ようこそ肉体ブティックへ~肉体は魂の容れ物、滅んでも新しい肉体で一発逆転人生をどうぞ

青の雀

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旦那と無理やり結婚させられ、トラブル体質に愛想を尽かす

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 真昼間聖子は、わずか4年という短い期間の飛び級でウィーン大学を卒業する。

 ウィーンフィルに所属するも、東洋の真珠と評され、世界中から演奏会のオファが殺到する。

 聖子の演奏を聴く誰もがその音色に癒される。

 何年ぶりかで、日本へ帰国することになったのだが、日本公演でのスポンサーは、真昼間財閥がなり、CMで大々的に聖子のピアノ演奏が使われることになったのである。

 聖子はまだ20歳、振り袖姿の聖子のピアノ演奏姿はビジュアル的に絵になり、バラエティ番組に引っ張りだこになる。

 テレビ局の楽屋で、トイレに行くはいいが、楽屋へ戻れなくなり困っているときにアシスタントディレクターの和夫君と知り合いになった。

 和夫君は、前世まゆ香と同郷で、あの春栄堂事件の際は、まだ大学生だったが、あの時マスコミに就職したいと思ったとか、なぜ?と聞くと

 「10歳も年下のしかも身重の奥さんを殴り殺すって尋常ではない、と感じひどく怒りを覚えたんだ。それが心神耗弱状態で無罪を主張したんだぜ、あのバカ旦那は。精神鑑定をした結果、有罪になったけどさ。なぜだかわからないけど、こういう事件に対して、真っ向から批判できるマスコミがかっこよく見えた。そこからは、必死に勉強して、ADになれたんだよ。」

 あの事件がもたらした社会的な影響を考える。

 きっとあれが事件として、取り上げられたのは、まゆ香が殺されたからで、もし殺されなければ、表ざたになるなど氷山の一角だろう。

 聖子の高校でのいじめ事件、あれも女子生徒側は心神耗弱を理由に逃れようとしたけど、そうは問屋が卸さない。

 いじめた側は退学処分の上、女子少年院送り、それぞれの保護者は家を売却し補償金にあて、父親は会社をクビになり一家離散となったのである。

 ほんの軽い気持ちで、前の旦那も暴力をふるったことなのかもしれない。いじめた側も最初は、ほんの冗談で始めたことかもしれない。どちらも事件として、結果が重大になっただけで、結果オーライなら事件にすらならない。

 生死なんて、本当に紙一重ね。

 軽い気持ちで命の尊さを忘れている。

 日本にいる間は、それからADの和夫君と仲良しになり、時々、田園調布の我が家にも連れ帰るようになったのである。

 それが真昼間の父の頭痛の種だったとは、思いもしなかったのだけどね。

 でもボーイフレンドを家にも連れて帰らないような娘では、かえって心配だから、と周囲に漏らしていたそうだ。

 ウィーンでは、ボーイフレンドができたら、必ず親に紹介するものだと思っていたから、聖子もガールフレンドとして、よく交際相手の家に行ったものだ。

 それと同じ調子で、田園調布に連れ帰ったものだから、父親はかなり心配したらしい。

 一通り、日本での公演が終わり、再びウィーンに戻るとき、和夫君からプロポーズがあり、返事に困る。

 「俺がいつかディレクターになったら、迎えに行く。その時まで、聖子ちゃんがひとりだったら、俺との結婚を真剣に考えてくれ。」

 アシスタントって、いつ取れるの?その辺のことに暗いものだから、母に相談する。母もテレビ局の人事はよくわからないらしい。

 それで、母は父に相談すると、父はテレビ局の上層部へ相談することになったのだ、事が大げさになっていく。

 若い二人は何も知らないまま、再会を約束して別れることに。

 テレビ局は、真昼間がスポンサーになってくれるのであれば、すぐにでも出世させますと言ってきたのだ。

 そうは言っても、まだ聖子の気持ちを聞いていないから、スポンサーになるかどうかもわからない。

 楽団とともに、成田から出国する聖子を追いかける真昼間。

 「お父様、なんですの?血相を変えて。」

 「なんですの、ではない。聖子、お前和夫君と結婚する意志があるのか?」

 「ええー!お母様のおしゃべりね。うーんと、まだよくわからないわ。少ししか付き合ってないし、向こうへ帰って、会いたくなったら愛しているかどうかわかるんだけどね。ただのボーイフレンドの一人よ、お父様ったら心配性なんですね。」

 「そうか、それならまだ出世させなくてもいいのか?」

 「ええ?どういうことですの?」

 「テレビ局が、真昼間がバックにスポンサー契約してくれるのなら、すぐにでもディレクターにしてやると回答してきたのだ。」

 「ウィーンフィルとまだ契約が残っているので、これからカナダに向かうのよ、後で連絡するから、ちょっと保留ね。」

 手を振って、出国ゲートへ向かう聖子。

 「若い娘の考えてることは、よくわからん。」

 「ただのボーイフレンドの一人か……。まぁ、まだ20歳で結婚なんて早すぎるか。」

 真昼間はほっと一安心して、帰路に着く。

 そしてすっかり、和夫君とのことを忘れてしまった矢先に、突如娘が結婚したいと言い出してきたのだ。

 今度のお相手は、世界的に有名なコンダクター指揮者である。

 真昼間からすれば、まさに寝耳に水の話。

 「え?和夫君はどうなった?」

 「だから、和夫君は数あるボーイフレンドの一人、今の彼氏は、私を指揮してくれる時の目がいいのよ。それでいっぺんに好きになっちゃった。ってわけ。」

 「はぁ。それでいつ、その彼氏と会わせてくれるんだい?」

 「彼ね。今、オーストラリアに演奏旅行へ行っているから、帰るとき、ニッポンに立ち寄るって、言ってたわ。それで、私はしばらく花嫁修業するつもりなの。」

 ウィーンは音楽の都なので、世界中から音楽家が集まってくる。でも、真昼間は正直なところ、音楽家同士の結婚は反対なのだ。うまくいくわけがない。家の中に男が二人いるようなものだから、その点、和夫君はアシスタントディレクターから経験を積むからちょうど良かったのだ。

 世界的に有名なコンダクターは、会ってみたらただの変人だったのだ。何で、娘は次から次へとちょっと……変わった人物が好きなのだろうか?

 それでどうせ花嫁修業をするなら、ということで真昼間の会社へ入れた。まずは、秘書課に入れ、自分の目の届くところに置いたのだ。

 聖子は、前世入社試験に落ちた憧れの会社へ入社できたことだけで、もう気分は丸の内OLでルンルンしている。

 理由は知らずに。父の真昼間はこんなに娘が悦んでくれるのなら、ずっといてもいいんだよ。と思っている。

 聖子は今まで一度も自分のお茶すら淹れたことがないのに、(前世では、経験済み。)やたら聖子が淹れてくれたお茶は、古くからいる秘書の中でも、まねはできないくらい美味しい。お湯の加減とお茶っ葉の量がちょうどいいのだ。多少、親バカが入っているとしても、プロが淹れたものと遜色がない。

 だって、聖子の前世はお茶問屋の娘だったから、小さい時からお茶に関してはうるさい。

 こんな娘なら、どこへ出しても恥ずかしくない。真昼間は、聖子を広報課へ異動させることにしたら、秘書室長から苦情が来る。

 なんと!今度は、秘書室長と恋仲になってしまったらしい。

 恋仲と言っても清い関係のままなのだが。うっかり財閥の令嬢なんかに手を出せば、社会的に殺されかねないから。

 「聖子、あの例のコンダクターとはどうなったのだ?」

 「ああ、彼とはもう別れちゃったわよ、だって、彼、フランス人のチェロリストとイイ感じなのよ。ったく、腹が立つぅ。」

 「秘書室長は、バツイチで30歳だから、ちょっと年が離れすぎやしないか?」

 「ええー!あの人、バツイチなのぉ?知らなかったわ。だったら、広報へ行くわよ。」

 秘書課から広報そして経営企画に総務、点々と異動が繰り返される。もともと、腰かけ目的で花嫁修業が目的なのだが、聖子が異動すると、その部署がなぜかグンと良くなるからだ。

 これも肉体ブティック効果かどうかはわからないが、部署の雰囲気が良くなる。それに、聖子狙いの男性社員がやたらハッスルすることもある。聖子は一人娘なので、もしも聖子に気に入られれば、真昼間財閥の跡取りになれるからだ。

 でも、聖子は相変わらず、外人好き。16歳でウィーンへ行ったので、一番多感な時代を外国で暮らしたからかもしれない。

 今はピアニスト兼花嫁修業中のOLが気に入っている。将来、真昼間財団を継ぐことなど念頭にない。

 日本の音大の大学院でも進学しようかしらね。なんて、まだまだ学生気分が抜けないのである。

 そんな時、あの真紅の薔薇学園で同級生だった唯一の親友?加奈子から連絡があり、合コンに誘われたのだ。

 そうだ。合コンへ行こう。前世、まゆ香時代の学生時代は、しょっちゅう合コンへ行っていたのに、今世は一度も合コンに行っていない。なんか物足りないと感じていたのは、合コンへ行っていないからだ。ということに気づく。

 加奈子は、あの世界的に有名なピアニストの真昼間財閥の一人娘聖子と親友であるということを誇示するために誘ったのだが、真昼間聖子が合コンに参加するのなら、と真夜中財閥の御曹司が来ることになったことは、嬉しい誤算であったのだ。

 合コンは、基本割り勘である。学生同士が多いからね。出会いを求めて、というよりは暇つぶしが大半であろう。

 学生時代は、時間に余裕があるから。他大学の学生と喋ることは楽しい。という理由だけで、前世は参加していたように思う。

 会場は都内の高級レストランで集合となる。真昼間財閥と真夜中財閥だから、ずいぶん張り込んだなぁとは、思ったが、外国暮らしをしていた聖子は、別に。という感じで参加したのだ。

 真夜中紘一は、真昼間聖子を一目見るなり、気に入ったのだ。同じ境遇で育ち、悩みを共有できる相手として、生涯を共にしたいと感じる。

 真昼間聖子はと言うと、正直なところ、もう結婚はコリゴリなのだが、真夜中紘一が聖子を見る目が他の学生とは異なることに気づく。

 ん?モテている?前世の合コンは、その他大勢の一人モブとしての参加だったから、今回みたいにモテる合コンは初めての経験で新鮮。

 合コンが終わったら、すぐに真夜中紘一から連絡があり、個人的に正式にお付き合いを申し込まれる。

 相手は大財閥の御曹司だから、返答に困る。OKしたら、軽い女と思われないか?断ればもう二度と好条件の男性と知り合えないような気もする。

 どうしたものか、とまた母に相談すると、今度は二つ返事で

 「あら、いいご縁じゃない?釣り合いが取れているわね。今度、ウチへ連れていらっしゃい。お母様がとくと検分させてもらうわ。」

 聖子は、まだお付き合いできるかどうかわかりかねますが、一度わが家へあそびにいらしてください。と返事したのである。

 その日は、両親揃っての実況検分だ。

 真夜中紘一はそれを承知でやってくる。たった一人で敵地へ乗り込む覚悟?で。

 意外にも、両親は交際に賛成してくれたのだ。

 真夜中紘一さんのどこが気に入ったか、わからないまま、とりあえず交際することにした聖子。

 あっという間に交際してすぐ結婚話へとなるが、嫌な予感しかない。前の時と同じ展開に困惑する。前世も知らない間に結納が取り交わされていて、結婚する当事者は置いてきぼりのキライがあったからで。

 でも、両親は真夜中紘一さんの誠実なところ、礼儀正しいところが気に入ったという。確かに、前の夫と比べると育ちは良さそうで、礼儀正しい。

 でもまた失敗するかも?という不安が付きまとう。

 そのまま紘一さんは聖子にプロポーズしてくれる。

 「大学を卒業したら、結婚しよう。」

 聖子は、ひきつりながらもOKしたのだ。OKしなくてはならない状態に追い込まれたというべきか?なぜなら、紘一さんは両親の目の前で、プロポーズしてくれたので、聖子が返事をする前に両親が悦んでいるので、断わり辛い。

 結婚を前提としたお付き合いは、身体の関係を意味する。

 紘一さんとのベッドインは、あまり気乗りがしなかったものの、紘一さんは終始優しく接してくれたことは良かった。

 体が満足すると、心まで満たされる。今度こそ、幸せになれるのか?不安を抱いたまま、結婚式を迎える。

 結婚式の後すぐ、真昼間家と真夜中家の経営統合という話になったのが、少々気に入らないところ。

 来たるべき大不況に備え、日本は国際的に後れをとることになるから、競争力を高めるための政略結婚であったことがうかがい知れたのだ。

 それでも結婚後も変わらぬ態度で接してくれた紘一さんには感謝の言葉しかない。たとえ、親同士、家同士は政略でも、紘一さんは一人の女性として、聖子を敬い尊重してくれる。

 やがて子供が生まれたのだが、これが双子の男の子だったことから、一挙に経営統合の話は白紙撤回されることになったのだ。

 社員はリストラされることはなくなり、それぞれの企業はそのまま存続することになる。

 聖子の一生は、これで良かったのか?前よりマシだということは言うまでもない。

 でも、女の一生は、結婚するまでが華で、結婚してしまえば、女三界に家無し。ということが根底にある。

 聖子は出産を終えてから、またピアニストとして活躍することになるが、両家の広告塔として十分である。

 心にはポッカリと穴が開いたまま、一生を終える。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 年老いて、孫に囲まれ、死んでから、再び「肉体ブティック」を訪れようとするが、もう三途の川の手前には建っていなかったのである。

 きっと、「肉体ブティック」は、期間満了して、人生を全うした死者には見えない店なのであろう。
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