異世界転移したけれど、今までの世界と比べて平和でした。

犬宰要

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「作戦を考えるために、ちょっと都市全体を偵察してくる」
 
 俺はナミに任されたのもあり、モヤモヤする気持ちを切り替えて、外に出た。
 
「私はこの子と散歩してくる」
 
 ナミはナミだった。この世界に来て謳歌していると感じるものの、ナミほど自分は謳歌していないなと思っていた。前のように毎日死と隣り合わせな生活でもないし、人類敵とも言われる存在が闊歩し、常に一定の緊張感を持って警戒する必要もない。
 
 これが平和、っていうことなのかなと思った。
 
 人魚たちが生息する区域まできて、そういえば水中での活動は可能なのかとナビに確認した。
 
 可能です。水深一万メートルの水圧に対して対応可能です。水深が深くなるにつれて活動限界時間が短くなっていきます。
 
 じゃあ、あの辺りは探索可能か・・・最新鋭ってすごいな・・・とぼんやりと思った。
 
 否定、移植された鬼眼によるアップデートにより可能となっています。
 
 なるほど、この眼かぁ・・・眼!?
 
 俺はあまり深く考えない事にし、人魚たちがいる区域に足を踏み入れる事にした。濡れる事に抵抗は無かったが、周りの人たちから自殺だと思われ止められた。説明するにも無音状態だったため、水中で活動できることを手振りで説明し、都市の水中部分へとなんとか踏み入れた。
 
 地上部分と違い、ノイズキャンセリング効果が完全にできないのかところどころ歌が聞こえた。
 
 こっちは地上ほど影響を受けていない?
 
 俺は地上とは違う海中都市を調査していったが、どの人魚も俺のことをじろじろと見てくるのだった。周りを見渡すと、自分と同じような二足歩行の角が耳から生えている人もいたりした。下半身が魚や多脚型の人もいるので、特段珍しくないと思った。
 
「なぁ、あんた」
 
 歌ってる人魚を見ていると声をかけてきた俺と同じ二足歩行型の人魚がいた。
 
「なんだ? 何かようか?」
 
「うぉ・・・どっから声を出してるんだ? いやそれはいい・・・呼吸してないがお前なんなんだ?」
 
 呼吸・・・?
 
 首のあたりを指さして、心配そうに見てきた。
 
「ああ、俺はサイボーグだから呼吸は一定時間しなくても問題ないんだ。それでみんなじろじろ見ていたのか?」
 
「サイ・・・ボーグ? まあ、聞いたことがない種族だな、まあ、なんだ・・・せっかく来たんだ楽しんでいってくれ」
 
「ああ、ありがとう。どこかおすすめなところはあるか?」
 
「それなら――」
 
 俺は親切に教えてくれた人魚にお礼を言った。どうやら今から人魚でナンバーワンの歌姫が歌うらしい。俺は調査のため、聞きにいくことにした。どのくらいの歌唱力があるのか確認しないと、作戦を考えるにも可能な限り不確定要素を排除したいと思ったからだ。
 
 そして、人魚のナンバーワンの歌唱力はハーピーとセイレーンに比べて段違いだった。
 
 海中ということもあり、振動そのものに注力するため、地上と比べて違っていた。ただ、歌詞はあってないようなものでそこは地上とそう変わらなかった。
 歌っている人魚は観客の人に対して一人一人歌いかけているようにしていた。歌を相手にピンポイントで届かせるという技術力もあることがわかり、中々興味深いと感じた。
 
 解析完了。水中歌唱可能です。
 
 ナビがいつの間にか解析していた。俺は海中で得られる情報もある程度そろったのもあり、地上に戻ることにした。人魚の歌を聞いたことで、昔聞いた歌を思い出し、ちょっと口ずさみながら戻った。人魚の中でナンバーワンというだけあって、なかなかよかったのもあり気分が上がっていた。
 
 地上に戻ると体中がびしょ濡れで少し不快感があったが、まあ仕方ないと割り切った。
 
「ちょ、ちょっと! そこの! 白髪の! 角無し!」
 
 地上は、ノイズキャンセリングされていて静かなはずなのに、海の方から声が聞こえてきた。振り向くと人魚の中でナンバーワンの人だった。脚はなく、魚のような尾ひれのタイプの人魚だ。
 
「―――?」
 
 なんかようか? と普通に声を出すものの、ノイズキャンセリングされて声がでなかった。どうしたものかなぁと思ったら、ナビが速攻で対応してくれた。
 
 解析完了。特定の方向、対象に声を送信するサウンドレーザーパケット通信を魔力を用いておこなっています。会話可能になりました。
 
「なんかようか?」
 
 改めて返事をしたら、今度は相手がギョとし、あたりをきょろきょろとした。
 
「ね、ねえ・・・もしかして、私にだけ聞こえてるの?」
 
「そうだが? それで何かようか?」
 
「私にあなたが口ずさんでいた歌を教えて!」
 
「え、断る」
 
「なんで! お願い! お願いします!」
 
 人魚は陸に上がってきて、頭をつけて土下座・・・? はたから見ると寝そべってるような姿勢になっていた。
 
「よろしくお願いします!」
 
 寝そべっているような土下座で顔は地面の方を向いているのに、俺の耳に声が届いていた。周りは人だかりが出来ていて、見渡すとまるで俺が何か悪いことをしてるような表情で一様に見ていた。
 
 違うんです。何もやってない・・・いやちょっと口ずさんで歌っただけ・・・本当に何もやってない。


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