3軍男子の俺が1軍男子のアイツに求愛されるようになりました

休日の白

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 昼休みの教室は、いつもより少し騒がしかった。
 窓際の席で神谷が笑っている。周りには女子が三人、男子が二人。
 まるでドラマのワンシーンのように、教室の空気が神谷を中心に回っていた。

 「ねえ神谷くん、次の文化祭の出し物、どうする?」
 「バスケ部、模擬試合とかやってほしいって声あるけどな」
 「絶対盛り上がるって!」

 笑い声。
 神谷の声が響くたびに、空気が少し明るくなる。
 それを見ているだけで、胸の奥がざわついた。
 ――昨日の夜、あんなに近くにいたのに。
 今はもう、手を伸ばせば届く距離にいても、まるで別世界の人みたいだ。

 「透ー、これ見ろよ」
 神谷がスマホを見せてくる。画面にはクラスのグループチャット。
 「文化祭、うちのクラス“カフェ”やるっぽいぞ」
 「……へえ」
 「お前、どうせ裏方だろ? 俺、表でウェイターやるからさ、エプロン似合うだろ?」
 冗談めかして笑う神谷。周りの女子が「似合いそう!」と声を上げる。
 その声が、なぜか耳に痛かった。

 昼食のあと、神谷はバスケ部の練習に向かい、俺は一人で図書室にいた。
 静かな空気。ページをめくる音だけが響く。
 でも、集中できなかった。
 昨日の朝のあの会話、神谷の震える手、あの約束――全部、嘘だったみたいに思えて。

 「……透?」
 不意に声をかけられて顔を上げると、クラスメイトの林が立っていた。
 「お前、最近神谷と仲いいよな」
 「え?」
 「放課後とか一緒に帰ってんじゃん。昨日も見たぞ」
 「……ああ、まあ、たまたま」
 林が少し首を傾げる。
 「気をつけろよ。神谷、女子にも人気あるし、誤解されんぞ」

 “誤解”――その言葉が、胸の奥に刺さった。
 別にやましいことなんてない。
 けど、昨夜のあの抱擁を思い出すと、息が詰まる。

 放課後。
 神谷はグラウンドで、バスケットボールを軽々と扱っていた。
 汗に濡れた髪が光る。
 声を張り上げるチームメイト、笑い合う女子たち。
 その輪の中心にいる神谷は、いつもの“完璧な神谷”だった。

 「……透!」
 練習が終わったあと、神谷が駆け寄ってくる。
 「今日、屋上行くか?」
 「……無理だ。課題あるし」
 神谷が目を瞬かせた。
 「そっか。じゃあまた今度な」
 笑顔のまま、軽く手を上げて去っていく。
 その背中が、夕陽に溶けて見えなくなる。

 胸の中に、ざらつくような空虚さが広がる。
 ――俺たちは、昨日あんなに近かったのに。
 “逃げ場所”だった屋上が、今日は遠く感じた。

 窓の外で、夕焼けが校舎を赤く染めていた。
 俺はその光の中で、ひとり小さく息を吐いた。

 たぶん、神谷のことを“特別”に思い始めている。
 でも、その想いをどうしていいか分からなかった。

  翌週の月曜。
 教室に入った瞬間、空気がいつもと違うと感じた。
 ざわざわとした視線。ひそひそ声。
 俺の名前が、何度も小さくささやかれる。

 ――何だ、これ。

 席に着くと、隣の林が気まずそうに視線を逸らした。
 「……お前、知らないのか」
 「何を?」
 「掲示板。昨日の夜からずっと流れてる。神谷のことと――お前の名前」

 背筋が冷たくなった。
 スマホを取り出して、クラスの匿名掲示板を開く。

 《放課後、神谷と透が一緒に帰ってた》
 《なんか親密すぎね?》
 《屋上の鍵、神谷が開けて二人でいたって聞いた》
 《二人って、そういう関係?》

 文字が、視界の奥で滲んだ。
 悪意のない冷やかし――そのはずなのに、胸の奥が締めつけられる。

 「……誰が、こんな」
 「さあ。でも噂って、もう止まんねぇよ」
 林は困ったように言って、席を立った。

 昼休み、神谷の周りにはいつも通り人が集まっていた。
 だけど、その輪の中に入る勇気が出なかった。
 彼が俺を見るたび、ほんの一瞬だけ表情を曇らせるのが分かる。
 その曇りが、俺をさらに遠ざけた。

 放課後。
 教室に残っていたのは、俺と神谷だけ。
 沈黙が重たく降りる。

 「……透」
 神谷が先に口を開いた。
 「掲示板のこと、見たか」
 「見た」
 「俺、否定したんだけどさ……余計に面白がられて。ごめん、巻き込んだ」
 「……別に」
 「別にって言うなよ」
 神谷の声が、少し震えていた。
 「俺が余計なことしたせいで、お前が悪く言われてんだ。俺、ああいうのマジでムカつくんだよ」

 その言葉が、怒りでも悲しみでもない“焦り”のように響いた。

 「じゃあ、俺と関わらない方がいいんじゃない?」
 「……は?」
 「お前が庇えば庇うほど、変に見える。人気者の神谷が、俺なんかのために怒るの、余計におかしいだろ」

 神谷の目が見開かれた。
 「お前、それ本気で言ってんのか」
 「現実見ろよ。俺ら、世界が違うんだよ」

 静寂。
 神谷が一歩、近づく。
 机の角に手を置き、俯いたまま低く呟いた。

 「……逃げるなよ、透」
 その声が、震えていた。怒りと、哀しみが混ざって。

 「お前だけは、そう言ってほしくなかった」

 そのまま神谷は教室を出ていった。
 閉まるドアの音が、やけに重く響いた。

 誰もいない教室。
 カーテンが風で揺れて、机の影が波打つ。
 昨日までの“居場所”が、まるで別の世界になっていた。

 俺は机に突っ伏して、目を閉じた。
 胸の奥に残った神谷の声が、何度も何度も反響した。

 ――逃げるなよ、透。

 だけど今の俺には、その言葉が一番痛かった。
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