触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき

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第二王子シオン

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 部屋へと戻り扉に手を掛けたシグルズは、眉間に皺を寄せた。無言で合図され、俺が数歩下がると、シグルズは慎重に扉を開ける。

「やあ、シグルズ。お邪魔しているよ」

 中にいた人物は、シグルズにのんびりとした声を掛けた。

「……何故、貴方様がこのような場所に」
「ちょっと野暮用でね。鍵は開けさせて貰ったよ」

 さらりと言う相手に、シグルズは苛立ちを見せる。隠さず溜め息をつくあたり、わりと親しい間柄のようだ。多分、危なくはなさそう。


「誰?」

 シグルズの横から覗くと、ベッドの縁に座っていたのは、とても綺麗な顔をした青年だった。俺と同じくらいか年下かも。儚げな印象の彼は、ふわりと優しく笑った。

「初めまして、聖者様。私はシオン。この国の第二王子だよ」
「えっ、王子様!?」

 思わずシグルズの隣をすり抜けて部屋に入る。でもシグルズには止められず、溜め息をつかれただけだった。

「え、すごい、本物の王子様だ……金髪青い目とか、理想の王子様じゃん……すごい、めちゃくちゃ綺麗……」

 白く滑らかな肌に、薄い唇。睫毛は長く、瞳はサファイアのように美しい。髪は太陽のように輝き、目映いばかりだ。
 お忍びスタイルなのか、ベージュのスラックスと白シャツとベストだけ。それでもファッションショーのトリを余裕で務められるくらいに絵になる。さすが王子様。


 思わずまじまじと見つめると、綺麗な顔がクスクスと楽しげに笑った。

「あっ……王子様に失礼でしたよねっ」
「そんなことはないよ。地位で言えば、聖者様の方が私より上だ」
「王子様より……」

 そういえば聞いた気もする。ふとシグルズを見ると、スッと視線を逸らされる。

「いや、別に気にしてないし、今まで通りでいいよ」

 今更恭しくされても困る。笑ってみせると、シグルズもそっと目元を緩めた。
 その様子を見ていた王子様……シオン様は、ベッドから下りて迷いなく片膝をつく。そしてまるで騎士のように俺の手を取った。


「聖者様。お初にお目に掛かるにも関わらず不遜な態度を取りましたこと、どうかお許しください」
「うわわっ、王子様がそんなっ……」

 慌てるあまり、シオン様の手をぎゅっと握って立ち上がらせてしまう。……王子様を、グイッて引っ張っちゃった……。でもシオン様は嫌な顔もせずに、眩しい笑顔を見せてくれた。

「あのっ……こちらこそ失礼な態度で申し訳ありません。庶民の俺には権力なんて分不相応でして、その……俺には、庶民として接してください」

 間近で輝くロイヤルスマイルを浴びた俺の顔は、多分真っ赤だ。伝えたいこともしどろもどろになる。

「聖者様は心優しく、大変愛らしいお方ですね」
「っ……!?」

 指先にキスされ、声なき悲鳴を上げた。
 王子様の威力……すごい……。
 思わず固まる俺にシオン様はクスリと笑って、手の甲や手首にまでキスをする。あまりにも自然に。


「アオバ」
「はっ!」

 肩を掴まれ、我に返った。

「いや……王子様すげぇ……すごい自然だし、……心臓が痛い」

 胸を押さえると、シオン様は満足げに笑う。一方のシグルズは大変不満な顔だ。

「まさか君は、殿下を……」
「さすがにこれで恋に落ちるほどお姫様じゃないんだわ……」
「落ちてくれなかったとは残念だな。私は聖者様とお近付きになりたいけれどね」

 ロイヤルスマイルの大安売りかな。また顔が熱くなる。男にも効くとはさすが王子様。ドキドキしてそっと視線を逸らした。

「私の時と、随分態度が違うな?」
「そりゃそうだろ」
「何故だ」
「何故って、俺にとっては美貌の騎士様ってより、ただのちょい意地悪なイケメンだし」
「褒め言葉か?」
「そういうところだよ」

 頬を染めるタイミングがない。


「随分親しそうだね。もしかして、恋仲になったのかな」
「ええ」
「いえ、違います」

 声が重なり、お互いを見る。多分シグルズは心配してるんだろうけど、シオン様のは社交辞令だし、俺もシオン様に恋するとかない。

「あのさ、シグルズ」
「このような場所まで訪ねて来られるとは、どのようなご用件で?」

 俺の声を遮って、強制的に話を最初に戻す。シグルズは俺を隣のベッドに座らせてから、俺とシオン様の間に立った。
 シグルズの横から覗くと、シオン様はクスリと笑い、またベッドの縁に座る。そして何かを取り出した。

「え? 外の音が、消えた……?」
「風の神聖石の力だよ。聖者様のお力が込められたこの石があれば、私でも風の力を僅かだが使えるようになるんだ」
「なるほど……。風の力なら、周囲の空気を振動させて、音が外に伝わるのを止めるとか出来ますよね」
「さすがは聖者様。聡明でいらっしゃる」
「えっ、そんな、からかわないでくださいよ」
「今のは本心だよ」

 シオン様に真っ直ぐに見つめられるとやっぱりドキドキしてしまう。


「えっと……綺麗な石ですね」
「触ってみる?」
「いいんですか?」
「勿論だよ」

 渡された石は、片手に乗る大きさだ。透明度の高い薄緑色の宝石で、近くで見ると中に赤い文字が書かれている。

「本当に綺麗ですね」
「そうだろう? 王家に代々伝わる秘宝でもあるからね」
「秘宝っ……」

 思わず取り落としそうになり、慌てて両手で掴んだ。

「落としたくらいでは割れないよ」
「あ……安心しました……。……あれ?」

 安堵してもう一度石を見ると、文字が増えている。

「この世界を満たすもの、寄り添うもの、その欠片をここに留め、心正しき者の力となれ……?」
「聖者様?」
「RPGみたいだな……。これが使えるってことは、シオン様は心正しき者なんですね」

 異世界のアイテムなら、悪者は使えない仕様だろう。敵味方を判断するのにとても便利だ。


「まさか聖者様には、その文字が……」
「これ、小さいけどそう書いてありますよね?」
「私には読めないよ」
「え?」
「これは、人間の文字ではないから」
「えっ……」
「記述にある聖者様のお言葉では、風の精霊が記した文字だとされるのだが……他の属性の聖者様には読めなかったそうだよ」

 シン、と静まり返る。

「俺の属性は風じゃないし、……俺自身が精霊?」
「君は、……その思考にはいつも驚かされる」
「いつもみたいに素直に罵ってくれよ」

 言葉を選ぶと逆に馬鹿にされてるように感じる不思議だ。

「聖者様の属性とは?」
「その……シグルズ、言っていい?」
「アオバの属性は透明。パキュロスです」
「パキュロス?」

 俺の代わりにシグルズが答えた。もうこれ以上会話をさせないとばかりに。

「水棲、蔦型問わず、パキュロスが生息する場所で力を発揮出来るようです。中でも他者への回復能力が突出しております」

 力を得る方法も、攻撃が出来ないことも、シグルズは伏せる。方法は話されたら困るけど、全部話すほどはシオン様を信頼してないのかな?


「そうか……。神聖力が目覚めたなら、ドラゴン討伐は中止だ」

 やった! 内心でガッツポーズした。いくら強くても、やっぱシグルズとジンに危ない目に遭って欲しくないもんな。

「聖者様は、心優しきお方。そう信じてお話いたします」

 シオン様は改まってそう言い、一度そっと息を吐く。

「シグルズ。君を訪ねた理由の、結論から言おう。私は、父と兄を討とうと考えている」

 顔を上げたシオン様は、今までの穏やかさが嘘のように鋭い顔つきをしていた。

「今の王政は腐りきっている。君も分かっているだろう?」

 第一王子は自らの治める領土を他人に任せ、贅沢三昧で遊び回っている。
 王は政治に無関心で、実質的に政務を執るのは宰相だ。
 宰相は他国の使者が訪れる王都の、それも裕福層の税だけを軽くし国が豊かなように見せかけ、地方には重税を課し、民が飢え死にせず税を納められるギリギリまで絞り取っている。

 王都から遠く離れたこの街が豊かなのは、魔物の棲む森の近くに誰も行きたがらなかったため、地元領主に自治が任されているからだ。


 その話を聞き、すぐに納得した。ここ以外の村や街は、いまいち活気がなかった。みんな華やかな色の服を着てはいたけど、生地はところどころ擦り切れていた。
 異世界だからそんな感じなんだと思ってたけど……考えれば分かることだった。

 世界に関係なく、税が重ければ暮らしは豊かにならない。服が擦り切れても気軽に新しい物を買えない国なんて、政治が破綻している。

「君を討伐に向かわせたのもそうだ。国内の税だけでは足らず、君にドラゴン討伐をさせ、隣国へ戦争を仕掛けるつもりなんだ」

 この森を通れるようになれば、兵も動かせる。東の国は豊かだと聞いた王が、狙いを定めたとシオン様は言った。


「君は家門を守る立場もある。手を貸せとは言わないが、私たちが王城を攻める間、目を瞑っていては貰えないだろうか」

 シグルズが王に絶対服従だったのは、家門を守るためだった。もし手を貸したとして、シオン様が失敗すれば、シグルズと一族は反逆者として処刑されるのだろう。

「王都の状況など届かないこの地で、君はドラゴン討伐をしていた。それは城の者も知っていることだが、聖者様にもその証人になっていただきたい」

 視線を向けられ、反射的に頷く。それがシグルズを守るためなら反対のしようもない。
 シグルズを見ると、眉間に皺を寄せてシオン様を見据えていた。



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