魔女と呼ばれ処刑された聖女は、死に戻り悪女となる

青の雀

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死に戻り1

8.お誕生日会

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その日は朝早くからたたき起こされて、軽い朝食を済ませた後は、お風呂に入らされて全身を磨かれる。

前世もこんなことがあったかなぁ。という気分。侍女もお妃に選ばれるかどうかの瀬戸際だから、気合の入れ方が違うよう。

絶対、イヤだからね。
あんな王宮に10年間も閉じ込められ、青春を返せ!と叫び出したいぐらい、おぞましい。

お風呂の後は髪形、縦ロールを作るために焼き鏝を手にした侍女を見た時、思わず前世の記憶が蘇ってくる。

赤く熱した焼き鏝を折檻だと言いながら何度も押し付けられたことか……、少しでも男たちに抗うような素振りを見せるとお仕置きだと言い、わき腹や内腿に押し付けられた記憶。
「痛い!熱い!」泣き叫ぶ声を聴き、さらに興奮して自慰行為に耽る者までいた。

決して、思い出したくもない黒歴史が思い出され、思わず身をかがめてしまう。

「お嬢様、お熱いのでお気をつけて、あまり動かれませんように」

そんなこと言われても、コワイ。

一人の侍女がアンジェリーヌのカラダを動かないように正面から抱き着く。後ろから髪の毛を少しずつ掬いクルクルと焼き鏝に巻き付けていく。首には火傷防止のための白い布を何枚も重ね巻き付けてくれている。

あの頃と違って、至れり尽くせりね。そりゃそうだ、今日選ばれるその日に、令嬢が首に火傷を負っていては選ばれるものも選ばれないというもの。

それから豪華なドレスに着替えさせられる。このドレスにも宝石の小粒がふんだんにあしらわれていて、これも後から頂戴しよう。思わずほくそ笑んでいるアンジェリーヌに侍女たちが褒めちぎる。

「お嬢様、とてもよくお似合いですわ」
「なんと!妖精のような可愛らしいお姿で、他のご令嬢はさぞかし悔しい思いをなされるのでしょうね」

誰も来ないわよ。

タウンハウスの玄関前に王宮行きの馬車が横付けされ、父公爵と共に出立する時間が近づいてくる。

「用意はできたか?」

「はい。お父様」

「おお!なんと美しい!まるで美の女神さまのようだな」

この親父、決して悪い人ではないのだろうけど、いや、悪い人だ。魔女が現れてから手の平返しをされたのだから、「お前など我が家の娘ではない!」あの時の言葉が今でも、耳の奥でこだましている。信じていた人間に裏切られたショックは計り知れない。

それがたとえ魅了魔法で精神を操られ洗脳されていたとしても、我が娘のことまで忘れ去ってしまうとは、つくづく情けない。
恐らく元からそういう人間だったのだろう。皆、自分のことだけ、我が身だけが可愛いのだ。だから平気で娘を見捨て、見殺しにできる。

そんな家族なら、いない方がマシだ。

アンジェリーヌは、父の前でドレスを翻して、クルっと回ってみせる。

もうそれだけで、父は悶絶して、鼻血を垂らしている。

「可愛い!アンジェリーヌ可愛すぎる!どこへもお嫁に行くことはない!一生、パパの傍にいてくれ!」

それを母にどやされ、執事に鼻血の手当てをしてもらっている。

本当っ!情けないダメ親父。

父がそんななっている隙に、アンジェリーヌは、こっそり厩舎の方へ回ってみる。5歳の誕生日の時、プレゼントとしてポニーをもらったのだ。

ポニーの首に手を回すと、乗れ!と合図を送ってくれる。

「いいの?重いよ」

前足を折り、乗りやすい高さに合わせてくれるポニー。ポニーでプチ家出をするつもりはなかったアンジェリーヌだが、せっかくの厚意は、ありがたく受ける。

颯爽と、ポニーに跨り、正面入り口ではなく裏口から街へ出かけた。

乗馬は、前世、お妃教育でもそれから学園に入る前でも、好きでよく一人で遠乗りをして出かけたものだ。ドレスを着たままの横乗りや跨って乗る騎乗、どちらもできるが今は跨って乗っている。両足で意思表示ができるから、この乗り方が好きだ。

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