ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき

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直柾と隆晴

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 今日は夜通しゲームをする事にした。最近発売されたホラーゲームだ。襲い来るゾンビを倒しながら街を脱出する。
 一式を揃えたのは正輝まさきで、子供はゲームくらいしないと、と言っていた。数本の中にこのソフトを選ぶとは、正輝もなかなか。

「うわっ! わわっ、先輩! 死ぬ! 死にますーー!!」
「おー、見事な死にっぷりだな」
「あー……」

 ホラーゲームなんて初めてだ。隆晴りゅうせいのアドバイスをもってしてもこれが精一杯。

「先輩、お手本見せてください」
「いいけど、惚れても知らないぞ?」
「あはは、期待してます」

 ……と言いつつ、甘く見ていた。

 惚れる。これは惚れる。動きに無駄も隙もなく、流れるように避けたり確実にゾンビを仕留めたり。

「先輩、惚れました」
「だろ?」
「俺の命、安心して預けられます」
「お前、見る側に回るつもりだな?」
「だって先輩のスティックさばき上手過ぎですもん」
「ったく、調子いいなお前は」

 なんて話しながらも、順調に進んでいく。実況動画をアップしたら再生数が大変な事になりそうだ。話しながら操作出来るの、すごい。

「そういや、お前さ……」

 そこで突然、ガチャリとドアの開く音がした。


「……優くん? どうしてこんな時間までお友達がいるのかな?」
「え? 直柾なおまささん?」
「ただいま。次の仕事まで少し空いたから寄ったんだけど、ね?」

 顔は笑っているが、目が笑っていない。優斗ゆうとは慌てて口を開いた。

「えっと、俺がひとりなので、先輩が心配してくれて……今日は泊まって貰おうと……。母さんたちには許可は貰ってるので……」
「へぇ、そうなんだ?」

 どうしよう、笑顔が怖い。この前より怖い。こんな顔は初めて見た。普段が緩いだけに、その差が怖い。

 そんな二人を交互に見遣り、隆晴は察した。


 顔の良い、兄。


 ……なるほど。


「初めまして。橘 直柾サン」
「……初めまして」

 フルネームで呼ばれ、直柾は警戒した顔をする。顔を知られているなら、下手な言動は出来ない。……など、隆晴を前に思うわけがなかった。

「竹之内 隆晴君、だったかな。うちの優斗がいつもお世話になっています」

 にっこりと笑みを浮かべた。何故か底冷えする笑みに隆晴は一瞬目を瞬かせ、すぐに口の端を上げる。

「こちらこそ。優斗から突然兄が出来たと聞いてはいましたけど」

 そこで隆晴は優斗へと視線を向ける。

「優斗。とんでもない奴が兄になったもんだな」
「あ、あはは……」

 もう笑うしかない。そして、何故だろう。話を振らないで、と切に願いたくなるこの雰囲気は。
 そして同時に、隆晴は苦笑した。あからさまに“帰れ”と直柾の視線が告げている。

「過保護なのは勝手ですけど、優斗を困らせないでくださいね。兄になろうと、交友関係にまで口を出すのはどうかと思いますよ」
「交友関係、ね。可愛い弟のことを心配をするのは当然だと思うけど?」
「まあ、そうですね。でも俺は何年も前から優斗と家族ぐるみの付き合いをしてますから、安心してください」

 やけに強調してきた。優斗は身を固くしながら思う。この雰囲気、勝手に身体が緊張してしまうのだ。

「安心してください。手は出してませんから」

 手? 優斗はハッとした。

「あの、直柾さん。先輩は人に手を上げるような人じゃないので大丈夫です!」

 力いっぱいに言うと、クッ、と隆晴が笑った。直柾は笑っているような困ったような顔をする。

「優くんのそんなところが心配だよ」

 きつく抱き締められ、優斗は慌てて直柾の服を引いた。

「あの、直柾さん、人前なので……」
「ああ、ごめんね。二人きりの時はずっとこうしてるから、つい、ね?」

 そう言いながら隆晴に視線を向けると、隆晴は眉間に皺を寄せた。

 良く分からないが、二人が丁寧な口調で言い争いをしているのは分かる。
 きっと、直柾は優斗に過保護だから。隆晴も意外と過保護で、それから負けず嫌いだから。……と、優斗はそう思っていた。
 二人に心配されている、と、嬉しいような居心地が悪いような。

「え、えっと、お茶淹れますね?」
「ごめんね、そろそろ仕事に戻らないといけなくて……。優くんの顔を見に来ただけなんだ」

 そっと髪を撫でる直柾に、優斗は目を瞬かせた。まさか、本当に顔を見る為だけに?

「……でも、優くんが心配だよ。仕事、調整出来ないか訊いてみるね」
「えっ!? いえ、大丈夫ですからお仕事行ってください! 直柾さんただでさえ忙しいのに調整なんて……!」

 それこそ今後寝る暇もなくなってしまう。そんな心配をする優斗をぎゅうっと抱き締め、隆晴へと視線を向けた。

「優くん。客間は整えてあるはずだから、ちゃんと別々の部屋で寝るんだよ?」
「え、でもあれは直柾さんの部屋じゃ……」
「俺は、ここには越して来れないから」

 前にも聞いた事なのに、何故か胸がチクリと痛んだ。

「優くん、いい? ちゃんと別々の部屋で寝るんだよ? それから、もし何かあったらすぐに連絡してね?」
「えっと、分かりました。俺は大丈夫ですから、そんなに心配しないでください。お仕事、頑張ってくださいね」

 抱き締められたまましっかりと返事をすると、直柾はようやく優斗を解放して、ありがとう、と優斗の頭を撫でた。

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