ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき

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直柾のお願い

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 それから数日後。
 直柾なおまさはとても爽やかな笑顔で訪れた。

「優くん。一緒にお風呂入ろう?」

 にこにこと笑う直柾に、優斗ゆうとは目を瞬かせる。

「えっと、男二人だと少し狭いかなと」

 一人で使うには広すぎるバスルームも、さすがに男二人では手狭になってしまう。もっと子供の頃なら何とかなったかもしれないが。

「優くんは、もう少し警戒心を持ってもいいかもね」

 物理的な容量で考える優斗に、直柾は自分から言い出しておきながら心配になってしまった。

「警戒心くらいありますよ。でも、兄さん相手に警戒なんて、…………あっ」

 思い当たった優斗は顔を赤くする。

「警戒しなくていいの?」
「……します」

 俯いた優斗の髪を指先で撫でながら、直柾はクスリと笑った。

 出逢った頃は年齢に似合わずしっかりした印象だったが、段々と幼くなっているようでとても可愛い。それが自分が溺愛してきた成果なら、嬉しかった。

「なので、お風呂は駄目です」
「どうして? 兄弟じゃない」
「兄弟ですけど、恋人候補ですから……」
「そうだね。俺は、優くんの恋人だよ?」
「候補」
「恋人だね」

 語尾にハートマークが飛んだ。

「でも、その……、先輩も駄目だって怒ると思いますし……」
「優くん。恋人といる時に他の男の名前を出すのは良くないよ?」

 その“他の男”も恋人候補なんですけど、……とここで言うほど馬鹿ではない。優斗は口を噤んだ。

「優くんと恋人になった日の帰りにね、あの男……、……隆晴りゅうせい君と話し合って、決めたことがあるんだ。優くんとしたいことは、お互い許可を取らずにしようって」

 候補が抜けているし、あの男って言った。いや、それより勝手に何を決めてるんですか。優斗は色々とツッコミたい気持ちをグッと堪えた。

「三人揃う時はそんなにないだろうし、許可を取るにもお互い駄目だって言うからね。俺たちは、ライバルなんだよ」

 ライバル。改めて言葉にされ、優斗は視線を落とした。

「……出来れば、仲良くしていただけたらと……」
「優くんはいじわるだね。好きな人を奪おうとしている相手と仲良く、なんて」

 そうだった。あまりにも無神経だった。
 二人は優斗の為に様々な事を我慢してくれている。それなのに……。

「……なんて。ごめんね」

 俯く優斗の手を取り、チュッと指にキスをする。顔を上げると、すっかり笑顔の直柾がいた。

「……兄さん、意地悪です」
「ごめんね」

 よしよし、と頭を撫で、ギュッと抱き締める。

 つい、嫉妬をしてしまった。優斗の行動を決めるのは隆晴だと言われているようで、今までもそうだったのかと思うとついカッとなってしまって……。
 今でも時々、自分の知らない二人の時間がある事に不安を覚える時がある。駄目だな、と直柾はそっと息を吐いた。


 抱き締められ、背を撫でられながら、お風呂……、と優斗は考える。
 直柾ならきっと嫌がる事はしない。駄目だと言えば聞いてくれる。そう、信じられる。

 それに、可愛いと、好きだと言ってくれる直柾も、実際に裸を見れば抱きたいなんて気持ちもなくなるかもしれない。
 もしそう気付くなら、早い方が良い。

 だが、母たちには“良い年した兄弟が一緒にお風呂”という光景を見られたくはない。夕方からは駄目だ。うーんと唸った。

「明日か明後日なら午前中で帰れますけど、兄さんは……」
「ちょうど明日、午後からオフなんだ」

 直柾はパッと顔を輝かせる。

「兄さん、お休みってあるんですか?」

 つい驚いた顔でそう言ってしまい、口元を押さえた。さすがの直柾も休みくらいはあるだろう。失礼だった、と直柾を見るが、にこにこと嬉しそうに笑っていた。

「来月はね、丸一日オフの日もあるんだよ。それ以外でも優くんと過ごせる時間が増えそうなんだ」

 心底嬉しそうな顔をしているが、優斗は衝撃を受けた。つまり、今までずっと、休日ゼロという……?

「優くん?」

 思わず直柾をギュッと抱き締める。よしよし、とばかりに頭も撫でた。

「あまり無理はしないでくださいね」

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