アイドルですがピュアな恋をしています。

雪 いつき

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満天の星の下で

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「俺も、本当は怖いんです」

 隼音しゅんの言葉に、花楓かえでは目を見開いた。
 驚いてくれて少しホッとする。怖いものなんてない。ずっとそう見えるように振る舞って来たのだから。でも、本当は。

「ずっと、怖かったんです。俺がいることで、花楓さんを傷付けるのが」

 隼音は視線を落とし、ぽつりと呟いた。
 今や知らない人はいない程のアイドルになった。
 自分が周囲に与える影響を、良くも悪くも理解しているつもりだ。
 人の興味は移ろいやすい。だが、たったひと時でも大きな被害を、悲しみを与えてしまう事もある。


「守ると決めました。でも、俺のせいで取り返しのつかないことが起こる前に、花楓さんから離れた方がいい。そう、何度も思いました」

 出逢った頃には何とかなると思っていた。実際に何とかして来たのだ。だから何が起こっても大丈夫だと思っていた。
 だがそれは慢心で、自分独りで何が出来るのだろうと考えるようになった。
 まだ経験も足りない。知識も足りない。見た目も歳も子供だ。そんな自分に何が出来るだろう。
 考えれば考える程、怖くなった。

「でも俺は、花楓さんを諦めたくないです」

 怖さを知り、自信も失くして、それでも傍に居たくて。堂々と振る舞う事で弱い自分を隠して来た。
 でも本当は、好きな人を傷付ける事が、守れない事が、嫌われる事が、ずっと怖かった。
 それでも、どうしようもなく好きで。好きな気持ちを抑えきれなかった。諦められなかった。


「すみません。俺、自分のことばかりで」
「っ……そんなことない、隼音君はいつも俺のことを考えてくれてて……それに、俺の方が自分のことばかりだ」

 ぎゅっと毛布を握り締める。揺れる瞳がじわりと輪郭を滲ませた。

「花楓さんは、いつも誰かのことばかりです。言ってたじゃないですか。俺がアイドル出来なくなる心配をしてるって」

 アイドルだと知られた時、真っ先にその心配をしてくれた。それが、嬉しかった。

「俺はまだまだ子供で、何かが起こってしまったら、俺ひとりの力ではどうにも出来ないかもしれません。俺の言葉が、全ての人に届くとは限らないのも分かっています」

 言葉の力は強くて、弱い。
 いくら影響力があろうとも隼音の言葉が届かない、信じない人もいる。

「だから俺は、事務所の力でも弁護士でも何でも使って、花楓さんのことを守ります」
「隼音君……」

 独りで対処しようとせず、流されるでもなく、素直に助けを求められる強さ。
 あの頃の花楓と同じ歳なのに、彼はこんなにも強い。


「俺は花楓さんのことが、きっと、一生好きです」

 強くて、優しくて、眩しくて。
 そんな人が、どうして自分なんかを好きなのだろう。そう、思ってしまう。
 こんなにも大切に想って貰える要素も資格もあるのだろうか。今まで考えなかった不安が一気に溢れ出す。
 一生、彼の想いを縛ってしまう、なんて。

「隼音君、俺……」
「花楓さん。嫌なら振りほどいてください」
「え? っ……」

 長い腕が伸びて来て、腕いっぱいに抱き締められる。
 戸惑う花楓の肩口に顔を埋め、隼音は少しだけ頬を擦り寄せた。
 ずっと触れたかった。抱き締めたかった。こんな叶い方をしてしまうのは、本意ではないけれど。


「花楓さん、好きです」

 まだ想いは届いていない。
 どれだけ好きか、この心を開けて、見せられたらいいのに。

 背に回る隼音の腕は、力強いのに苦しくはない。いつでも、振り解けるように。
 花楓は動けずにいた。
 振り解いたら、終わってしまうのだろうか。
 ……彼は、嫌なら振り解けと言った。彼のする事で、嫌だと思った事などないというのに。

 嫌じゃない。
 嬉しい。

「大好きです」

 優しく、甘く、響く声。
 彼の想いが心に落ち、はらりと涙が零れた。

 自分に資格があるかなんて、それは、彼が決める事。
 こんなにも大切に想われて、不安に思うなんてそれこそ自分勝手だ。

 ふ、と心の靄が晴れる。
 恋人としての好きなんて、まだ分からない。その違いがあるのかさえ分からない。
 ただ、彼の事が、好きだ。


 好き。


 大好き。


「隼音君、……好き、だよ」

 言葉にすれば、どうしようもなく愛しさが溢れてくる。
 愛しくて、愛しいのに、悲しくて。
 胸が痛いのに、……泣きたいほどに、幸せだ。

「俺も、きっと、君がずっと好き」

 もうひとつ、涙が頬を伝った。
 先の事は分からない。何が起こるか予測なんて出来ない。それでも、他の誰でもなく彼の事が好きで、彼じゃなければ駄目なのだ。
 その事に、やっと気付けた。

 ――抱き締められるのも、キスをするのも、全部、隼音君とがいい……。

 そっと隼音の胸を押し、淡藤色の瞳を真っ直ぐに見つめる。

「隼音君。俺を、君の恋人にしてくれませんか?」

 心から溢れる笑顔で、想いを告げた。


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