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第1章 守護神石の導き
第5話 カルディーマの門番(2)
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こうして二人は、フレデリックたちと別れて、町の中へと足を踏み入れていった。
入口付近は町外れということもあり、閑静とした住宅街になっていた。しかし、それでも人々はたくさん行き来しており、町の繁栄振りが垣間見られた。
「よくしゃべりよく笑う人だったなあ、プーハットさんは」
ティムが両手を頭の後ろで組みながら言う。
「そうだな。でもなかなかいい人そうじゃねえか。フレデリックさんも優しそうな方だしなあ」
ライアンは安心したようにそう言った後、ぼんやりと遠くを見つめ始めた。
何か考え耽っている様子のライアンを見て、思わずティムが尋ねる。
「どうかしたの?」
「あ、いや・・・。前にどこかでフレデリックさんに会ったことがある気がしたんだが・・・」
「え、そうなの?」
ライアンは、少しの間ううんと唸った後「まあ、気のせいか・・・」と言った。
「それにしてもお前の親父、本当に英雄だったみたいだな。お前を見ていると、そういう要素があまりにも欠落し過ぎていて、正直半信半疑だったんだよな」
「失礼だな。俺だってやる時はやるんだぞ」
「じゃあ、次からはゴブリンと戦う前から逃げたりするのは控えてくれよ、英雄さん」
「はあ。気をつけます」
予想外にへこんでいるティムを見て、ライアンは喉を鳴らして笑った。
そして、今度は思い出したように苦笑いをしてティムに尋ねた。
「そういえば、お前何であんなこと言ったんだよ」
「あんなことって?」
「ほら、プーハットさんが最初にお前に質問した時、お前、自分は勇者だって言っただろ。あれ何だったんだよ」
「ああ、あれは別に深い意味は無いよ」
「まあ、無いだろうな」
「別に何者かと言われても、何者でもないからね。だから、なれたらいいな、という意味で言ってみた」
「全く。適当なこと言いやがって」
ライアンは、呆れたように笑うと、言った。
「でも、いつか、本当に勇者になれるといいな」
「ああ・・・そうだな」
ティムは歩きながら、ふと思いに耽る。
勇者・・・か。
フラッシュバック ―ティムの二年前―
ノックもなしにドアが乱雑に開いたかと思うと、よろず屋のハンスが血相を変えて転げ込んできた。
「たっ、大変です!ゴブリンの大群に村が!」
いすに腰掛けてうとうとしていたハグルだったが、その言葉で一気に目を覚ますと、険しい表情で立ち上がった。
「わかった。すぐに戦闘準備を」
ハグルは剣を手にすると、村の外れを駆け抜けた。もう日没は過ぎており、辺りは暗闇が支配している。
走りながらハグルは大声で叫んだ。
「皆の衆!ゴブリンの襲撃じゃ!男は武器を持て!女子どもは隠れるのじゃ!」
家々から、ぞくぞくと男たちが武器を持って出てくる。
しかし、グレンアイラ村は大きい村ではないので、戦力はとても充実しているとはいえない。しかも、男たちは特別剣の扱いに慣れている訳ではない。グレンアイラ村で剣の扱い方を知っている者は、ハグルを除けば、後はティムしかいなかった。しかし、そのティムはハグルの視界にはいなかった。
その時、暗闇の中からベネッサがハグルの視界に飛び込んできた。咄嗟にハグルが尋ねる。
「ベネッサ!ティムはどこにおるのじゃ!」
ベネッサはここまで走って逃げてきたらしく、息を切らしながら答えた。
「ティムなら、ちょっと前までヤギ舎でヤギの世話を・・・」
「すぐに戦闘に加われと伝えるんじゃ!」
「う、うん」
ベネッサは頷くと、山羊舎の方へ走り出した。
目の前では、男たちが武器を手に雄叫びを上げながら駆けていく。
「ティム、頼むぞ」
そう祈るように呟くと、ハグルは村の中心部へと駆け出した。
ベネッサがヤギ舎に辿り着いた時、ゴブリンの唸り声はより一層大きくなっていた。同時に、男たちの雄叫びも聞こえてくる。
ヤギ舎の入口から中を覗くと、ヤギの餌である芝の上で仰向けに寝転がっているティムの姿があった。
すぐさまベネッサはティムに駆け寄った。ティムはすうすうと寝息を立てて眠り込んでいた。
ベネッサはティムを揺らした。
「ティム、起きて!ゴブリンに村が襲われてるの!」
しかし、ティムに起きる気配は無い。ベネッサは下唇をぐっと噛み締めると、ティムの顔を何度もはたいた。
「ティム!起きなさいよ!」
そこでようやくティムは目覚め、がばっと上体を起こした。
ベネッサが言う。
「ティム、ゴブリンに村が襲われてるの!今ハグルさんや村の皆が戦ってるのよ!ティムも戦ってあげて!」
しかし、上体は起こしたもののティムはまだ夢の中にいるようだった。そしてベネッサの言葉が聞こえているのか聞こえていないのか、そのままどさっと芝に倒れこみ、また寝息を立て始めた。
「こ、こ・・・この恥さらしがああァッ!!」
その翌朝、けたたましい罵声がハグルの自宅に響き渡った。
ハグルは腕を組んで、目の前で正座をしているティムを見下ろしながら、厳しい剣幕で捲くし立てた。
「ゴブリンに襲われて村が危険に瀕していた時貴様は何をしていたか・・・もう一回言ってみろ!」
「え、えーと・・・居眠りをしていました」
「お、お、おッ・・・大バカ者おおおぉぉぉ!」
再度ハグルが声を震わせながら怒鳴り、ティムは思わず耳を塞いだ。
「自分の身を危険に晒しながらも、ベネッサがお前を探しに行って全力で起こそうとしたのに、二度寝するとはどういうことじゃぁっ!」
「いやあ・・・それがその時の記憶が全然なくてですね・・・」
「そんなもの言い訳になるか!」
憤慨しきった様子で、ハグルは鼻を鳴らした。
「村でまともに剣を扱えるのは、わしと貴様しかおらんのじゃぞ!なのに、寝ていて戦闘に加わらなかったなんて・・・ご、ご、言語道断じゃあァッ!」
「ちょッ・・・」
ティムは再度耳を塞ぎながら言う。
「も・・・もう少し声のボリューム落としてもらえないすかねえ?実は二日酔いで頭痛が・・・」
「な・・・ん・・・じゃ・・・とオォ・・・?」
ハグルは見開いた目を血走らせ、歯をカタカタと鳴らせて立ち尽くす。
「ハグルの言いたいことはよくわかった! 今回は俺が悪い! 大変失礼しましたァー!」
そう言い放つとティムはもっともらしく平伏した。
「もういい!貴様には失望した!これからはお前には何も期待せんことにする!」
ハグルは険しい表情で言い放った。
「へえー・・・。ということは、これまで期待してくれたのかあ。意外だなあ」
「そりゃあ英雄ボヘミアンの息子じゃからな!どうやら見込み違いだったようじゃが・・・」
ティムは地面に視線を落としたまま、返事をしなかった。
ハグルは続けてまくし立てる。
「立派な勇者になると思っておったのに、何でこんなボケナスになるんじゃ!」
「・・・れた訳じゃない」
ティムが、ぼそぼそと呟く。
「は?何か言ったか?」
すると、突然ティムは立ち上がり、震える声で叫んだ。
「俺だって、好きで英雄の息子として生まれた訳じゃない!」
ティムの剣幕にハグルは怯み、思わず押し黙った。
「勇者にだって、俺はなりたくない!他人の人生を勝手に決めつけるなよ!」
ティムは乱暴に席を立つと、外に飛び出していった。
フラッシュバック―ティムの二年前―完
入口付近は町外れということもあり、閑静とした住宅街になっていた。しかし、それでも人々はたくさん行き来しており、町の繁栄振りが垣間見られた。
「よくしゃべりよく笑う人だったなあ、プーハットさんは」
ティムが両手を頭の後ろで組みながら言う。
「そうだな。でもなかなかいい人そうじゃねえか。フレデリックさんも優しそうな方だしなあ」
ライアンは安心したようにそう言った後、ぼんやりと遠くを見つめ始めた。
何か考え耽っている様子のライアンを見て、思わずティムが尋ねる。
「どうかしたの?」
「あ、いや・・・。前にどこかでフレデリックさんに会ったことがある気がしたんだが・・・」
「え、そうなの?」
ライアンは、少しの間ううんと唸った後「まあ、気のせいか・・・」と言った。
「それにしてもお前の親父、本当に英雄だったみたいだな。お前を見ていると、そういう要素があまりにも欠落し過ぎていて、正直半信半疑だったんだよな」
「失礼だな。俺だってやる時はやるんだぞ」
「じゃあ、次からはゴブリンと戦う前から逃げたりするのは控えてくれよ、英雄さん」
「はあ。気をつけます」
予想外にへこんでいるティムを見て、ライアンは喉を鳴らして笑った。
そして、今度は思い出したように苦笑いをしてティムに尋ねた。
「そういえば、お前何であんなこと言ったんだよ」
「あんなことって?」
「ほら、プーハットさんが最初にお前に質問した時、お前、自分は勇者だって言っただろ。あれ何だったんだよ」
「ああ、あれは別に深い意味は無いよ」
「まあ、無いだろうな」
「別に何者かと言われても、何者でもないからね。だから、なれたらいいな、という意味で言ってみた」
「全く。適当なこと言いやがって」
ライアンは、呆れたように笑うと、言った。
「でも、いつか、本当に勇者になれるといいな」
「ああ・・・そうだな」
ティムは歩きながら、ふと思いに耽る。
勇者・・・か。
フラッシュバック ―ティムの二年前―
ノックもなしにドアが乱雑に開いたかと思うと、よろず屋のハンスが血相を変えて転げ込んできた。
「たっ、大変です!ゴブリンの大群に村が!」
いすに腰掛けてうとうとしていたハグルだったが、その言葉で一気に目を覚ますと、険しい表情で立ち上がった。
「わかった。すぐに戦闘準備を」
ハグルは剣を手にすると、村の外れを駆け抜けた。もう日没は過ぎており、辺りは暗闇が支配している。
走りながらハグルは大声で叫んだ。
「皆の衆!ゴブリンの襲撃じゃ!男は武器を持て!女子どもは隠れるのじゃ!」
家々から、ぞくぞくと男たちが武器を持って出てくる。
しかし、グレンアイラ村は大きい村ではないので、戦力はとても充実しているとはいえない。しかも、男たちは特別剣の扱いに慣れている訳ではない。グレンアイラ村で剣の扱い方を知っている者は、ハグルを除けば、後はティムしかいなかった。しかし、そのティムはハグルの視界にはいなかった。
その時、暗闇の中からベネッサがハグルの視界に飛び込んできた。咄嗟にハグルが尋ねる。
「ベネッサ!ティムはどこにおるのじゃ!」
ベネッサはここまで走って逃げてきたらしく、息を切らしながら答えた。
「ティムなら、ちょっと前までヤギ舎でヤギの世話を・・・」
「すぐに戦闘に加われと伝えるんじゃ!」
「う、うん」
ベネッサは頷くと、山羊舎の方へ走り出した。
目の前では、男たちが武器を手に雄叫びを上げながら駆けていく。
「ティム、頼むぞ」
そう祈るように呟くと、ハグルは村の中心部へと駆け出した。
ベネッサがヤギ舎に辿り着いた時、ゴブリンの唸り声はより一層大きくなっていた。同時に、男たちの雄叫びも聞こえてくる。
ヤギ舎の入口から中を覗くと、ヤギの餌である芝の上で仰向けに寝転がっているティムの姿があった。
すぐさまベネッサはティムに駆け寄った。ティムはすうすうと寝息を立てて眠り込んでいた。
ベネッサはティムを揺らした。
「ティム、起きて!ゴブリンに村が襲われてるの!」
しかし、ティムに起きる気配は無い。ベネッサは下唇をぐっと噛み締めると、ティムの顔を何度もはたいた。
「ティム!起きなさいよ!」
そこでようやくティムは目覚め、がばっと上体を起こした。
ベネッサが言う。
「ティム、ゴブリンに村が襲われてるの!今ハグルさんや村の皆が戦ってるのよ!ティムも戦ってあげて!」
しかし、上体は起こしたもののティムはまだ夢の中にいるようだった。そしてベネッサの言葉が聞こえているのか聞こえていないのか、そのままどさっと芝に倒れこみ、また寝息を立て始めた。
「こ、こ・・・この恥さらしがああァッ!!」
その翌朝、けたたましい罵声がハグルの自宅に響き渡った。
ハグルは腕を組んで、目の前で正座をしているティムを見下ろしながら、厳しい剣幕で捲くし立てた。
「ゴブリンに襲われて村が危険に瀕していた時貴様は何をしていたか・・・もう一回言ってみろ!」
「え、えーと・・・居眠りをしていました」
「お、お、おッ・・・大バカ者おおおぉぉぉ!」
再度ハグルが声を震わせながら怒鳴り、ティムは思わず耳を塞いだ。
「自分の身を危険に晒しながらも、ベネッサがお前を探しに行って全力で起こそうとしたのに、二度寝するとはどういうことじゃぁっ!」
「いやあ・・・それがその時の記憶が全然なくてですね・・・」
「そんなもの言い訳になるか!」
憤慨しきった様子で、ハグルは鼻を鳴らした。
「村でまともに剣を扱えるのは、わしと貴様しかおらんのじゃぞ!なのに、寝ていて戦闘に加わらなかったなんて・・・ご、ご、言語道断じゃあァッ!」
「ちょッ・・・」
ティムは再度耳を塞ぎながら言う。
「も・・・もう少し声のボリューム落としてもらえないすかねえ?実は二日酔いで頭痛が・・・」
「な・・・ん・・・じゃ・・・とオォ・・・?」
ハグルは見開いた目を血走らせ、歯をカタカタと鳴らせて立ち尽くす。
「ハグルの言いたいことはよくわかった! 今回は俺が悪い! 大変失礼しましたァー!」
そう言い放つとティムはもっともらしく平伏した。
「もういい!貴様には失望した!これからはお前には何も期待せんことにする!」
ハグルは険しい表情で言い放った。
「へえー・・・。ということは、これまで期待してくれたのかあ。意外だなあ」
「そりゃあ英雄ボヘミアンの息子じゃからな!どうやら見込み違いだったようじゃが・・・」
ティムは地面に視線を落としたまま、返事をしなかった。
ハグルは続けてまくし立てる。
「立派な勇者になると思っておったのに、何でこんなボケナスになるんじゃ!」
「・・・れた訳じゃない」
ティムが、ぼそぼそと呟く。
「は?何か言ったか?」
すると、突然ティムは立ち上がり、震える声で叫んだ。
「俺だって、好きで英雄の息子として生まれた訳じゃない!」
ティムの剣幕にハグルは怯み、思わず押し黙った。
「勇者にだって、俺はなりたくない!他人の人生を勝手に決めつけるなよ!」
ティムは乱暴に席を立つと、外に飛び出していった。
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