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20.御堂筋
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しずくの実務研修先の監査法人は大阪淀屋橋にある御堂筋沿いのビルである。
サイゴンの勤務先は御堂筋線上の本町にあるから、行き帰りは同じ御堂筋線であることから一緒に来ている。
知る人ぞ知る大阪市営地下鉄御堂筋線と言えば、痴漢のメッカであり、日本一かどうかはわからないが、大阪一の痴漢が多い路線なのだ。だから、いつもサイゴンは痴漢からしずくを守るように立つ。
行きは、淀屋橋で降り、しずくのビルのある地階入り口まで送り、サイゴンは、一駅分の本町駅まで歩いて通勤する。
帰りはその逆で、サイゴンが淀屋橋のしずく本社ビルの前まで行き、淀屋橋から地下鉄に乗り梅田まで行き、阪急電車の京都線で帰路につくのだが、いつも帰り道に寄り道してしまう。
ラブホに行くときもあれば、評判の美味しいレストランで舌鼓を打つこともある。とにかくまっすぐ帰らない。
家に帰れば、双子ちゃんにしずくを盗られてしまうから、しずくを独り占めにすることができる通勤タイムが嬉しい。
昨日は大阪城公園に散策に行き、今日は天保山の海遊館に行く。
ジンベエザメが大口を開けて、迫ってくる。すごい迫力にしずくは喜ぶ。
「今度来るときは、子供たちも一緒に来ようね。」
「そうだね。」
一応、返事をする。
「あ、そうそう忘れるところだったわ。次の連休にお客様が来られるから、そのつもりでいてね。」
「は?しずくの客か?」
「うん、まぁそうね。」
歯切れの悪いしずくに、つい追及してしまう。
「客って、誰だよ?」
「初節句に来たいんだって。」
「え?……まさか!?」
「うん。そうよね、やっぱりその反応するよね。」
「どうして、いつ、連絡を……?」
「年賀状よ。かわいいお孫さんを見れば、考えも変わるのではないかと思ってね。」
「余計なことを……。」
「余計なことかしらね。サイゴンちゃんも、これを潮だと思って、諦めてくださいな。いつまでも意地を張り合っていたって仕方ないでしょ?結婚するって、そういうことではないの?」
「……・」
20歳も年下の妻から正論を言われ、項垂れる。
サイゴンの父は、北陸地方では、知らない人がいないというぐらい大きな会社の社長で、けっこう老舗の会社だったことから、サイゴンは小さいころから、社長を継ぐように言われ続けてきた。
それが嫌で嫌で、大学へ進学するのと同時に、家とは絶縁状態になり、やがて感動されてしまったのだ。
自力で今の商社に入社し、若くして役員まで上り詰める。
サイゴンは、内心、{親父も年を取り、気弱にでもなったのかな……}という気持ちと、これを機会に、またいろいろと干渉してくる気がないわけでは?という疑念がある。
それでも、しずくの手前、笑顔を作り、「君に手間をかけさせてしまって、すまないね。」という。
いつの世にも、妻にはかなわない。
恋人時代なら、けんかをしても、それでよかったが、夫婦になり、けんかしたら、後々尾を引く。毎日、否が応でも顔を合わせなければならないから。だから、妻には従う。従わざるを得ない。
だから嫁さんを選ぶときは、その場の情熱だけでは、結婚してはいけないということ。相手がどういう女かちゃんと見極めてからでないと、後悔してもしきれない。
しずくがやったことは、サイゴンのためだったのだろう。このまま、京都へ婿入りしたまま、両親との連絡を絶ってしまったのでは、嫁として申し訳ないという気持ちから、してくれたのだと思う。
そうこうしているうちにゴールデンウィークが幕開けする。
初節句の大将人形は、現金で届けられた。理由は、京都の方がいい人形師がたくさんいるだろうから、これを足しにしてくださいという御手紙付きで、送られてきたのだ。
しずく両親は、サイゴン両親の思いをくみ取り、サイゴン両親が来られてから、大将人形を選ぶように手配してくれた。
その代わり鯉のぼりは、しずく両親や南禅寺の祖父母、しずく父の祖父母などから大小さまざまに贈られ、庭には大きな竹竿に何匹も泳いでいる。
サイゴンの勤務先は御堂筋線上の本町にあるから、行き帰りは同じ御堂筋線であることから一緒に来ている。
知る人ぞ知る大阪市営地下鉄御堂筋線と言えば、痴漢のメッカであり、日本一かどうかはわからないが、大阪一の痴漢が多い路線なのだ。だから、いつもサイゴンは痴漢からしずくを守るように立つ。
行きは、淀屋橋で降り、しずくのビルのある地階入り口まで送り、サイゴンは、一駅分の本町駅まで歩いて通勤する。
帰りはその逆で、サイゴンが淀屋橋のしずく本社ビルの前まで行き、淀屋橋から地下鉄に乗り梅田まで行き、阪急電車の京都線で帰路につくのだが、いつも帰り道に寄り道してしまう。
ラブホに行くときもあれば、評判の美味しいレストランで舌鼓を打つこともある。とにかくまっすぐ帰らない。
家に帰れば、双子ちゃんにしずくを盗られてしまうから、しずくを独り占めにすることができる通勤タイムが嬉しい。
昨日は大阪城公園に散策に行き、今日は天保山の海遊館に行く。
ジンベエザメが大口を開けて、迫ってくる。すごい迫力にしずくは喜ぶ。
「今度来るときは、子供たちも一緒に来ようね。」
「そうだね。」
一応、返事をする。
「あ、そうそう忘れるところだったわ。次の連休にお客様が来られるから、そのつもりでいてね。」
「は?しずくの客か?」
「うん、まぁそうね。」
歯切れの悪いしずくに、つい追及してしまう。
「客って、誰だよ?」
「初節句に来たいんだって。」
「え?……まさか!?」
「うん。そうよね、やっぱりその反応するよね。」
「どうして、いつ、連絡を……?」
「年賀状よ。かわいいお孫さんを見れば、考えも変わるのではないかと思ってね。」
「余計なことを……。」
「余計なことかしらね。サイゴンちゃんも、これを潮だと思って、諦めてくださいな。いつまでも意地を張り合っていたって仕方ないでしょ?結婚するって、そういうことではないの?」
「……・」
20歳も年下の妻から正論を言われ、項垂れる。
サイゴンの父は、北陸地方では、知らない人がいないというぐらい大きな会社の社長で、けっこう老舗の会社だったことから、サイゴンは小さいころから、社長を継ぐように言われ続けてきた。
それが嫌で嫌で、大学へ進学するのと同時に、家とは絶縁状態になり、やがて感動されてしまったのだ。
自力で今の商社に入社し、若くして役員まで上り詰める。
サイゴンは、内心、{親父も年を取り、気弱にでもなったのかな……}という気持ちと、これを機会に、またいろいろと干渉してくる気がないわけでは?という疑念がある。
それでも、しずくの手前、笑顔を作り、「君に手間をかけさせてしまって、すまないね。」という。
いつの世にも、妻にはかなわない。
恋人時代なら、けんかをしても、それでよかったが、夫婦になり、けんかしたら、後々尾を引く。毎日、否が応でも顔を合わせなければならないから。だから、妻には従う。従わざるを得ない。
だから嫁さんを選ぶときは、その場の情熱だけでは、結婚してはいけないということ。相手がどういう女かちゃんと見極めてからでないと、後悔してもしきれない。
しずくがやったことは、サイゴンのためだったのだろう。このまま、京都へ婿入りしたまま、両親との連絡を絶ってしまったのでは、嫁として申し訳ないという気持ちから、してくれたのだと思う。
そうこうしているうちにゴールデンウィークが幕開けする。
初節句の大将人形は、現金で届けられた。理由は、京都の方がいい人形師がたくさんいるだろうから、これを足しにしてくださいという御手紙付きで、送られてきたのだ。
しずく両親は、サイゴン両親の思いをくみ取り、サイゴン両親が来られてから、大将人形を選ぶように手配してくれた。
その代わり鯉のぼりは、しずく両親や南禅寺の祖父母、しずく父の祖父母などから大小さまざまに贈られ、庭には大きな竹竿に何匹も泳いでいる。
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