後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。2

雪 いつき

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鏡は

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 するとすぐに涼佑りょうすけの睫毛が揺れる。
 ゆっくりと開いた先。新緑と木漏れ日のような瞳が、暖人はるとを映した。

「ん……、はる……?」
「おはよう、涼佑」
「うん……」

 珍しく寝ぼけている姿にまた頬が緩んでしまう。可愛い、と頬を撫でるとその手を取られ、手のひらにキスをされた。

「っ……、涼佑が、王子力を身につけてる……」

 寝ぼけてこの行動とは一体どういう事だ。

「はる……」

 手を取られたまま、あまりに自然に唇を塞がれる。数秒触れただけで離れ、今度は額に、瞼に。

「涼佑……」

 甘い雰囲気と優しい触れ方に呑まれ、暖人の方からもキスをする。唇へ、押し付けるだけのキス。
 お互いに触れるだけで、暖かさと愛しさを分け合う。
 紅い陽が沈み、空に星が瞬き始めるまで、ただ想いを伝えるキスをし続けた。



「暗くなっちゃったね」

 涼佑はそう言って、手探りでベッド脇の灯台と発光石を探す。
 カチカチと石同士を合わせると、室内に暖色の灯りが広がった。

 前に来た時は白の光だったが、今日は暖人とこうなると思い雰囲気のある石を選んでくれたのだろう。この部屋の担当もマリアとメアリだそうで、やはり優秀な人たちだとそっと口の端を上げた。

「はる?」

 ベッドに戻ると、暖人はジッとある物を見つめている。
 背をヘッドボードに預け、手繰り寄せたバスローブを羽織り、布団をぎゅっと掴んで。

「……鏡は、封印で」
「えっ」
「今後、魔が差してすることになるなら、お風呂で」
「ええっ、お風呂に鏡ないよ?」

 涼佑と暖人のバスルーム、どちらにも鏡は付いていない。
 不満そうにする涼佑を、暖人はキッと睨んだ。

「涼佑が鏡をベトベトにするからだよっ、これ絶対高いやつじゃんっ」

 暖人が怒っているのはそこだった。最後の方には興奮が最高潮に達した涼佑が、鏡に向かってたくさん出させたのだ。
 一度ならず二度までも。何なら潮も盛大に吹かされた。

「あ、それか。大丈夫だよ、拭いたら取れたし」
「そういう問題じゃないっ」
「はるの匂いも残してないよ?」
「そういう問題じゃないんだよっ……」

 暖人は膝を抱え、布団に顔を押し付ける。
 鏡に体液を掛けた行為と事実が良くないのだ。

「僕の部屋のだから、はるが着替える時に毎回思い出す事もないでしょ?」
「それを言われたことで思い出しちゃうんだけどっ……」
「そうだ。栄養剤飲んどく?」
「涼佑っ」
「ごめんごめん、浮かれてて」
「……鏡使えたから?」
「それもあるけど、はるの姿をいつも以上に見られた事と、いっぱい感じてくれた事と、鏡使うのをはるが許してくれた事と、はるがちゃんと怒ってくれる事と……愛されてるなぁって、嬉しくて」

 心から嬉しそうな笑顔に、暖人は口を噤む。そんな顔をされたら、もう何も言えなくなってしまうではないか。


 確かに元の世界では、何をされてもここまで文句を言う事はほぼなかった。限られた時間、好きだと伝えるだけで精一杯だったから。
 この世界だから、こうして何でも言える。それを思うと……。

(でも、鏡をベトベトにしたのは駄目だと思う)

 そこは譲れない。
 だが、鏡を使った事自体は恥ずかしいだけで不満はない。

 鏡越しに、涼佑の感じる顔も見られた。普段は縋るように抱きついてしまうから見えない顔。思ったよりも、切羽詰まって感じ入った顔だった。
 暖人より先に達するまいと我慢している顔。我慢しなければ達してしまうくらい、気持ちよく出来ていると知れた。

「……俺が怒ってるのは、鏡を汚したことだけだから」
「ごめん、もうしない」

 暖人の髪を撫で、額にそっとキスをする。


「涼佑、俺、……幸せだよ」
「はる……」
「俺、涼佑といろんなことしてみたい。いっぱい……したい、よ」

 今じゃないけど、とごにょごにょと言う暖人に、涼佑は口元を押さえた。
 いけない。このままここにいたら、押し倒してしまう。

「……何もしないから、一緒にお風呂入ろう?」
「う、ん……。……俺が何かしたら、ごめん」
「それは願ってもない事だから」

 涼佑はベッドを下り、暖人を抱き上げる。
 暖人を自分の手で、隅々まで綺麗にしたい。優しく洗い上げて、同じ香りで夜を過ごしたい。
 だが、何かされたら迷わず応えよう。されなければ、大人しく一緒に入るだけで、……出来る、だろうか。


 自信ないな、とバスルームの扉を開け、湯を張ろうとバスタブへと向かう、と。
 シャワーを浴びる時には気付かなかった場所に、花びらと香油の入った小さな籠が置かれていた。
 明るい黄色の花びらと、小さな瓶。ふわりと漂うのは、……柑橘系の香り。

 マリアさんかな、と涼佑と暖人は同時に思う。
 一度リフレッシュして、あまり暖人に無理をさせないようにという気遣いだ。確かにここでしてしまえば、夕食を食べそびれてしまう。
 そこまで予想してこれを準備したのなら恐ろしいな、と涼佑は苦笑しながら蛇口を捻った。

 そしてやはり暖人は頬を染め、シーツは一度洗ってここに干しておこう、とあまり役に立たない証拠隠滅を考えたのだった。

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