ようこそ肉体ブティックへ~肉体は魂の容れ物、滅んでも新しい肉体で一発逆転人生をどうぞ

青の雀

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3度目の正直

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 恒夫はすっかり異世界での暮らしが気に入ったようで、毎週末いつもなら取引先とゴルフに行っていたものを異世界へ行くようになっていく。

 あちらの世界で飲み友達ができたらしく、かなえを急かせる。

 「かなえ、支度はまだか?パパは先に行きたいけど、行けないから早くしてくれ。」

 かなえは一応、ニッポンでも就活をしている。

 最近、恒夫の行動が就活に邪魔になると感じるときがある。そこでかなえは、恒夫に結界を張ることにして、異空間通路をつくり、異世界へ自由に出入りできるようにしたのである。

 まず、異世界元聖女様、つまり異世界神様の奥方様に頼み、異世界で手ごろな一軒家を購入してくださる。

 元は貴族様のお屋敷だそうで、とても立派な広いお屋敷。ニッポン風に土足厳禁にしている。やはり靴を履いたままでは寛げないから。

 畳の部屋はなく、すべて床敷だが、その部屋を掃除するのは清浄魔法ではなくルン〇お掃除ロボットである。

 誰もいないお部屋の隅々まで毎日忙しく動き回っているものだから、ピカピカなのだ。

 玄関には、下駄箱を置き、散策のための靴をそろえている。

 恒夫はニッポンからコーヒーメーカーを持ち込み、金曜日の夜からここで過ごすことにしている。誰にも邪魔されることなく、ここでゆっくり本を読む。そして夜には近くのパブで食事を摂りながらの飲酒を楽しむ。

 そこで飲み友達と言うべきか、お友達ができたようで、大きな商会を経営しているゼレンスキー伯爵様、やはり恒夫とは経済のことで気が合うらしい。

 「トードリー(恒夫のこと)、君は、金を回す仕事をしていると言ったが、具体的にはどういったことか詳しく話してくれないか?」

 恒夫はニッポンの金融業のことをかいつまんで話すと

 「素晴らしい!そのバンキングというものを、ここでもやってみてくれないか?」

 どうかなぁ、有事になれば、預金封鎖などができるため、この世界ではまだ早いような気がするが金貸し程度ならできるかもしれない。

 漠然と考えていると知らない間にパブの店内で喧嘩が始まっていた。なんと!恒夫の隣の席で始まったものらしい。

 伯爵様は、さっきまで話していたのに、いつの間にか遠い席へ移動されている。君子、危うきに近寄らず、なのだろう。

 恒夫も伯爵様に倣い、遠い席へ移動しようと立ち上がったところ、攻撃されると勘違いした最初にやられている方が、恒夫に向かって、酒瓶を振り下ろしたところ、酒瓶は粉々に割れ散るが、恒夫は無傷のままだったのだ。

 それを見ていた店内の酔っ払いは、恒夫のことを余程の武芸者だと勘違いしている。

 屈強な大の男でも酒瓶で殴られでもしたら、100パーセントあの世行き間違いなしなのに、恒夫は当たったことも感じない様子で、さっさと伯爵様のいる遠い席へと移動して行ったのである。

 それを周りにいた酔っ払いは追いかけ、喧嘩していた同士も加わり

 「旦那、一杯おごらしてくなんせぇ。」

 こんな強い男と一緒ならば何かあった時、得することがあるかもしれない。という思惑がある。

 いつの間にか恒夫の周りには、人だかりができていて、恒夫はパブで人気者になる。若くして、頭取になった男だから、カリスマ性があるのだろう。

 「それにしても旦那、さっきのガチャンには驚きやしたぜ。」

 「ああ、あれか。あれはウチの娘が聖女様でな、儂に結界を張っていてくれているから大丈夫なのだ。」

 「へ?せ、聖女様とはまことのことでございますか?」

 「ここへ出入りするようになったのも、ここの神様からの依頼でな。娘だけでは心配で、だから儂もついて来ておる、ということだ。」

 この世界では、聖女様とお近づきに成れれば、一生安泰の幸運の女神様のことをさす。そのお父上が目の前にいるとあらば、全員が全員、揉み手ニコニコ愛想がよくなる。

 帰り際には、店主までもが「旦那、お代はけっこうです。その代わり、今後とも当店を御贔屓くださいますように。」申し出る。

 酔っ払い全員が、まだ飲み足らない様子で、「旦那、おごりますからもう一軒行きましょうや。」

 恒夫は、確かこの前取引先からもらったコニャックがあることを思い出し、

 「ならば、ウチで飲もう。」

 みんな大喜びで、付いてくることになったのだが、玄関で靴を脱ぎなさいと言う所で、全員大慌てになる。なぜなら靴下を履いていなく、もしくは履いていても穴が空いているから。

 仕方なく恒夫は、全員分のメイドインニッポン製の靴下をやる。

 その前に全員がもうすでに酔っぱらっているということと、毎日お掃除ロボがワックスがけをしていることから、床がツルツルでまともに歩けない。

 異世界人というものは、どこまで世話を焼かせれば気が済むのか?と半ば呆れながら、恒夫は全員にスリッパを履くように命じる。

 文化が違うから仕方がないのかもしれない。

 全員を食堂に入れ、元は貴族様のお屋敷だから、だだっ広い食堂があり、大きなテーブルがある。

 そこでコニャックの封を切る。他にもめったやたらに高い酒があるが、異世界人にはこれぐらいがいいだろう。

 「こんなうまい酒、今まで飲んだことがない!」

 あまりにも酔っ払いたちが「うまい。うまい。」というものだから、何かアテはなかったかと冷蔵庫の中を探すと冷凍ピザがあったので、電子レンジでチンする。

 とろりととろけたチーズに「アチっ!」と言いながら、これまたうまいと言う。

 恒夫は上機嫌で、次から次へと高級酒のクチを切る。飾っていても仕方がないから。異世界へ持ってきた酒のほとんどを飲みつくしても、まだニッポンに帰ればたくさんある。

 それにもし、異世界で銀行業をするとなれば、味方は多いに越したことがないから。

 なんとなく恒夫は、定年後異世界で銀行業をするつもりでいる。

 それからというもの週末になると、ここで酒盛りをするようになったのだけど、ある日、伯爵様が娘を連れてきた。のぞみには敵わないがなかなかの美人である。

 「トードリー殿は、奥方を亡くされ6年も経つという。そろそろ再婚してもいいのではないか?」

 「せっかくのお申し出でございますが、私は亡き妻を愛していますので、この件は平にご容赦のほどを。」

 丁重にお断りをしたつもりでも、相手はますます瞳をハートマークにしている。

 うまくいけば、義理とはいえ聖女様の母になれる。結婚できれば、その先には何不自由がない暮らしが待っているので、玉の輿同然である。

 今はまだ恒夫の娘が聖女様であることは一般的に知られていないが、知れ渡るのはもう時間の問題になるのだ。その前になんとしても娘を嫁がせたい。もっと高位貴族の令嬢に決まる前に、妾でもかまわないとさえ思っている。

 恒夫は頑として断るもののかなえの意見も聞かなくてはならない。

 ニッポンへ戻り、かなえの意見を聞くと

 「あら、いいじゃない?パパも再婚できるうちに再婚したほうがいいわよ。私がお嫁に行ってからでは、老後が寂しくなるわよ。」

 「本当にそれでいいのか?のぞみ。」

 かなえはのぞみと呼ばれるとギクっとする。のぞみとして、考えるならやっぱりイヤだ。それに母親面されることは、もっとイヤ。

 「のぞみとしては、イヤです。でも恒夫さんがそれで幸せになれるのなら、反対はしません。」

 「わかったよ。ありがとう。のぞみ愛しているよ。」

 結局、恒夫は縁談を断った。もうアッチのほうが駄目で、お嬢様を満足させられないという理由をつけて。
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