後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。2

雪 いつき

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お世話になります

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 花びらの浮いたお風呂、貴族って感じだね。
 黄色い花、涼佑りょうすけに似合う。
 はるの方が似合うよ。
 柑橘系も涼佑に似合うし。
 それは、うん、はるはミルクかシャボンだよね。
 赤ちゃんじゃん。


 などと話しながら一緒に湯船に浸かり、健全に上がった。
 暖人はるとの髪を乾かしながら、時々キスして、されて、まるで新婚のような甘すぎる時間。

 鏡を元の位置に戻す時、いつの間にかたっぷりと付けられた紅い痕を涼佑が見つけると、暖人はニヤニヤと珍しい顔をしていた。
 その場で襲ってしまうところをグッと堪え「いたずらっ子なんだから」と暖人を捕まえて擽るという、バカップルの見本のような事をしてしまった。

 笑い合っているとタイミング良く暖人の腹がくぅぅ、と音を立て、部屋で遅めの夕食をとる。
 そして、ソファでゴロゴロすること二時間。


 控えめなノックの音が響き、涼佑が「どうぞ」と返すと。

「ウィルさん、おかえりなさい」

 暖人は笑顔でウィリアムを迎えた。

「ただいま、ハルト。まだ起きていたんだね。リョウスケは、おかえり」
「はい、……またお世話になります」

 ただいま、とウィリアムに言うのはまだしっくり来なくて、少し迷ってそう言った。

「邪魔したかい?」
「いえ。二時間前には夕食も終わって、ウィリアムさんの帰りを待っていました」
「俺を?」
「今日からまたお世話になるので、ご挨拶をと思いまして」
「君は礼儀正しいな。ここは君の家でもあるから、そんな事は気にしないでくれ」
「ありがとうございます」

 頭を下げる涼佑に、ウィリアムは少し困ったように笑う。
 家主相手だからこうも他人行儀なのだろうか。出来れば暖人のように、自分の家と思って過ごして欲しいのだが。


 その涼佑の隣で、暖人は視線を彷徨わせている。
 風呂から上がり、一人で立とうとするとガクガクする膝に耐えかねて栄養剤を丸々一本飲んだ。何事もなかったかのように完全回復し、これでバレないと思っていた暖人は、何故か見透かされている雰囲気に動揺した。

 分かりやすい暖人に、ウィリアムはくすりと笑う。

「ハルト。そんなに痕が付いていたら、傷薬で消さない限り分かってしまうよ」
「えっ……」

 暖人は涼佑の腕からするりと抜け出し、クローゼット脇の鏡の前に立つ。
 耳のすぐ下から胸元まで。隠しようのない紅い痕が、しっかりと主張していた。

 無言でクローゼットを開け、ストールを取り出し首に巻く。涼佑の服は自分の服だとばかりに。
 今更だが、これで何とか隠せた。こんな事に傷薬を使うのはさすがに勿体ない。
 一つ頷く暖人に、涼佑の首も隠さないと意味がないのに、とウィリアムと涼佑は微笑ましく暖人を見つめた。


「はる、その鏡」
「……あっ」

 カァ、と真っ赤になる暖人に、ウィリアムは正しく状況を理解する。

「あまり上級者向けの行為をしていると、ハルトに逃げられてしまうよ?」
「ご心配どうも。でも、はるがいいと言ったので使いましたから」
「ハルトが?」
「いいって言いました」
「ハルトが……」

 二人して暖人を見た。

「あの……、俺が許さないことの方が少ないみたいなので」
「ああ、それもそうだね」
「はるは優しいから。嫌なことは嫌だってきちんと言ってる?」
「それを涼佑が言うのはちょっと違うと思う」

 鏡をベトベトにしたのは本当に嫌だった。その時は理性が飛んでいて、強く主張出来なかった自分も悪いのだが。

「ごめん」
「うん。次からは気を付けて」
「何があったんだい?」

 この様子、本当に暖人の嫌がる何かをしたのだろう。鏡以上の、何かを。

「内緒です」

 ぴしゃりと言い切る暖人に、ウィリアムは目を瞬かせた。参考までに訊きたかったが、この笑顔の暖人は意志が固いと知っている。
 内緒と言うなら諦めて、暖人へと近付いた。


「ハルト。抱き締めても良いかな」
「え、っと……」
「僕の事は気にせず、いつも通りでいいですよ」
「では、お言葉に甘えて」

 ウィリアムは暖人を抱き締め、髪を撫でる。柔らかな黒髪に頬を寄せ、心底癒された顔をした。
 おず、と暖人からも背に腕を回し抱き合う。
 しばし抱き合い、ウィリアムは額にキスをして離れた。

 それだけ? と涼佑は目を瞬かせる。
 普段の二人がどう過ごしているか見てみたかったのだが、暖人の腰を抱きソファへと戻ってくる姿はどちらも自然で、普段からこうなのだろう。

「今日はずっと涼佑と過ごしていたのかい?」
「はい。お昼前に帰ってきたので、お昼ご飯は涼佑とお屋敷のみなさんと一緒に食べました」

 にこにこと報告する暖人と、嬉しそうに聞いているウィリアム。親子の情報交換かな? と隣に戻ってきた暖人と手を繋ぎながら、また目を瞬かせた。
 どうやら二人は、思っていたよりプラトニックに過ごしている……訳はないのだろうが、穏やかに過ごしているようだ。思ったのと違った。


 暖人を挟んで隣に座るウィリアムは、ずっと暖人の髪を撫でている。暖人も褒められる子供のように嬉しそうで。

「お昼は、涼佑とエヴァンさんが狩ってきてくれた魔獣の肉で、ステーキと鍋を作ったんです」

 暖人の言葉に、ウィリアムはぴたりと動きを止めた。

「……すまない。、とは……購入ではなく、狩猟の方だろうか」
「そうです。ここに来る前に穫ってきてくれたんです。美味しい部位を厳選して捌いてくれたんですよ」
「そうか……」

 今朝庭から採ってきた野菜、というノリで話す暖人に、順応力が高すぎるのではとウィリアムは尊敬すらする。

「前に話した通り、魔獣と言ってもただ大きいだけの普通の獣です」
「ああ、それは覚えているが、あまりにも自然に話すものだから少々戸惑ってしまってね。……そうだな、君と将軍なら、魔獣も敵ではないか」

 もはやただの狩り。そう思う事にした。

「ハルトも、迷いなく料理をしたのだろうね」
「はい。新鮮で美味しそうな肉でしたから」

 魔獣に迷いなくそう言うのは、暖人だけかもしれない。

「元の世界でも実際に食べたことはないんですけど、ぼたん鍋といって、俺たちの世界の郷土料理でした」
「ハルトの世界の」
「我ながら美味しく出来たと思います」

 暖人は自信満々に笑った。

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