ようこそ肉体ブティックへ~肉体は魂の容れ物、滅んでも新しい肉体で一発逆転人生をどうぞ

青の雀

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ただの貧血で女医から嫉妬され殺される

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 「いらっしゃいませ。ようこそ肉体ブティックへ。」

 ここは、三途の川の一歩手前にある神様直営の唯一の店、不要になった肉体を売っているブティックなのである。

 亡者の前にいつでも誰でも現れるわけではない。非業の死を遂げた人、不慮の事故で亡くなった人の前にだけ現れる店なのである。

 本来なら幸せな人生を送れる人だったはずが、第3者により、不幸な人生へとゆがめられた人の前にしか出現しない。いわば幻の店なのである。

 なぜ幻の店を出現させているかと言うと、そういう死者の前に現れる三途の川は赤ちゃんでも知らないうちに渡ってしまえるぐらい川幅、水深ともに小さい。そんな死者まで天国が受け入れていたら天国はパンクしてしまうから。

 最近は、合計特殊出生率が過去最低と思われる推移を見せている。先進諸外国の中で少子高齢化のスピードが速いのは、ニッポンだけであると言われているのだ。

 戦後ベビーブームの後第2次ベビーブームまでは、起こったが第3次ベビーブームが来ることがなかったことは、初代ベビーブーム世代と政治家の責任と言われている。

 天国から魂をニッポンにおろすことさえできない状態であるから、このブティックで魂と肉体のリサイクルを行っている。

 「ご希望の肉体はございますか?平民~王族まで何でもそろっています。ただし、芸術系、頭脳系、スポーツ系、特殊才能系は別途料金がかかります。1週間無料のお試し期間もありますから、ぜひご試着あれ。」

 「あの……、ここはどこですか?」

 「あら、ヤダ。転生する前から記憶喪失?あなたは死んでしまったのよ。一寸待ってね。詳しいデータを出すから、……あなたは医療過誤で亡くなられたみたいね。あなた美人だからドブスの女医に嫉妬されたみたいね。そんなことで殺されたら、たまったもんじゃないけど、医者は人殺しをしても罪に問われないってことが問題よね。大丈夫よ。神様の石臼はゆっくり回るだけだから、確実にドブスは裁かれる運命にあるわ。」

 「それで私は誰?どこから来たの?」

 「うーん、困ったものね。これから転生する身だから今までの記憶がなくても問題はないけど、一般常識までは、失われていないとは思うんだけどね。こういう場合は、カトレーヌに預けるのが一番手っ取り早いんだけど、あなたは異世界人ではないから。……記憶の神にでも預けるか。辛い記憶を思い出させることになるかもしれないけど、荒療治も時として必要かもしれないし。」

 ブティックオーナーは何やらつぶやいて、鏡の前に立たせられる。

 「これからあなたの今までの人生を見ていただきます。別に思い出す必要はないけど、他人事だと思ってもらえればいいわ。そして、次の世はどういう人生を送りたいか、よく考えてみてね。」



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 鏡に映し出される姿は、3歳頃の幼女時代の姿。

 鏡の中の女の子の名前は西園寺亜里沙だということがわかる。亜里沙の両親も美男美女のカップルで、父はメガバンクの銀行員で母は税理士だったのだ。

 亜里沙は小さなころから数字に得意で、それは両親から受け継いだ才能だったのだろう。

 名は体を表すと言うが、年頃になると美しく成長していく。高校生になった頃、街でスカウトされ、アリサと言う名でデビュー、読者モデルになる。

 亜里沙は女子大生になっても仕事を続ける。芸能人からお声がけがあるほどの美人に成長する。

 でも彼氏はいない。クリスマスイヴも一人ぼっちで誰からも相手にされないのではなく、どうせ誘っても先約があるだろうと誘ってもらえないのである。

 たった一人のクリスマスイヴ、突如、貧血を起こしてぶっ倒れてしまう。誰かが救急車を呼んでくれて病院へ運ばれるも、そこで当直の医師が例のドブスに当たってしまったのだ。

 ドブスの名前は山元絵里奈、名前は美しいが色黒でゴリラを彷彿させるような容姿。専門は循環器内科の医師、ただの貧血なのに、心臓病と勘違いされてしまう。

 少し、血液検査をすればわかることなのに、せめて心電図でも取る余裕はなかったのか?ドブスだから、患者から敬遠される。外来でも救急でも自分の姿を見ると患者はあからさまに嫌な顔をする。

 だからなかなかドナーに恵まれないのである。とにかくカテーテルがしたい。カテーテルは数をこなさないとうまくならない。

 だから実験台として、亜里沙を選ぶ。幸いなことに意識はない。全身麻酔を施して、本人が気づかないまま、カテーテル検査をしてしまおう。

 そう思ったドブスは、すぐに後輩の医学生や研修医を呼び寄せ、「いいものを見せてあげる。」と言い、亜里沙を全裸にしたのである。

 亜里沙はその日、たまたま女の子の日であったので、下半身は真っ赤。普通、カテーテルは服を着たままか、ひどくても胸の前をはだける程度なのである。

 それをあえて、ドブスは見世物にするかのように、亜里沙を全裸にしたのである。

 集まった医学生は女子大生モデルのアリサだとすぐに気づく、手の届かないような憧れの美人が全裸になって、自分の前に横たわっている。性的興奮を覚えない方がおかしいぐらいである。

 「白薔薇女子大のアリサじゃないか!ウソだろ、こんな女を抱ける日が来るなんて……。」

 今夜はクリスマスイヴ、ここにいるということは全員がモテない君だから。一人がアリサの姿を見て、自慰を始めると全員はもう……。一人がアリサの足を開かせ、中をまさぐる。おっぱいを揉みたがる者は、揉む。

 ドブスはその間に、カテーテルを何度も入れ、抜き、また入れるを繰り返している。ドブスはカテーテルにしか興味がない様子で、何度もやっているうちに、ついにアリサの麻酔が切れる。

 「いやぁっー!」

 アリサは、自分の身の上に起こっている信じられない光景にショックを受け、記憶喪失になる。

 そしてドブスは証拠隠滅するかごとく、アリサの心臓を完全に……。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 女神様は、ふーっとため息をつき、

 「さっき、神様の石臼はゆっくり回る、と言ったけど、今すぐ回してあげるわ。こんなこと許せない!人間の所業と思えない。こいつらは全員、悪魔よ。」

 「あの……それで私はこれからどうなるのですか?死んだことはわかりましたけど、あの綺麗な両親が悲しむかと思うと辛くて……。」

 「そうね。元のカラダを綺麗にしてあげるわ。そして、亜里沙さんの双子の妹として、戸籍とみんなの記憶を操作して、もう一度西園寺の娘として、生きてみる?また、違った人生があるはずよ。それと今度は貧血にならないように、ほうれん草やレバーも嫌がらずに食べてね。そうだ、どうせならわたくしの力で健康な体にしといたげる。そうすればもう二度と医者にかかることがない。」

 元のカラダはというと、カテーテルの痕で左手首が黒ずんでいる。それを女神様の魔法でみるみるうちに綺麗になっていく。

 そして医学生や研修医に犯された下半身も。

 「死んだお姉さんは、女子大生モデルだったけど、あなたは普通の勉強熱心な女子大生と言う設定にしといたげるわ。お姉さんが通っていた同じ白薔薇女子大生と言うことで、一応、姉が死んだことで精神的ショックを受け、記憶喪失ということにしといたげるけど、別にいらないか?」

 「いえ、それで結構です。今度は姉と違い目立たないようにひっそり生きていきます。」

 「あー、それは無理かもしれないね。その容姿誰もがうらやむ美貌の持ち主だもの。でも、あなたの場合、もう一度その容姿で人生やり直さないと意味がないような気がするから、そのカラダで頑張ってね。あいつら仇は必ず、このわたくしが取ってあげるわ。」

 「ありがとうございます。これから母の後を継いで税理士になれるように頑張ります。」

 「うん、まぁそれでもいいけど、どうせならもっと上を狙えば?」

 「え?」



 ドブスと4人の男性医師のたまごたちは、白衣だけを残し、女神様により全員がゴキブリに姿を変えられてしまう。

 滅菌されている手術室に5匹もゴキブリがいたことは、ありえないが事実である。消毒用エタノールをぶっかけ駆除に成功したのだが、1匹でも大ごとなのに、5匹も!病院内のあちらこちらにゴキブリとるとるが仕掛けられたことは言うまでもない。

 三途の川に行く前に転生させてしまったのである。イヴの夜にドブスをはじめとして、5人の人間が消えたわけだが、誰も心配しない。あんなドブスがいなくなって、清々しているのである。

 5人、いや5匹は死んでもまたゴキブリに生まれ変わる運命にある。人間から疎まれ、嫌われる運命にある。スリッパで追いかけまわされ、殺虫剤を撒かれ、もう二度と人間に生まれ変わるなど許されないのである。

 ただ、医学生や研修医の行方だけを探している。親に報告しなければならないから、研修医も前期研修だから、いなくなっただけでは済まされない。ドブスがカテーテルの実験台が欲しくて、4人の医者の卵たちを次々実験台にして、亡き者にしたという噂が起こるが、他人の噂も七十五日、そのうち誰もそんな噂をしなくなったのである。

 救急隊員もその日、亜里沙を運び込んだ記憶、出動記録も消されている。

 女神様もいろいろ悩んだ挙句、双子の妹としてではなく、そもそも亜里沙を存在しないものとして扱うことにしたのである。モデルアリサは、そもそもいない。と言うことにして、普通の女子大生西園寺友里恵として、転生させたのである。

 だから亜里沙は男たちから乱暴されて、医療実験の道具として殺されたわけではない。他の人たちからの記憶を完全に消し、一般人のちょっと綺麗な垢ぬけた女子大生友里恵として、人生をスタートさせる。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 いつものように女子大に通う時、何かしら視線を感じる。亜里沙時代もそうだったけど、どうせ亜里沙のファンだと思って捨て置いていたのである。

 でも、あれからすったもんだの挙句、そもそも亜里沙は存在しておらず、友里恵だけが西園寺家の一人娘として育てられたことに女神様が記憶を塗り替えてくださることになったのである。

 今は、普通の一般人、だからこれは大騒ぎにするべき?でも、美人だから自意識過剰と思われたら、たまらない。だから、どんなに視線を感じても知らんぷりを決め込む。

 亜里沙時代から、そうだったのであるが実は友里恵には、親衛隊が出来上がっていたのである。ただ亜里沙はモデルとして売れてしまったので、親衛隊は鳴りを潜めていただけだったのである。今は名実ともに一般人であるから、中学生の頃より地元の同級生たちが、ひそかに友里恵を守っている。

 本来なら、高校生の時にスカウトされていたはずなのに、親衛隊が未然に働いてくれてスカウトが近寄れないようにしてくれていたのである。

 それで友里恵は、素人のまま素直にお嬢さん育ちをしていたのである。

 大学へ着くと、同級生のまゆみちゃんが近寄ってきて、

 「また友里恵の親衛隊が送ってきてくれたのね。いいなぁ、あの親衛隊に守られているから痴漢もおいそれと近づけないよね。あ、そうだ。今度東大生と合コンがあるんだけど、行く?友里恵が来なかったら、明らかにガッカリ顔をされるんだよね。ねぇ、私たちのためにも来てよね。」

 「ん?まぁ、行けたら行くわ。」

 「あ、それって、用事があるってこと?絶対来てよね。」

 用事はない。だけど東大生の合コンへ行っても、モテたことはない。友里恵は高嶺の花だから、どうせ声をかけても無駄と思われがちで、他のメンバーたちのほうが手出ししやすいと思われて、ちっとも相手にされないのである。

 ただ、顔をしげしげと見られるだけで、あまり楽しくもなんともない。

 「まゆみちゃん、この前の合コンで運命の男性に出会ったって言ってなかったっけ?」

 「ああ、あいつね。それが研究室に残りたいなんて、言っている学者志望でね。せめて官僚になってくれるんだったら、付き合ってもいいけど、ウチの父、会社経営しているでしょ。一人娘にいい婿を取らせて、会社の後を継がせたいと思っているのよ。だから学者なんて、ダメ。」

 「ふーん、大変ね。」

 ふと、女神様が言った、「どうせなら上を目指せば?」と言う言葉が頭をよぎる。

 何をどんな上があるというのかしら?CPAを目指せってことかな?tax accountでも悪くはない。ただ相手にする顧客層が違うだけ。CPAは資本金5億円以上の大企業、上場企業に仕事が限られがちだけど、tax accountは個人経営から中小企業、たまに大企業の仕事があり幅広く手掛けられる。

 今世はなるべく目立たなく、ドブスに目をつけられないように。がポリシーだから。

 だからできればtax accountになりたい。

 あまり気乗りがしない合コンだったけど、行くことにして、親衛隊の人に今日、合コン行くけど、一緒に店に入りますか?と声をかける。

 外で待っててもらうことに気が引けたから。親衛隊の人の中には東大生もいる。だから合コンメンバーでなくても、店に入ることはできるだろうとの思いから、誘ったのである。

 そのメンバーの一人、石橋和樹は友里恵から誘われたことで、もう有頂天になっている。すっかり友里恵の彼氏気取りな態度に他の親衛隊員からブーイングが起こる。

 友里恵は他の親衛隊の人たちに「ごめんなさい。そういう意味ではなかったの。ただ、外で待っててもらうのは、寒いから。」

 「さすが!われらの友里恵ちゃんだ!」とますます友里恵株は上がる。

 それで店の中では、少し離れたところに友里恵と親衛隊の面々が座り、合コンに参加と言うよりは、親衛隊の人たちとの親睦会の色合いが濃く。合コン参加者の東大生たちは、親睦会に入りたさそうにしていたのである。

 まゆみちゃんは幹事をしているくせに、友里恵の親睦会に顔を見せ、

 「いつも友里恵ちゃんがお世話になっています。」と挨拶をしに来るから、他の女子大生たちもいつの間にか、合コンメンバーをほったらかしにして、友里恵親睦会の席に移ってきたのである。

 友里恵の親衛隊たちは皆、揃いも揃ってイケメン揃いなのである。だから紳士協定を組んだともいえるだろう。誰かが先に手を出さないように、我こそは西園寺友里恵にふさわしいと思っているからの協定なのである。

 そうなると面白くないのが、東大生諸君。白薔薇随一の友里恵に相手にされないのは致し方ないとしても、将来の花嫁候補生である女性にそっぽを向かれたままでは、帰れない。

 でもあちらに合流することはプライドが許さない。いや、でもせっかく合コンに来たのに、ひとりも女性と仲良くできないことのほうが悔しい。

 よくよく見ると親睦会のほうに、同級生の石橋和樹がいることに気づく。

 「お!あいつ、同級生の石橋ではないか!」

 気が付いた東大生は、プライドを捨てたわけではないが、同級生の石橋と喋るという口実のため、そそくさと親睦会席へ移動する。

 「よぉ、石橋!」

 「あ、お前が合コン幹事か?」

 「いやいや、俺は誘われただけだよ。それより、紹介してくれないか?」

 その東大生は顎でしゃくって、友里恵を紹介してほしいと言う。

 東大生が石橋と仲良く同級生な会話をしているので、他の女子大生たちは、一気に色めく。

 「まぁ!石橋さんも、東大生でいらしたのですか?」

 「あ、ああ。法学部2年生の石橋です。以後、お見知りおきを。友里恵ちゃん、こいつ俺の同級生で、藤村って言うんだ。コラ!何、友里恵ちゃんに勝手に触っている!」

 隙を見て、藤村は友里恵に握手を求めている。

 クスクスと笑いながら、つい握手に応じてしまったから、親衛隊たちはむくれている。

 それを見ていた他の合コンメンバーの東大生たちは、ついに自分たちの席を捨て、友里恵の元にやってくる。

 店員がテーブルをセッティングしなおし、全員が座れるようになったのである。
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