王女と男爵令嬢

青の雀

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4.妻という座

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 一度、カラダの関係を持ってからというもの、来る日も来る日も二人は関係を深めていく。

 もう婚約者でも王配候補でもなく、恋人同士として愛し合う関係を築いていく。

 宿屋の主人が「もう一部屋、空きが出た」と何度も申し入れても、二人は拒否している。

 だが、いつまでもハネムーン気分ではいられない。ハロルドは冒険者か用心棒をしてでも、アクエリアスを養うと言ってくれているが、アクエリアスもただ養ってもらうだけ、守ってもらうだけの存在になりたくない。

 それで今日は、いつものように宿屋で抱き合うだけではなく、若い夫婦に見えるよう二人とも着替えて、ラスベガスの街を散策することにした。

 ここに来るまでの間の服は、亜空間の中にしまっている。もっとも、ずっと裸で抱き合っていたので、案外汚れていない。

 お風呂は宿屋の風呂場を遣ったので、下着などはアクエリアスが風呂に入った折、ちょくちょく洗濯していた。

 このラスベガスの街でも、ずいぶん自転車に乗っている人を見かけるようになり、いかに自転車が普及しているかがわかる。

 ラスベガス市内の移動手段を自転車で回ることにした。ハロルドの大荷物の中に自転車があったことを思い出し、その自転車に魔石を取り付ける。

「このレバーをこっちに向けて倒すと、速度が上がります」

 説明をしてから、アクエリアスは自分のアシスト自転車も取り出し、二人してラスベガスの街を散策する。

 ちなみに本名で呼び合うと、たちまち居場所が突き止められてしまうため、アクエリアスのことはアリエスの「アリ」と呼ばせ、ハロルドのことを「ハル」と呼ぶことにした。

 二人して、一見おそろいの自転車に乗ると本物のカップルにしか見えない。駆け落ちでも、ヤることヤったし、本物のカップルになったようなものだけど、一応、王女様だった頃の癖がまだ抜けきらなくて、ついアクエリアスは、ハルと呼び捨てにしてしまい、ハロルドも王女様と呼びがちになってしまう。

 だから手っ取り早く式だけでも挙げてしまおうと思い、自転車を走らせている。

 それに新しい仕事も探さなきゃなんないし、このままでは根なし草になってしまう。形だけでも夫婦にならないと、どこで身バレするかわからない。

 まあ夫婦になるより、夫婦らしいことを毎日、飽きもせずにヤっているけどね。

 二人とも、カラダのどこにほくろがあるかを把握済みで、特にアクエリアスの背中のほくろは、性感帯にもなっている。

 アクエリアスが我を通すと、必ずハロルドがそのほくろをゴリゴリと掻く。すると、アクエリアスは心とは裏腹に、ついはしたない声をあげてしまい、ハロルドの勝ちが決まってしまう。
 同じようにハロルドの弱点もアクエリアスは把握していて、そこを入念にマッサージすると、ハロルドは手を緩めざるを得ないことを知っている。

 名前だけの婚約者だった関係から、一歩進んだだけで、こんなにもお互いのことを深く知り合うようになるとは、あのお茶会をしていた頃のことがウソのように思えてくる。






 「オトコとは、寝てみないと相性がいいかどうかなんて、わからない」と前世の大学時代の友人が言っていたことが、ふと頭を過ぎる。

 今ならしのぶちゃんが言っていた意味がよくわかる。結局、前世では、死ぬまでわからなかったことだけど、今なら、よくわかる。

 しのぶちゃんは、お寺のお嬢さんだったけど、男性関係は奔放で、1回生の夏休み、奈良の東大寺でアルバイトをしていた時、東大寺のお坊さんからレイプ?されそうになったと聞いた。

 夏休み後、話を聞いてビックリしたけど、本当に未遂だったかどうかは定かではない。あの時、ヤられてしまったから、その後、彼女がヤりまくるきっかけとなったかもしれないと、今はそう思っている。

 18歳の操を50歳ぐらいの坊主に捧げてしまったからこそ、誰とでも寝るようなオンナになってしまったのかもしれない。

 紫子が亡くなる直前に結婚式の招待状が届いていたことからすると、その頃、結婚したのだと思う。お相手の男性は機動隊員。脳筋ではあるけど、公務員だし、硬い。たぶん、アソコも。






 とにかくもう、アクエリアスは、ハロルド以外の男性とする気はない。ハロルドが将来、フローラルと恋に堕ちることがあっても、ハロルド以外の男性とは寝ない。そういう意味で、ハロルドを繋ぎとめるため、結婚という、妻という名にこだわりがある。

 婚約者や恋人というだけでは心もとない。

 宿を出てから30分ほど自転車をこいでいたら、山沿いに教会が見える。

「ねえ、ハルあそこで結婚式しない?二人だけで」
「え……いいのですか?」
「わたくしをハルのお嫁さんにして」

 ハロルドは、急に大真面目な顔をして、

「アリエス嬢、私の妻になってくださいますか?一生大事にします。幸せにできるかどうかは別として、一生アリエスに愛を誓い、この身を捧げることを約束します。そして病める時も健やかなる時も、富めるときも貧しき時も、死が二人を分かつその時まで、愛し愛されることを望みます」

 差し伸べられた手をとるアクエリアスは「誓います」と告げる。

 こうして、神様の前で愛を誓い合った二人は、同居に向けて新居探しを始めることになった。

 街中まで戻ってきて、商業ギルドに顔を出す。この世界の商業ギルドは借家のあっせんや不動産の売買も手掛けていて、何かと重宝する情報源である。

 もちろん5属性の精霊たちにも手分けして、借家になる物件を探してもらっているけど、それではらちが明かない。

 それにこのラスベガスに来てから、なんとなく精霊を使役する力が弱くなっているように感じる。

 もう乙女ではないからかもしれない。

 今日、結婚式を済ませたから、またその力は弱くなるかもしれないけど、それでも「妻」の座にこだわりがある。

 もし、この先、フローラルとハロルドがそういう関係になってしまったとき、ハロルドがアクエリアスを捨てるときに、必ず今日の日の式のことを思い出し、一生苦しみを与えたいと思っているから。

 そう簡単に、フローラルと幸せになんかさせない。

 アクエリアスのすべてを捧げたのだから、フローラルに髪の毛一本でも奪わせたりしない。

 商業ギルドで必要書類にサインしていると、精霊たちが戻ってきて、何やら店舗付き住宅が売りに出ている話を拾ってきてくれた。

 アクエリアスは、ギルド職員にその店舗付き住宅の話を振ってみると、

「ああ。あの古道具店のことですね。あまりお勧めではありません。なぜなら古道具など名ばかりで、もう廃棄処分寸前のガラクタばかりです。その処分代をケチって、居ぬきで売りたいらしく、こちらも困っている次第です」

 と言われたものの、せっかく精霊たちが拾ってきてくれた話だから、見てみるだけでも見てみることにした。

 ガラクタがなければ、店舗付き住宅の相場は金貨100枚。だが、あのガラクタの処分代を差し引くと金貨10枚で買えるらしい。値段だけ見ると、かなりお得感があるが、実際、見てみると、ハロルドも顔を顰めるほど状態は酷いものだった。

「アリ、貴女にこんな道具を使わせたくないです。これを引き取るぐらいなら、私がもっとマシな物を買ってあげますよ」

 ギルド職員からも
「こんなものに金を出すのは、ドブに金を捨てるも同然です」

「いいえ。この家を買います。ただし、金貨9枚で」

 別にアクエリアスは金貨1枚をケチったわけではない。ちゃんとした考えに基づいて、金貨1枚分を値切った。

「「ダメです!」」
「では、金貨8枚で買うことにしましょう」
「「ダメです!」」
「あら、そう?では金貨5枚ならどうですか?」

 いつの間にか、売り主の男まで加わって

「「「ダメです!そんな金貨5枚の価値もありません!」」」
「困ったわね。では金貨1枚ならどうですか?売ってもらえませんか?」

 こうして、店舗付き住宅を金貨1枚という破格の値段で買い取ることを家主だった男と商業ギルドの職員は納得して、売買契約書を作成したのだ。

 不用品があれば、みんな亜空間の中に捨てちゃえば問題はないという考え方なのだ。

 でもギルド職員も売り主だった男も、そんな考えができない。だから人足の手間賃や処分代などに相当な金がかかると思っている。

 だからこそ、格安の値段で折り合いがついた。

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