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君の顔、君の事
しおりを挟む「隼音君!」
「え、はい、どうしたんですか? こんなテンション高い花楓さん初めて見ました」
「あっ、ごめん。でも、見たよ、ドラマっ」
「わーっ、ありがとうございますっ」
店を訪れた途端に休憩室に連れて行かれ、座る間もなく感想を伝えられた。
昨日、第一話の再放送があった。見てくれただけでも嬉しいのに、これだけ興奮してくれると役者冥利に尽きる。アイドル兼役者、やってて良かった。
「俺の知ってる隼音君は緩くて可愛いのに、ドラマではびっくりするくらい綺麗だったよ」
綺麗。褒められて嬉しい筈なのに、心臓にチクリと針が刺さったように痛みが走った。
自分で思っていたよりも、気にしていたらしい。花楓に気付かれないようそっと息を吐いた。
「隼音君、演技上手だね。指先の動きまで綺麗で、綺麗なのに怖くて……俺、本当にその場にいるみたいにハラハラドキドキしちゃった」
「……演技、上手かったですか?」
「うん。とっても。本当にその役の人が生きてるみたいで……死んでるのに生きてるはおかしいんだけど……?」
あれ? と首を傾げる。
言葉を探す花楓が、大変興奮している事は良く分かった。そして、花楓の言う“綺麗”は隼音が思っているものとは違うと言う事も。
「花楓さん。ありがとうございます」
「こちらこそ、素敵なドラマをありがとう。来週も楽しみだなぁ」
いつものふわりとした笑顔ではなく、パッと顔を輝かせる。こんな無邪気に笑う花楓の顔を見られて幸せだ。
それに、演技を褒めてくれた事が嬉しくて、目の奥が熱くなる。好きな人に褒められた事。そして、ああ、思っていた以上に演じる事が好きなんだな。そう気付く事が出来た。
一通り感想を告げられ、椅子へと座る。
嬉しいばかりの感想だったが、一つ気になる事があった。
「ずっと気になってたんですけど、花楓さん、俺の顔あまり好きじゃないです?」
「え? そんなことないよ?」
「でも、初対面から真っ直ぐ見てくれる人ってあまりいなくて。花楓さんは最初から普通に接してくれたんですけど」
隼音の言葉で、はた、と気付く。
そういえば、隼音の顔はとても綺麗だ。
「うーん、整った顔は、うちの店長で見慣れてるのもある……のかな?」
多分そうかな、と首を傾げる。
隼音の顔も相当整っている。店長と長い付き合いでなければ、隼音が言うようにまともに見られなかったかもしれない。
「……店長さんのこと、好きなんです?」
「うん、好きだよ。大人でかっこいい人なんだ。今度隼音君にも紹介……、隼音君?」
「…………かっこいい人が好きなんですね」
「え?」
「そうですか……」
だんだん捨てられた仔犬のようにしょんぼりとした顔になっていく。図上に、ない筈の犬耳が見えた。
どちらかと言うと猫っぽいのに、図上の犬耳はヘタリと垂れている。ちょっと可愛い。とても可愛い。
そこで隼音が落ち込む理由に気付くが、花楓の手は言葉より先に、つい隼音の頭を撫でた。
「嬉しいのに、複雑な男心です」
「ごめん、つい……。店長は俺のお兄さんみたいな人だから、恋愛の好きじゃないよ?」
「……本当に?」
「本当です。それに、隼音君に初めて会った時、綺麗な子だなあとは思ったよ?」
顔もだが、雰囲気が綺麗だと思った。店内に入って来た瞬間、その場の雰囲気が変わったように感じたのだ。
「え、覚えててくれたんですか?」
「うん。実は、ね? 目をキラキラさせてケーキを選ぶ姿が可愛くて、微笑ましくて、本当にケーキが好きなんだなって伝わって来て嬉しかったんだ」
「花楓さん……」
「一番美味しい時に食べようとしてくれて、大切に食べますって言ってくれたのが、とっても嬉しかったよ」
彼には言わないつもりでいたが、今なら伝えても許される気がした。でもやっぱり少し恥ずかしくて、嬉しそうに目を細めた隼音から返事が返る前に、話題を変える。
「えっと、それで、俺の第一印象はどうだった?」
「花楓さんには、一目惚れでした」
「え?」
「店に入った時の笑顔に一目惚れしました」
「そ、そうだったんだ?」
「はい。それから、この人なら俺の中身を見てくれるんじゃないかと期待して。最初は、そのせいだと思ってたんです」
あの頃は、こんなに親しい関係になれるとは思っていなかったし、きっと勘違いですぐに熱は冷めると思っていた。
「気のせいだと思って通い続けて、でも花楓さんは俺のことちゃんと俺として見てくれてるって分かって……やっぱりこれは恋だ、って、花楓さんのことが好きだって思ったんです」
好きです、ともう一度優しく告げる。
こんな一途な想いを向けてくれる子に、はっきりとした答えを返せずにいる。俯く花楓の手を、隼音はそっと握った。
「申し訳ないとか思わないでください。俺も分かるまでに何ヵ月もかかりましたし」
「隼音君……」
「それに、まずはお友達として花楓さんのことを知っていきたいです」
「……うん。ありがとう、隼音君」
出来る事なら今すぐ彼の望む答えを返したい。だがそれは、彼の一途な想いを踏みにじる事になる。
もう少しだけ、彼の優しさに甘えても良いだろうか。友達として接しようとしてくれる優しさに、あと少しだけ……。
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