ようこそ肉体ブティックへ~肉体は魂の容れ物、滅んでも新しい肉体で一発逆転人生をどうぞ

青の雀

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3度目の正直

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 かなえは、猛勉強のおかげで東京大学へ一発合格した。学歴はかさばらず邪魔にならないという理由から、恒夫が強く勧めたことから。

 かなえはお年頃になり、のぞみより美しく成長する。その日は入学式で、恒夫も久しぶりに東大のキャンパスを歩くと、視線があちらこちらから飛んでくる。恒夫が注目されているわけではない。かなえだ。かなえに視線が集まる。

 その視線の元をたどって、いちいちその主に文句を言いに行く恒夫。

 かなえに悪い虫がつかないように追い払っているつもりなのだが、その行動は目立ちすぎる。

 キャンパス内で、佐伯銀行の頭取が娘に男が寄り付かないように、蹴散らしている姿は滑稽で、瞬く間に噂の的になる。

 「パパ、やめてよ。恥ずかしいわ。」

 「何を言っているんだ。恥ずかしいことぐらい辛抱しろ。かなえに悪い虫がつかないか心配で夜も眠れないよ。」

 「だったら早いとこ、結婚しちゃいましょうか?」

 「なに!? かなえにそんな相手がいるのか?」

 「今はまだいないけど、探すわ。今まで女子高だったから出会いがなかったけど、これから頑張って探すから、それでいいでしょ?パパが安心するような男性を木っと見つけるからね。」

 「いや、ダメだ。かなえの相手はパパが見つけるよ。」

 「でも年上はイヤだし、俺様もイヤだわ。だから自分で探す。」

 かなえから俺様はイヤだと言われ、のぞみに対してはいつも俺様だったことを反省する恒夫だが、今さら反省してももう遅い。

 せめて娘に嫌われないように気を付けるだけが精いっぱい。

 「でもパパがいい男だと思った奴を紹介したら、会ってくれるかい?」

 「もちろんよ。パパがどんな男性を連れてくるか楽しみだわ。」

 それからは、取引先を回り娘に合う男性を躍起になって探す。若くてイケメンで娘に優しい男性がいい。それに東大生の娘と釣り合うような頭脳明晰な男であればなおいい。金もないよりは、あったほうがいいとどんどん理想が高くなる。

 パーティがあれば、娘を積極的に連れ歩くようにしたのだ。これだけの美人、のぞみもだったが、かなり人目を引く。

 「まぁ!お嬢様でございますか?お母様以上にお美しい。」

 だれ?このオバサンは?

 妙になれなれしくかなえに接してくるが、のぞみ時代の記憶を必死にたどっても出てこない。わからない。

 なおも話し続けるオバサン?

 「どちらの大学?ああ、赤薔薇でしたわね。そうそうお父様から赤薔薇だと伺っていますわ。」

 「いいえ。この春から東京大学です。」

 「あら!それではウチの正彦ちゃんと同じではありませんか?もう、正彦ちゃんとお話ししてくれたかしら?」

 また、わからない三人称代名詞が出てくる。でも、このオバサンの息子なら、さぞかし厚化粧のブサメンだろうと想像がつく。

 そこへパパが呼びに来た。パパは、オバサンに一礼して、かなえに

 「何の話をしていた?」

 「あまりにも内容がないお話で。」

そう答えると、パパは苦笑して「だろうな。」

 「ところで、あのオバサマどなたですの?ママを知っているかのような口ぶりだったけど?」

 「あの女性は、ママの手芸作品のファンだったんだよ。あの女性の口利きで銀座の画廊に個展を開くことができたんだ。」

 「ふーん。本当にそれだけ?パパの浮気相手だったりして?」

 「な、何をバカなことをパパはこう見えても面食いなんだ。ママ以外の女性と浮気などしたことがない!それに、あんなデブス頼まれても抱かない!」

 そうか、ならよかった。あとで正彦ちゃんと婚約しているなんて、聞かされたら、いっそのこと異世界へ行ってやる!と思っていたのだ。

 最近、異世界に興味を持ち始めているかなえ。前々世、生きた世界なんだけど、このニッポンは結構世界情勢を含め複雑で、それに魔法が使えるなんて、誰にも言えやしない。

 その点、元居た前々世の世界では、聖女様なる職業の人が確実にいて、たいていその国の権力者である王様の奥さんにおさまる。

 なんか単純だけど、単純が楽だと思える。

 実はこの前、夢枕に異世界の神様の奥方が現れて、自分で自分に結界を張る方法を伝授してくださったのだ。

 その奥方が言われるには、最近異世界でまた聖女様が不足しているので、できれば大学を卒業したら、異世界で聖女様として、来てくれないか?というお誘いであったのだ。

 聖女様の地位と処遇は、保証するから、もしよければお父様とご一緒にどうか?ということだったのだ。

 えー!パパと一緒なんて、絶対ヤダ。でも、一人ぼっちにさせてはおけないか?異世界なら、そこそこ美人がいるから、再婚でもしてくれればいい。

 聖女様の父という地位が安定しているから、食うには困らないだろう。それに異世界人に比べたら、医療が進んでいる分、ニッポン人は若い。

 大学の中で無理して彼氏を作らなくても、異世界へ行ってから恋人を作り結婚すればいい。

 その日から、婚活?恋活?をやめてしまう。

 ある時、大学で図書館から出たところ、出会い頭に男性とぶつかってしまい、おでこを強かに打つところが自らの結界のおかげで無傷であったのだが、その男性は顎の付近を打ったようで大変痛がっている様子。

 「なんて、石頭なんだっ!」

 まだ痛がっている様子なので、気の毒に思い、こっそり氷魔法で氷を作り、レジ袋の中に放り込み、男性に渡す。

 「お!グッドタイミング~♪これさえあれば、腫れも引くだろう。……ん?よく見ると、アンタ佐伯頭取の娘じゃないか?こんなところをお父上に見られたら、俺、就職先を失ってしまう。」

 笑いながら、その男性はどこかへ行ってしまった。まぁ、いいけど。これも恋活をやめた一理由だから。

 入学式の時にパパがやり過ぎた。その後、パパがいなくても誰も秋波を送ってこなくなったのだ。

 なまじ東大なんぞに行ってしまったら、相手がいない。自分と釣り合う相手がいないのだ。これがもし赤薔薇にそのまま進学していれば、いくらでもお婿さん候補には事欠かないだろう。

 高校時代パパの口車に乗ってしまった自分が悪いと責める。でも、聖女様の魔法を早く使いたかった自分もいる。

 肉体ブティックで明確な希望を出さなかったから、仕方がない。

 何も東大でなくても、芸大で良かったのかもしれないが、赤薔薇の進路指導の先生が「芸大は変人ばかりよ。」の一言で、東大に決めてしまった自分がいる。

 結局は、自分で決めていなかったからだ。なんとなく周りに流されて生きてきた。それは前々世からそういう生き方をしてきたから、今になってツケを払わされることになったのだと思う。

 だからこれからは、何でも自分の意思を大切にしたいと思う。

 卒業間近になって、やっとそのことに気づく。

 そして鼎は重いきっいぇ、父にそのことを打ち明ける。

 「パパ大事な話があるの。今いい?」

 「いいよ。なんだい改まって。」

 「実はパパ驚かないで聞いてくれる。これから話すことはすべて事実です。」

 恒夫は急に険しい顔になる。

 かなえは前世のぞみだったこと、のぞみの魂のまま死にかけのかなえのカラダに入ったこと、そして前々世は異世界人で婚約者の想い人から毒殺されて、ニッポンに転生してきたことなどを正直に話す。

 「にわかには信じがたい話だが、かなえを見ているとのぞみとオーバーラップすることがよく合ったよ。今から思えば、それは自然なことだったと思う。」

 「それで大学を卒業したら、また異世界へ帰るつもりなの。よかったらパパも来ない?」

 「異世界とは、どんなところだ?」

 「中世のヨーロッパみたいな感じのところよ。ただし、魔法が実在するの。今より不便だけど、魔法があるからなんでもできちゃうのよ。」

 「かなえも魔法ができるのか?」

 「ええ、私はのぞみとして死ぬときに聖女様に覚醒してしまったのよ。だからほとんど死んでいるかなえのカラダに入れたの。聖女様になれなかったら、今頃は三途の川を渡って、あの世へ行っているわ。」

 「そうか、どんな形でも生きてくれてありがとう。それで、パパもそっちの異世界へ行ってもいいのだろうか?」

 「異世界の神様の奥方様がいいって、仰ってくださっているのよ。それにパパを一人ぼっちにしては行けないもの。」

 「優しいね。」

 「ちょっと今から行ってみる?今夜はお祭りだから、きっと花火が上がっているよ。」

 恒夫とのぞみが新婚の時に誂えた浴衣に久しぶりに袖を通す。かなえにはピッタリだ。

 「本当にのぞみそっくりだ。」

 恒夫はため息をついている。そして生前のぞみに対して、亭主関白だったことを心から詫びる。

 もうかなえは手放したくない。たった一人だけの娘であるから、心はのぞみであってもだ。

 かなえの手を握りしめ、共に異世界へ見学に行く。女神様か聖女様かのお計らいなら、安心していける。

 異世界は新婚旅行で行ったヨーロッパを古臭くした感じの街だった。石畳の路、ガス灯が薄暗く灯っている。

 今夜はカーニバルのようで、行き交う人々が珍妙な格好をしている二人を見ている。酒場の中が一瞬見えると、そこはまるで映画の世界同様で、テーブルの上に靴のまま上がり男や女が歌い踊っている。

 恒夫はもう少し若ければ、この世界を堪能できただろうと後悔する。せっかく誘ってもらったんだから、今夜ぐらいは楽しもう。

 酒場の扉を二人してくぐる。

 一瞬、中にいた客は静まり返るが、再び喧騒の中へと突入する。恒夫が普通に注文したからだ。不思議なことに言葉が通じる。そしていつの間にかニッポンエンしか持っていなかったはずなのに、見慣れない通貨を持っている。

 恒夫は年頃の娘がいるにもかかわらず、楽しく酒を飲んだ。

 こんなうまい酒は、久しぶりだ。案外、こちらへ移住する楽しみができたってものだと思う。

 かなえの話によれば、時々、別荘代わりに住むこともできるらしい。本気で考えてみようか。

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