エルゼリアの石 -Stones of Erserhia-

水野煌輝

文字の大きさ
29 / 34
第1章 守護神石の導き

第9話 守護神石の秘める力(3)

しおりを挟む
その日、前半は高原を、後半は荒野を歩き続けた。その後も何体かゴブリンと出くわしたが、それ程手を煩わせずに駆逐した。ソニアの魔法を見たいが為にライアンがわざと戦おうとせず突っ立っていた時には、ティムがライアンの尻を思い切り蹴飛ばした。

日が暮れてきたので、荒野の中にあった岩場近辺で三人は休むことにした。夕食には、ライムギのグリュエル(薄い粥)にエンドウマメを煮たものを作った。辺りもすっかり暗くなると、三人は鍋を囲んでグリュエルをすすり始めた。

「守護神石にそんな能力があったとはなあ」
ライアンが呟いた。

「本当にね」
器によそったグリュエルを息で冷ましながら、ティムが頷いた。
「他にはどんな能力があるのかな?」

「後はそうですね。守護神石を持っていると戦闘能力が上がります」

「そうなの?」

「そうですよ」

ライアンは頭を掻きむしりながら言った。
「マジかよ!そういう大事なことをもっと早めに教えてくれよな」

「ごめんなさい。てっきりもう知ってるものかと思って」

「いや、俺たち何も知らないからなあ」
ティムが鼻の下を掻きながら言った。
「じゃあもう一つ質問だけど、守護神石によって能力に違いはあるの?」

「はい、あります。まず司る神が違うので属性がそれぞれ違います。例えば私の持ってるアクアマリンには海の神が宿ってるから、属性は水です。ティムのサファイアには風の神が宿ってるから、属性は風。ライアンのルビーには火の神が宿ってるので、属性は火です」

「属性が違うとどうなるんだ?」と、ライアン。

ソニアは空の器にグリュエルをよそぎながら答えた。
「属性によって使える魔法が違います。例えばもしティムがサファイアの力を借りて魔法を習得したとしたら、使える魔法は風に関するものだけになるんです」

今度はティムが聞いた。
「じゃあソニアは水の魔法しか使えないの?」

「いえ、私はアクアマリンを手に入れる前から魔法を使うことができたので、それ以外の魔法も使えますよ。でもアクアマリンを持つことで水の魔法の力が強化され、比較的体力消費も軽減されるから、水の魔法以外の魔法を使うことはあまりないですけど」

「へえー」

更にソニアは続けた。
「後、守護神石によって強化される能力に違いがあります。強化される能力は全部で三つあるんです。物理的な攻撃力と防御力、それと魔法能力です。魔法能力は、魔法の攻撃力と防御力、どちらも含みます。私の持ってるアクアマリンの場合だと、物理攻撃力と防御力の上昇は低めですが、魔法能力の上昇は高いですね」

ティムがもう一度聞いた。
「じゃあさ。サファイアとルビーは?」

「サファイアはどの能力もほぼ均等に上昇しますね。ルビーは確か、攻撃力がよく強化される石のはずです」

「ははあ。ということは、俺たち知らないうちに強くなってたって訳か」
ティムは唸った。

「いえ、違います。持っているだけでは変化はありません。まずは石と心を共鳴させることができないとだめです」

「共鳴?」
ティムが目をぱちくりさせる。

「はい。石に宿る神と心を一つにすることです。ちなみに魔法もこの共鳴ができないと使えません」

ライアンは咀嚼しながら、神妙な面持ちでしばらく考えてから言った。
「じゃあつまりだ。もし俺が共鳴できるようになったとしよう。その場合、こいつを手放したら俺は弱くなっちまうってことなのか?」

「まあ・・・」と、ソニアは目をくりくりと動かした。
「相対的には、そういうことになりますね」

「むう。何か損した気分」

するとティムがげっぷ混じりに言う。
「じゃあルビーはお前がずっと持ってれば?もし他の石が全部揃ったら、渡してくれればいいよ」

「いや、別にいい」
ライアンが手で制す。
「結局いつか俺はこれを手放すんだから、それが今でも先でも変わりゃしねえ」

「ああ、そう?」と、ティムはグリュエルを口に掻き込む。

「ま、俺は今のままで十分強えしな。石でインチキする必要はねえ」
ライアンは誇らしげに鼻から息を吐いてみせた。

グリュエルの入った器を一旦置くと、ティムはソニアの方を見た。
「という訳だから、ソニア。食べ終わったら、俺たちに魔法の使い方を教えてよ」

ソニアは頷いた。
「分かりました。でも私は厳しいですよ。覚悟はいいですか?」

「あっ。じゃあやめます」
間髪を入れずにそう答えると、ティムはまたグリュエルを口に掻き込み出した。

「だよなー。そりゃやめるよなー。って、バカヤロウ」
すかさずライアンはティムの頭を引っぱたいた。

結局ソニアは、ティムとライアンの倍以上の量を食べた。

空になった鍋を見て、ティムは目をぱちくりさせた。
「ソニア、今日は魔法一回も使っていないよね」

ライアンも意地悪な笑みを浮かべて言う。
「ははあ。さてはソニアちゃん、魔法使わなくても大食いだな?」

「あうう・・・」

「あっはっはっは!」
顔を赤らめてうろたえるソニアに、二人は大笑いした。

ソニアは両手を前に広げて、弁解した。
「でも魔法を使うと、お腹が空くのは本当です」

「はいはい、そうですかー」

いかにも信じていないというようにティムがそう言うと、ソニアは小ぶりの頬をぷっくりと膨らませた。

「それは本当です」

するとライアンが言い放った。
「ま、何でもいいけど、ソニアちゃんは大食いだなあ!」

「もうっ!ライアン!」
ソニアが顔を真っ赤にしてライアンを睨むと、二人はまた笑い出した。
「そういう意地悪言うんなら、魔法の使い方教えませんよ!」

ティムが笑い過ぎてひいひい言いながら謝る。
「ごめん、ごめん。もう言わないから、教えてよ、ソニア」

「まったくもう・・・。仕方ないですね」

ライアンが目を細めて頷いた。
「そうだよな、大食いなのは仕方ないな」

「・・・もう絶対教えません!」
そう言い捨てると、ソニアはぷいっと後ろを向く。

「ごめんごめーん、ソニアちゃーん!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...