16 / 35
前世:断罪
16.クリストファー視点
しおりを挟む
クリストファー殿下からアンジェリーヌ・マキャベリの情報を得た聖女リリアーヌは、その日からターゲットをアンジェリーヌに絞る。
昨夜の閨事でのこと
「クリスの横にいた女性、ずいぶん綺麗な人だったわね?」
「ああ、あれは政略での婚約者です。彼女は公爵家の一人娘で、箱入りなのです」
「ふーん。他に御兄弟は?」
「兄が一人います。確か名前はシャーロックと言い、彼女の学園の友人エリーゼと結婚し、男児が一人います」
「じゃあ、後は王子様と結婚すれば、幸せ全開というところね」
「あの女とは結婚しま……せん?いつも俺を見下してきて、今は聖女様のモノです。愛しています」
「まあ、嬉しい。だったらお嫁さんにしてくれる?」
「ぜひ、私と結婚してください。でも、父王がなんというか……」
「それには心配及ばないわ。クリスが愛してくれるのなら、もう1回しよ?」
クリストファーは、内心、愛してやまないのはアンジェリーヌただ一人なはずなのに、なぜかこの聖女様を前にすると本当のことが言えない。妙に強制力がある。
本当に抱きしめたいのは、アンジェリーヌ。でも、快楽に溺れていく自分は、もう愛しい彼女の名前も顔もわからなくなってしまう。
気が付けば、リリアーヌの男妾のようになっている自分に吐き気がするが、そういえば、あの謁見の日以来、父王の姿は見ていない。誰かをひどく傷つけたという自覚はあるが、それが誰のことかは思い出せない。
ここのところ、リリアーヌの寝室には自分だけしかいない。城内には時折、若い女性の悲痛な叫び声が聞こえるようになった。それが誰の声なのか思い出させそうで思い出せないもどかしさを感じる。思い出そうとすると、なぜか頭が割れるように痛い。
「あの女、処女だったなんて、いい年をして笑っちゃうわ」
あの女……誰のことか、よくわからないが、先ほどの悲痛な叫び声の持ち主だということはわかる。
クリストファーの常識では、貴族令嬢なら、結婚するまでは純潔を守るのが当たり前なので、おそらく声の持ち主は貴族令嬢ということになるだろう。
可愛そうだとは思うが、今のクリストファーにリリアーヌに逆らう力はどこにもない。
リリアーヌを前にすると、なぜだか愛の言葉しか囁けない。どんなに口惜しくても、それは声にはなることはない。
まるで操り人形のように、ただ、己のカラダを差し出すだけの存在に成り下がっていた。
今日は、午後から聖女様はお出かけの模様。その同行を昼食中に急に求められた。いったい、どこへ行かれるのか?聞いても、たぶん教えてくれないはずだが、気になる。
王宮から馬車で1分。ずいぶん、立派な屋敷に到着する。これなら歩いていけばいいと思うのだが、王家の威信を見せつけるためか、門を通り長い庭を通り抜けると、その家の主人夫婦らしい人物が出迎えてくれる。
「おかえりなさい。リリアーヌ」
「殿下もようこそ。お待ち申し上げておりました」
「ただいま」
家族でもないのに、当然のような挨拶に違和感を覚える。
夫妻に案内されるまま、屋敷の中を進み、中庭に出る。そうだ。昔、ここに来たことがある。何の用事で来たかは覚えていないが、少なくともリリアーヌ絡みではなかったように思える。
懐かしいような、そしてどこか嬉しいような記憶があったような気がする。思い出そうとすると、ここでも頭が割れるように痛くなる。
「結婚式を速めるって聞いたけど、本当?」
「ええ。陛下のお加減が悪いらしいのよ。それでクリスとの結婚を早めにしないと、戴冠式の用意もあるから、すべて前倒しにすることになってね」
「そう。ウエディングドレスはもう出来上がっているから。でも、リリアーヌ、少し瘦せたのではない?アナタ一人のカラダではないのだから、気を付けてね」
「ええ。大丈夫よ。マリッジブルーになっているだけだから」
一見、他愛ない話だが、どこかおかしい??
昨夜の閨事でのこと
「クリスの横にいた女性、ずいぶん綺麗な人だったわね?」
「ああ、あれは政略での婚約者です。彼女は公爵家の一人娘で、箱入りなのです」
「ふーん。他に御兄弟は?」
「兄が一人います。確か名前はシャーロックと言い、彼女の学園の友人エリーゼと結婚し、男児が一人います」
「じゃあ、後は王子様と結婚すれば、幸せ全開というところね」
「あの女とは結婚しま……せん?いつも俺を見下してきて、今は聖女様のモノです。愛しています」
「まあ、嬉しい。だったらお嫁さんにしてくれる?」
「ぜひ、私と結婚してください。でも、父王がなんというか……」
「それには心配及ばないわ。クリスが愛してくれるのなら、もう1回しよ?」
クリストファーは、内心、愛してやまないのはアンジェリーヌただ一人なはずなのに、なぜかこの聖女様を前にすると本当のことが言えない。妙に強制力がある。
本当に抱きしめたいのは、アンジェリーヌ。でも、快楽に溺れていく自分は、もう愛しい彼女の名前も顔もわからなくなってしまう。
気が付けば、リリアーヌの男妾のようになっている自分に吐き気がするが、そういえば、あの謁見の日以来、父王の姿は見ていない。誰かをひどく傷つけたという自覚はあるが、それが誰のことかは思い出せない。
ここのところ、リリアーヌの寝室には自分だけしかいない。城内には時折、若い女性の悲痛な叫び声が聞こえるようになった。それが誰の声なのか思い出させそうで思い出せないもどかしさを感じる。思い出そうとすると、なぜか頭が割れるように痛い。
「あの女、処女だったなんて、いい年をして笑っちゃうわ」
あの女……誰のことか、よくわからないが、先ほどの悲痛な叫び声の持ち主だということはわかる。
クリストファーの常識では、貴族令嬢なら、結婚するまでは純潔を守るのが当たり前なので、おそらく声の持ち主は貴族令嬢ということになるだろう。
可愛そうだとは思うが、今のクリストファーにリリアーヌに逆らう力はどこにもない。
リリアーヌを前にすると、なぜだか愛の言葉しか囁けない。どんなに口惜しくても、それは声にはなることはない。
まるで操り人形のように、ただ、己のカラダを差し出すだけの存在に成り下がっていた。
今日は、午後から聖女様はお出かけの模様。その同行を昼食中に急に求められた。いったい、どこへ行かれるのか?聞いても、たぶん教えてくれないはずだが、気になる。
王宮から馬車で1分。ずいぶん、立派な屋敷に到着する。これなら歩いていけばいいと思うのだが、王家の威信を見せつけるためか、門を通り長い庭を通り抜けると、その家の主人夫婦らしい人物が出迎えてくれる。
「おかえりなさい。リリアーヌ」
「殿下もようこそ。お待ち申し上げておりました」
「ただいま」
家族でもないのに、当然のような挨拶に違和感を覚える。
夫妻に案内されるまま、屋敷の中を進み、中庭に出る。そうだ。昔、ここに来たことがある。何の用事で来たかは覚えていないが、少なくともリリアーヌ絡みではなかったように思える。
懐かしいような、そしてどこか嬉しいような記憶があったような気がする。思い出そうとすると、ここでも頭が割れるように痛くなる。
「結婚式を速めるって聞いたけど、本当?」
「ええ。陛下のお加減が悪いらしいのよ。それでクリスとの結婚を早めにしないと、戴冠式の用意もあるから、すべて前倒しにすることになってね」
「そう。ウエディングドレスはもう出来上がっているから。でも、リリアーヌ、少し瘦せたのではない?アナタ一人のカラダではないのだから、気を付けてね」
「ええ。大丈夫よ。マリッジブルーになっているだけだから」
一見、他愛ない話だが、どこかおかしい??
145
あなたにおすすめの小説
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ついで姫の本気
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。
一方は王太子と王女の婚約。
もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。
綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。
ハッピーな終わり方ではありません(多分)。
※4/7 完結しました。
ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。
救いのあるラストになっております。
短いです。全三話くらいの予定です。
↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。
4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。
婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる