ようこそ肉体ブティックへ~肉体は魂の容れ物、滅んでも新しい肉体で一発逆転人生をどうぞ

青の雀

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いじめられっ子

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 妙子はマウンテンバイクを買って、軽快にこぐ。ご機嫌である。久しぶりに自転車に乗ったから、ここのところ管理職と経営職でロクに運動もしていなかったからね。

 異世界の道は舗装していない道がほとんどでも、パンクする心配がない。王都あたりは、石畳が敷き詰めてあるみたいだけど、その他は昔懐かしい砂利道だからね。

 ものの30分ほど走ったら、すぐ最初の集落が見えてきたのである。そこはベルソ村と言う前世の眠剤みたいな名前の村である。

 自転車を消し、村の中に入っていく。今は、ワンピースを着ている。女神様と朝ごはんを食べているとき、

 「その恰好はダメよ。せめて、ワンピースぐらい着ないとね。」

 見るとさっきまで、慌ててそこらにあったTシャツとGパンだったから。それで、女神様が何枚か着替え分も含めてワンピースをくれたのだ。

 ワンピースと言っても、裾まである長いロングドレス調のものだ。異世界では、足首を出すことはご法度らしい。

 靴は、スニーカーを履いている。ハイヒールなんて、ずいぶん長いこと履いていないような?会社では通勤は、スニーカーで、会社ではパンプスを履いていたわ。

 パンストにソックスを穿いて、スニーカー、ソックスを脱いでパンプス姿になった。だから昨夜、久しぶりのハイヒールに四苦八苦したのだ。

 妙子は、なぜか異世界の文字が読めた、きっとカラダが異世界文字を読んでいるのだろうと思う。それにおそらく違う言語であろうと思われるが、耳も口も覚えているらしく、異世界対応してくれる。

 便利だ。あのままニッポンにいて、焼け野原の復興と言われても、出来るかどうかもわからない。会社の決算資料も一部IRとして、HPに乗せているもののほかは、資料は全部、灰になっているだろう。それを推定で決算して、税金など納められるわけがない。倒産は免れないかもしれない。

 よくぞ、女神様、異世界を勧めてくれたものだと感心する。妙子は、今まで、ひとりで生きてきたも同然だから、異世界でたった一人でも平気でいられるのだ。

 だれも自分以外は、頼るものがない自灯明で生きてきたから。でも、この世界で生きていくためには、この世界でお金を稼ぐ必要があるだろう。会計士補で税理士だから、お金の計算しかできないが、それでなんとかなる?

 お金の計算は、万国共通なはず。形はいくら違っても、国がある限り、税の徴収はあるはずだから。

 そのことをベルソ村の村長に相談してみる。この世界で好きなお酒を売ってもいいが、何か免許や許認可が必要かもしれないので、そのことも併せて、相談してみることにする。

 「おや、若い女性の旅人とは、珍しい。」

 「はい。何やら記憶があいまいで、隣国で公爵令嬢をしていたみたいなのですが昨夜はパーティをしてドンチャン騒ぎをしていましたところ、気がついたら国境付近におりまして。いっそのこと、この国で暮らそうかと思って歩いてきましたのよ。わたくし、少々聖女の力を持っております。それとお金の計算が得意です。」

 「なんですとっ!聖女様であらせられるのか?しばし、お待ちを。お名前を伺っておりませんでしたな、なんとおっしゃいますか?」

 「カトレーヌ・ジャネット公爵令嬢だと思います……。」

 名前を聞き終えた後、すぐ村長は席を立ち、どこかへ行ってしまわれる。

 これでは、相談にならない?

 それでヒマなので、ニッポンの新聞を異世界通販で取り寄せ、読むことにした。新聞社も壊滅状態で、そのほとんどがロイターからの記事である。やはり、赤い国がアメリカまでミサイルを飛ばし、本土も焼け野原になり、カナダまで被害が及んでいるらしい。

 でもアメリカも報復措置ですでにミサイルは発射された後、もう地球そのものがなくなるかもしれない。核保有国は、一斉に弾道ミサイルを打ち合っているらしい。

 そうなれば、ニッポンも負けてはいないだろう。組み立てさえ行われたら、いつでも発射できるはず。非核三原則だなんて、誰が信じているの?という話。処分に困るほど、プルトニウムがあり、しょっちゅう衛星を打ち上げているのは、何のため?と考えると必然的に答えが出る。

 そこへ村長が慌てて、戻ってきたのだ。足音がしたから、わかったのだ。

 すぐさま、読みかけの新聞を消し、何食わぬ顔をしてお茶を飲んでいるふりをする。

 「お待たせしました。今宵は、こちらでお泊りください。今、部屋を用意させております。」

 カトレーヌは、お言葉に甘んじることにする。また、マンションを出したら怒られるかもしれない。

 用意された部屋は10畳ほどの広さ。でも部屋に風呂はない。前世ニッポン人のカトレーヌは、お風呂がない生活なんて、耐えられない。部屋の中をぐるぐる回って、どこかに風呂を出そうとするも、排水などが困るだろう。

 やっぱりマンションを出すしかないか?諦めかけた時、クローゼットを何気に開いた。そして、あのパーティでの酒盛りは楽しかったと思い出す。あれからまだ半日ぐらいしか経っていないのである。時計がないのは、不便なので、酒盛りをしているとき、異世界通販でセイコウの時計を買ったのだ。時計の針は8時半を指している。

 今からお風呂のことを考えるのは止そう。さっき、女神様と朝食を食べたばかりなのだ。

 すると、ドアがノックされ、朝食が運ばれてきたのだ。

 「聖女様、遅くなりました。朝餉でございます。」

 「あの……せっかくなのですが、もういただいた後でございます。あ!でも、やっぱりいただきます。」

 今度、いつまともな食事ができるかどうかわからないので、タッパーに入れて冷蔵庫に入れておこう。

 内容は、パンとスープとサラダ、パンとサラダは、ラップでくるみ、スープはドリンク用のボトルに入れる。それをみんな冷蔵庫に後で入れることにしよう。

 廊下に空いた皿を出す。

 再び、クローゼットを開け、ここに冷蔵庫だけを出すことを思いつく。カトレーヌは、前世のマンションの部屋の冷蔵庫を、精神を集中して、出そうとしたら、なぜか洗濯機とエアコンをついでに想ってしまって、気づいたらマンションの部屋ごと出していた。

 クローゼットの中に、見慣れたマンション扉がある。

 扉を開けると、そこは紛れもなく、妙子のマンションだった今朝まで着ていたパジャマは脱ぎっぱなしのミノムシ状態で、鎮座していたのだ。

 げ!

 マンションの部屋の片づけを大急ぎで始める。パンとサラダ、スープを冷蔵庫にしまい込み、お風呂の掃除も終わる。

 時計を見たら、まだ10時だった。

 冷蔵庫の中の食材は、昨日出したときのままで、昨夜飲んだはずのビールもそのまま入っていた。食べてもなくならない冷蔵庫なんて、便利だわ。買い物に行く必要がない。

 プラス朝食のパンとサラダ、スープのドリンクボトルが増えている。素晴らしい。夢の冷蔵庫だわ。まぁ、異世界なんて、夢の世界だからそうなのかもしれない?

 カトレーヌは、自分のマンションの部屋で寛いでいる一応、玄関ドアは開けっぱなしにしている。でないと、クローゼットの外の音が聞こえないからね。

 靴を履いて、何気にクローゼットの外へ出てみると、お昼に来客があるらしい。それでランチは、別の建物に来てほしいと申し出がある。

 「正装して、行かなければなりませんか?」

 「いえいえ、ドレスはこちらでご用意いたしますので、それまでごゆるりとお過ごしくださいませ。」

 ふーん。いきなり、処刑されるってわけないよね。なんか、心配になってくる。だってドレスを用意するなんて、処刑服に着替えさせられる?

 逃げ出す算段を考えとかなきゃね。ランチの中に毒や眠剤を仕込まれる可能性があるかもしれないから、銀のスプーンをあらかじめ買っとこうか?

 ランチの中に入っている成分を分析出来たらいいのかもしれないけどね、銀のスプーンも迷信だという説もあるから。

 思い悩んでいると、目の前に透明なアクリル板状のものが現れる。いつの間にこんなものが!

 名前:深尾妙子ことカトレーヌ・ジャネット
 種別:人間
 年齢:18歳

 え?18歳?これはまたずいぶんサバを読んでいるような?続きを見る。

 性別:女
 職業:会計士、ソムリエ、公爵令嬢、聖女

 ソムリエなんか資格持っていないよ?それに会計士ではなく会計士補なんだからね。間違えてもらったら困るわ。……また、続きを見る。

 ぶつぶつ文句を言うと、職業欄が会計人に変わった。まぁ、会計人ならギリギリOKよね。

 そして続きを見ると、

 特殊スキルとして、転移魔法、異空間収納、異世界通販、鑑定、隠蔽、言語理解、治癒魔法、聖魔法、回復魔法、創造魔法がズラリと並んでいるのが見える。

 使えそうなものもあれば、どうやって使うの?と言うような使い方がわからないものまである。

 とにかく転移魔法が使えるみたいなので、一応、練習する。

 と言っても、イメージできるのは、昨日、行ったパーティ会場と肉体ブティックだけ、ひょっとして、今朝、肉体ブティックへ行けたのも、転移魔法のおかげかもしれない。知らない間に使っていた?

 まぁ、とにかく昨日のパーティ会場へ行ってみることにする。すぐその場で、念じただけで、行ったのだけど、会場は真っ暗。そらそうだよね、誰もいないのに明るくする意味がない。

 なんとなく電気のスィッチを探しながら、明るければいいのに、と思っていたら勝手に光魔法が発動したみたいで、明るい。

 魔法って便利ね。何でも思ったことが実現しちゃうんだもん。

 入り口付近の扉をそっと開けると、やっぱり昨日見た景色がそこに広がっていたのである。

 成功したと喜んでいると、騎士団の騎士が

 「いたか?」

 「いや、いない。聖女様は何処へ行かれたのだろう。」

 え?探されている?こうしちゃいられないわ!隣国へ行ったことなんて、すぐバレて連れ戻されるかもしれない。

 お尋ね者になっているのか?パーティで酒盛りしたことが悪かったのか?それとも空き地にマンションを出したほうか?とにかく、呑気にしている場合ではない!

 あわてて、元の部屋に戻り、マンションを異空間の中に収納する。マウンテンバイクも新聞もちゃんと異空間の中に収納されていた。

 時計を見ると、もう11時。とにかく、ここからベルソ村の入り口まで、転移して、そこでまた、マウンテンバイクを出し、一応自分に隠蔽魔法をかけてから、出発することにしたのである。長いワンピースの裾は邪魔になったけど、太ももまでたくし上げたら、楽に漕げるようになったのである。

 街道沿いを進んでいると立派な馬車と騎馬隊?らしき人たちとすれ違う。誰もカトレーヌの存在に気づいていない。

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