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満天の星の下で2
しおりを挟むすると、隼音は突然顔を覆って項垂れた。
「隼音君っ?」
「……すみません。俺、今、見せられない顔してるので」
ちょっとだけ待っててください、ちょっとだけ、と呟く。
髪から覗く耳が真っ赤だ。
突然戻って来た可愛い隼音に、花楓は思わずクスリと笑った。
「可愛い隼音君も、大好きだよ」
「うっ……ありがとうございます……もう、泣きそう……」
感極まる隼音を、今度は花楓の方からぎゅうっと抱き締めた。
こうしていれば、真っ赤になっていても泣いても分からない。全てを受け入れるように優しく背を撫でた。
「花楓さんのこと、一生、大切にします」
「うん……俺も、隼音君のこと大切にするね」
隼音の言葉に、柔らかな声が返る。
指の隙間から窺い見れば、瞳を潤ませふわりと笑う花楓が映り、ついに喜びが爆発してしまった。
「花楓さん……!」
「わっ!」
つい、勢い余って押し倒してしまった。
雰囲気も何もない。格好良く、男らしく決めようとしたのに、そんな余裕などなかった。
ふわふわの毛布の上で、花楓は目をぱちぱちとさせている。可愛い隼音に戻ったと同時に、天然な花楓も戻って来たようだった。
「花楓さん、あの……」
「うん」
「えっと、その………………あ、どうして、俺にシフォンを作ってくれたんですか?」
何かを言い淀み、代わりに落ちた問い。
あの頃は、花楓にとって隼音はただの常連さんだった筈。低糖質ならシフォンでなくても良かった筈なのに、花楓は“隼音の為だけに”シフォンを作ってくれた。
当時を思い出し、怒らないでね、と花楓は眉を下げて前置きをした。
「俺の一番得意な味を、隼音君に覚えていて欲しかったから……だよ。あの頃は隼音君の気持ちを知らなかったから、もしかしたらこのまま来なくなるかもって思ったんだ」
最初はスフレチーズケーキを作っていた。だが、ふとそんな思いに囚われ、あれから一度も作った事のないシフォンケーキを作る事を決めた。
もし最後になるなら、このケーキを食べて欲しい。そう思ったのだ。
「俺のケーキを大切にしてくれる隼音君に、救われてたんだ。だから、もし来なくなっても、またいつか食べたいと思ってくれるかなって」
ごめんね、と謝る花楓に、隼音は大きく首を横に振った。
そんな想いで作ってくれていたなんて少しも知らなかった。
「あの時、伝えて良かったです。花楓さんを何ヵ月も不安にさせなくて良かった」
花楓を見下ろす瞳はどこまでも優しさに溢れていた。
「隼音君。ずっと待たせてごめんね……。俺のこと、好きになってくれてありがとう」
好きになってくれて。ずっと、好きで居続けてくれて。
手を伸ばし、そっと隼音の頬に触れる。こんなにも愛しく狂おしい気持ちを抱えながら、答えの出せない花楓の為にずっと、何でもないように笑って傍にいてくれた。
強くて優しい想いに、胸が熱くなる。手のひらから伝わる隼音の体温に、じわりと視界が滲んだ。
はらりと頬に零れた雫を、隼音の指先がそっと拭う。
「花楓さん、あの………………キス、しても、いいですか……?」
自然な仕草に反して、隼音の声があまりに緊張しているものだから、花楓の緊張は何処かへ飛んで行ってしまった。
「はい」
ふわりと微笑み、隼音の首に腕を回す。すると彼はまた緊張した面持ちで唇を引き結んだ。
彼の向こうに星空が見える。満天の星空だ。
まるで映画のワンシーンよう。のんびりとそんな事を考える頭。だが隼音の手が頬に触れると、途端にドキドキと鼓動が早くなり彼の事しか考えられなくなった。
好きな人と触れ合えるのは、こんなにも幸せな事なんだ。
キラキラと輝く星に負けないくらい綺麗な瞳に見つめられ、胸の奥が熱くなる。
唇へと柔らかな熱が触れ、そっと目を閉じると、また頬にひとつ暖かな雫が零れた。
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