35 / 40
それぞれの苦悩?
勿論助けなど来る筈もなく、「一旦保留で……!!!!」と叫んでその場は何とか解放された。
ズルズルと座り込んでしまった優斗を隆晴が横抱きに抱えてソファに運び、拗ねた直柾が隆晴から奪ってぬいぐるみ抱きにした。
待って、これでも決して小さくはない成人間近の男なんですけど。と思うが、もうツッコミを入れる気力もない。
顔が見えなければ何とか。いつもの癖でそのまま抱き抱えられて髪や頬を撫でられて、逃れるためにクッキー缶を取りに行こうとしたら隆晴が持って来て食べさせてくれた。
雛の餌付け、と現実逃避をしてから慌てて二人から逃れたのだが。
……その晩、大変な事に気付いてしまった。
翌日。まだ早い時間の、学食。
友人である笹山 耀と昼食を終え、水の入ったグラスを指で撫でながらチラリと耀を見る。
「あの、さ」
「ん~?」
「笹山は、告白する時って、そういうことしたいって気持ちも込めて、する?」
言葉を選びながら問う優斗に、耀は目を瞬かせた。
「そういうこと、って」
「そ、ういう……肉体的、な……?」
「ちょっ……! 橘からエロい話振ってくるとか!」
「ちがっ……そうじゃなくて!」
違うんだ、と主張したが、まあまあ、と何故か達観した顔で宥められた。
「いやー、橘ってそういうのNGって顔してるからさー。で? エロいことしたい子がいるって?」
「いないよ!」
「可愛い? 美人? 何カップ?」
「だからっ、違うんだって! そのっ、友達がそんな話してたからっ……」
「へー、友達なー? その友達は何も間違ってないと思うけどな。男はだいたい下半身に狼を飼ってるだろ?」
「なんの話だよ」
比喩が優斗には少し高度だった。怪訝な顔をするものだから、耀は思わず吹き出してしまい優斗に怒られた。
「柊木先輩が男の本来の姿だよな」
「あの人は特殊だと思う」
見かける度に一緒にいる女性が違う。さすがの優斗も、腰に手を回すのが男女の一般的なスキンシップだとは思わない。
隆晴を貰うと言っていたが、後日女性とキスをしている場面に出くわし、今思えば隆晴の為に一芝居打ったのだろうと思えた。普通に良い人では。
「でも、そうだよね。それが普通、なんだ」
今のままではなく恋人になりたい、という事は、“普通”は肉体関係を含んでいる。つまりそういう対象として見られていた、という事。
男の自分相手にまさかと今でも思うが、それなら今まで通りでも良かった筈で。
……そう思うと今までの関係が全部嘘だったようで、悲しみや虚しさや、良く分からない感情が押し寄せてきた。
「でもさ、中には心の繋がりがあれば他はいらないって人もいるけどな」
「そうなの……?」
「そうそう。俺のバイト先の先輩がさ、結婚するまではキスまでって決めてて、彼女が望まないなら一生しなくてもいいって人で」
そんな人もいるのか。優斗は光明を見た気がした。
「それで、彼女の方が先輩の愛を信じられなくなってもう五回は破局してる」
「えっ、ええっ……」
「で、六人目の彼女がなんと先輩と同じ考えの人で、交際一年で婚約しました!」
「わっ、おめでとう!」
「ありがとう! 橘ってやっぱいい奴だな!」
耀は明るく笑った。
「普通がどうとかじゃなくてさ、大事なのは相手を好きかどうか、信じられるかどうかじゃないかなって俺は思うな」
まあFカップの彼女は欲しいけど、と真顔で言う耀に、いい話が台無し、と優斗は笑った。
一方、隆晴はというと。
何故か優斗に想いを告げた事が叶多にバレて、悠長に待ちすぎだと説教された。
「言ったろ? 隆が危機感持つくらいなら、相手も焦ってるって」
「……聞いてない」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いてない」
「あーっ、そっかー。ってか、俺が言っても余計なお世話って言われてただろうしな~」
隆晴はグッと言葉に詰まる。叶多の言う通りだ。
「でも俺、いい仕事したよな~」
俺最高、と自画自賛する叶多に、隆晴はピクリと反応する。皆まで言わずとも、叶多が優斗に何かを仕掛けた事は察した。
「優斗に何をしたか、吐け」
「えっ!? なんで容疑者扱い!?」
「日頃の行いだな」
「隆に対してはいい行いしかしてないけど!?」
「優斗に近付いたことがまず駄目だ」
「出た、番犬!」
ギャーギャーと騒ぐ叶多を見下ろし、ふと、男相手に本気だと知っても態度も変えない叶多は実は貴重で良い友人かもしれないと思う。
まあ、それと優斗に近付いた事は別問題だが。
……何故かバレた、と隆晴は思っているが、昨日帰ってからぼんやりしたり溜め息が増えたり頻繁にスマホ画面をつけたり、かと思えば清々しい顔をしていたり、端から見ればバレバレだった。
寮の部屋の外では普段通りに振る舞えている事が救いだけど、と叶多は思う。こんなアンニュイ顔の隆晴を世に放てば女の子たちを根こそぎ持って行かれてしまう。
この顔を見せたら優斗も簡単に落とせるのでは? とも思うが、優斗の前では格好を付けたい隆晴には難しいだろう。
また無意識に溜め息をつく隆晴を、恋愛に関しては不器用だな、と見つめ叶多も溜め息をついてしまった。
一方の直柾は。
「橘君、今の演技最高だったよ! こんな役も出来るとは、さすがだね。正式に君の事務所にオファーさせて貰うよ」
「! ありがとうございます!」
直柾は深々と頭を下げた。
以前出演した映画の監督が、直柾を指名して個人的にオーディションをしたいと申し出たのだ。
一時記録用に録画した映像を見ながら、監督は満足そうに頷く。
今までは来なかった、叶わない片想いに苦悩する役だ。容姿に恵まれながらも自分に自信がなく、想いを告げる事も出来ずに下を向き、想い人の結婚式後に独り静かに涙を流す。そんなシーン。
この役は、まさに今の自分の心境だ。もし優斗があの男を選んだなら、と想像すれば簡単に役に入り込めた。
優斗との出逢いで、演技の幅は広がった。それは嬉しい誤算であり、優斗を利用しているようで後ろめたさもある。
経験とはどんな書物や知識よりも人を成長させるものだと、直柾はそっと苦笑した。
……だが、この役のようにおとなしく優斗をあの男に渡すつもりは、更々なかった。
あなたにおすすめの小説
ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。