異世界から召喚された聖女様が悪役令嬢で~偽聖女の烙印を押された聖女様は女神の化身だった

青の雀

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4.アンドーナツ

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 アンドーナツがアカデミーに編入してからというもの、アランとの二人の時間は激減した。

 アンドーナツと一度も出会ったことがないのに、なぜかアンドーナツは、アランに
「ジェニファー様が嫉妬をして、私を苛めてくる」

 アランに訴えている模様。アランも馬鹿正直にそれを信じ、教室移動の時に廊下ですれ違っただけで、いちいちご注進くださるから、鬱陶しくて仕方がない。
「アンドーナツを苛めるな!」

 あのカス王子、根元からちょん切ってやろうかとも思う。でも、ひょっとすれば、まだ使うかもしれないし、という思いから、まだ実行には至っていない。

 そればかりか、ジェニファーの悪口を言いたい放題に言っているらしい。
「ジェニファー様は、悪役令嬢だから、ワガママで性格が悪く、すぐキレられるから怖い」
「は?あくやくって、どういう意味?」
「悪い人って言うことよ」
「ふうん。今までそんな話聞いたことがないわよ。なんといってもジェニファー様は神童だっていう噂があるぐらい。お小さいときから優秀なのよ」
「嘘よ、そんなのデタラメに決まっている。きっと公爵家の威光を笠に着ているのよ」

 他の令嬢は、信じられない話というばかりに目を見張っているというのに、アランだけは、その言葉を真実としてとらえている。

 なぜなら小さいときから、たぶん物心をつく前から、アランはジェニファーといつも比べられて育ってきた。だから潜在意識の中にそこはかとないジェニファーへのコンプレックスが根付いているのではないかと思う。

 それと同時に、アランはジェニファーを婚約者に持てて、誇らしいという気持ちも持ち合わせている。

 だからあまりにもアンドーナツがジェニファーのことを悪く言いすぎると、「そんなことはない」と否定する気持ちも、いつまで続くかわからないが不機嫌になることも、そのせいで起こっている。

 幼いときから、共に育った幼馴染のことを悪く言われて、気分を害さない方がどうかしていると思う。

 不機嫌になると、途端にアンドーナツから距離を置いてしまう。そんなことをすればアンドーナツが悲しむとわかっていながら苛立ちを隠せないでいる。

 異世界から違う世界から来た聖女様の心痛を理解しようと、常にアンドーナツに寄り添うようにしている間に、アンドーナツと恋仲にでもなってしまったような気分に時々陥る。

 でもアランが愛してやまないのは、ジェニファーだけで……と信じているはずなのに、あまりにもひどい悪口を聞かされた時は、思わずその真実(?)から目をそむけたくなる。

 教会からジェニファーと婚約破棄して、アンドーナツと婚約するように、と圧力がかかっていることは知っている。なぜか国王は、婚約解消を認めてくれない。だから仕方なくジェニファーと婚約を続けているに過ぎない。

 でも、ジェニファーには、過去に確固たる実績があるが、アンドーナツが聖魔法を使って民衆を救済しているところを見たことがないのも事実で、時々、あまりにも悪辣なジェニファーに対しての悪口を聞くと本当に聖女様なのかと疑いたくなる。

 ジェニファーは今まで一度も他人の悪口を言っているのを聞いたことも見たこともない。

 どちらが聖女様に相応しいかと問われれば、間違いなくジェニファーに軍配が上がるだろう。

 結局のところアランは選べないでいるのだ。ジェニファーのことは愛しているし、尊敬もしている。アンドーナツのことは可愛い妹として見ているつもりだが、周囲は、アランがジェニファーからアンドーナツに乗り換えたと思っていることを知りながら、そのまま黙認している。

 もし選ぶとすれば、ジェニファーを正妻の王子妃にして、アンドーナツは、第2夫人、妾として側に置きたいと考えている卑怯者なのだ。

 王子妃としての職務も、聖女としての仕事も、すべてジェニファーに押し付け、アンドーナツは愛玩として、傍に置きたいだけなのだ。

 そんなアランの本音をアンドーナツは見逃せない。アンドーナツの狙いはあくまで自分が第1王子妃で、ジェニファーは妾ですらない一般のオンナになってほしい。できれば、どこかの年寄りの後妻として嫁にいくか、少なくとも国外追放、良ければ死罪を言い渡してもらいたいと願っている。

 なぜならアンドーナツにとって、ジェニファーは目の上のたん瘤そのものだから。目障りでしょうがない。

 帰宅しても、ハイドン家でアンドーナツは平民の子扱い、最初こそ「お嬢様」呼びで大事にしてもらえたけど、ジェニファーから聖女の地位を奪ってからは、誰も大事にしてもらえない。家でも愛されず、アランにも愛されず、で寂しい。

 アランにとっては、ジェニファーの気を惹くための道具でしかないことはわかっているのだが、いつになったらアランはアンドーナツのことを女として見てくれるのだろうか?

 この世界に来てから、アンドーナツは全然成長していない。というか、むしろ衰退しているようにしか感じられない。背は低いままで体重も増えない。肝心のお胸もペタンコのままで、ひょっとしたら、この世界は遊んでいた乙女ゲームの世界ではなく、アンドーナツもヒロインではないのかもしれないと時々思う。

 もしかしたら長い夢を見ているだけなのかもしれない。それにしたら妙にリアリティはあるけど、そうでなければヒロインを愛さない王子とは、どんなものなのか?

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