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白竜族の村2
しおりを挟む「ちょっと色々見てくる」
フィンレーはキラキラした目でそう言って、キョロキョロしながら大通りを歩いて行った。
ノーマンは彼が迷子にならないようにとそちらへついて行く。
白竜族は穏やかで、人間だと知られても問題ない、この村は安全だと言い残して。
ノーマンが言うならと、ウィリアムは暖人を連れて洋品店に入った。
人も疎らな広い店内は、コートを脱いでも凍えない温度。暖人もおそるおそるコートを脱ぐ、と。
「っ……まさか、黒竜族っ……」
近くの店員が顔色を変えた。視線の先は暖人……ではなく、オスカーだ。
「人間だが? こっちは黒髪に見えるが青で、弟だ」
オスカーはしれっと暖人の話まで混ぜて否定する。濃紺の髪と金の瞳が黒竜族だと思われたのだろうが、オスカーの瞳に黄緑は入っていない。
瞳の色を見せようとしてジッと見据えると、店員は怯えたように後ずさってしまった。
「威圧感がありますが、彼は人間ですよ。私たちは白竜族の知り合いにこの大通りを紹介していただきまして」
ウィリアムは穏やかな笑みを浮かべる。オスカーが怯えられるのはいつもの事だが、竜族にも通じるとは少々驚いた。
店員はウィリアムと涼佑へと視線を向け、ハッとしたように優雅に一礼した。
「大変失礼致しました。あちらの試着室をお客様専用とさせていただきますので、どうぞごゆっくりお選びくださいませ」
右手側を示すと、別の店員がサッと貸切の札を立て、頭を下げる。
通路の奥に試着室はあるらしく、ここから見えるだけでも四つは部屋がありそうだ。
「ご必要でしたら、私共がお手伝いいたしますが」
店員の目がキラリと光る。だがそれをウィリアムは丁重に断った。
(白竜族……思ってたのと違った……)
広場の店は穏やかそのものだったので、この店か大通りだけかもしれない。暖人はつい見回して、店員たちの目が光るのを見てしまった。
「ここに来る人間は金払いが良いのかな」
「他の人間が来られる場所じゃないとは思うが……。だから問題ないと言ってたのか」
ウィリアムとオスカーは納得する。敵意を持たれるよりは良いが、いまいち落ち着かない。だがこの様子だと、店を変えても同じだろうと肩を竦めた。
「ハルト、おいで」
「っ……、はい」
ウィリアムに手を引かれるままについて行く。きっと気付かれてしまったのだ。
黒竜族はもう悪い事はしない。滝の側で静かに暮らしている。だから受け入れて欲しい。そう言いたくても、言えなかった。
ノーマンが連れて来てくれた村だ。黒竜族と繋がりがあり偵察に来たのだと勘違いされる訳にはいかない。それに、昔の恨みで黒竜族を討とうとする者もいるかもしれない。
それを話すにしても、人間である自分がでしゃばるのではなく、白竜族のノーマンが決める事だ。
無意識に俯いてしまった頭を、オスカーがポンと撫でる。その後を涼佑がわしゃわしゃと撫でた。
彼らは何を言うでもなく、暖人に笑みを見せて服を選び始めた。
「この生地は珍しいね」
「ああ。この光沢は絹か?」
「それにしては伸びが良くて肌触りも良いよ」
「着やすそうだな」
ウィリアムとオスカーはそう言って暖人に服を当ててみる。
「あの、俺に当ててもサイズが違いすぎますけど」
「これはハルトの服だよ」
「え」
「これもいいな。着てみろ」
「え、あの……」
戸惑っている間に四着分を渡され、試着室に押し込まれてしまう。
(……確かに、着心地良さそう)
淡い青の光沢のある白い生地。しっとりとして滑らかなそれは、袖を通すとサラリとしていた。
一着目と二着目はワンピースのようなデザインで、ウィリアムたちに見せると「天使……」「これは天使」「ああ、いいな」と口々に褒め讃えた。
暖人としては、袖や裾に入った銀と水色の豪華な刺繍のせいだと思う。この服は神話の本の挿絵にありそうなやつだ。
三着目と四着目は男性用のチャイナ服のような上下分かれたデザイン。下がはけて、スースーしない安心感が凄かった。
着替えている間に二人が会計を済ませてしまった服は、暖人の部屋着になるらしい。
オスカーが買ったものは、自分の屋敷に置く暖人用。暗に泊まりに来いと言われている。
部屋着には勿体ないが、外では着られない事は暖人にも分かっている。この美しく不思議な生地はどこの店の物だと訊かれても困るからだ。
試着室を出た時、涼佑は離れた場所で何やら真剣に吟味していたが「はるにプレゼント」と見せてくれたのは、まさかの着心地の良い下着だった。二人の服より内側に着るものだから、と笑顔で言って。
(爽やかイケメンにしか許されないやつ……)
ありがとう、と受け取りながら、ウィリアムやオスカータイプのイケメンがしたら下心をヒシヒシと感じてしまうやつだ、と内心で呟く。
涼佑にも下心はあるが、爽やかで物静かな外見が下心を綺麗に覆い隠していた。
「俺ばかり買って貰うのは……。あ、これウィルさんに似合いそうです。こっちはオスカーさんに。涼佑は……これ」
少し離れた位置にある服を取りに行き、三着をそれぞれに渡す。
「一目でピンときました。絶対似合うやつです」
きっとどれを着ても着こなしてしまうだろうが、その中でも主観的に着て欲しいと思う服を選んだ。
暖人の選んだ服、と三人とも即決で会計しかけたのを、暖人は慌てて止めて試着室へと押し込む。さすがにサイズくらいは確認して欲しい。
・
・
・
「ハルト、どうだい?」
最初に顔を出したのはウィリアムだ。暖人はそちらへと振り向いて。
「お……思った以上に、王族のお方……」
思った以上に似合う。似合いすぎる。
ウィリアムには、暖人が貰った服と同じ絹のような手触りの、白く長い服を選んだ。
裾や袖、襟元に施された華やかな刺繍は、この国の雪のように光の加減で虹色に淡く輝いている。
「……オアシスに宮殿があってライオンがペットで奥さんが百人くらいいる王様……」
頭を覆う布はないものの、まさにそれだ。ウィリアムなら妻が百人いても全員を満足させられそうなところが想像だけではない気がする。
「それならハルトには、百人に与える分の愛情を、全て一人で受け留めて貰わなくてはね」
「え? あの、ウィルさん……?」
腕を引かれ、あまりにも自然に試着室の中へと連れ込まれる。カーテンも閉められて。
(あまりにも自然な壁ドン……!)
流れるように顔の横に腕を付かれた。
もう片手が顎を掴む。いつものように頬ではなく、しっかりと顎を。
「愛しているよ、ハルト」
「んうっ」
グッと上向かされ、唇を塞がれた。顎を掴む手が強くて、顔を背けられない。
(偏見だけどっ……、傲慢な感じが王族っぽいっ……)
「んぅっ、ん、んっ」
いつものキスではなく、自分勝手に咥内を貪るようなキス。これを意識的にしているウィリアムの経験値とは。
「ぁ……、ぅ……」
唇が離れると、それを追うように舌を差し出してしまう。もう一度口付けられ、うっかり流されそうになった、その時。
「試着室で盛るな」
シャッとカーテンが開き、ウィリアムの体が横へと押し退けられる。
「キスだけだよ」
「今のところはな」
オスカーは肩を竦め、暖人の腕を引き試着室から連れ出した。
そして、ふらつく暖人をソファへと座らせる。
「白は殆ど着ないが、どうだ?」
「……」
「…………どうだ?」
「あっ……すみません、その服、俺いい仕事したなって思って……」
オスカーには艶を抑えた生地で、こちらは白い服に幅のある帯を使用したもの。帯は濡れた羽のように艶のある紺色だ。
袖などの刺繍も同じ色で施されている。片側の肩から腰辺りまで大胆に入った蔦と葉の刺繍がアクセントになり、綺麗なシルエットでありながら繊細過ぎず、オスカーに良く似合っていた。
「本革のソファに足を組んで座りながらペットの黒豹に高級フィレ肉をあげてるマフィアのボスっぽいです」
「それは褒められてるのか?」
「いっぱい褒めてます」
かっこいい、と言ってオスカーを見上げる。
「そうか」
オスカーは目を細め、暖人の頭を撫でた。
「白だけだとオスカーさんのオーラに負けちゃうので、これなら帯と刺繍が濃い色でぴったりだと思ったんです。髪の色にも似てますし、…………あの、オスカーさん?」
「どうした?」
「口に指を突っ込もうとしないでください」
「ああ、良く動く舌が気持ち良さそうでつい、な」
「色々と意味が分からないんですけど……」
喋り過ぎたか、照れているのかと思ったが、そうでもない様子。
本当にただ舌を引っ張りたい衝動に駆られただけなら、逆に少し怖い。そのうち美味しそうだと言って舌を食べられそうだ。
それに比べれば、唇をふにふにと揉まれるくらいは何でもない。
「ハルト。俺の時より褒めてないかい?」
「ウィルさんには、褒める前に連れ込まれたので」
「そうだったかな?」
「そうです」
唇を摘まれ喋りにくいままだが、何とか言えた。
(二人とも、何もしなければすごいイケメンなのに……)
見るからに高貴な身分で近付く事すら出来ないオーラと、完璧に整った異世界級イケメン。服の効果も相俟って惚れ直したところだったのに。
一応人の目はないが、時と場所と、試着室でイチャつかれる店員の気持ちを考えて欲しい。
働いた事はないけど、と暖人は思ったものの、うっかり流されそうになった自分が言える事ではないと反省した。
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