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2.聖女誕生
広間では、トイレに行ったはずの公女様がなかなか戻ってこないので、騒ぎになりつつあった。
さすがに教皇や司祭も心配しているフリをしているのか、ソワソワと落ち着きがなくなってきた。
「誰か、公女様の様子を見て参れ」
侍女が数人、トイレの方へ行くと、誰もいない。公女様が用を足したであろう形跡もないことから、慌ててベルリオーズ公爵に報告する。
「何⁉ジェニーがいなくなっただと!?まさか……?」
ギロリと教会関係者の方を睨みつける。
「滅相もございません!我々が聖女様をかどわかすことなどあり得ません!」
「娘は聖女様だと決まったわけではない!まだ1歳になったばかりの幼子なのだ。よくも無体なことをしてくれたな!」
「いやいや、誤解です!公爵閣下は誤解をなさっておられるのです。我々は断じて公女様に危害など加えられましょうか!本当です。女神に誓って無実です」
教会側とベルリオーズ家が言い争いをしている間、国王は秘かに近衛に命じて公爵邸の近辺に不審者がいないかどうか探らせている。
その結果、公爵邸の周りには不審者だらけであったということが露見する。皆、神童と呼ばれる公女様を一目拝みたいと集まってきた街の者たちが大半を占めている。中には、公女を利用して商売につなげたいと考えている商人や怪しげな人相風体の輩も混じり、ちょっとしたお祭り騒ぎの喧騒になっている。
それに加え、人が多く集まるところは商機と見たか、屋台などの露店も通りの向こう側に見える。串焼きの匂いが人々の空腹を誘い、けっこう売れている様子に驚く。
公爵邸の裏口はというと、こちらは閑散としていて、まだ1歳になったばかりの幼子を袋にでも入れ、8~9キログラムぐらいの体重しかないので、持ち運びに苦労はしないはず。
いずれにしても、内部の人間が関与している可能性が極めて高いと判断される。
教会と公爵家の言い争いはいったん終結し、今になって大騒ぎしながら公女様の行方を追っている。
それというのも、常日頃、公女様を巡って教会がストーカー紛いのことをしているから疑われるのも自業自得なのだが、余計な口出しをすれば王家といえども、恨みは買いたくない。
広間のテーブルクロスをみんなめくっても公女様は見つからない。そもそもトイレの付近には、騎士が常駐している。こういう大勢の貴族が集まる時は、トイレの中で不心得者がいないとも限らないので、痴漢防止の観点からも騎士を常駐させているのだ。
その騎士が気付かないうちに、公女様を連れ去ったのだとしたら広間を出て、最初の角を曲がったあたりが怪しい。
そこにも公女様はいなかった。やはりすでに、公爵邸の外に連れ出された後なのか?
時間だけが無慈悲に流れる中、誕生日パーティは終了し、それぞれ公女様へのプレゼントを受付に渡し解散することになったのだが、各馬車の中を検められたことは言うまでもないこと。
内心、憤慨しているものの。これで潔白が証明されるのならば、と一様に協力的であった。
パーティが終わり、公爵夫妻が泣きはらした目をして、公女の部屋に入ると、そこには寝息を立てて眠っている娘がいた。ホッとしたのもつかの間、国王と教会にお詫びをすることになった。
国王も教皇も「まだ1歳の幼子は寝るのが仕事」と理解を示してくれて安堵したのだ。
それ以降、ジェニファーの誕生日をしても、教会は二度と無理強いをしなくなり、平穏な日々を過ごせ、安心してジェニファーはすくすくと育っていった。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
あれから4年の月日が流れ、今日は教会に洗礼を受けに行く日。今日の魔力検査は仕方はない。もう逃げられないことはわかっている。
洗礼というのは、満5歳になった貴族の子弟は、将来の職業選択のため、女神さまから籠のお告げを授かりに行くと決まっている。
それでも前世女神だったとはいえ、やはり水晶玉の前に立たされると手に汗がにじむ。緊張している。
魔力判定の結果は、計測不能なぐらい魔力量が多いということが分かった。当然の結果よね。
属性検査は、全属性で、そうなると聖魔法も使えるということで、否が応でも聖女判定に期待がかかる。
いやいやジェニファーは聖女ではなく女神だから、聖女判定なんて、する必要があるの?疑問に思うが、今、言えば大変な騒ぎになることぐらい予想がつく。だから黙って水晶玉に手を翳したら、ちゃんと反応してくれました。よかった。
言っとくけど、何もジェニファーだから水晶玉が反応したってことにはならない。もし、ここに他の貴族令嬢がいたら、きっとその娘も聖女判定が出たと思う。なぜならジェニファーが本物の女神だから。ジェニファーの聖なる魔力が他の令嬢に影響を与えてしまう。
それからは、お決まりのコースで、聖女様のローブを着せられ、全世界にシューベルト国から聖女様が誕生したとの知らせが行き渡る。縁談が山のように来る。なかでもしつこいのがやはり王家。1歳の誕生日から目を付けられていた記憶があるので、ほとんど諦めに近い境地がある。
王家には、ジェニファーと同い年のアラン王子がいる。それで、ここぞとばかりにアラン王子と婚約させられてしまったというわけ。
アラン王子は、小さいときは可愛かったよ。女神の存在を信じていたしね。
さすがに教皇や司祭も心配しているフリをしているのか、ソワソワと落ち着きがなくなってきた。
「誰か、公女様の様子を見て参れ」
侍女が数人、トイレの方へ行くと、誰もいない。公女様が用を足したであろう形跡もないことから、慌ててベルリオーズ公爵に報告する。
「何⁉ジェニーがいなくなっただと!?まさか……?」
ギロリと教会関係者の方を睨みつける。
「滅相もございません!我々が聖女様をかどわかすことなどあり得ません!」
「娘は聖女様だと決まったわけではない!まだ1歳になったばかりの幼子なのだ。よくも無体なことをしてくれたな!」
「いやいや、誤解です!公爵閣下は誤解をなさっておられるのです。我々は断じて公女様に危害など加えられましょうか!本当です。女神に誓って無実です」
教会側とベルリオーズ家が言い争いをしている間、国王は秘かに近衛に命じて公爵邸の近辺に不審者がいないかどうか探らせている。
その結果、公爵邸の周りには不審者だらけであったということが露見する。皆、神童と呼ばれる公女様を一目拝みたいと集まってきた街の者たちが大半を占めている。中には、公女を利用して商売につなげたいと考えている商人や怪しげな人相風体の輩も混じり、ちょっとしたお祭り騒ぎの喧騒になっている。
それに加え、人が多く集まるところは商機と見たか、屋台などの露店も通りの向こう側に見える。串焼きの匂いが人々の空腹を誘い、けっこう売れている様子に驚く。
公爵邸の裏口はというと、こちらは閑散としていて、まだ1歳になったばかりの幼子を袋にでも入れ、8~9キログラムぐらいの体重しかないので、持ち運びに苦労はしないはず。
いずれにしても、内部の人間が関与している可能性が極めて高いと判断される。
教会と公爵家の言い争いはいったん終結し、今になって大騒ぎしながら公女様の行方を追っている。
それというのも、常日頃、公女様を巡って教会がストーカー紛いのことをしているから疑われるのも自業自得なのだが、余計な口出しをすれば王家といえども、恨みは買いたくない。
広間のテーブルクロスをみんなめくっても公女様は見つからない。そもそもトイレの付近には、騎士が常駐している。こういう大勢の貴族が集まる時は、トイレの中で不心得者がいないとも限らないので、痴漢防止の観点からも騎士を常駐させているのだ。
その騎士が気付かないうちに、公女様を連れ去ったのだとしたら広間を出て、最初の角を曲がったあたりが怪しい。
そこにも公女様はいなかった。やはりすでに、公爵邸の外に連れ出された後なのか?
時間だけが無慈悲に流れる中、誕生日パーティは終了し、それぞれ公女様へのプレゼントを受付に渡し解散することになったのだが、各馬車の中を検められたことは言うまでもないこと。
内心、憤慨しているものの。これで潔白が証明されるのならば、と一様に協力的であった。
パーティが終わり、公爵夫妻が泣きはらした目をして、公女の部屋に入ると、そこには寝息を立てて眠っている娘がいた。ホッとしたのもつかの間、国王と教会にお詫びをすることになった。
国王も教皇も「まだ1歳の幼子は寝るのが仕事」と理解を示してくれて安堵したのだ。
それ以降、ジェニファーの誕生日をしても、教会は二度と無理強いをしなくなり、平穏な日々を過ごせ、安心してジェニファーはすくすくと育っていった。
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あれから4年の月日が流れ、今日は教会に洗礼を受けに行く日。今日の魔力検査は仕方はない。もう逃げられないことはわかっている。
洗礼というのは、満5歳になった貴族の子弟は、将来の職業選択のため、女神さまから籠のお告げを授かりに行くと決まっている。
それでも前世女神だったとはいえ、やはり水晶玉の前に立たされると手に汗がにじむ。緊張している。
魔力判定の結果は、計測不能なぐらい魔力量が多いということが分かった。当然の結果よね。
属性検査は、全属性で、そうなると聖魔法も使えるということで、否が応でも聖女判定に期待がかかる。
いやいやジェニファーは聖女ではなく女神だから、聖女判定なんて、する必要があるの?疑問に思うが、今、言えば大変な騒ぎになることぐらい予想がつく。だから黙って水晶玉に手を翳したら、ちゃんと反応してくれました。よかった。
言っとくけど、何もジェニファーだから水晶玉が反応したってことにはならない。もし、ここに他の貴族令嬢がいたら、きっとその娘も聖女判定が出たと思う。なぜならジェニファーが本物の女神だから。ジェニファーの聖なる魔力が他の令嬢に影響を与えてしまう。
それからは、お決まりのコースで、聖女様のローブを着せられ、全世界にシューベルト国から聖女様が誕生したとの知らせが行き渡る。縁談が山のように来る。なかでもしつこいのがやはり王家。1歳の誕生日から目を付けられていた記憶があるので、ほとんど諦めに近い境地がある。
王家には、ジェニファーと同い年のアラン王子がいる。それで、ここぞとばかりにアラン王子と婚約させられてしまったというわけ。
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