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ホラーは大丈夫
しおりを挟む季節は秋。
糖質制限も解除された隼音は、花楓の休憩室でモンブランに舌鼓を打っていた。上に乗ったマロングラッセも然ることながら、クリームも美味しい。スポンジも美味しい。今日も最高に美味しい。
その隣で花楓は、雑誌を覗き込んでいた。
「これ、大君?」
「はい」
「かっこいいね。ライダースジャケットが良く似合ってるよ」
「……ありがとうございます」
「ふふ、照れてる」
「照れてません」
「そう? 顔が赤い気がするけど」
「花楓さんって、意外と悪戯っ子みたいなところありますよね」
「え? そう?」
大地が特集されたファッション雑誌を見ながら、格好良いと絶賛する。
花楓にそんな気はないと知っているのだが。
「あーあー、いい雰囲気にならないでくださいーっ」
イチャイチャしないで、と大地と花楓の前で手をパタパタすれば、花楓は少し驚いた顔をした後で「可愛い」と言ってクスクスと笑った。
お友達として、まずはもう少しフレンドリーに接しようとした結果、花楓の中で“年下の可愛い隼音君”になってしまった。だが、最終的な目標は違うのだ。
「俺も仕事中はキリッとかっこいいですよ?」
「キリッと?」
「キリッとです」
キリッと顔を決めてみせる。
「まず手始めに、俺が出てるドラマを見てください。先週で終わってしまったあの大反響を呼んだドラマがなんと、次の月曜からアンコール放送されます。月曜夜十時、よろしくお願いします」
番宣ばりに一息に言い切り、隼音はハッとする。
「あっ、学校系のホラーなんですけど、苦手ですか?」
どう見ても苦手そう、と大地は雑誌を畳みながら思う。ふわふわした花楓は暗闇すら怖がりそうだ。
だが花楓は、パッと顔を輝かせた。
「へえ、ホラーなんだ。全然平気だよ。どんなお話なんだろう。ワクワクするなあ」
「ホラー、大丈夫なんですか?」
「うん。頭からっぽにして見れるから好きなんだ」
ホラー映画が? 頭空っぽになる? 大地と隼音は顔を見合わせる。花楓の意外すぎる一面を知ってしまった。
「アクション映画の方が苦手かなあ」
「え? そうです?」
「アクション自体は好きなんだけどね。派手でかっこいいし。でも銃を持った人が来たり車が突っ込んだりして厨房がぐちゃぐちゃになると、ああああっ……ってなっちゃって……」
とても見ていられない。思い出したのか、両手で顔を覆った。今度は意外なようで納得な一面を知ってしまった。
「じゃあ俺が先に見て、厨房が犠牲にならない映画教えますね!」
「えっ、それは嬉しいけど、隼音君忙しいんだから無理はしないでね?」
「大丈夫です、映画を見るのも勉強なので。あと花楓さん、俺のこと好きになりました?」
「うん、好きだよ?」
「はい! ありがとうございます!」
まだ駄目だった! 元気に項垂れる。でも、まあ、好きと言っているうちに本当に好きになってくれるかもしれないし。
「花楓さん、好きです」
「うん。ありがとう」
優しい顔の隼音とふわりと笑う花楓を見つめ、大地は首を傾げる。これで、片想い。良く分からない。
良く分からないが、新作のノアールシリーズは美味い。栗のケーキ、人生で初めて食べたな。試作品の試食として呼ばれた大地の務めは果たした。
もくもくと食べながら、今日も良い天気だな、と窓の外へと視線を向けた。
何故か自然な流れで隼音も大地のマンションについて来た。
「ちょっと残念だったな」
「ん? 何が?」
「花楓さんがホラー苦手なら、一緒に見たら怖がってくっついてくれたかもしれないのに」
そう言われ、隼音はその手があったかという顔をした。だが。
「んー……でもそれは、俺がエスケープしたくなるかも。理性への打撃の意味で」
「お前、ちゃんとそういう欲あるんだな?」
「当然ですね。男ですし」
「そういう話、初めて聞いたわ」
「花楓さんが初めての人です」
「希望的観測か?」
「そうなったらいいなー、ならないかなー」
手を繋いだり抱き合ったりキスしたり、もっと恋人らしいイチャイチャも……恋人らしい……。
「でも、心臓が止まりそう」
「安心しろ。まだ付き合ってもねーから」
「心臓止まる心配したい!」
本望!
「でも、今も手が触れるだけで心臓が飛び出しそう」
「ガキか?」
「……初恋だし」
「そうだったな」
「童貞だし」
「その情報いらねーわ」
「この顔で童貞とかないですよねー」
「自分で言うな?」
そこで隼音はソファの背に寄りかかり、溜め息をついた。
恋ってしんどい。もう会いたい。花楓の名を呼びながらゴロゴロする隼音に、大地は苦笑した。
「まあ、頑張れよ?」
「うん。頑張る。大、ありがとー」
素直で良い子の隼音に花楓も惹かれているように見えるのに。と思うが、こればかりは二人の事だ。
出来ればこの恋が報われて欲しいと願うばかりだった。
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