異世界転移したけれど、今までの世界と比べて平和でした。

犬宰要

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 道中は穏やかなものだった、巨大生物に襲われる事もなく、安全運転で快適な旅をしていた。それがどうして、この都市につくと歩く人たちからじろじろと見られるのだろうか?
 
「なんかこの都市感じ悪いわね」
 
「まあ、確かにな・・・ゴブリン種族が多く、鬼人と比べると弱いって言っていたな」
 
 都市と都市の間にはいくつか村があり、そこでこの都市の事を先に情報収集をしていた。飯は美味いのか、主な産業はなにか、何が盛んになっているのか、そういった話を聞いて普通の都市だと聞いた。マモン卿が納める都市の一つでゴブリン種族が平和に暮らせる都市らしい。
 
 だが、実際に着いてみると行きかう人たちはどこか表情が血気盛んというか、何かおかしかった。
 
「ゴブリン種族って、あんな顔なのかしら?」
 
 疑問があるものの、いったん宿泊所に行き、部屋を確保し街を散策することにした。魔力も身体から放出しているので強さの誇示は申し分ないだろう。
 
「ここの食の品質を確かめるために外食しましょう」
 
「そうだな、場合によっては都市の外で生物狩って、調達しないといけないからな」
 
 俺たち二人は、通りを歩いていると多種多様なゴブリン種族を見かけた。青白い肌、緑色の肌、こげ茶色の肌、大きな角が一本、左右に二本の角、と多種多様だった。大きさも小さいのから大きいのまで様々だが、どれも顔つきは似ていて、種族的な特徴は話に聞いていたのと一致していた。
 
 特に問題も起きず、飲食店で料理を食べ、味も軍用レーション以下ではなく食べられる料理だった。そして、宿泊所に戻る際にじろじろと見られていた理由を知る事となった。
 
「なぁあんた達、そんなマッスルでこの都市に何の用だ? となりのオークも何しに来たんだ? グギャギャ」
 
 目の前のゴブリンたちは筋肉を強調させながら、俺たち二人に質問してきた。この都市のゴブリンはどれも筋肉質だった。だが、兵士である俺は普通だと思っていた、何よりも他の鬼人や魔人とかみな筋肉質だった。なのでゴブリンも筋肉質であるのが普通だと思っていた。
 
「オーク? どういう意味かしら?」
 
 オーク、情報収集された結果からナミが人間ではなく別種族と誤認されています。
 
 ナビが俺に説明してくれた。オークといえば、鼻が上を向いており、体格的に横に大きく、厚い脂肪と筋肉で覆われて食う事と生殖行為が何よりも好きで旺盛だったか・・・チラリとナミを見ると笑っていた。まあ、他種族に間違われるのはよくあったから仕方ない事だ。
 
「ふん、だらしない肉をつけて、俺らのマッスルを見て少しは身の程をわきまえるんだな、グギャギャ」
 
「え、何? 喧嘩なら買うけれど」
 
 ナミは満腹なのか、ぶち切れはしていないものの冷ややかな笑みになっている。
 
「駄肉にはすでに俺たちのマッスルが勝ってるから黙るんだな、グギャギャ」
 
「そこのチビは引き締まったマッスルだが、俺たちの方がマッスルは上なんだな、グギャギャ」
 
 サイボーグ個体なので、筋肉量は任務遂行において適切な人工筋肉なので筋肉量では劣るかもしれない。しかし、闇雲につけただけの筋肉が上だとか言われたら美に反する。
 
「喧嘩なら買うぞ? やんのかこら?」
 
 鍛えて見せびらかし、あまつさえ優劣競う筋肉は違う。それはただの服だ、いい服きてるだけじゃダメだ。中身も伴ってからこその一流の筋肉だ。
 
「グギャギャ、雑魚マッスルのチビが」
 
 一番筋肉がついてるだけのゴブリンが筋肉任せで殴りかかってきたので、その場を動かず右手で止める。受け止めるわけではなく、壁に打ち付けたような止め方をしたのでバンッと勢いある音が響いた。
 
 いつの間にか集まっていた野次馬のゴブリンたち含め殴った本人も驚いていた。サイボーグなので人工筋肉は見た目以上の力、速度、精度、再生力を持っている。それに俺自身近接格闘で生き延びてきたので、この程度の攻撃は止められる。
 
 ゴブリンは繰り出した拳を戻そうとするが、すでに拳を掴み放さない状態なので無理な話だ。
 
「どうした、自慢のマッスルが泣いてるぞ」
 
「グ、グググッ」
 
 俺はそのまま、手首を捻り相手の手首と肘をそれぞれ自然に曲げ、跪くしかないように持っていった。本来なら相手の関節を破壊する合気柔術だが、手加減すれば跪かせるように出来る。
 
「どうした? 跪いて・・・マッスル謝罪か?」
 
 必死に立ち上がろうと力を入れるが、ただ鍛えてあるだけの筋肉の力では逃げれない。ここの技があれば抜けれ、心があればそもそもそんな筋肉の使い方をしない・・・とても惜しい。
 
「おい、そのへんにしときな・・・俺が相手になってやる」
 
 野次馬のゴブリンたちの間から現れたのは、今相手をしているゴブリンに比べて良い筋肉を持つゴブリンだった。だが、洗練されているものの単に運動量と食事が今のこいつよりも上というだけだった、筋肉を見ればわかる。
 俺は、パッと掴んでいた拳を放し、いきなり現れたゴブリンと対峙する。跪いていたゴブリンは離れていき、野次馬の中に埋もれていった。ちっ、根性がない筋肉だ。
 
「ね、ねぇ・・・レンツ大丈夫?」
 
「問題ない、あんな筋肉に負けない」
 
「いや、そうだけど・・・そうじゃないというか・・・」
 
 ナミ、大丈夫だ。筋肉は裏切らない、いつだって裏切るのは自分の心だ。

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