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甘口
しおりを挟むいつものとこな、と返信が来て、授業が終わるとすぐに向かった。
あまり使われていない棟の二階の、一番奥。ホワイトボードと長机が二つと椅子が四脚置かれただけの狭い部屋だ。
急いだつもりがもう隆晴は来ていて、脚の長さの違いかな? と少し悔しい気持ちになった。
隆晴の向かいに座ろうとすると、こっち、とばかりに隣の椅子を引かれる。少し迷い、優斗は素直にそこに座った。
隆晴が驚いた顔をするが、普段からそこまでツンツンしているわけではない。……と思う。……多分。……いや、彼に対してはしているかもしれない……。
「悩み事か?」
「え?」
「お前から場所指定してきたことないから」
そういえば、と優斗は思う。いつも隆晴が決めた方へと向かっていた。優斗としては、場所はどこでも良かったからだ。
悩み事、も、確かにある。
それと、ここで会いたかったのは、またあの女性がいたらと思うと少し気が重かったし、誰の目も気にしたくなかったから。
それに……。
黙り込み視線を落とす優斗を、隆晴は心配そうに見つめる。
優斗が話し出すまで何も言わずに待ってくれる。そんなところが昔から居心地が良くて、昔から、心配を掛けてばかりだ。
このまま言えずにいては、また心配させてしまう。
心配するような事は何もなくて、だから……。
「あの……」
「ん?」
「り、…………隆晴、さん……」
そっと、言葉を零した。
ただ名前を呼ぶだけ。それだけで心臓が口から出てきてしまいそうだ。
シンと静まり返る室内。反応がない事が不安になり、チラリと視線を上げる、と。
「わっ!」
突然グッと腕を引かれ、バランスを崩し隆晴の方へと倒れ込む。するとそのままきつく抱き締められた。
「…………なに、お前、心臓に悪い……」
「え……、先輩が動揺するなんて」
「馬鹿。あんな不意打ち、動揺くらいするだろ」
はーー、と息を吐き、気持ちを落ち着ける。……落ち着かない。落ち着け。
抱き締めた優斗に心音が伝わっている事は気にせずに、いや、むしろ伝われ。どれだけ驚いたか思い知れ。
抱き締めた優斗の耳が徐々に赤くなる様子に、ようやく気持ちが落ち着いてくる。もっと動揺しろとばかりに更にしっかりと抱き込んだ。
「急に、どうした?」
「え、えっと、ただ、呼ぼうかと……」
「きっかけがあるだろ」
「……その……女の人が、先輩のことを名前で呼んでいて」
「女? ……ああ、あいつか」
「仲いいんですか?」
「別に」
「……そうですか」
優斗の返事は釈然としない。
「あいつに何か言われたのか?」
「いえ。その人たちが先輩の話をしてて、名前で呼んでいたので……」
「本当に、何もないんだな?」
「はい」
優斗はコクリと頷いた。本当に、隆晴が気にするような事は何もなかったのだから。
しばし優斗の顔をジッと見据え、ひとまずは納得したようだった。
だが優斗を膝の上に乗せたまま。離すか、と言わんばかりにしっかりと腰を抱かれ、優斗は降りる事を諦めた。
「それで、そいつに嫉妬したってことか」
「違っ……、…………わない、かもしれません……」
ポツリと肯定する言葉が零れ、隆晴は目を見開いた。
「俺に、こんなことを言う資格はないですけど……。俺は、多分、先輩の特別になりたいんです」
あの女の人よりも。自分以上に遠慮なく扱われている叶多よりも。誰よりも一番の、特別になりたい。
ぽつりと心の内を零す優斗を、隆晴はまた驚いたように見つめて、……そっと、優しく目を細めた。
「馬鹿。もうなってるっての」
コツ、と額同士が触れる。
「俺がここまで構うのも、追いかけるのも、お前だけだから。俺の特別はお前だよ」
「っ……あ……りがとう、ございます……」
「どういたしまして」
クスッと笑う隆晴の吐息が唇に触れる。
開け放した窓から、サラサラと枝葉の擦れる音が聞こえる。穏やかな風が髪を揺らした。
「もっかい呼んで?」
「え、っと……」
「呼んで。優斗」
額を離し、両手で頬を包み込む。
優しくて、甘い色を浮かべた瞳。誘われるように、口を開いた。
「隆晴、さん……」
「もっかい」
「隆晴さん……」
大きな手のひらが頬を撫で、真っ直ぐに見つめられる。引き寄せられるように顔が近付き、……ギュウッと抱き締められた。
「優斗」
「はい……」
「好き」
「っ、……はい」
好き。
俺も、好きです。
ただそれだけが、まだ、言えない。
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