ようこそ肉体ブティックへ~肉体は魂の容れ物、滅んでも新しい肉体で一発逆転人生をどうぞ

青の雀

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いじめられっ子

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 妙子は、気がついたら、パーティ会場みたいなところにいる。

 そうか。異世界へ転生したんだっけ?この飲み物は何だろう?飲んでもいいのかな?周りを見渡すと、みんな飲み食いしながら歓談している。前世妙子は、いわゆるイケル口だったので、お酒が気になるところ。

 「公爵令嬢カトレーヌ・ジャネット!」

 なんだか、みんなが妙子を見ているような気がするけど、気のせいよね。

 「コラ!無視するな!」

 な~に?騒々しい。どのお酒を飲もうか?チャンポンにして、いきなり異世界でぶっ倒れるのもよくないから、まずは匂いを確かめる。

 テキーラ系?こっちは、フルーツフルな感じ?養命酒みたいな匂いがするのもある。

 「コラコラコラコラ!無視するな!と言っておるであろう?」

  「は?あなたどなた?わたくし今、どのお酒を嗜むか迷っているところですの。」

 「ああ、それなら、このあたりが飲みやすい。」

差し出されたお酒は、甘口。のど越しキリリがいいのです。

 「こんな女性向けのお酒より、もっと辛口がいいのです。のど越しキリリとするような。」

 「カトレーヌ、君はそんなにイケル口だったのか?知らなかった。今度一緒に飲みたい。」

 え?カトレーヌ?そう言えば、女神様から名前聞くのを忘れていたけど、ま、いいっか。そのうち、わかるだろう。

 「そんなことより、公爵令嬢カトレーヌ・ジャネット、貴様との婚約は今宵をもって破棄するものとする。」

 「どうぞ。」

 「え?それだけ?普通は、『なぜでございますか?わたくしのどこが至らなかったのですか?』とか聞くものだろう。ふつう。」

 「そんなことどうだっていいわよ。それより、早く辛口!」

 妙子は、女神様から聞いたシチュエーションのことをすっかり忘れている。大好きなお酒を目の前にすると我を忘れる質なのだ。

 「はい、ただいま。」

 王太子殿下は、給仕に命じて辛口一献というワインを持ってくる。

 「これで辛口のつもり?まだまだね。」

 いつの間にか、妙子の周りには酒飲みが集まってきて、酒談義が始まる。

 「こんなのぶどうの味しかしないわよ。もっとまろやかで、芳醇な味わいの中にある辛口を持ってきて頂戴。」

 妙子の表現に、酒飲みたちの間からどよめきが起こる。

 「カトレーヌ嬢がこんな左利きだったとは……、いやぁ将来が楽しみですな。」

 「ははは、まったく。でも先ほど、王太子殿下が婚約破棄するとか言っておられませんでしたか?」

 「それならば、ウチの倅はどうだろうか?」

 「いやいや、我が国の王子はまだ独り身で……。」

 「だ、誰も婚約破棄するなど、言っておらぬわ。」

 「え?でも先ほど、確かに何度もカトレーヌ嬢の名前を呼び、『なぜでございますか?わたくしのどこが至りませんでしたかと聞くだろ普通』と言われていたような……?」

 「ははは。空耳でござるよ。」

 もう王太子のアルバートは婚約破棄する気持ちが失せたのである。こんな面白い女、どこを探したってそうそういない。

 それに酒は、我が国の基幹産業である。酒の出来の良し悪しが経済を左右する。そのため、王太子妃となるものは、酒がイケる口でないと困る。唎酒をしても下戸なら、吐いてしまうだけでは困るのである。

 そこへカトレーヌの義妹リリアーヌがやってきて、

 「ひどいですわっ!お義姉様のカトレーヌと婚約破棄して、わたくしをお嫁さんにしてくれると言ったことは嘘だったのですか?」

 「ああ、そうとも!お前のような飲めぬ女に興味はない。」

 「それはあんまりでございますっ!わたくしのカラダをさんざんオモチャにして弄んでおきながら。」

 「は!お前なんぞ、ブカブカ女で処女ではなかったではないか!処女でない女が王太子妃になれると思ったか?お前も母親譲りで、俺をジャネットのように誑し込めるとでも思ったか!」

 パーティ会場で、大声で言われたものだから、リリアーヌはいたたまれなくなり、その場を去る。

 その頃、妙子は……、酔っ払いのオッサンたちの輪の中にいる。

 「仕方ありませんわね。それではわたくしのとっておきをごちそうして差し上げますわ。」

 「おお!待ってました!」

 妙子は、なんでも願ったことができるというあの女神様の言葉を覚えていて、というかその部分だけしか覚えていない(汗)

 魔法で異世界通販をすることに成功、前世ニッポンで飲んでいた妙子お気に入りの銘酒を取り寄せる。

 「ひとり、一杯までよ。」

 グラスにトクトクと注がれたお酒は透明で色がない。香りは辛そうでいて、まろやかな芳醇な香り、早く飲み干したい気持ちをグっとこらえ、妙子からのgoサインが出るのを今や遅しと待っている。

 「いいわよ。味見しても。」

 黙って、ゴクゴクと飲む。

 「うまーい!」

 「のど越しキリリだ!」

 「こんなうまい辛口飲んだことがない!」

 「おかわり!……あ、だめだったか……。」

 「うふふ。いいわよ、じゃあ特別に今日だけよ。」

 「じゃあ婚約破棄に乾杯!」

 「「「「「かんぱーい!」」」」」

 妙子がそう言い、グラスを傾けると歓声が起こる。

 パーティがお開きになって、帰るところがわからない妙子は、とりあえず会場を後にして、適当な空き地を探す。前世、妙子が住んでいたマンションを思い浮かべ、それを空き地に出す。もう今は、爆撃されてないはずの部屋が丸ごと出現したのである。

 部屋に入り、ドレスと靴を脱ぎお風呂を沸かす。中世ヨーロッパ並みにコルセットを嵌めていた。こんなの一人では、ドレスも着られないね。

 お風呂から上がり、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。プシュッと言う音がいい。

 女神様から言われたシチュエーションと違うような気がするけど、いいか?自分の人生なんだからね。

 とりあえず、婚約破棄は成立したんだから。まずは、良しとする。

 で、明日、どこ行くの?それがわからない。1週間のお試しと言われたから1週間しても身の振り方がわからなければ、またあの店へ行けばいい。その日はそれで、そのまま寝ることにしたのだ。

 よく朝起きてみるとマンションの玄関先当たりが妙に騒々しい。パジャマ姿のまま、玄関ドアを開けると、人だかりができていたのだ。

 「え?今日、ゴミの日だった?」

 寝ぼけたことを言っていると、騎士らしき人が前に出て、

 「昨夜から、この空き地に建て物らしきものが建ったと苦情が来まして。」

 「あ!わかりました。ここに建てちゃったらダメなんですよねー。すぐ撤去します。着替えたら、すぐ退かしますから、下がってください。」

 大急ぎで、TシャツにGパンと言う姿で外に出て、マンションを消す。どこに消したかなんてわからない。

 するとさっきの騎士が妙子のすぐ隣へ来て、

 「あれ?先ほどは気づきませんでしたが、ジャネット家のご令嬢ではありませんか?確かカトレーヌ嬢だったと……?」

 「実は昨夜から記憶があいまいで……。自分の名前もよくわからないのに、あのパーティ会場にいて、婚約破棄されてしまって。困っていたので、聖女の力を遣って、勝手に家をだしてしまい、ごめんなさい。」

 「え!聖女様?」

 騎士は慌ててどこかへ走り去る。

 カトレーヌ・ジャネット公爵令嬢が聖女様に覚醒されたとの話がすぐに王家へもたらされる。

 アルバート王太子殿下は、ホッと胸を撫でおろしていた。昨夜、あのまま婚約破棄していたら、せっかく聖女様と婚約していながら、毒婦にひっかかって、聖女様を国外追放にするところだったと笑いものにされるところだったのだ。

 昨夜のカトレーヌは実に魅力的な女性だったので、思いとどまって良かったと安堵している。でも、本人にそのことを伝えていない。ということにまだ気づいていないのだ。

 昨日のパーティ会場近くの空き地に急行するも、カトレーヌの姿はどこにもない。大捜索隊が編成されるも、行方は分からないまま、時が過ぎる。

 もちろん、ジャネット公爵家にも捜査の手が伸び、カトレーヌの継母の魅了魔法が解ける。ジャネット公爵は大激怒をし、継母と継子リリアーヌ共々家から追い出してしまうのだ。

 そして今までのカトレーヌへの仕打ちを心から反省するも、カトレーヌの行方はわからない。

 その頃、妙子は、肉体ブティックの店長と朝ごはんを食べていたのだ。

 「アナタ、お料理上手ね。お嫁さんにしたいぐらいだわ。」

 「昨夜、自分の名前もわからないし、帰る場所もわからないからマンションを出したのよ、そしたら怒られちゃって。また、同じところにマンション出すと怒られるかもしれないから、女神様のとこ、来ちゃった。」

 「で、うまく婚約破棄してもらえた?」

 「たぶんね。大好きなお酒を目の前にしたら理性がぶっ飛んで、酒盛りに夢中になってしまっちゃって、よくわからないのよ。王太子殿下だっけ、名前忘れたけど、給仕代わりに使っちゃったわ。」

 「あはは、公爵令嬢で、いいわね。今までそんなキャラいなかったからさぞかし驚かれたでしょう?」

 「うん、なんかウケた。そしてみんな喜んでくれたみたい。」

 「アナタは生まれながらにして、他人を幸せにする力を持っている。これからは自分を信じてまっすぐ進みなさい。きっと、いいことがあるわ。」

 「はい。女神様。ところで私は、これからどうすればいいの?」

 「え……と、昨日のシチュエーション通りにはいってないみたいだけど……?もう、あの国にいるのがイヤなら、隣国の国境付近で降ろしてあげるわ。そこからは、好きにすればいい。」

 「わかったわ。ありがとう女神様。あの国、あんまりいいお酒がないから、隣国へ行くわ。それにマンション出したこと、怒られたからね。」

 「くれぐれも、飲み過ぎはダメよ。」

 異世界へ帰るとき、ふと向かい側の通りを見たら、まだ母親といじめっ子がたむろしている。ずいぶん、お腹を空かせているように見える。一つのパンを取り合い奪い合いしながら食べているから。でも、向こう側からは、こっち側の姿は見えない。

 妙子はなぜか切ない、もの悲しい気分になったけど、もうあの人たちとは関係がない世界で生きるのだからと己を奮い立たせる。

 気が付くと異世界にいた。そうだ、自転車か何かあれば、もっと早く移動できるわ。と考えたら、早速異世界通販の画面を出す。何も酒を買うためだけではないはず、だから、自転車かモトクロス用がいいかな?マウンテンバイクのほうがいいかな?と物色していく。

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