比較的救いのあるBLゲームの世界に転移してしまった

雪 いつき

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討伐クエスト1

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 王宮から馬で五分ほどのところに、その森はあった。数分で森の出口が見え、青く光る壁のようなものが森と外とを隔てている。あれがユアンの言う罠だ。
 その内側にうっすらと見えるのが、過去の神子が張ったという結界だろう。魔物を防ぐ最後の砦。それを守るために罠が存在する。
 罠は魔物が近付くと発動し、触れれば強烈な痛みが走る。人間には効果のないそれを越えた場所で、騎士たちが魔物と戦っていた。


「いきなりオークっ? ゴブリンもいっぱいいるっ……」

 動きが素早い小鬼のゴブリンと、風真が知っているものより小振りだが、緑の体で豪快に武器を振るうオーク。合わせてざっと五十体だ。

「あれを知っているとは、また神の啓示か?」
「……知ってる魔物だった」

 アールの言葉を否定も肯定もせず、目の前の光景を見つめる。騎士の剣がオークを切り裂き、ゴブリンを弾き飛ばす。

「強い……」

 王国の騎士団は、国中の精鋭が揃っている。初めて命の遣り取りを見る風真でさえ、安心してしまうほどだ。

「うちの騎士は強いが、ゴブリンは素早く残忍だ。躊躇いなく命を奪いにくる。気を抜けば怪我では済まないよ」
「っ、そうですよね……」
「これ以上強い魔物が現れることもある。君自身を守るためにも、戦場では常に気を張っていて欲しい」

 そっと頭を撫でられ、コクリと頷いた。
 ユアンは優しい。命を大切にする騎士だと、由茉から聞いていた。だからこそ神子の力で仲間の危険を減らそうとしている。
 神子は討伐の武器。それはユアンにとって、仲間が一番大切だということ。

(俺も仲間って思って貰えれば、大切にしてくれるかな……)

 今のように楽しい玩具ではなく、仲間として、一人の人間として、接してくれるだろうか。そのためには騎士たちのように、国を守る力にならなければ。


(討伐……って、どうすれば……)

 迷う風真の前に、ステータス画面が現れる。

(知力20、体力70?)

 初期値は一から始まるものではないのか。見間違いかと目を瞬かせていると、ピコンッと電子音がして選択肢が現れた。


 祈る
 助けを求める
 逃げる


 由茉から聞いてはいたが、選択肢の殆どが後ろ向きだ。逃げるはバッドエンド。覚えている。逃げるくらいなら助けを求めろと言われた。

(まあ俺は、攻撃一択だけど)

 攻撃という名ではないが、“祈る”を選択する。考えるだけでカーソルが上下に動き、選んだ文字が点滅した。
 両手が勝手に上がり、魔物に翳される。すると魔物は光に包まれて瞬く間に消えていった。

(普通に神子パワー使えるし……)

 手違いの神子ではなかったようだ。魔物は残骸も残さず消えてしまった。だから“浄化”なのかと納得する。
 これで街が襲われることはない。騎士たちの助けにもなれる。安堵すると同時に、こんなに簡単に浄化が出来るなら、これからも討伐に参加する勇気が持てた。


「今の力は……」
「あの数を浄化など……」

 騎士たちの視線が風真に注がれる。誰もが呆然として、中には怯えた表情の者までいた。
 やりすぎた、と風真は気付く。きっと最初のクエストは、騎士たちの補助ポジションだ。それなのに一気に全て倒してしまった。

(いや、だって、初期値がチートだし……)

 間違いではないかと画面を見直す。だが何度見ても数値は変わらなかった。
 その時、同じく唖然としていたユアンが我に返る。

「皆、神子様に忠誠を!」

 ユアンの一声で騎士たちは一斉に片膝を付き、忠誠の言葉を口にした。

「神子君、皆に聞こえるように、許可すると言って」
「えっ…………許可しますっ」

 出来る限りの声で言うと、目の前で跪いていたユアンが風真の手を取った。そしてその手にキスをする。

「これで契約成立だ」
「えっ……」

 それはプロポーズじゃ……と焦る風真を見上げ、ユアンは口の端を上げた。


「今この時をもって、君は、彼らの主人だよ」
「主人って……」
「神子様!」
「最強の神子様だ!」

 騎士たちが駆け寄り、風真を取り囲む。怯える者はもうなく、神が遣わした最強の神子を喜び、歓声を上げた。

(とんでもないことになった……)

 ひっそり討伐の手伝いをする神子が良かったのに、王国の騎士団を従える神子などというポジションになってしまうとは。

「騎士と主人は、互いを守る関係だ。彼らは君を命がけで守るよ。だから、彼らのこともよろしくね、神子君」
「……頑張ります」

 そのための誓い。風真は安堵した。ユアンに無条件に守ると言われるより、討伐の道具として利用された方が安心する。仲間と思われたかったはずなのに、矛盾した思いに風真自身首を傾げた。


「条件を上回る才、か。さすがは私の血。使える神子を召喚したな」
「だから、言い方……まあいいや」

 今は何を言っても平行線な気がする。アールとは、もっとじっくり二人きりで話をする時間が必要だ。そう思っての言葉だったが、もう言い争うことも諦めたのかとばかりに、アールは眉間に皺を寄せた。
 自分勝手な苛立ちを見せるアールを余所に、トキが風真に声を掛ける。

「フウマ様、良く頑張りましたね。魔物などと対峙して、怖かったでしょう?」
「……はい」

 罠で遮られているとはいえ、初めて見る魔物は恐ろしかった。人間を殺すことに躊躇いがなく、騎士が優勢だったからこそ逃げ出さずに済んだのだ。
 今になって震える風真を、トキがそっと抱き締める。

「神より賜ったお力は、フウマ様をお守りします。神は愛するフウマ様のために、その強大なお力をお与えくださったのでしょう」

 優しく背を撫でられ、じわりと目の奥が痛んだ。様子のおかしい時があっても、トキが一番に自分を人として見てくれた。今もこうして宥めてくれる。

(あったかい……)

 由茉の忠告は忘れていない。だが、普段のトキは優しくて暖かい。人の体温はこんなにも心地好いものだと思い出し、そっとトキの服を掴んだ。


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