後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。2

雪 いつき

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白竜族の村3

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「……涼佑りょうすけ、まだかな」

 いつもならこの辺りで割って入ってくれるのだが、涼佑のいる試着室を見ると、まだカーテンが閉まっている。

「涼佑?」

 試着室の前で声を掛けると、微かにカーテンが揺れた。

「はる。これ着るの、はるの部屋の中だけでいい?」
「え? 気に入らなかった?」
「そうじゃないけど……」

 涼佑らしくなく、歯切れの悪い返事が返る。

「入っていい?」
「ちょっと待って」
「……ごめん。涼佑に似合うと思ったんだけど……」

 こんなにも躊躇するなら、やはり気に入らなかったのだろう。しょんぼりとした時、躊躇いがちにカーテンが開いた。


「……どう、かな」
「っ……、……」
「……はる、何か言って」
「……………………あまりにも、最高」

 語彙力が死を迎えた。

 涼佑には二人より少し細身の服を選んだ。少しアオザイに似たデザインで、雰囲気は砂漠の王子のような、シンプルで綺麗なシルエット。
 刺繍はなく、代わりに小さなダイヤモンドのような装飾が襟や袖に散りばめられている。

「アラビアンナイト……」
「盗賊かな?」
「王宮から出さずに国宝級に大事に育てられた王子様……」
「はるは、ますます想像力が豊かになったね」

 幼少期に可愛すぎて何度も誘拐未遂事件があったせいで外に出られず、友達もいない儚げな王子様。見た目は少し陰のあるところがそれっぽい。

 あまりにも似合うのだが、涼佑はやはり居心地が悪そうにしている。


「シンプルで上品な服って、なんか恥ずかしいというか……」
「あ、そっか。涼佑、派手な柄多かったもんね」

 大変リアルなヒョウが全身絵でドーンと印刷された明るい黄色のTシャツや、パッションオレンジのパーカーの背にダンクシュートを決める人が印刷されたもの、無地ならライムグリーンのスウェットもあった。
 夏場には制服のシャツから透けたライオンが、後ろの席の人を睨んでいた事も。
 どこで買ったの? というようなTシャツもあった気がする。

 一応シンプルなサマーニットやロングTシャツもあったが、柄物の方が多かった。

「安かったし、その方が落ち着くし。はるの魅力に気付かれないように俺が目立とうと思ってたのものあるけど」
「無地の服でも涼佑の方が目立ってたと思う」
「はるにオーバーサイズのTシャツを着せたのだけは未だに後悔してるよ」
「……あ、ナンパされた時の」
「僕が横にいたのに、男女合わせて九人だよ?」
「数えてたんだ……。男二人なら誰も恋人同士とは思わないからね」
「そうだとしても、はるをいかがわしい目で見る事が許せなかった」
「いかがわしいって……。俺は、涼佑がまたナンパされてるなあって思ってたよ」
「僕がされた以外で、九人だから」
「……そっか」

 論破された。
 ひとまず会話を終わらせようと、改めて涼佑をジッと見つめる。


「涼佑は顔も体型もいいから、やっぱりシンプルな服が似合うよ。無地で直線的な服のセットアップも似合うと思うんだよね」
「はる、アパレルの人みたい」
「やっぱり厚い生地より薄い生地だし、無地で爽やかな色の方が似合う。薄めのブルーグレーもいいかも」

 この世界で着ている麻や綿素材のラフな服も、いつも涼佑に良く似合っている。
 たまに柄のないものを着ているが、あれはシンプル上品には入らないらしい。

 まじまじと見つめられ、涼佑はそっとカーテンで顔以外を覆った。

「ごめん、着替えてもいい?」
「あ、うん、ちょっと待ってて。違う服探すから」
「いいよ、はるが選んでくれたこれにする」
「でも……」
「はるはこれが好きなんでしょ?」
「うん、いつもと違う雰囲気の涼佑が見られて好きだなって」
「じゃあこれにする。慣れれば大丈夫だと思うし、自分だと思わなければ似合うとは思うし」

 そう、暖人はるとの言う通り、客観的にはとても似合うのだ。そして暖人の言う通り、大事に育てられた王子様に見える。

「……僕って、思ったより王子顔なのかな」
「だね。俺、涼佑の顔好きだよ」
「はるがそう言ってくれるなら、それでもいいかな」

 王子なんてガラじゃないけれど。涼佑はくすりと笑い、着替える為にカーテンを閉めた。


「あんなリョウスケは初めて見たな」
「可愛いところもあるね」
「そうなんです。涼佑は可愛いんですよ」

 暖人に言われたら複雑だろうと二人はジッと暖人を見る。それには気付かず、恥ずかしがる涼佑なんて貴重、と上機嫌で試着室を見つめていた。

「今の彼は、第一王子だと言われても信じてしまうな」

(ウィルさんが言うと、なんか……)

 出逢った時から王子様ではないかと疑ったほど王子様なウィリアムに言われても……と思ってしまう。
 ウィリアムが第一王子で涼佑が第三王子辺り、オスカーは隣国の第一王子だ。女性向け異世界転移小説の主要キャラが揃ってしまった。

「俺たちも着替えるか」
「そうだね。ああ、ハルト。服を贈る意味は」
「知ってますけど、これは違いますから」

 暖人はにっこりと笑い、二人からそっと離れた。

 肩を竦め試着室へと入った二人を見送って、暖人は第二候補として目を付けていたもう一着ずつを先に会計してしまう。サイズが分かればこっちのものだ。
 後から会計するものと一緒に袋に入れて欲しいと頼み、中が見えないようにして貰った。普段驚かされてばかりだから、今回は驚いて貰いたいのだ。

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