アイドルですがピュアな恋をしています。

雪 いつき

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答えを聞かせて

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 あれから、なるべく花楓かえでの事は考えないようにしていた。
 好きで、会いたくて、でも怖くて。断られる事を想像して泣きそうになったりして。自分がどんどん小さな人間になっていく気がしたのだ。
 その度に花楓の笑顔を思い出し、やっぱり好きだと再確認して……どうしようもなく会いたくなった。だから、今まで以上に撮影に打ち込んだ。



 そんなこんなで三ヶ月後。
 おそるおそる店を訪れると、振り返った花楓は……何故か不機嫌な顔をした。
 痩せた隼音しゅんに驚き心配そうにしながらも、ハッとしてまた不機嫌な顔をする。そして無言で手招きされ花楓の休憩室へと連れて行かれた。

 初めて見る不機嫌な顔に不安になる。その間にバタンと扉が閉まり、背後でカチャリと鍵の掛かる音がした。隼音は内心で狼狽える。いきなり密室なんて難易度が高い。

 密室に、好きな人と、二人きり。

 ……いえいえ、おかしな事は考えていませんし。煩悩を力業で頭の外に追いやった。
 そんな心の内を知る由もない花楓は隼音へと詰め寄る。


「お話があります」
「はい」
「君、アイドルだったんだね」
「え、あ、あれ? バレちゃいました?」
「どうして今まで教えてくれなかったんだよ」

 もしかして、お遊びで告白したと思われているのだろうか。うん。でも、むっとして膨れる顔が可愛い。食べちゃいたい。
 怒るとちょっと男らしい口調になるのも可愛い。食べちゃいたい。
 煩悩のおかげで幸いにも、これからフラれる怖さが半減した。

「俺はアイドルとして花楓さんに会いたかったわけじゃないですし」
「アイドルなら、モテるだろ? それなのに……」
「俺がモテるのと、俺が誰かを好きになるのは別問題ですよ」

 花楓はうっと言葉に詰まる。あまりに真っ当な意見だ。


「アイドルは恋愛禁止だって聞いたよ。それに、男同士なんてスキャンダルの元じゃないか」
「花楓さんに迷惑はかけません」
「そうじゃなくて、君がアイドル出来なくなるのを心配してるんだよ」
「俺はそんな花楓さんの優しいとこが好きです。でも、アイドルも花楓さんも諦めません。俺は、誰にもバレずに恋人出来る自信がありますし」

 脳裏に浮かぶのは、暗闇に浮かぶ光の海。ファンの声。笑顔。誰かを好きになる事は、それを裏切る事だと理解している。
 それでも、どちらかを諦める事はしたくない。SYUNNとしても、隼音としても、どちらも幸せを掴みたい。
 そのためにも、バレない自信が、根拠があった。

「俺は、誰かと特別親密そうにしたり女友達の家に泊まったりしても“いつものこと”なんです」
「え?」
「D-BlinKのSYUNNは、そういう男なんです」

 見た目で人を惹き付け、常に恋人がいるのかいないのか。熱愛報道ものらりくらりとかわす。
 女遊びに慣れていそうな顔で、女遊びはまだ早いという言動で、それでも世間は勝手に勘違いをする。尻尾は掴めないが女慣れしている、と。


「と言っても、童貞なんですけど」
「……え?」
「女友達って言ったじゃないですか」
「え? え?」
「慌てる花楓さんかわいー」
「もうっ、からかわないでよっ」
「いえ、本当に可愛いんですけど」

 つい本気トーンになってしまい、花楓が目を瞬かせる。慌ててンンッと咳払いをした。

「俺、こう見えて人を見る目はあるので、お互いを好きになることのない相手とカモフラージュ的に仲良くしてるんです。相手に恋人がいるとか、好きな人がいるとか、お互いそういう時の隠れ蓑なんです」

 お互い、好きな相手の事は聞かない。無関心であれ。共犯者であれ。それが条件だ。
 最低と思われるかな。黙ったままの花楓に不安になっていると、ふと翡翠色の瞳が滲んだ。


「アイドルって、大変なんだね……」

 まだ若いのに、と子供相手のようにナデナデと隼音の頭を撫でる。

「……花楓さんに触られたの、初めてです」

 普段はショーケースかレジテーブル越し。袋を渡される時も花楓は袋本体を持つため指先も触れない。以前この部屋に入った時も同じだった。
 初めて触れられて、ぶわっと喜びが駆け巡る。

「あっ、ごめんっ、馴れ馴れしかったよね。えっと……俺にもしていいよ?」
「花楓さんのそんなとこ好きですよ」

 謝罪のつもりでスッと頭を差し出すズレた可愛さ。可愛すぎて真顔になる。馴れ馴れしくして欲しいです、と思いながらこの機を逃さずナデナデする。
 柔らかくふわりとした髪の手触りに、ンッ、と変な声が出そうで口元を押さえた。


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