4 / 10
4.アンドーナツ
しおりを挟む
アンドーナツがアカデミーに編入してからというもの、アランとの二人の時間は激減した。
アンドーナツと一度も出会ったことがないのに、なぜかアンドーナツは、アランに
「ジェニファー様が嫉妬をして、私を苛めてくる」
アランに訴えている模様。アランも馬鹿正直にそれを信じ、教室移動の時に廊下ですれ違っただけで、いちいちご注進くださるから、鬱陶しくて仕方がない。
「アンドーナツを苛めるな!」
あのカス王子、根元からちょん切ってやろうかとも思う。でも、ひょっとすれば、まだ使うかもしれないし、という思いから、まだ実行には至っていない。
そればかりか、ジェニファーの悪口を言いたい放題に言っているらしい。
「ジェニファー様は、悪役令嬢だから、ワガママで性格が悪く、すぐキレられるから怖い」
「は?あくやくって、どういう意味?」
「悪い人って言うことよ」
「ふうん。今までそんな話聞いたことがないわよ。なんといってもジェニファー様は神童だっていう噂があるぐらい。お小さいときから優秀なのよ」
「嘘よ、そんなのデタラメに決まっている。きっと公爵家の威光を笠に着ているのよ」
他の令嬢は、信じられない話というばかりに目を見張っているというのに、アランだけは、その言葉を真実としてとらえている。
なぜなら小さいときから、たぶん物心をつく前から、アランはジェニファーといつも比べられて育ってきた。だから潜在意識の中にそこはかとないジェニファーへのコンプレックスが根付いているのではないかと思う。
それと同時に、アランはジェニファーを婚約者に持てて、誇らしいという気持ちも持ち合わせている。
だからあまりにもアンドーナツがジェニファーのことを悪く言いすぎると、「そんなことはない」と否定する気持ちも、いつまで続くかわからないが不機嫌になることも、そのせいで起こっている。
幼いときから、共に育った幼馴染のことを悪く言われて、気分を害さない方がどうかしていると思う。
不機嫌になると、途端にアンドーナツから距離を置いてしまう。そんなことをすればアンドーナツが悲しむとわかっていながら苛立ちを隠せないでいる。
異世界から違う世界から来た聖女様の心痛を理解しようと、常にアンドーナツに寄り添うようにしている間に、アンドーナツと恋仲にでもなってしまったような気分に時々陥る。
でもアランが愛してやまないのは、ジェニファーだけで……と信じているはずなのに、あまりにもひどい悪口を聞かされた時は、思わずその真実(?)から目をそむけたくなる。
教会からジェニファーと婚約破棄して、アンドーナツと婚約するように、と圧力がかかっていることは知っている。なぜか国王は、婚約解消を認めてくれない。だから仕方なくジェニファーと婚約を続けているに過ぎない。
でも、ジェニファーには、過去に確固たる実績があるが、アンドーナツが聖魔法を使って民衆を救済しているところを見たことがないのも事実で、時々、あまりにも悪辣なジェニファーに対しての悪口を聞くと本当に聖女様なのかと疑いたくなる。
ジェニファーは今まで一度も他人の悪口を言っているのを聞いたことも見たこともない。
どちらが聖女様に相応しいかと問われれば、間違いなくジェニファーに軍配が上がるだろう。
結局のところアランは選べないでいるのだ。ジェニファーのことは愛しているし、尊敬もしている。アンドーナツのことは可愛い妹として見ているつもりだが、周囲は、アランがジェニファーからアンドーナツに乗り換えたと思っていることを知りながら、そのまま黙認している。
もし選ぶとすれば、ジェニファーを正妻の王子妃にして、アンドーナツは、第2夫人、妾として側に置きたいと考えている卑怯者なのだ。
王子妃としての職務も、聖女としての仕事も、すべてジェニファーに押し付け、アンドーナツは愛玩として、傍に置きたいだけなのだ。
そんなアランの本音をアンドーナツは見逃せない。アンドーナツの狙いはあくまで自分が第1王子妃で、ジェニファーは妾ですらない一般のオンナになってほしい。できれば、どこかの年寄りの後妻として嫁にいくか、少なくとも国外追放、良ければ死罪を言い渡してもらいたいと願っている。
なぜならアンドーナツにとって、ジェニファーは目の上のたん瘤そのものだから。目障りでしょうがない。
帰宅しても、ハイドン家でアンドーナツは平民の子扱い、最初こそ「お嬢様」呼びで大事にしてもらえたけど、ジェニファーから聖女の地位を奪ってからは、誰も大事にしてもらえない。家でも愛されず、アランにも愛されず、で寂しい。
アランにとっては、ジェニファーの気を惹くための道具でしかないことはわかっているのだが、いつになったらアランはアンドーナツのことを女として見てくれるのだろうか?
この世界に来てから、アンドーナツは全然成長していない。というか、むしろ衰退しているようにしか感じられない。背は低いままで体重も増えない。肝心のお胸もペタンコのままで、ひょっとしたら、この世界は遊んでいた乙女ゲームの世界ではなく、アンドーナツもヒロインではないのかもしれないと時々思う。
もしかしたら長い夢を見ているだけなのかもしれない。それにしたら妙にリアリティはあるけど、そうでなければヒロインを愛さない王子とは、どんなものなのか?
アンドーナツと一度も出会ったことがないのに、なぜかアンドーナツは、アランに
「ジェニファー様が嫉妬をして、私を苛めてくる」
アランに訴えている模様。アランも馬鹿正直にそれを信じ、教室移動の時に廊下ですれ違っただけで、いちいちご注進くださるから、鬱陶しくて仕方がない。
「アンドーナツを苛めるな!」
あのカス王子、根元からちょん切ってやろうかとも思う。でも、ひょっとすれば、まだ使うかもしれないし、という思いから、まだ実行には至っていない。
そればかりか、ジェニファーの悪口を言いたい放題に言っているらしい。
「ジェニファー様は、悪役令嬢だから、ワガママで性格が悪く、すぐキレられるから怖い」
「は?あくやくって、どういう意味?」
「悪い人って言うことよ」
「ふうん。今までそんな話聞いたことがないわよ。なんといってもジェニファー様は神童だっていう噂があるぐらい。お小さいときから優秀なのよ」
「嘘よ、そんなのデタラメに決まっている。きっと公爵家の威光を笠に着ているのよ」
他の令嬢は、信じられない話というばかりに目を見張っているというのに、アランだけは、その言葉を真実としてとらえている。
なぜなら小さいときから、たぶん物心をつく前から、アランはジェニファーといつも比べられて育ってきた。だから潜在意識の中にそこはかとないジェニファーへのコンプレックスが根付いているのではないかと思う。
それと同時に、アランはジェニファーを婚約者に持てて、誇らしいという気持ちも持ち合わせている。
だからあまりにもアンドーナツがジェニファーのことを悪く言いすぎると、「そんなことはない」と否定する気持ちも、いつまで続くかわからないが不機嫌になることも、そのせいで起こっている。
幼いときから、共に育った幼馴染のことを悪く言われて、気分を害さない方がどうかしていると思う。
不機嫌になると、途端にアンドーナツから距離を置いてしまう。そんなことをすればアンドーナツが悲しむとわかっていながら苛立ちを隠せないでいる。
異世界から違う世界から来た聖女様の心痛を理解しようと、常にアンドーナツに寄り添うようにしている間に、アンドーナツと恋仲にでもなってしまったような気分に時々陥る。
でもアランが愛してやまないのは、ジェニファーだけで……と信じているはずなのに、あまりにもひどい悪口を聞かされた時は、思わずその真実(?)から目をそむけたくなる。
教会からジェニファーと婚約破棄して、アンドーナツと婚約するように、と圧力がかかっていることは知っている。なぜか国王は、婚約解消を認めてくれない。だから仕方なくジェニファーと婚約を続けているに過ぎない。
でも、ジェニファーには、過去に確固たる実績があるが、アンドーナツが聖魔法を使って民衆を救済しているところを見たことがないのも事実で、時々、あまりにも悪辣なジェニファーに対しての悪口を聞くと本当に聖女様なのかと疑いたくなる。
ジェニファーは今まで一度も他人の悪口を言っているのを聞いたことも見たこともない。
どちらが聖女様に相応しいかと問われれば、間違いなくジェニファーに軍配が上がるだろう。
結局のところアランは選べないでいるのだ。ジェニファーのことは愛しているし、尊敬もしている。アンドーナツのことは可愛い妹として見ているつもりだが、周囲は、アランがジェニファーからアンドーナツに乗り換えたと思っていることを知りながら、そのまま黙認している。
もし選ぶとすれば、ジェニファーを正妻の王子妃にして、アンドーナツは、第2夫人、妾として側に置きたいと考えている卑怯者なのだ。
王子妃としての職務も、聖女としての仕事も、すべてジェニファーに押し付け、アンドーナツは愛玩として、傍に置きたいだけなのだ。
そんなアランの本音をアンドーナツは見逃せない。アンドーナツの狙いはあくまで自分が第1王子妃で、ジェニファーは妾ですらない一般のオンナになってほしい。できれば、どこかの年寄りの後妻として嫁にいくか、少なくとも国外追放、良ければ死罪を言い渡してもらいたいと願っている。
なぜならアンドーナツにとって、ジェニファーは目の上のたん瘤そのものだから。目障りでしょうがない。
帰宅しても、ハイドン家でアンドーナツは平民の子扱い、最初こそ「お嬢様」呼びで大事にしてもらえたけど、ジェニファーから聖女の地位を奪ってからは、誰も大事にしてもらえない。家でも愛されず、アランにも愛されず、で寂しい。
アランにとっては、ジェニファーの気を惹くための道具でしかないことはわかっているのだが、いつになったらアランはアンドーナツのことを女として見てくれるのだろうか?
この世界に来てから、アンドーナツは全然成長していない。というか、むしろ衰退しているようにしか感じられない。背は低いままで体重も増えない。肝心のお胸もペタンコのままで、ひょっとしたら、この世界は遊んでいた乙女ゲームの世界ではなく、アンドーナツもヒロインではないのかもしれないと時々思う。
もしかしたら長い夢を見ているだけなのかもしれない。それにしたら妙にリアリティはあるけど、そうでなければヒロインを愛さない王子とは、どんなものなのか?
41
あなたにおすすめの小説
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
何か、勘違いしてません?
シエル
恋愛
エバンス帝国には貴族子女が通う学園がある。
マルティネス伯爵家長女であるエレノアも16歳になったため通うことになった。
それはスミス侯爵家嫡男のジョンも同じだった。
しかし、ジョンは入学後に知り合ったディスト男爵家庶子であるリースと交友を深めていく…
※世界観は中世ヨーロッパですが架空の世界です。
【完結】「お前に聖女の資格はない!」→じゃあ隣国で王妃になりますね
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【全7話完結保証!】
聖王国の誇り高き聖女リリエルは、突如として婚約者であるルヴェール王国のルシアン王子から「偽聖女」の烙印を押され追放されてしまう。傷つきながらも母国へ帰ろうとするが、運命のいたずらで隣国エストレア新王国の策士と名高いエリオット王子と出会う。
「僕が君を守る代わりに、その力で僕を助けてほしい」
甘く微笑む彼に導かれ、戸惑いながらも新しい人生を歩み始めたリリエル。けれど、彼女を追い詰めた隣国の陰謀が再び迫り――!?
追放された聖女と策略家の王子が織りなす、甘く切ない逆転ロマンス・ファンタジー。
「異常」と言われて追放された最強聖女、隣国で超チートな癒しの力で溺愛される〜前世は過労死した介護士、今度は幸せになります〜
赤紫
恋愛
私、リリアナは前世で介護士として過労死した後、異世界で最強の癒しの力を持つ聖女に転生しました。でも完璧すぎる治療魔法を「異常」と恐れられ、婚約者の王太子から「君の力は危険だ」と婚約破棄されて魔獣の森に追放されてしまいます。
絶望の中で瀕死の隣国王子を救ったところ、「君は最高だ!」と初めて私の力を称賛してくれました。新天地では「真の聖女」と呼ばれ、前世の介護経験も活かして疫病を根絶!魔獣との共存も実現して、国民の皆さんから「ありがとう!」の声をたくさんいただきました。
そんな時、私を捨てた元の国で災いが起こり、「戻ってきて」と懇願されたけれど——「私を捨てた国には用はありません」。
今度こそ私は、私を理解してくれる人たちと本当の幸せを掴みます!
絶縁状をお受け取りくださいませ旦那様。~離縁の果てに私を待っていたのは初恋の人に溺愛される幸せな異国ライフでした
松ノ木るな
恋愛
アリンガム侯爵家夫人ルシールは離婚手続きが進むさなかの夜、これから世話になる留学先の知人に手紙をしたためていた。
もう書き終えるかという頃、扉をノックする音が聞こえる。その訪ね人は、薄暗い取引で長年侯爵家に出入りしていた、美しい男性であった。
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
婚約破棄までにしたい10のこと
みねバイヤーン
恋愛
デイジーは聞いてしまった。婚約者のルークがピンク髪の女の子に言い聞かせている。
「フィービー、もう少しだけ待ってくれ。次の夜会でデイジーに婚約破棄を伝えるから。そうすれば、次はフィービーが正式な婚約者だ。私の真実の愛は君だけだ」
「ルーク、分かった。アタシ、ルークを信じて待ってる」
屋敷に戻ったデイジーは紙に綴った。
『婚約破棄までにしたい10のこと』
【完結】婚約破棄したのに「愛してる」なんて囁かないで
遠野エン
恋愛
薔薇の散る夜宴――それは伯爵令嬢リリーナの輝かしい人生が一転、音を立てて崩れ落ちた始まりだった。共和国の栄華を象徴する夜会で、リリーナは子爵子息の婚約者アランから突然、婚約破棄を告げられる。その理由は「家格の違い」。
穏やかで誠実だった彼が長年の婚約をそんな言葉で反故にするとは到底信じられなかった。打ちひしがれるリリーナにアランは冷たい背を向けた直後、誰にも聞こえぬように「愛してる」と囁いて去っていく。
この日から、リリーナの苦悩の日々が始まった。アランは謎の女性ルネアを伴い、夜会や社交の場に現れては、リリーナを公然と侮辱し嘲笑する。リリーナを徹底的に傷つけた後、彼は必ず去り際に「愛してる」と囁きかけるのだ。愛と憎しみ、嘲りと甘い囁き――その矛盾にリリーナの心は引き裂かれ、混乱は深まるばかり。
社交界の好奇と憐憫の目に晒されながらも、伯爵令嬢としての誇りを胸に彼女は必死に耐え忍ぶ。失意の底であの謎めいた愛の囁きだけがリリーナの胸にかすかな光を灯し、予測不能な運命の歯車が静かに回り始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる