことじゃねえっつうの!」
ライアンは勢いよくツッコミを入れた。
その後二、三言葉を交わした後、二人は静かに眠りについた。
「カルディーマももう近いね。これなら明日の午前中にでも着けそうだ」
ティムが焚き火に手をかざしながら言った。
「やれやれ、ようやくだな」
ライアンは水筒の水をラッパ飲みした。
焚き火にかけてある鍋の蓋を開けて、様子を見る。
その日の夕食はヤギ肉の燻製、温野菜にチーズをたっぷり入れた雑炊である。これはライアンの好物らしく、米を持っていたのもライアンだった
「いやあ、明日は楽しみだな」
焚き火の横でごろりと横になると、ティムは歌うように言った。
「カルディーマに着いたら、思いっきり遊びまくって、旅の鬱憤を晴らすよ」
「おいおい、ティム。当初の目的を忘れてるんじゃないか?」
ライアンが呆れているのか楽しんでいるのか分からないような顔で、すかさずたしなめた。
「当初の目的?俺たちカルディーマで遊び呆けるために旅をしてたんじゃなかったっけ?」
ティムが、おどけた口ぶりで言った。
それにライアンはくすりともせずに答える。
「勿論、それもこの旅の重要な目的だ」
「あ、本当にそうなんだ」
「やっぱそれは否定できないぜ」
ライアンはその時だけ目元をとろんとさせたが、すぐに真剣な眼差しになった。
「でも当初の最重要の目的は違うけどな」
「わーってるって。忘れるわけないだろ。大きな町だししっかり情報収集するさ。それに知りたいのは守護神石の在り処だけじゃない。守護神石にどんな力があるのか、俺たちはあまりに知らな過ぎる。それだってカルディーマに行けば分かるのかもしれない」
「そういえば守護神石の詳しい話については、ハグルさんに聞いてこなかったのか?」
「もちろん質問したよ。でもハグルも詳しくは知らないみたいなんだ」
「ほお」
ティムは、懐からサファイアを取り出してしみじみと見つめた。サファイアは、ティムの手の中で青い不思議な輝きを放っていた。
「神様が宿ってる石なんだ。きっと何か特別な力があるはずだよ。守護神石の持ち主として、それは絶対に調べ出さないと」
「そうだな」と相槌を打つと、ライアンはふと眼尻を下げてにやついた。
「まあ、俺はヘーゼルガルドに着きさえすればいいわけだから、思う存分遊ばせてもらうけどな」
「何だよそれ。ずるいぞ、ライアン!」
むきになって怒るティムを見て、ライアンは喉を鳴らしてけらけらと笑った。
丁度その時、鍋のお湯が吹きこぼれた。ライアンは鍋を火から外し、中をかき混ぜる。途端にいい匂いが立ち込めた。
「いい匂いだなあ」
ティムが感情を思わず言葉にする。
「うまいぜ、これは。お袋が俺がちっちゃい頃からよく作ってくれたんだ。やっぱいいもんだよな、お袋の味ってのは・・・」
言ってすぐに、ライアンは自分の配慮のない発言を後悔した。ティムの表情をうかがったが、ティムはいつも通りの笑顔で「へぇー」と相槌を打っただけだった。
「それにしても、さっきは危なかったな」
咄嗟に話題を変える。
「もう少し走るのが遅かったら、トロルの奴等に捕まってたところだぜ」
「ああ、あれは本当に危機一髪だった」
ティムはその時のことを思い出して、思わず溜息を吐いた。
「あいつら巨体のくせに異常に足が速いんだもん」
「全くだぜ」
ライアンがこくりと頷く。
「俺たちももっと速く走る練習をしないと、次は捕まっちゃうかもしれないね」
「いや、そうじゃないだろ。もっと強くなって奴らを倒すんだよ!」
ライアンが、興奮気味に話す。
「あのデブ野郎ども、本当にムカつくぜ。返り討ちにしてやれなかった俺にも腹が立つ」
「別にいいじゃん。あいつら掃いて捨てる程いるんだよ。倒してたらキリが無い。それより俺たちの身の安全を優先しないと」
「いや、だめだ。敵前逃亡だなんて、ヘーゼルガルドの兵士として恥ずべき行為だ」
ライアンは苦々しげに吐き捨てた。
「うーん、恥ずべき行為ねえ」
ティムはいかにも不可解という表情をして、唸った。
「何でお前は悔しくないんだ?お前、親父が英雄だったんだろう。親父だったらトロルから逃げ出したと思うか?」
その言葉に、ティムはむっとして下唇を噛んだ。
ティムは父親と自分を比べられるのが好きではない。自分は自分、父親は父親という考えは昔からあったし、それは父親の遺志を継いで旅に出た今も変わらなかった。
そんなティムの気持ちを見透かしたかのようにライアンが口を開く。
「父親と比べられるのはお前の宿命だぜ、ティム。お前の人生の上で、父親は切り離せない存在だと俺は思う。それを良いようにとるか悪いようにとるか、それはお前の自由だ。ただ、こうしてお前が今ここにいるってことは、どうやら幕はとっくに上がっちまってるってこと。そうだよな?」
ライアンの静かな、しかし胸を突き上げるような力を持った話りを、ティムは黙って聞いていた。
しばしの沈黙の後、ライアンがふっと笑って、長い髪の毛を掻きあげた。
「まあ俺もそんな偉そうなこと言える立場じゃないけどな。親父の後を追って兵士になりたいとは言うものの、ヘーゼルガルドのことも実はまだ全然知らねえし、兵士になれるかどうかもまだ分からねえしな」
ティムも笑みを浮かべた。
「なあ、ライアン」
「何だ?」
「久しぶりに、二人で剣の稽古しないか?」
「ああ」
ライアンはにっこりと笑った。
「いいぜ。その代り手加減しねえぞ」
「当然だよ。手加減なんかしてもらっちゃ、弱すぎて稽古にならないね」
「お、言ったな」
ライアンは目を見開いて笑った。
「俺も手加減しないけどな」
ティムも笑う。
「よし、じゃあ一つ手合わせ願おうか。でもその前に夕飯だ、夕飯!もうそろそろ煮えたんじゃないか」
ライアンの好物である雑炊を食べ終わってから少し休憩した後、二人は近くに落ちていた木の枝を剣に見立てて、稽古を開始した。
お互い公言した通り、手加減全くなしで打ち合った。一発の攻撃が重いライアンに対し、ティムは速い剣裁きで対応した。
小一時間程打ち合った後、二人は疲れて倒れ込んだ。お互い息を切らしている。
「ふー、何となく分かってたけど、ライアン強いなあ」
「お前も十分強いぜ。あーでも久々だぜ、こんなに真剣に稽古したの」
そう言ってライアンは大きく伸びをした。
ティムはそれを横目でちらりと見ると、夜空を見上げながら言った。
「もっともっと強くなろう、ライアン。誰にも負けないくらい強くなってやろう。で、次に奴等が襲ってきたら、今度こそ返り討ちにしてやろうよ」
ライアンは思わず横に寝そべっているティムを見た。ティムは口元に笑みを浮かべながら、宙を見据えていた。
ライアンは視線を戻すと、「当ったり前だぜ」と少し声を張り上げて言った。
そして数秒間の沈黙の後、ティムがおずおずとライアンに話しかけた。
「でも歯が立たなかったときのことも考えて、やっぱり速く走る練習も・・・」
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